放送史への新たなアプローチ①

放送の「地域性」の形成過程

~ラジオ時代の地域放送の分析~

公開:2017年1月1日

放送開始から90年余り、これまで多様な放送史の研究が行われてきたが、十分に検討されていない論点も多い。本シリーズでは、先行研究のテーマ設定や方法論を再検討し、新たなアプローチで放送の歴史を振り返る。第1回は放送の「地域性」について考える。

放送の地域性の確保は、放送政策にとって重要な課題となっている。しかし、そもそも地域性とは何か、また、それがどのように変化してきたのかという点について、十分に描かれてきたわけではない。このため、本稿では、そうした問題を踏まえ、地域放送の枠組みが大きく変化した1960年ごろまでのラジオ放送に着目して検討を行った。

まず、放送開始当初、東京・大阪・名古屋の各放送局は独自に番組を編成していた。そして、全国中継網が完成したのちも各地の放送局は東海や関西といったブロック単位で強い独立性を維持した。さらに当時は、新聞や雑誌といったメディアによって流通エリアが異なり、地域性が重層的に形成されていた。

しかし、そうした多様な地域性は、戦時体制の進展とともに失われ、太平洋戦争は戦前の地域放送の秩序を崩壊させた。そして、戦後、再びメディアの地域性が重視されると、地域放送の基本的な単位は、従来の地方ブロックではなく、県域へと収斂していった。背景には、新聞統合によって一県一紙となった地方紙の存在を背景に、多くの地域で県域の民放が設立された点がある。

従来の放送史では、過去に放送された特徴的な地域向け番組に関する記述はなされてきたものの、それらを俯瞰した分析が十分に行われてきたわけではない。放送の地域性のあり方を今後検討していく上でも、そうした点を踏まえた考察が不可欠と考えられる。

メディア研究部 村上聖一

※NHKサイトを離れます

全文を見る PDF(1,945KB)

英文サマリー