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主な調査・研究

2017年度

① 「時代に対応した新しい放送・メディアサービスと視聴者」

新しい放送・メディア・視聴者

「これからのテレビ」の最新動向に関する研究 【取材・研究】
概要:
2013年にスタートしたシリーズ『「これからのテレビ」を巡る動向を整理する』の調査研究を継続し、Vol.10を執筆後、本研究を発展させる形で『これからの“放送”はどこに向かうのか?』という新シリーズをスタートさせた。デジタル化・ブロードバンド化・モバイル化が更に加速化する中、複雑化する新サービスの動向や放送制度を巡る議論等の取材を積み重ね、現状を俯瞰して論考するとともに、今後の放送事業者のあり方等についての提言も行った。
結果のポイント:
17年度は、総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」に加えて、内閣府の規制改革推進会議でも放送の未来像に関する議論が始まり、“放送”の概念や定義が、技術・制度・コンテンツ・役割等多様な観点から改めて問い直される状況となっている。総務省や内閣府で行われている議論の内容を丹念に分析し、個々の観点でどのような論点があるのかを考察した。
研究からわかること:
日本社会がこれから様々な課題を抱えていく中、“放送”が果たすべき役割はこれまで以上に大きいはずだが、その役割をどう具体的に実現していくか、どんな新たな価値を社会に提示していくか、それを裏打ちする法制度はどのような姿なのか、議論は混迷中である。しかし、多岐にわたる議論を整理・再構成することで浮かび上がってきた論点と、実際の現場で問題意識を持って動き始めている取り組みを重ね合わせていけば、放送の未来像は見えてくるはずである。
成果の公表:
「放送研究と調査」
・17年7月号:「これからのテレビ」を巡る動向を整理するVol.10 ~2016年10月―2017年5月~
・18年3月号:これからの“放送”はどこに向かうのか?Vol.1 ~問い直される“放送”の公共性~
・文研フォーラム(18年3月)「これからの“放送”はどこに向かうのか? ~民放連会長にきく~」
担当:
メディア研究部 村上圭子 上級研究員
スポーツのライブ配信サービスに関する研究 【取材・研究】
概要:
放送事業者から通信事業者へとパートナーを切り替えたJリーグのメディア戦略に注目し、事業がどのように変化する可能性があるのか明らかにした。そのうえで、“通信”とのメディア戦略が他のプロスポーツリーグなどに波及していくのか、放送事業者への影響は出るのか、考察した。
結果のポイント:
Jリーグの新たなメディア戦略は、“通信”の資金力やビジネス戦略、技術力などを後ろ盾に、戦術を大きく変化させてきており、事業拡大の伸び代も大きい。“通信”とのメディア戦略を進めるプロスポーツリーグは他にも現れ始めており、今後、放送事業者への影響が懸念される。
研究からわかること:
Jリーグの新メディア戦略のスキーム。Jリーグ、パフォーム社、NTTグループの3者のねらいや背景、それぞれが築こうとしている新たなビジネスモデルなど。
成果の公表:
「放送研究と調査」
・17年2月号:“通信”が変えるプロスポーツビジネス~Jリーグのメディア戦略にみる新たな潮流~
・日本マスコミュニケーション学会研究会(18年4月):Jリーグの新メディア戦略から見えるもの
~軸足を“通信”に移すプロスポーツリーグ
担当:
メディア研究部 黛 岳郎 主任研究員
公共放送によるVR配信に関する研究 【取材・研究】
概要:
VR(バーチャルリアリティ)は、放送に何をもたらすのか。次世代通信規格5Gが導入される2020年の東京五輪ではVR配信でスポーツ中継が大きく変わる可能性がある。NHKや世界の公共放送、オリンピック、そしてIT・通信事業者の最新動向から放送通信大競争時代の行方を探った。
結果のポイント:
NHKは「360度でニュース・番組を体感する」VRジャーナリズムを展開。世界初の放送と同期させた360度配信も成功させ、世界の公共放送もVR、ARの活用を進めている。一方、IT、通信業界もオリンピックを舞台にVR活用を進めており、2020東京五輪中継では、放送・通信の逆転の可能性も伺える。
研究からわかること:
次世代通信規格5Gが導入される2020年東京五輪では、VR配信でスポーツ中継が大きく変わる可能性がある。NHK、EBU、オリンピック放送機構、そしてIT・通信事業者が繰り広げる放送通信大競争時代の幕開けを5G五輪と呼ばれるピョンチャン五輪の最新動向も示唆している。
