ヤフーとLINEが経営統合,個人情報保護などに課題も

ヤフーを傘下に持つZホールディングス(ZHD)とLINEは,3月1日に経営統合し,ヤフーとLINEが,ZHDの完全子会社となった。ZHD株の65.3%は,ソフトバンクと韓国IT大手ネイバーが折半出資する中間持ち株会社が所有。今回の経営統合で,検索サービスやSNS,ニュース配信,広告,通信販売,金融など,ネットを通じた幅広いサービスを手がける“巨大IT企業”が誕生した。両社は利用者の囲い込みやアジアでの事業展開を加速させ,2023年度に売上高2兆円を目指すとしている。

同日行われたZHDの共同CEOによる記者会見では,Yahoo!ニュースとLINE NEWSの扱いについて,ユーザーの属性が補完関係にあるので,統合は考えていないとされた。年間約8,000万人の利用者があるヤフーと月間の利用者約8,600万人のLINEは,ニュース配信プラットフォームとしても多くのユーザーを抱え,強い影響力を持つ。今回の動きに対し,日本新聞協会は,「情報流通における自らの責任 をより一層自覚し,社会基盤としての役割を果たすことを期待する」との見解を発表した。同協会には,ヤフーやLINEのニュースサイトに記事などを配信する社も多い。ネットニュースの多くが広告収益によるビジネスモデルで成り立っていることから,見解では,「公共性より話題性を優先しかねないとの指摘もある」としたうえで,「地方のニュースを取り扱わなかったり,自社や自社の関係者に不都合なニュースを削除したりするなど,ニュースの選定に恣意的な運用をすることもあってはならない」とした。

ヤフーとLINEは,これまでも「防災」「災害時支援」などにおのおの取り組んできたが,経営統合を機に,同月4日から防災分野での連携を始めた。約2,000万人が利用する防災アプリ「Yahoo!防災速報」が出す避難情報や地震情報などの防災に関する速報を,LINEアプリにプッシュ配信するといった対応がとられた。

ヤフーとLINE,特にLINEは,多くの自治体が行政サービスに利用するなど,いまや日本の社会において重要な社会インフラとなっている。そうした中,利用者の信頼を揺るがす個人情報管理の不備が,統合直後に発覚した。LINEの利用者に十分説明をしないまま,利 用者の個人情報を中国の関連会社からアクセスできる状態にしていたり,韓国に置かれたサーバーでLINEトークの画像・動画などを保 管していたりしたことが判明。LINEは,外部からの不正アクセスや情報漏えいが発生したということはないと釈明し,事態の収拾を図ったが,その後も利用者や自治体から問い合わせが殺到するなど,不安が広がった。こうした事態を受けて,同月23日,▷ 中国からの日本ユーザーの個人情報へのアクセスを遮断,▷ 韓国からデータを日本に移転する,▷ 個人情報の取り扱い方針を改定する,といった対応策を発表した。今回の問題をめぐっては,政府の個人情報保護委員会が,LINE側に事実関係の報告と関連資料の提出を求めたうえ,同月31日から立ち入り検査を実施して個人情報が適切に管理されているかの検証を進めている。LINEは総務省や金融庁への報告も求められているほか,ZHDも有識者による委員会で調査を始めた。

経営統合早々に起こったこの問題をどのように解決し,利用者の不安を鎮めることができるのか。“巨大IT企業”に,「公共性」を担う責任と覚悟が厳しく問われている。

谷 卓生

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