「水を『ひたひたに』注ぐ」?

公開:2018年8月1日

Q
料理をするときに「水を『ひたひたに』注ぐ」と言われたら、どのくらいの分量の水を注げばよいのでしょうか。
A
「ひたひた」は、「鍋などに入れた材料の上の部分が、水面から出るか出ないか(あるいは、少し出ている・見え隠れしている状態)」ぐらいの水の量のことを表します。くれぐれも、水を入れすぎないでくださいね。

<解説>

具体的に見ていきましょう。

フライパンに鶏肉を酒と一緒に入れ、ヒタヒタの水を加える。ふたをして弱火にかけ、鶏肉の表面が白くなってきたら、えびを加える。(「豆腐クリームのお好みあえ」Eテレ2018.2.6放送、『NHKテキスト きょうの料理』2018.2月号p.53)

さてここでみなさん、フライパンからあふれそうになるくらいの水を加えたらダメですよ。

「ひたひた」は、「浸る」と同じ語源です。「浸る」は「あるものが液体の中に(完全にではなく)一部だけつかる」ということです。ですがどうも最近、「ひたひた」の意味を「(水などの液体を)たっぷり入れる」ということだと受け止める人が多くなっているようです。

・・・巻き寿司を、こう、箸で崩しながら、醤油をどばどばかけて食ってるんだよ、皿に醤油がひたひたになってて、シャリもネタも海苔もぐちゃぐちゃに混ざっちゃって、・・・(村上龍『ライン』p.86、幻冬舎・1998年)

たとえばこの例での「ひたひた」は、米粒がつかってしまうくらいの醤油の量である様子を表しているのですが、人によっては、醤油が皿のふちギリギリにまで入っていると思ってしまうようです。こういうとらえ方に対して、この「ひたひた」ということばに新しい意味が加わってきたのだ、というように解釈することもできなくはないのですが、これは本来の意味とはかなり異なっているし、また実際にトラブルを招く(料理を失敗する)おそれが大きいので、要注意です。

ウェブ上でアンケートをおこなってみたところ、「ひたひた」の本来の用法〔=材料がかくれる程度〕のみを支持する人は女性に特に多く、また比較的年代の高い層に多いということがはっきりしました。

レシピなどで、「ひたひた」という表現は、最終的には煮汁をあまり残さないようにして煮詰めるスタイルの煮物を作るときによく使われています。一方、煮汁を残すようなタイプの薄味の煮物を作ったり、またゆで卵を作ったりするときなどには「かぶるくらい(の水)」、そして材料が水の中に完全につかるような形で野菜をゆでるときには「たっぷり(の水)」という言い方をすることが多いようです。

ぼくにもおいしい料理が作れるかも。書いててそんな気になってきました。うまくいくかどうか、今後がニモノです。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2015年8月~9月実施、966人回答)

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

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