「○○人に達する」? 「○○人に(のぼ)る」?

公開:2017年6月1日

Q
「死者は50人に達しました」と「死者は50人に(のぼ)りました」では、言い方としてどちらがよいのでしょうか。
A
ニュアンスの違いがあり、どちらも間違いではありません。ただし、「死者は50人に達しました」という言い方はおかしいと感じる人も、少なくありません。

<解説>

まず、「達する」と「上る」の基本的な意味について考えてみます。

「達する」は、ある基準の場所や基準の数値に「到達する」ということです。基準となる数値は、多くの場合は「きりのいい数値」か、あるいは「“新記録”と呼べるような高い数値」です。たとえば、「来客数が1万人に達しました」といったような言い方は、数値が「きりのいい数値」であり、また「新記録」とも呼べそうなので、非常によく使われています。一方、「死者は6人に達しました」だと、数値があまりに具体的すぎて、ややすわりが良くない印象を受けます。また、死者の数をあたかも「新記録」であるかのようにとらえるのだとしたら、それはあまりほめられた態度ではありません。

それに対して「上る」は、「階段を上る」などの言い方を考えてみるとわかるように、一歩一歩踏みしめて〔=少しずつ数値が大きくなって〕、じわじわと高いところに進んでいくという根本的な意味があります。その数値は、必ずしも「きりのいい数値」である必要はありません。また「新記録」というイメージも、あまりないようです。そのため、「死者は6人に上りました」という言い方は、さきほどの「~達しました」よりも、受け入れられやすいようです。

「死者は50人に【達しました」/(のぼ)りました】」という「きりのいい数値」での言い方についてウェブ上でアンケートをおこなってみたところ、全体としては「両方とも正しい」(39%)が主流になっていました。ところが女性では、「“上りました”は正しいが、“達しました”はおかしい」(39%)が、「両方とも正しい」(31%)を上回ってトップだったのです。「達しました」が持つ「(死者数の)新記録」というようなイメージに、女性は悪い印象を覚える傾向が強いのかもしれません。こういう結論に達しました。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2016年4月~5月実施、519人回答)

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

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