共生社会への一歩

~東京2020 パラリンピック放送の伝える力~

公開:2022年10月1日

1964年に続き2度目の自国開催となった東京2020パラリンピック大会は、世界各国の新型コロナウイルスの感染拡大により1年延期され、無観客という異例の事態の中で開催された。NHK、民放など日本の放送業界は一丸となり、日本のパラリンピック放送において最長となる約700時間のテレビ放送を行った。東京大会の放送を検証し、共生社会への変革において放送の果たす役割について考える。
NHKは、パラリンピック放送では最長の590時間の放送を行った。「パラリンピックをスポーツとして放送する」という方針のもと、総合テレビでは、終日ライブでパラリンピック放送を行った。東京大会ならではの取り組みとして障害のあるリポーターの起用や、スタジオのキャスターやゲストなどの出演者においても、ジェンダーや障害者を配慮した人選が行われた。また、出場選手ほぼ全員にあたる226人分の選手紹介のVTRが制作され、放送あるいは東京大会の特設サイトで配信された。VTRでは、主に自らの障害やこれまでの競技経験、東京大会の目標が、全編をとおして選手自身の言葉で語られた。このほか、障害とともに生きる海外選手の「レジリエンス」に注目し、視聴者に共生社会について考えるきっかけを与えるようなコーナーも組み込まれていた。
民放は、大会期間中初めて地上テレビで競技を含めたパラリンピック番組を放送した。競技そのものを中心に据え、スポーツの持つ力を伝えた局や、大会までの選手との関わりから得た思いやパラリンピックからの学びをもとに大会の意義を伝えようとした局など、各局が工夫を凝らした放送を行った。また、選手を紹介するVTRでは、共通して、アスリートとしてのすごさとともに人間ドラマが描かれていた。また、番組中に放送された広告を見ると、スポンサー企業としてパラリンピックを応援する姿勢をアピールするものの、広告に生活者として障害者を登場させるケースは極めて少なかった。
東京大会は、NHKと民放ともに、選手のパフォーマンスに焦点を当て、オリンピックと同じスポーツとして放送された。これが今後の放送のモデルと考える人も多いだろう。しかし、パラリンピックは、オリンピックとは異なる価値を持っているはずである。苦しいトレーニングを続けている選手らは、スポーツに出会い幸せを実感していることをテレビを通して発信していた。障害の有無にかかわらず、すべての人が何かに出会い夢を追うチャンスが得られれるような社会こそ、共生社会ではないだろうか。このことをどう表現できるのか、放送事業者の課題として残されている。

メディア研究部 渡辺誓司/中村美子

※NHKサイトを離れます

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