イラク戦争におけるブッシュ政権の情報操作とメディアの責任

公開:2004年1月30日

イラク戦争は,イラクにアルカイダとの結びつきがあること,イラクが大量破壊兵器を所持しており,それがアメリカと国際社会に対する差し迫った脅威に立っていること,を主な理由として,国連安保理の決議もないままに実行された。この戦争によって,イラクの国土は破壊され,多くの人々の血が流された。しかし,今に至るも,イラクとアルカイダとの結びつきは立証されておらず,大量破壊兵器は発見されていない。アメリカは正当な根拠なくしてこの戦争を実行した疑いが極めて強い。
なぜ,こういう事態になったのか。そこには,アメリカのネオコンと呼ばれる保守主義者の間に,湾岸戦争直後から, フセイン政権を打倒すべきだといういわば宿願があった。9.11テロ事件を切っ掛けにそれがブッシュ政権の外交政策における最優先課題となり,イラクに対する軍事力の行使への国民の支持を得るためにさまざまな情報操作が行なわれた,という事情がある。しかし,アメリカのメディアは,このブッンュ政権が提示した情報の内容を十分に検証することなく読者・視聴者に垂れ流し,結果的に,正当性なき戦争に加担した。
メディア就中テレビメディアの力は今や巨大であり,ベトナム・シンドロームあるいはCNN効果という言葉に示されるように,その力は外交・軍事政策をも左右しかねない,と受け止められている。しかし,メディアには本当にそれほどの力があるのだろうか。
メディアの基本的な役割は,国民をして合理的な判断を可能ならしめるべく,客観的な立ち場から真実を伝えることである。このことは,実は,戦時においてもっとも重要でありながらもっとも困難である。メディアは,まずこのことを自覚してその本来の役割を果たすべく最大限の努力をしなければならない。

放送研究部 海部一男

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