米トランプ政権,新年度の予算方針を発表,公共放送予算カットに反発強まる

アメリカのトランプ政権は3月15日,10月から始まる2018会計年度の予算方針を発表し,この中で国防総省などの予算を増やす一方で,環境保護局や外交を担当する国務省の予算などを削減した。また,公共放送に配分される補助金もゼロになったことから,公共テレビのPBSなどは反発を強めている。

発表された予算案は「America First(アメリカ第一)」と名づけられ,国防費を540億ドル(約6兆円)増やすほか,メキシコ国境の警備費などが増額される一方で,地球温暖化対策や海外援助に充てる費用など,非軍事分野が減らされた。また,これまで公共放送事業に配分されていた約5億ドル(約550億円)の補助金もゼロとなることが示された。

アメリカの公共放送はPBS(テレビ),NPR(ラジオ)のメンバー局を中心に全米3,000余りの放送局で行われていて,政府からは毎年,補助金がCPB(Corporation for Public Broadcasting,公共放送機構)に支給され,CPBからさらに各地の約1,500の公共局に配分されている。日本のNHKやイギリスのBBCと違い,アメリカの公共放送の財源は,市民からの寄付,"アンダーライティング"と呼ばれる企業からの協賛金,地元自治体や大学などからの助成金,そして政府補助金など多岐にわたっている。都市部の規模の大きな局では寄付や企業協賛金の割合が大きく全般に財源は豊かで,政府からの資金が占める割合は小さいが,地方の小規模な局では,政府や自治体からの公的な資金が予算の多くを占めている。このため政府補助金は,多くの地方の公共放送局にとって重要で,それがなくなると放送事業の継続に打撃となる。中西部イリノイ州の公共放送局の幹部は,「今年は多くの人が関心を寄せて支援が集まるかもしれないが,それが来年以降も続く保証はない」と語る。

CPBのパトリシア・ハリソン会長は,補助金カットはPBSやNPRが作る良質な子ども番組や報道番組に悪影響を与え,最終的にはアメリカ社会に貢献する「公共メディア」の崩壊につながると懸念を述べた。また,PBSのポーラ・カーガー会長は「政府補助金は,国民一人あたりにすると年1.35ドルの負担にすぎない。これにより幼児教育,教師へのサポート,生涯教育,社会の安全など,公共放送の様々なメリットを受けられる」と述べ,その意義を強調した。また同氏は2つの調査結果を示し,このうちRasmussen Reportsでは「公共放送への補助金カットを支持する」人は,全体の21%,共和党支持者だけでみても32%しかいないとしている。また,超党派の研究者が行った別の調査では,調査対象者の83%,大統領選でトランプ氏に投票した人でも70%が「(予算削減は)公共放送以外の別の分野で行われるべきだ」と答えている。

歴代の共和党政権は,額は少ないとはいえ公共放送に政府資金を出すことに批判的で,特にNPRの報道に対しては"リベラルに偏りすぎている"として,ジョージ・W・ブッシュ大統領時代には8年続けて「ゼロ提案」だったが,最終的には補助金は支給された。

トランプ政権の予算案は今後,連邦議会で審議され,民主党などから予算カットに反対する意見が出されるとみられるが,これまでの常識を覆す政策を連発するトランプ政権がどう対応するのかが注目される。

柴田 厚

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