「幕()き」か「幕()け」か

公開:2017年2月1日

Q
「2017年の幕開き/幕開け」という場合、どちらを使えばいいでしょうか。
A
「物事が始まること」という意味の場合は「幕開け」が使われることが多くなっています。ただし、歌舞伎など伝統芸能で「幕があいたすぐの場面」のことを言う場合には「幕開き」です。

<解説>

『NHKことばのハンドブック第2版』(NHK出版・2005(最新版は2016年3月発行の14刷))では次のように説明されています。

芸能関係では「幕開き」。
芸能以外、一般の「開始」の意味で使う場合は、「幕開け」でもよい。

「幕が()く」の名詞形であるから「幕開き」が本来の形である。

「夜が明ける」「梅雨が明ける」などの自動詞の「あける」からの連想、また、「幕を開ける」の他動詞の「あける」などからの連想から「幕開け」が使われるようになったのであろう。(ルビは筆者加筆)

歌舞伎では、幕があいた最初の場面のことを「幕開き」といいます。『演劇百科大事典』(1984・平凡社)では「一つの狂言の一つの場面の幕があいた最初の数瞬の舞台をいう。その芝居なり場なりの第一印象であるから、全体の効果の上からいって非常にたいせつにされている」と説明されています。例えば、「幕開きに登場する三人侍の一人で・・・」というように使います。転じて「物事が始まること」という意味でも使われるようになりました。

現代の国語辞典では、「幕開き」と「幕開け」の2つの語形があることを何かしらの形で示しているものがほとんどです。

例えば、『明鏡国語辞典第2版』(2010・大修館)は、「幕開け」で意味を説明しています。また、伝統的な語形である「幕開き」には「→幕開け」(「幕開け」を見よ、の意味)とあります。

『岩波国語辞典第7版新版』(2011)は、「幕開き」で立項しており、「「幕開け」は本来の言い方でない」と説明をしています(「幕開け」の立項はない)。

ただし、「幕開け」という言い方が、最近出てきたものというわけではなさそうです。『日本国語大辞典第2版』(2001・小学館)の「幕開け」の用例には「1827年頃」のものが示されています。また、「国立国会図書館デジタルコレクション」で「幕開け」「幕明け」「幕あけ」などの形で検索したところ、1913年に「幕開け」の用例が見られました。

また、「物事が始まること」という意味の場合は「幕開け」としか言わない、とも言えません。最近の例では、2020年東京オリンピックに関連したイベントで「幕開き(まくあき)日本橋-東京2020文化オリンピアードキックオフ」というタイトルが使われました。能や日本舞踊なども披露されるイベントだったため、「幕があく」ことと「物事が始まる」こと、両方の意味をかけて、あえて「幕開き」ということばを使ったのではないでしょうか。

「物事の始まり」だからといって「幕開け」だけを使うのではなく、内容や場面によっては伝統的な「幕開き」のほうが適している場合もあるでしょう。使える表現に幅をもたせておくと、より場面にあった表現を使うことができます。

メディア研究部・放送用語 山下洋子

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