放送界の動き

各国の「放送界の動き」に関する情報を掲載しています。

    中国,ChatGPTで作成した偽情報を拡散した男を拘束

    中国内陸部,甘粛省の警察当局は,生成AI「ChatGPT」で作成した偽の鉄道事故の情報を拡散した男を拘束したと5月7日に発表した。容疑者はさまざまなトレンドニュースから収集した情報を用い,「ChatGPT」で「甘粛省で列車が線路を補修中の作業員をはね,9人が死亡した」という内容の偽情報を作成し,これを拡散することで違法に利益を得たという。中国では1月に,AI技術を使って画像や音声,動画などを生成する「ディープフェイク」に対する規制を始めたが,これが適用されて逮捕に至った初のケースとみられる。

    台湾高裁,NCCによる中天テレビ免許更新不許可は違法

    台湾の台北高等行政裁判所は5月10日,規制監督機関の国家通信放送委員会(NCC)が2020年11月に,中天テレビの免許更新を認めなかったことを違法とする判決を出した。中天テレビは,野党・国民党寄りのケーブルテレビ向け衛星チャンネル事業者で,NCCは,偏向報道や事実誤認などの規約違反があったとして免許更新を認めなかった。判決では,中天テレビの免許更新申請の1週間前に改定されたばかりの審査基準で判断した点を違法とし,審査のやり直しを求めた。中天テレビは,地上放送を停止したあと,YouTubeでニュース番組の配信などを行っている。NCCは上訴する方針。

    台湾,公共テレビへの政府交付金の上限撤廃

    台湾の国会にあたる立法院は5月26日,「公共テレビ法」(公共電視法)の改正法案を可決した。公共放送の公共テレビ(PTS)は毎年,政府から9億台湾ドル(約41億円)の交付金を支給されているが,改正法はこの規定を廃止し,上限を撤廃した。PTSでは,制作費の高騰に苦慮していたが,2024年以降は,毎年の業務計画に応じて交付金が支給されることになる。そのほか改正法では,少数民族向け放送や国際放送を本来業務として位置づけ,与野党の対立により理事の選出が滞らないように選出要件を緩和した。PTSの胡元輝会長は,「台湾の公共メディア発展のターニングポイントであり,放送産業の発展を期待する」と歓迎した。

    韓国,ユン大統領が規制監督機関の委員長を免職

    韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は5月30日,規制監督機関である韓国放送通信委員会(KCC)のハン・サンヒョク(韓相赫)委員長の免職処分を承認した。ハン氏は,ムン・ジェイン(文在寅)前政権下で任命された人物で,2020年に,保守系有力紙・朝鮮日報系のテレビチャンネル「TV朝鮮」の免許更新審査にあたり,評価点数を不当に減点する改ざんを行ったとして,5月2日に公務執行妨害などの罪で在宅起訴されていた。これに対し,野党「共に民主党」は,露骨な言論統制の宣言だと批判したほか,ハン氏は任期途中の不当な解任だとして裁判で争う構えを示している。

    スカーフ事件報道のイラン人記者に世界報道自由賞

    ユネスコは5月2日,イランの女性ジャーナリスト3人に「世界報道自由賞」を授与すると発表した。うち2人は,2022年9月にイランでスカーフのかぶり方が不適切だとして拘束された女性が死亡した事件を報道した記者で,報道後に当局に逮捕された。当局は両氏をアメリカのスパイだとして起訴しており,5月末から始まった裁判で有罪となれば死刑となる可能性もある。ユネスコは,「真実を伝えるために多大な代償を払った彼女たちをたたえ,無事に解放されるまでその声が世界中に響き続けるよう尽力する」と述べている。

    ナイジェリア高裁,規制監督機関に放送局への罰金禁止

    ナイジェリアのアブジャ高等裁判所は5月10日,規制監督機関の国家放送委員会(NBC)に対し,放送局への罰金処分を禁じる永久差し止め命令を出すとともに,2019年3月に45の放送局に科した各50万ナイラ(約15万円)の罰金を無効とした。NBCは,政府に不都合な報道を行ったテレビ局にたびたび罰金を科しており,2019年3月の罰金は,同年2月の総選挙報道をめぐる倫理上の違反行為が理由とされている。判決は「政府機関が恣意的に放送局に罰金を科し,報道の自由を抑圧することを黙って見過ごしはしない」とした。訴えを起こした同国のメディア権利推進団体Media Rights Agendaは歓迎する一方で,NBCは上訴を検討している。