英政府,受信許可料罰則の見直しについて意見募集を開始

~不払いへの刑事罰は妥当か~

イギリスの放送と通信を所管する文化メディアスポーツ省は2015年2月12日,受信許可料不払いに対する罰則規定の見直しについて意見の募集を開始した。現行法では,テレビ受信機を所有しながら受信許可料を支払わない場合,最高1,000ポンド(約18万円)の罰金が科され,罰金を支払うことができない場合は刑務所に収監される。イギリス政府は,この刑事罰を廃止する方向で検討を進めている。

受信許可料不払いに対する法的措置をめぐり,下院は2014年3月に全党的支持により,刑事罰に代わる罰則規定の導入を法制化する審議に入ることを決めた。そしてさまざまな法律を包括的に改正する「規制緩和法」のなかに受信許可料不払いに対する刑事罰の規定を廃止し,担当相が規則によって罰金刑を決めることができる改正案を6月に通過させた。刑事罰廃止の背景には,電気やガス料金,あるいは住民税の不払いが刑事罰でないということや,罰金を支払うことができず収監される人たちが,貧しいシングルマザーという特定の層に偏っていること,さらに,不払いを裁く治安裁判所の業務負担の軽減を求める声などがある。

政府は受信許可料不払いの刑事罰撤廃に意欲を示し,改正案に沿って2014年9月に王室顧問弁護士のデビッド・ペリー氏を指名し,現行の刑事罰が適切で公平なものであるか,刑事罰以外の選択肢とその影響について検討に着手した。この「テレビ受信許可料徴収に関する見直し(The Review into TV Licence Enf orce ment)」(通称ペリー・レビュー)が2月12日,現行法の維持という選択も含む次の6つの選択肢を提示し,広く意見募集を開始した。5月まで受け付ける。

  1. 現状維持
  2. 刑事罰の維持,ただし手続きの効率化など一部手直し
  3. 刑事罰を維持,ただし受信許可料徴収会社と示談で解決
  4. 刑事罰を維持,ただし規定額の懲罰金を科す
  5. 刑事罰を廃止し,民事罰を選択
  6. 民事負債化

このペリー・レビューの発表にさかのぼる2月5日,同法案の上院審議において,この動きに待ったをかける修正案が可決された。上院の修正案とは,該当条項に「いかなる変更も2017年4月1日まで施行しない」という条文を挿入するというものである。上院のハウ夫人が「まず刑事罰の廃止がBBCの財源規模に与える影響を検討すべきである」と口火を切り,刑事罰という強制力をなくした場合,受信許可料収入は2,000万ポンド(約36億円)の減少につながり,BBCのサービスが低下する懸念があると述べた。政府はこの5月の総選挙後に,2016年末に満了するBBCの特許状の更新議論に入るとしているが,修正案を支持する議員らは,更新議論と切り離して改正を実施するべきでないという立場をとっている。また,グレイド卿(元BBC 経営委員会委員長)は,「BBCの敵は,これを機会にBBCを有料放送モデルへ変更するだろう。そうなれば,公共サービス放送の概念すべてが完全にダメになる」と主張した。

政府には上院修正案を認めるか,あるいは下院での再投票を行うかの2つの選択肢があり,その判断が注目される。

中村美子

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