成果の公表:
「放送研究と調査」
・17年10月号:調査研究ノート 公共放送による360°映像のVR配信の意義~2020年とその先に向けて
・ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)放送のためのVR・ARの標準化レポートに引用掲載
担当:
メディア研究部 山口 勝 主任研究員
全国個人視聴率調査 【世論調査】
概要:
NHKと民放のテレビ、ラジオの視聴状況を把握。1974年~。
6月5日(月)~11日(日)と11月13日(月)~19日(日)に各1週間実施。調査相手は全国の7歳以上の男女3,600人。配付回収法による時刻目盛り日記式調査。有効率は6月67.6%、11月66.5%。
結果のポイント:
  1. 6月調査では、総合テレビ・NHK衛星計・NHKラジオ計の週間接触者率は前年と同程度、Eテレは前年より減少した。
  2. 11月調査では、総合の週間接触者率は前年と同程度だが、民放地上波計と同様、長期的に減少傾向。Eテレ・BSプレミアム・NHKラジオ計の週間接触者率は前年と変わらない。
    BS1の週間接触者率は前年、前々年から減少した。
調査からわかること:
NHKの番組ごとの視聴率(関東・近畿については民放も含む)、時刻別の視聴率のほか、波別の視聴時間量、接触者率の長期的な変化。男女年層別、職業別の違い、6月は地域ブロック別の結果もわかる。なお「視聴」の定義は自宅内外を問わないが、オンエアでの視聴に限定。
成果の公表:
「全国結果表」の配付、「放送研究と調査」2017年9月号、2018年3月号
担当:
世論調査部 吉村久美 副部長
全国放送サービス接触動向調査 【世論調査】
概要:
NHKと民放の放送サービス、および放送以外の媒体も含めたコンテンツの接触状況を、1週間の「リーチ」という指標で把握。2007年11月から実施してきた「全国接触者調査」の改定版で、2013年度よりスタート。
2017年は6月5日(月)~11日(日)に実施。調査相手は全国の7歳以上の男女3,600人。配付回収法、1日単位で5分以上視聴・利用したかどうかを記入。有効率は66.6%。
結果のポイント:
放送局が提供するコンテンツやサービスのリアルタイム(放送と同時接触)リーチは90.5%、 タイムシフト(番組への時差接触)リーチは58.9%、インターネット(デジタルコンテンツサービスへの接触)リーチは16.0%。前年・前々年に比べ、リアルタイムリーチは減少、タイムシフトリーチは増加した。年層別では、リアルタイムリーチは全体に比べ60代以上の高年層で高いのに対し、タイムシフトリーチ・インターネットリーチはティーンエイジャーや30~40代で高い(タイムシフトリーチは4~12歳も)。
調査からわかること:
テレビ・ラジオ、データ放送、録画再生、VOD、ウェブサイト、動画サイト、SNS、インターネットラジオ、ストリーミングなど、放送局が展開する各種サービスのNHK・民放別リーチ。測定項目を「リアルタイム」「タイムシフト」「インターネット」の3つに区分し、3者の組み合わせ別接触割合など。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年10月号
担当:
世論調査部 木村義子 副部長
メディア利用動向調査 【世論調査】
概要:
2016年度から年1回の実施に変更した「全国放送サービス接触動向調査」の補完的役割を兼ね、4K・8Kや放送同時配信サービスなど最新メディアサービスの認知や利用意向などを把握。11月25日(土)~12月3日(日)に実施。調査相手は全国の16歳以上の男女3,600人。配付回収法、有効率は65.0%。
結果のポイント:
「4K」という言葉の認知率は76.0%、「8K」は55.1%、「スーパーハイビジョン」は64.3%。4K放送への興味は「興味あり」計36.4%に対し、「興味なし」計が63.1%と多数派。放送のインターネット同時配信の認知率は35.1%、利用意向は「利用したい」計41.0%に対し、「利用したいとは思わない」計が58.1%と多数派。
調査からわかること:
4K・8Kの認知、利用経験率、知識、関心度。テレビのインターネット接続率、テレビで利用するネットサービス。放送のインターネット同時配信の認知、利用意向。有料動画配信サービス、利用動画サイト、ライブ配信型動画サービス。SNSによるテレビ番組の情報・感想の書き込みについて、など。
成果の公表:
文研フォーラム2018、「放送研究と調査」2018年7月号、「中央調査報」2018月5月号
担当:
世論調査部 木村義子 副部長

