暫定政権発足で揺らぐブラジルの公共放送

ブラジルでは政府会計の粉飾疑惑などで左派出身のルセフ大統領の弾劾手続きが進行中だが,代わって登場した中道勢力の暫定政権が一方的に公共放送の会長の更迭に動くなどしたため,公共放送の行方が懸念されている。

ブラジルの公共放送EBC(ブラジル・コミュニケーション会社)は,ルセフ大統領の所属する左派の労働者党政権が2007年に国営放送を改編,従来の国営放送とは一線を画し,政府の介入を排除して編集権の独立を謳った新組織として誕生した。EBCは国内向けテレビのTV Brasilや複数のラジオ局のほか,国際放送や通信社も運営している。商業放送が圧倒的なシェアを占めるブラジルにあってEBCやTVBrasilの知名度は高くはないが,啓蒙的な放送内容で評価も得ている。

中道勢力のテメル副大統領を大統領代行として5月12日に発足した暫定政権は,5日後の17日にEBCの会長を更迭し,20日には後任として政権寄りの人物を指名した。しかし,法律によってEBCの会長の罷免権は内部監督機関の評議員会にあると規定されているため,政府による会長の更迭には批判が噴出した。さらに,会長自身が罷免の差し止めを求めて最高裁に仮処分を申請し,最高裁が6月2日にこれを認めて会長はひとまず復職した。

ブラジル国内にはEBCが労働者党寄りだとの批判の声もある中,暫定政権は法改正も含めて組織の抜本的な見直しに乗り出す方針で,TV Brasilの廃止も検討されている。いわゆる欧州型の公共放送をめざして誕生したブラジルの公共放送は,設立以来最大の危機を迎えている。

斉藤正幸

※NHKサイトを離れます