Nスペ『JAPANデビュー』訴訟で最高裁判決,名誉毀損を認めず

NHKスペシャル『シリーズJAPANデビュー』の第1回「アジアの“一等国”」(2009年4月5日放送)により名誉が棄損されたと,台湾の番組出演者がNHKを訴えた訴訟で,最高裁は2016年1月21日,高裁判断を覆し名誉毀損はないとの判断を示した。

NHKは日本の台湾統治を検証した本番組の中で,西欧列強が行っていた「人間動物園」と呼ばれる見せ物をまねて,日本が1910年の日英博覧会に出演者の父らパイワン族の人たちを連れていき,その暮らしぶりを展示したことを,出演者の取材映像とともに紹介した。

高裁判決(2013年11月28日)は,「人間動物園」という言葉には差別的意味合いがあり,出演者の「父は代表として行った」という思いを踏みにじり,また代表者の娘というパイワン族の中での社会的評価を低下させたとして,名誉毀損を一部認定していた。

これに対して,最高裁は先ず,放送番組が人の社会的評価を低下させるか否かの判断基準は,テレビ朝日ダイオキシン訴訟の最高裁判決(2003年10月16日)で示された「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方」にあることを指摘。本番組の視聴者は,当時,博覧会で差別的な取り扱いがなされたという事実が摘示されたと理解するのが通常で,出演者や父が差別的に取り扱われるべき者だと受け止めるとは考え難く,従って出演者の社会的評価は低下せず,名誉毀損はないと判断した。

なお,本番組を巡っては,放送法上の義務違反ほかを理由とした集団訴訟等も提起されたが,請求棄却となっている。

山田 潔

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