海外メディアの最新動向

海外メディア最新動向研究(マルチプラットフォーム展開) 【取材・研究・シンポジウム】
概要:
放送と通信の融合を受けて、放送局は、従来の放送に加えて、インターネットやSNSなど様々なプラットフォームにニュースや番組コンテンツを提供している。その実態を探るため、アメリカとイギリスで現地調査を行った。その内容は、文研フォーラムで紹介したほか、月報で報告した。
結果のポイント:
アメリカのCNNなど大手放送局は20を超えるプラットフォームを活用しリーチを広げようとしている。公共放送PBSも、SNSを活用して子供向け教育コンテンツなどを積極的に開発している。一方、イギリスの公共放送BBCは、展開しているプラットフォームは限定的だが、必要な情報をすべての人に届けるという公共放送の使命として、視聴者調査に基づきプラットフォームごとに戦略を立てて多面展開を進めている。
研究からわかること:
人々のテレビ視聴習慣や視聴デバイスの多様化に伴い、放送局も多様な展開が求められている。アメリカの商業放送はリーチを広げるため、アメリカの公共放送PBSは若者など視聴者とのつながりを目的に、新たなプラットフォームの活用を積極的に行ってきた。一方イギリスBBCは公共放送としての使命を果たすためマルチプラットフォーム活用を進めている。多様なプラットフォームを効果的に活用することは容易ではなく、利用者データを分析しプラットフォームごとに戦略を立てることが求められることがわかった。
成果の公表:
文研フォーラム2018 「放送研究と調査」2018年3・5・7月号
担当:
メディア研究部 田中孝宜 副部長(イギリス)/大墻 敦 研究主幹(アメリカ)
計画管理部 藤戸あや 副部長(アメリカ)
グローバル化と放送・メディア研究(Tokyo Docs) 【取材・研究】
概要:
テレビ番組の海外発信を強化することを目的に2011年、国際共同製作イベントTokyo Docsが始まった。製作者が企画を持ち込み、国内外の放送局の担当者の前で国際共同製作をアピールするNHKや民放連などが後援する催しである。7年たっての現状を調査し、月報で報告した。
結果のポイント:
7年間で528の企画応募があり、160の企画がピッチングセッション(提案会議)で審議された。
160の企画には「社会問題」「人もの」が多く、日本の製作者が人間を通じて世界に通じる普遍的なテーマを描こうとしていることがわかった。実際に国際共同製作が実現したもの、あるいは交渉過程にあるものが42本あった。
研究からわかること:
日本では若手を中心に意欲的な製作者が多く現れているが、実践経験をどう増やすかが課題となっている。そうした若手にとっての国際的なチャンスとして、また日本の製作者の海外発信力を強化する場として、Tokyo Docsは着実に成長過程にあることが分かった。
成果の公表:
「放送研究と調査」2018年1月号
担当:
メディア研究部 大墻 敦 研究主幹
グローバル化と放送・メディア研究(日本の「BOSAI」を世界に発信) 【取材・研究】
概要:
世界の防災力を高めるための課題や方策を話し合う「世界防災フォーラム」が2017年11月に仙台で開催された。会議は、日本の「BOSAI」ノウハウを世界に発信することを目的としている。50のセッションの中から災害情報に関するものを中心に取材し、月報で報告した。また、NHKの災害報道について、ABU(アジア太平洋放送連合)がフィジーで開催したメディアサミットで紹介したほか、災害報道の充実を図るタイPBSを取材し、国際放送で報告した。
結果のポイント:
「世界防災フォーラム」は、2年に一回スイスのダボスで開かれている防災ダボス会議の裏の年に仙台で開催することが決まったもので、40以上の国から900人を超える参加があった。会議では、国境を超えて防災情報を共有することの重要性や、SNS事業者など新たな防災情報の担い手の登場、ビッグデータの活用方法などが議論されていた。
研究からわかること:
タイPBSはNHKを参考に公共放送の使命として防災報道の充実をはかっている。ABUのメディアサミットでもNHKに学ぼうというアジアの放送局の前向きな姿勢を感じた。NHKの災害報道ノウハウをはじめ日本のBOSAIを海外に伝える意義を実感した。
成果の公表:
「放送研究と調査」2018年2月号
担当:
メディア研究部 田中孝宜 副部長

