『宮本から君へ』助成金不交付は不当 最高裁が公益性のあり方を初判断

麻薬取締法違反で有罪が確定した俳優が出演する映画『宮本から君へ』(2019年公開)に対する助成金を不交付とした国の外郭団体の決定の是非が争われた裁判で,11月17日,最高裁判所は「表現の自由に照らして見過ごすことはできない」などとして不交付の決定を取り消す判決を言い渡した。

国の外郭団体・日本芸術文化振興会は,交付すれば「国は薬物犯罪に寛容である」といった誤ったメッセージを発したと受け取られ,税金を原資とする助成金のあり方に対する国民の理解を低下させるおそれなどをあげ,「公益性の観点から適当でない」と主張した。これについて最高裁は,助成金交付の判断にあたって公益を重視できるのは「当該公益が重要なものであり,かつ,当該公益が害される具体的な危険がある場合に限られる」との判断を示した。そして,交付しても「公益が害される具体的な危険があるとはいい難」く,決定は,「重視すべきでない事情を重視した結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたもの」だと断じた。

抽象的な概念である「公益性」と,表現活動の支援を目的とする助成金のあり方について,最高裁は初めての判断を示した。もし,判断基準が曖昧ならば,コンテンツ制作者の表現行為を萎縮させるおそれがあるため,この判決の意義は大きい。税金を原資とした助成金を適正に交付し,芸術の創造と普及という本来の目的を達成するために,重視すべきではない事情に惑わされることなく,表現の自由を守る判断が必要である。

大髙 崇

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