台湾,大手テレビ局を中国系企業が買収へ

台湾の大手テレビ局である東森電視(EBC)の株式の61%を,中国企業の傘下にあるアメリカの企業が,アメリカの投資ファンドから3億7,000万ドル(約460億円)で購入していたことが11月22日に明らかになり,中国が台湾のメディアに影響力を行使する動きとして,台湾のメディア関係者や市民の間で懸念が高まっている。

東森電視は,ケーブルテレビ事業やケーブルテレビ向けチャンネル事業,それに保険や旅行業なども営む財閥「東森媒体集団」のテレビチャンネル部門で,総合・ニュース・経済ニュース・映画・こども・演劇などの台湾向けのチャンネルに加え,アメリカやアジア向けのチャンネルも擁する大手テレビ局である。オーナーの王令麟氏が一大財閥を築いたが,2007年に発覚した「力覇事件」で,王氏が証券詐欺罪など20の罪に問われる中,東森電視の株式の61%をアメリカの投資ファンド「カーライル」に売却していた。

今回,カーライルがもつ株式の取得に動いたのは,中国最大の娯楽・メディアグループである持ち株会社DMGの傘下にあるアメリカのDMG Entertainmentで,CEOのDan Mintz氏は,11月22日にロサンゼルス・タイムズ紙の取材に答え,既にカーライルの持ち株すべてをMintz氏個人の名義で買い取ったことや,今回の買収が2週間以内に台湾の主管機関で審査される見通しであることを明らかにした。

持ち株会社DMGの現在の会長である肖文閣氏は解放軍の高級幹部の子息で,1993年にMintz氏などと共同でDMGを設立している。このため台湾では,東森電視という大手のテレビ局の株式を,中国資本の色彩が強い会社の人物が買収することは,中国による台湾メディアのコントロールにつながるとして強い反発が出た。

台湾の法律では,「台湾地区與大陸地区人民関係条例」第73条で,「大陸(中国を指す)地区の人民・法人・団体・その他の機構あるいはそれが別の地区に投資した会社は,主管機関の許可を得ずに,台湾地区で投資行為に従事してはならない」とされている他,「衛星ラジオテレビ法」第10条でも「外国人が(ケーブル向け)衛星テレビ事業の株を直接所有する場合,株式全体の50%以上を所有することはできない」と規定されている。

この問題について主管機関のNCC(国家通信放送委員会)は11月25日,Mintz氏が個人の名義で東森電視の株式を購入する場合,その比率は50%未満でなければならないと述べた。

台湾メディアへの中国の影響力行使に強い懸念が出される背景には,中国ビジネスで多大な利益を上げている食品会社の旺旺グループが,中国テレビや中天テレビを傘下に持つ「中国時報グループ」の経営権を掌握し,その後,傘下のメディアで「中国を褒めたたえるニュース」が急増するなど,台湾の主流メディアの多くが中国ビジネスへの期待から中国批判を遠慮するようになったことがある。旺旺がその後,ケーブルテレビ最大手の「中嘉網路」や大手新聞「りんご日報」の買収にまで動いた際は,市民による反対運動で買収の阻止に成功したが,その後も市民の間では,同様の動きへの警戒感が続いている。

また今回の事案は,台湾の2016年1月の総統選挙で,中国と距離を置こうとする野党民進党の候補が優勢と伝えられることから,政権交代前に買収を完了させようとしたものとの見方も出ている。

山田賢一

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