次世代を担う子どもとメディアについての研究

「NHK学校教育サービス利用に関する教師調査」 【調査・研究】
概要:
「デジタル教科書」の導入が進み、「タブレット端末」が家庭でも学校でも学習に活用され始め、メディア機器の利用環境が多様化する中、小学校の通常学級と特別支援学級の担当教師・特別支援学校(小学部)教師対象の全国調査と、メディア利用の事例の分析を行った。
調査方法:
  1. 小学校:2016年10~12月に全国の小学校から系統抽出した1,232校のクラス担任3,696名に調査を実施。有効回答率62.4%。メディアを利用した授業の取材と事例分析も行った。
  2. 特別支援学級:上記小学校に特別支援学級または通級指導教室がある場合に最年長の児童が在籍するクラス担任による無記名回答の調査を実施。650の有効回答を得た。あわせて、メディアを利用した授業の取材と事例分析を行った。
  3. 特別支援学校:2016年10~12月、全国の小学部のある特別支援学校全965校を対象に、最年長の児童が在籍するクラス担任による無記名回答の調査を実施。有効回答率は84.5%。あわせて、メディアを利用した授業の取材と事例分析を行った。
結果のポイント:
小学校では、メディア機器が利用できる環境については2014年までの調査と大きな変化はなかったが、タブレット端末の利用は教師だけでなく児童の利用も増えていること、「NHK学校放送番組」と「NHKデジタル教材」のいずれかでも利用した教師は6割を超え前回調査より増加していること、「アクティブラーニングの視点にたった授業」をよく実施していると回答した教師はメディア利用の意向が高いことなどがわかった。
特別支援教育の場でも、一定のメディア利用環境が整えられており、現在及び将来に向けてタブレット端末への期待が高いこと、児童の障害に合わせたメディア教材が選択されていること、児童の意欲・関心の喚起や知識・理解の深化への効果が期待されていることなどがわかった。
研究からわかること:
・教室のメディア環境の整備の様子と使われるメディアの種類、その変遷
・利用されるメディア教材の種類・内容
・教師の意識によるメディア利用の差異
成果の公表:
「放送研究と調査」
  1. ・17年6月号:進む教師のメディア利用と1人1台端末時代の方向性
    ~2016年度「NHK小学校教師のメディア利用と意識に関する調査」から~
  2. ・17年8月号:一人一人の子どもの支援のためのメディア利用 ~2016年度「特別支援学校(小学部)
    教師と特別支援学級(小学校)教師のメディア利用と意識に関する調査」から~
担当:
メディア研究部 小平さち子 上級研究員/宇治橋祐之 主任研究員
幼児視聴率調査 【世論調査】
概要:
就学前の幼児のNHKと民放のテレビ、ラジオの視聴状況を把握。1990年~。
2017年調査は6月5日(月)~11日(日)に1週間実施。調査相手は東京30km圏の2~6歳(就学前) 1,000人。郵送法による時刻目盛り日記式調査。有効率は51.7%。
結果のポイント:
幼児の1日のテレビ視聴時間は1時間41分で前年と同程度だが、2012年以降緩やかに減少傾向。このうちNHK総計は47分、民放総計は55分。NHKでは、Eテレの朝7~8時台の番組がよく見られていた。また、1日の録画番組やDVDの再生時間は55分で、前年と同程度。
調査からわかること:
幼児の番組ごとの視聴率、時刻別の視聴率、1日の視聴時間量、接触者率の長期的な変化のほか、録画番組・DVDの再生時間、時刻別の利用率など。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年10月号
担当:
世論調査部 吉村久美 副部長
幼児とデジタルメディアに関する研究 【取材・研究】
概要:
放送事業者による「幼児向け知育アプリ」の制作意義と、新たな可能性について海外の先進事例や国内の発育・発達の最新研究の取材を通して考察。放送事業者と研究者が連携して保護者が安心して与えられ、教育効果の高い、子どもが楽しめる先駆的な知育アプリ開発の必要性を問うた。
結果のポイント:
魅力的で質の高い知育アプリを制作するための基盤となるのは、大学などの研究機関と連携し、最新の発育・発達の研究成果を採り入れるとともに,制作段階から幼児に試してもらい,その評価をフィードバックすること。加えて専門家による的確なアプリレビューの充実も欠かせない。
研究からわかること:
アプリを幼児に触れさせることへの保護者の不安がある一方で、放送事業者には番組制作のノウハウを生かした教育効果の知育アプリへの期待がある。一定のコストを投じて質の高いアプリを放送事業者が制作することは子育て支援につながり、社会全体にも大きな意義がある。
成果の公表:
「放送研究と調査」
・17年10月号:放送事業者による「幼児向け知育アプリ」の制作の意義とこれから
担当:
メディア研究部 吉田直久 上級研究員
“子どもに良い放送”プロジェクト 第1~12回調査のデータ整理 【調査・研究】
概要:
2002年度から12年にわたる継続調査で得られた膨大なデータを,分析・研究に利用するためのデータ整理を入念に行った。この作業を経て,2018年度以降に外部の研究者と共にさまざまな角度からの分析・研究を行い,それぞれ論文として発表出来るように準備した。
担当:
メディア研究部 堀川伸一 上級研究員
海外の公共放送における教育サービスの動向に関する研究 【調査・研究】
概要:
NHKが主催する「日本賞」コンクールの50年を超える歴史を、参加作品の特徴だけでなく、同時に実施されてきた講演やシンポジウムの内容も詳細に分析し、放送を中心とするメディアが世界の教育に果たしてきた役割と、“教育とメディア”をめぐる根源的なテーマを明らかにした。
研究からわかること:
・放送を中心とするメディアと「日本賞」が、世界の教育の発展に果たしてきた役割。
・社会変容の中で番組・コンテンツに求められてきたテーマの変容と、変わらない教育の本質。
・メディアと表現技法の変遷と、“教育におけるメディア”の今後の可能性。
成果の公表:
「NHK放送文化研究所年報2018」:「日本賞」コンクールにみる世界の“教育とメディア”の変容
担当:
メディア研究部 小平さち子 上級研究員

