「あたう限り」? 「あたうる限り」?

公開:2015年3月1日

Q
「あたうる限り」という言い方は、おかしいのでしょうか。
A
伝統的な文法に従えば、「あたう限り」がふさわしいと言えます。

<解説>

「あたう〔能う〕」は、「できる」ということを表すことばです。歴史的かなづかいでは「あたふ」と書く、「ハ行四段活用」の動詞です。

    【未然形】  【終止形】  【連体形】
〔能ふ〕 あた-ズ   あた。   あた-カギリ

この「あたふ限り」を現代語として用いるときには、「あたう限り」と書きます。「できる限り」という意味で、[アトーカキ゚リ]のように発音することもあります。
一方、形の上でこれによく似た動詞があります(意味上は関係ありません)。文語の動詞なのですが、「ハ行下二段活用」の「与ふ(現代語『与える』)」です。

    【未然形】  【終止形】  【連体形】
〔与ふ〕 あた-ズ   あた。   あたふる-カギリ

ご質問の「(あた)うる限り」は、この「与ふる(与うる)限り」といったものと混同した結果、生じたものなのではないかと想像します。また、「できる」に「() る」が連なって「できうる限り」「できうるだけ」という言い方も明治時代には使われていましたが、こうした「~うる」も影響を与えているかもしれません。

現代では、「(あた)うる限り」は実態としてかなり広く使われているようで、ウェブ上でおこなったアンケートでも、「『あたうる限り』は正しい(『あたう限り』はおかしい)」という回答〔=文法的には「誤った」回答〕が、全体の3分の1を占めています。年齢によるはっきりした違いは、特に見られません。一方で、「この言い方を知らない」が4分の1となっています。

この「能ふる(あたうる)限り」という形は比較的昔から使われており、戦前の用例も見つかります。こうしたことを考えると、①「ずいぶん昔から使われているんだからもうOKだろう」・②「いやいや、やっぱり文法的には『あたうる限り』はまずいだろう」という2つの立場が出てきます。どちらにしても、「『あたう限り』は間違っていない」という点では共通しています。

そもそも現代語では「できる限り」のほうがはるかに伝わりやすい言い方で、それで意味が変わってしまうことはほとんどないはずです。それを承知の上であえて難しい言い回しを放送で使うのであれば、やはり正統的な言い方である「あたう限り」を採るべきではないでしょうか(キリッ)、とたまには真面目に締めたいと思います。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2014年10月~11月実施、664人回答)

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

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