放送法改正における有識者会議の機能

-制度見直しに与えた影響とその変遷-

公開:2018年1月30日

放送法は1950年の制定以来,多数の改正がなされてきたが,制度改正の過程で重要な役割を担ったのが,郵政省や総務省が開いてきた有識者会議(審議会・私的諮問機関)である。ただし,政策形成で果たした機能には差異があり,有識者会議の提言に即して制度改正がなされたこともあれば,そうではなかった場合もある。本研究では,表現の自由の確保を踏まえた制度形成が求められる放送分野の政策決定過程を検証するため,放送法の主要改正に焦点を当てて,有識者会議が果たした役割を検証した。

検証にあたっては,有識者会議の性格や放送法の改正事項に応じて,戦後の制度改正を【第1期】1950年代~1980年代前半,【第2期】1980年代後半~1990年代,【第3期】2000年以降,の3つの時期に分け,有識者会議と放送法改正の関係について分析した。資料としては,有識者会議の提言や会議録に加え,当時の報道や関係者の回顧録などを参照した。

その結果,第1期には,郵政省の有識者会議に期待される役割が明確ではなく,会議後の政治過程で,有識者会議が提言していない番組規制が放送法に盛り込まれるなど,その影響力が限定的なものだったことがわかった。しかし,第2期になると,専門的・技術的知見を要する事項の検討が中心になったことで,提言に沿った形での法改正がなされることが増えた。政治的な関心を呼びやすい番組規制が焦点になった際にも,有識者会議が慎重な姿勢を示すことで規制強化が回避された面がある。そして,第3期になると,情報公開などを通じて有識者会議の正統性が高まるとともに,放送業界の利害調整を行う機能が定着したことで,提言に基づく制度改正が慣例化した。また,総務省以外の有識者会議の提言は制度改正に結びつかず,政権交代による制度変更も起こりにくいなど,放送事業に関連した政策共同体の影響力が強まっていることも明らかになった。

このように有識者会議の機能が定着するにつれ,提言に沿った漸進的な制度改正がなされるようになり,番組規制の強化が回避されるなど,表現の自由の確保に配慮した政策形成につながった面がある。他方,有識者会議の民主的正統性は十分とは言えず,制度変更は政策共同体の了解を得られた事項に限定されるといった問題もある。有識者会議を活用した政策形成は今後も続くと見られるが,政策共同体の外部の意見を放送政策にどのように反映させていくかといった点が課題となっている。

メディア研究部/村上聖一

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