② 「豊かな放送文化の継承・発展」

放送の歴史を継承し、未来に活かす研究

番組アーカイブの教育利用に関する考察 【取材・研究】
概要:
番組を大学教育に生かす「番組eテキストシステム」は3年間の国内での実験を経て、関連団体の事業化計画が進展している。文研では、北米でのNHK番組の展開状況や、大学側のニーズを調査し、2017年1月から始まった海外における実験を視察・研究し、事業の方向と課題を探った。
結果のポイント:
アメリカ・ハーバード大学、プリンストン大学、ダートマス大学、カナダ・トロント大学等での実験授業から、歴史・社会・語学等さまざまな角度から日本の番組が利用できる可能性があることがわかった。事業化については、NHKエンタープライズとNHKエデュケーショナルの連携のもとに既存のアメリカの事業者を利用する形で計画が進行している。
担当:
メディア研究部 七沢 潔 上級研究員 原由美子 特任研究員
番組アーカイブによるNHKドキュメンタリー史の研究 【アーカイブ活用・研究】
概要:
NHKアーカイブスに保存されている番組を主な資料に、テレビドキュメンタリーの基本的な特徴を「現場映像・現場音声」「現場映像・非現場音声」の時間的分量から読み解く研究を行った。
結果のポイント:
ドキュメンタリーの音声の時間的分量に着目した分析方法について論文を発表したほか、文研フォーラムでワークショップを開催し、分析指標として映像を加えた方法論について議論を行った。
研究からわかること:
番組アーカイブを活用することによって、番組の特徴や発達過程を克明に描くことができた。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年4月号、文研フォーラム2018
担当:
メディア研究部 宮田 章 上級研究員
テレビ制作者研究 【取材・研究・シンポジウム】
概要:
2009年から継続してきた6年間のドキュメンタリー制作者に関する研究成果を集大成し出版された書籍で紹介した3名のドキュメンタリストを招き開催した文研フォーラムの公開シンポジウムを採録し月報で発表するとともに、文研ホームページで動画を公開しひろく成果を伝えた。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年7月号
「シンポジウム テレビ・ドキュメンタリーにおける“作家性”とは?~「制作者研究」からの問い~」
担当:
メディア研究部 七沢 潔 上級研究員
放送文化アーカイブの企画・開発 【アーカイブ活用・研究】
概要:
放送史関連資料や番組制作に関する資料をデジタル・アーカイブ化し、まとめて検索可能にする「放送文化アーカイブ」について、国立情報学研究所との共同研究を継続した。
結果のポイント:
NHKイントラでの運用を継続し、コンテンツ追加や機能改善を行うことで業務利用での利便性向上を図るとともに、外部の研究者もサイトの利用が可能となるよう検討を行った。
研究からわかること:
放送史関連資料の知財としての価値や、その活用の可能性が明らかになった。
成果の公表:
NHKイントラで「放送文化アーカイブ」を運用
担当:
メディア研究部 村上聖一 副部長
戦時期のラジオ放送に関する研究 【アーカイブ活用・研究】
概要:
戦時中から占領期にかけて日本放送協会が行ったラジオ放送について、戦争との関わりを中心に、当事者の証言や新たな資料に基づいて検証する研究を行った。
結果のポイント:
「放送研究と調査」でのシリーズ展開を開始し、2017年度は、戦時ラジオ放送でのニュース編集や戦時下で放送された「録音構成」について考察した論考を掲載した。
研究からわかること:
新たな歴史資料を用いて、戦争とラジオの関係を多角的に解明することができた。
成果の公表:
「放送研究と調査」2016年4月号、6月号、2017年1・3月号
担当:
メディア研究部 村上聖一 副部長
新たなアプローチで振り返る放送史 【アーカイブ活用・研究】
概要:
これまでの放送史研究のテーマ設定や方法論を再検討し,新たなアプローチで放送の歴史を振り返る研究を継続した。
結果のポイント:
1932年のオリンピック・ロサンゼルス大会の「実感放送」に関する論考を『放送研究と調査』に掲載した。また、戦後の放送制度見直しにあたって開催された有識者会議の機能を検証した論考を年報で公表した。
研究からわかること:
先行研究にはない視点で、放送の歴史を多角的に解明することができた。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年5月号、「NHK放送文化研究所年報2018」
担当:
メディア研究部 村上聖一 副部長
放送のオーラル・ヒストリー研究 【取材・研究】
概要:
放送の発展に寄与した人々の証言を収集し、文書資料からは浮かび上がってこない放送の歴史に新たな光を当てる「放送のオーラル・ヒストリー研究」を継続した。
結果のポイント:
シリーズ「放送ウーマン」史を継続し、民放ドラマを中心にタイムキーパーとして活躍した女性や放送界で組合運動に取り組んだ女性からの聞き取りをまとめた論考を発表した。また、研究の方法論をまとめた論考を『放送研究と調査』に掲載した。
研究からわかること:
証言収集を通じて、放送の発展に女性が果たしてきた役割を鮮明に描くことができた。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年6・11月号、2018年2月号
担当:
メディア研究部 村上聖一 副部長
放送史関連資料の収集・整理 【アーカイブ活用・研究】
概要:
放送文化研究所が所蔵する資料について目録の整備や劣化対策を継続するとともに、NHK内外で保管されている放送史関連資料の所在の確認を行った。
結果のポイント:
文書資料の劣化対策を進めるとともに、文研が所蔵する写真資料約2000枚のデジタル化を完了させた。また、過去に放送に携わった関係者が保管する歴史的な資料の収集を行った。
研究からわかること:
放送史に関連した多様な資料のアーカイブ化の可能性・意義が明らかになった。
成果の公表:
「放送研究と調査」
2017年5・7・9・11月号、2018年1月号、3月号(「放送史料探訪」コーナー)
担当:
メディア研究部 村上聖一 副部長

