NZ銃乱射事件で問われる報道のあり方

ニュージーランドで3月15日,イスラム教のモスクが襲撃され50人が死亡した事件では,オーストラリア出身の容疑者が銃を乱射する様子を自らFacebookでライブ配信した。動画の削除に苦慮するソーシャルメディアの対応だけでなく,動画の使用や実名報道,それに犯行声明をめぐり,報道機関の対応も問われた。

ニュージーランドの主要な放送メディアは問題の動画を使用しなかったが,隣国オーストラリアのメディアの多くは銃撃の瞬間や犠牲者を見せない形で使用を続けた。このうち米Fox傘下のSky News Australiaが編集した動画を繰り返し放送したため,ニュージーランドの有料衛星放送Sky TV(Fox系とは別会社)は,国内の捜査を妨害するおそれがあるとして,事件の翌日から4日間にわたり国内配信を見合わせた。ネット上では容疑者が撮影した動画の使用への批判が高まり,豪通信メディア庁は3月18日,テレビ各局に対する正式な実態調査を始めたと発表した。

一方,ニュージーランドでは,アーダーン首相が,テロの目的の1つは悪名をとどろかせることにあるとして,容疑者の名前は口にしないと表明。政府は,容疑者がTwitterに投稿した犯行声明とみられる文書の所持や配布を禁止した。こうした動きを受けて,容疑者の実名報道も必要なとき以外は控える動きが広がりつつある。また,今後の公判に向けて,公共放送のRadio New Zealandが,容疑者の主張ではなく,法的な観点からの報道に重点を置く編集方針を打ち出し,他の報道機関にも協調姿勢を呼びかけるなどしており,テロの宣伝に加担することなく,報道の役割を果たすための対応が求められている。

吉村寿郎

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