「通り一辺倒」は正しい?

公開:2017年4月1日

Q
「選択肢は“通り一辺倒”ではないんだ」という表現はおかしいだろうか?「選択肢は一つじゃない」ということを言いたい。
A
この表現には2つ問題点があります。
まず、「通り一辺倒」ということばはありません。「通り一遍」(NHKの表記は「通りいっぺん」。以下の説明では、語の意味を伝える必要があるため漢字表記とする)と「一辺倒」ということばがまざってしまったものでしょう。
 また、言いたい内容から考えると、「通りいっぺん」も「一辺倒」も使わず、「選択肢は一つじゃない」のままのほうがよさそうです。

<解説>

「通り一辺倒」は、掲載する辞書が見あたりません。インターネットで検索すると「通り一辺倒な対応」「通り一辺倒なボディーソープ」などの例が見られます。「うわべだけの」または「ふつうの」というような意味合いで使われているようです。

「うわべだけの」という意味から考えて、「通り一遍」ということばを間違えて、響きが似ている「一辺倒」とまぜて使ってしまっているのではないでしょうか。

『岩波国語辞典(第7版新版)』(2011)(抜粋)
通り一遍⇒ うわべの形だけであること
用例:~のあいさつ

「通り一遍」は、「通り」の「通行・通過」という意味に、「一回」「一度」という意味の「一遍」が結びついた語です。

もともと、「通りがかりに立ち寄った客で、平素からの馴染(なじみ)でないこと」(『日本国語大辞典第2版』小学館(2001))という意味の語でした。これが「うわべの形だけであること」に転じたものです。

一方、「一辺倒」は、「1つの辺に片寄る」ということから、「ある一方だけに傾倒すること」(『岩波国語辞典(第7版新版)』(2011))という意味で使われます。例えば、「洋酒だけを飲む」というような場合に「洋酒一辺倒」などと使います。

このことばは、戦後になって使われるようになった語で『新明解語源辞典』(三省堂(2011))に次のように説明されています。

昭和24年(1949)7月に、毛沢東が発表した論文中に「要向社会主義一辺倒」とあったことから、北村徳太郎(芦田均内閣の蔵相)が、国会で「共産党は向ソ一辺倒、政府は向米一辺倒である。中立こそ大事なのではないか」と質問演説。それが契機となって、「一辺倒」が昭和25年の流行語となった。なお、「一辺倒」は12世紀中国の「近思録」の文をもとにしているといわれる。

『岩波国語辞典(第7版新版)』(2011)によれば、「通り」には「通行・通過」のほかに、「人や車が通るための町中の道」「声、音が伝わること」「それと同じ道筋をたどる、または同じ状態であること」などの意味があります。しかし、「一辺倒」は、どの意味の「通り」に結びついても意味をなしません。

やはり、「通り一辺倒」は誤った表現と言えるでしょう。

では、質問にある「選択肢は一つじゃなくていくつもある」ということを言う場合、「通り一遍」と「一辺倒」の、どちらを使えばいいのでしょうか。

それぞれの語の意味を考えると、どちらの語でも意味がとおりません。どちらも使わずに「選択肢は一つじゃない」または「いくつもの選択肢がある」などと言いかえるといいのではないでしょうか。

メディア研究部・放送用語 山下洋子

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