放送コンテンツ・サービス研究

連続テレビ小説(通称・朝ドラ)視聴者の動向調査 【Web調査/グループインタビュー調査・研究】
概要:
TV番組の効力衰退が感じられる中、朝ドラが好調を維持しているのはなぜか。「人々は朝ドラに全盛期のTVの力を求めているのか?」「TVへの希望は人々がいま朝ドラを求めることに存在するのではないか?」という仮説を元に、視聴者対象の連続調査で人々が朝ドラに何を求めているのかを探り、TV番組の将来像を探るヒントとする。
調査方法:
Webアンケート:各回年層別性別割り当てで、視聴経験をもとに選出した。
「べっぴんさん」2016年11月(調査対象500人)2017年1月(500人)、4月(1000人)。「ひよっこ」2017年5月(500人)、7月(499人)、9~10月(980人)。「わろてんか」2017年11月(500人)、2018年4月(1000人)、グループインタビュー:性・年層・視聴傾向でまとめた5名のグループで実施。「べっぴんさん」2017年4月東京(6グループ29名)。「ひよっこ」2017年10月東京(4グループ20名)。
結果のポイント:
『べっぴんさん』の満足度は64%。明るさ、前向きさ等は評価されたが、展開の遅さ、成長物語的ストーリーの少なさ等が不評だった。『ひよっこ』の満足度は85%。丁寧な人物描写や善人しか出てこないことによる安心感がドラマの視聴を支えた。継続的な視聴を続けた要因を探ると、作品起因要因は満足度と相関があるが、非作品起因要因は朝ドラ視聴者が平均的に1個以上持つベーシックなものであることがわかった。また番組を長期的視点で見るか、短期的視点で楽しむかという性向でも探ったが、作品により見方を変えて楽しむ視聴者像が浮かんだ。
調査からわかること:
・朝ドラ視聴の習慣化とその視聴スタイルに求められる番組の要素
・視聴率を決める視聴の広がりと頻度。その変化
・番組の満足度を決める要因。視聴者が番組を見る視点とその変化
成果の公表:
「放送研究と調査」
  1. ・17年9月号:朝ドラ研究視聴者調査を通して見た朝ドラ『べっぴんさん』の特徴と、朝ドラの高視聴率を支える視聴継続要因の検証
  2. ・18年3月号:朝ドラ研究視聴者は朝ドラ『ひよっこ』をどう見たか~柔軟に見方を変えて楽しむ視聴者~
担当:
メディア研究部 亀村朋子 主任研究員/二瓶 亙 特任研究員/齋藤健作 特任研究員
地域放送に関する調査・研究 【web調査・研究】
新たな経営計画の下、地域局のあり方が模索される中、限られた経営資源でどのように地域放送サービスを維持していくか。文研ではそうした地域局の課題に、視聴率調査など量的分析と、インタビュー調査など用いた質的分析の両面から、連携して支援を行った。
◇北陸地方(金沢、福井、富山)と静岡 夕方ニュース番組視聴者意向調査 【web調査】
概要:
北陸地方・3局、静岡局の夕方ニュース番組の番組改善を調査で支援。
  1. 基礎調査~各県在住の20~60代の男女2000~4000名のモニターに各県地域局の放送活動への評価、地域放送番組への評価、夕方時間帯の視聴行動、番組について聞く調査を実施。
  2. 視聴意向調査~福井・静岡両県(石川・富山県は実施せず)在住の20~60代の男女それぞれ約300名に当該地方局制作の夕方ニュース番組を視聴してもらい視聴評価を探る調査を実施。
結果のポイント:
  1. 各県の全放送局の中でのNHK地方局のプレゼンス、および各県別の地域情報ニーズ、地域放送番組の見られ方等を把握。
  2. 北陸地方各局・静岡局の夕方ニュース番組への詳細な視聴者反応を把握・分析することで番組改善へとつなげた。
調査からわかること:
・北陸地方ならびに静岡各県毎のメディア環境、地域情報ニーズ、地域放送番組の視聴実態。
・北陸地方ならびに静岡各県毎の夕方ニュース番組への視聴者評価とその対策。
・北陸地方ならびに静岡各県毎の金曜19時台番組への視聴者評価とその対策。
担当:
メディア研究部 菅中雄一郎 主任研究員/二瓶 亙 特任研究員/高橋浩一郎 研究員/東山浩太 研究員

豊かな放送文化とことばの関係

デジタル版「NHK日本語発音アクセント新辞典」に向けたデータベース整備
概要:
『NHK日本語発音アクセント新辞典』の内容を反映させた文研の用語データベースに,新たに音声データを付加し,社会還元としてスマートフォン用アプリや電子辞書への展開につなげる整備を行った。
担当:
メディア研究部 和田成弘 副部長
放送用語委員会
概要:
本部(東京)4回,地方7回を開催。本部委員会では,アクセント新辞典掲載語の音声収録事業について報告したほか,漢字表記辞典の改訂に向け,漢字の字体について考え方を整理し,意見交換を行った。地方委員会では,各局のリポートを視聴し,わかりやすい放送表現について議論した。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年8・10月号 2018年1・2・3・4・5・6月号
担当:
メディア研究部 和田成弘 副部長
「ことばのゆれ」などの全国調査・研究 【調査・研究】
◇「依頼表現」と「許可を求める表現」ついて
概要:
日常生活の中で,敬語を含む「依頼表現」と「許可を求める表現」について,複数の言い方を示し,どの言い方がどのくらい使われているか,傾向を調査した。
調査の方法:
平成28年7月に行った「ことばのゆれ調査」。
調査員による個別面接聴取法,満20歳以上の男女(全国)4000人に調査。
調査からわかること:
「依頼表現」では,「~ていただいてもよろしいですか」「~ていただけますか」「~てくださいますか」の順に支持されていた。「許可を求める表現」では,「~させていただいてもよろしいですか」の支持が最も高く,「~させていただけますか」「~してもよろしですか」は同程度であった。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年7月号
担当:
メディア研究部 滝島雅子 主任研究員
◇「配慮表現」について
概要:
対人関係を良好に保つための「配慮表現」の中で,ある表現について「感じがいいか・悪いか」という観点から回答を求め,配慮のある・ない表現と思われている言い方の実例と評価を観察した。
調査の方法:
平成28年7月に行った「ことばのゆれ調査」。
調査員による個別面接聴取法,満20歳以上の男女(全国)4000人に調査。
調査からわかること:
全体の半数以上の人が「感じが悪い」と指摘したものとしては,【きちんと肯定していない例】「悪くないんですよ」「悪くないですね」「いいかもしれませんね」、【逆説での言いさし】「はい,そうですが」などがあった。複数の項目に,「年齢差」「学歴差」「地域差」が見られた。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年8月号
担当:
メディア研究部 塩田雄大 主任研究員
◇「ら抜きことば」と、それをめぐる字幕スーパーの問題
概要:
テレビのインタビューで「見れる」という発言(普通の人・俳優・政治家)があったとき,それに合わせて字幕スーパーを施すとしたらどのようにするのがよいかを尋ねた。
調査の方法:
平成29年3月に行った「ことばのゆれ調査」。
調査員による個別面接聴取法,満20歳以上の男女(全国)4000人に調査。
調査からわかること:
全体の回答の割合としては,いずれも,[1位]文字としては【「見られる」に修正】,[2位]【「見れる」のまま】,[3位]どちらでもよい,という共通した傾向が見られた。ただし,それぞれの数値上の差はそれほど大きくない。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年12月号
担当:
メディア研究部 塩田雄大 主任研究員
放送における美化語のあり方について 【調査・研究】
概要:
放送における美化語の適切な使用の方向性を探るため,情報番組『あさイチ』を対象に,放送現場の美化語の使用を観察し,それぞれの具体的な美化語について,実際の発話者であるアナウンサーとそれを受け止める視聴者双方の意識を質的に探るインタビュー調査を実施した。
調査の方法:
『あさイチ』の2017年4月~5月放送分からアトランダムに10回を選び,美化語の使用状況を観察。番組で実際にその美化語を発話したアナウンサー7人を対象に、美化語の使用意識についてインタビュー(6月~7月)。視聴者側の意識は,首都圏在住の20~60代の男女社会人36人を対象にグループインタビューを実施(8月)。
調査からわかること:
全体的に視聴者が放送に美化語を期待する気持ちは強く,アナウンサーもそれに応えようと,情報番組では美化語を多用する傾向にある。一方で,過剰敬語は避けるべきだという規範意識から美化語の乱用を避け,全体として適切な使用を保っていると言える。
成果の公表:
「放送研究と調査」2018年1月号、文研フォーラム2018
担当:
メディア研究部 滝島雅子 主任研究員

③ 「多様化する人々の意識を的確に把握」

現代社会の“いま”を捉える世論調査

日本人と憲法2017 【世論調査】
概要:
憲法施行70年の節目を機に、憲法改正を巡る直近の国民の意識を多角的に探るとともに、過去の調査との比較を通じ日本人の憲法観の変遷をたどった。3月11日(土)~26日(日)実施。個人面接法。調査相手は全国18歳以上の男女4,800人。有効率55.1%。
結果のポイント:
憲法を「改正する必要があると思う」43%、「改正する必要はないと思う」34%、「どちらともいえない」17%。憲法9条については「改正する必要があると思う」25%、「改正する必要はないと思う」57%、「どちらともいえない」11%。
調査からわかること:
憲法改正が「必要」という回答は、国際貢献のあり方をはじめさまざまな項目に関して憲法論議が高まった2000年代と比べ減少し、「不要」との差が縮まった。
成果の公表:
「ニュース7」「BSニュース」「ラジオ19時ニュース」(2017年4月29・30日)
「くらし☆解説~国民の憲法観はどう変化?」(5月2日)
「憲法記念日特集 施行70年 いま憲法を考える」「時論公論 憲法70年 国会と国民の議論は」
「おはよう日本」「ニュース7」「NW9」「BSニュース」「ラジオ19時ニュース」(5月3日)
「おはよう日本」「ニュース7」「BSニュース」、「ラジオ19時ニュース」(5月4日)
「NHKスペシャル 日本国憲法 70年の潮流~その時、人々は~」(5月6日)
「シブ5時」(5月8日) NEWS WEB特設サイト「日本国憲法70年 みんなの憲法」
「放送研究と調査」2017年10月号「憲法をめぐる意識の変化といま」
担当:
世論調査部 外池武司 副部長
トランプ政権1年・日米同時世論調査 【世論調査】
概要:
アメリカのトランプ政権発足1年を前に、トランプ大統領への印象や政策に対する評価、日米関係をどう考えるかなどについて日米両国民の意識を探った。
  1. 日本調査12月1日(金)~3日(日)実施。電話法(固定・携帯RDD)。
    調査相手は全国18歳以上の男女。回答1,232人(56.5%)。
  2. 米国調査11月27日(月)~12月3日(日)実施。電話法(固定・携帯RDD)。
    調査相手は全米18歳以上の男女。回答1,201人(ウエイト集計)。
結果のポイント:
トランプ大統領の印象は日米とも「悪い」が半数を超える。トランプ大統領がスローガンとして掲げる米国第一主義について、米国では6割が「支持」、日本では3分の2が「良くない」。北朝鮮の核・ミサイル問題について、日米とも『脅威』と考える人が8割。
調査からわかること:
トランプ大統領に対しては、日米とも良い印象を持つ人は少ないが、保護主義的な経済政策については、アメリカでは支持する人が多く日本では警戒感を持つ人が多い。
成果の公表:
「おはよう日本」「ニュース7」「NC11」「9時ニュース」「BSニュース」
「ラジオニュース」 (2018年1月4日) BS「国際報道2018」 (1月19日)
NEWS WEB特設サイト「トランプ大統領~政権の行方~」
「放送研究と調査」2018年5月号「トランプ時代のアメリカと日本」、文研フォーラム2018
担当:
世論調査部 外池武司 副部長
復帰45年の沖縄調査 【世論調査】
概要:
沖縄県が日本に復帰して45年になったことを踏まえ、米軍基地への考えや沖縄経済との関連をどう考えるかなどについて、沖縄と全国で同時に調査し、沖縄県民の意識や全国との違いを探った。
4月21日(金)~23日(日)実施。電話法(RDD追跡法)。
沖縄調査 調査相手は沖縄県の18歳以上の男女2,729人。回答率55.5%。
全国調査 調査相手は全国の18歳以上の男女1,624人。回答率61.8%。
結果のポイント:
日本の安全にとって沖縄の米軍基地が「必要だ」「やむを得ない」は沖縄では合わせて44%で「必要でない」「かえって危険だ」と拮抗。全国は「必要だ」「やむを得ない」が合わせて71%。沖縄経済は米軍基地がないと成り立たないと思うかについては、沖縄では『そう思わない』が60%で多数なのに対し、全国は『そう思う』が58%で多数。
調査からわかること:
米軍基地を容認するかや沖縄経済との関係について、沖縄と全国で意識に差があるとともに、沖縄では世代間で違いがあることがわかった。
成果の公表:
「おはよう沖縄」「正午ニュース」「おきなわHOTeye」(2017年5月11・12日)「おはよう日本」
「あさイチ」「NW9」「クロ現+」「NC11」「時論公論」「おきなわHOTeye」
「きんくるスペシャル 沖縄カタリバ!~復帰45年と、これから~」(5月15日)「おきなわHOTeye」(5月18日)
NEWS WEB特集「沖縄復帰45年 世論調査で迫る沖縄と本土の“溝”」
「放送研究と調査」2017年8月号「沖縄米軍基地をめぐる意識 沖縄と全国」
担当:
世論調査部 外池武司 副部長
北海道 路線見直しに関する意識調査 【世論調査】
概要:
JR北海道が鉄道路線の約半分にあたる区間の見直しを進めると表明したことを受けて、見直しの是非や影響、地域交通のあり方などについて住民の考えを探った。
5月19日(金)~21日(日)実施。電話法(RDD追跡法)。
調査相手は北海道の18歳以上の男女2,067人。回答率64.7%。
結果のポイント:
路線を「見直すべきだ」が15%、「見直しはやむを得ない」が56%、「見直すべきではない」が16%。
「見直すべきだ」または「見直しはやむを得ない」と考える理由は、「今のままではJR北海道が破綻するから」45%と、「バスや車などの代替交通で役割を果たせるから」34%が多い。
調査からわかること:
路線を「見直すべきだ」と「見直しはやむを得ない」を合わせた『見直し容認』は7割で多数。
成果の公表:
「正午北海道ニュース」「ほっとニュース北海道」「北海道スペシャル」(2017年6月2日)
担当:
世論調査部 外池武司 副部長
大飯原発再稼働に関する意識調査 【世論調査】
概要:
再稼働する見通しとなった関西電力大飯原子力発電所3、4号機について、地元の住民を対象に、再稼働への賛否や避難計画についての考えなどを探った。
9月9日(土)~10日(日)実施。電話法(RDD追跡法)。
調査相手は福井県おおい町の18歳以上の男女991人。回答率60.2%。
結果のポイント:
大飯原発の再稼動には69%が賛成。賛成の理由は「地域経済や雇用の確保に必要だから」が最多。
おおい町が策定した避難計画について(あまり+まったく)「説明を受けていない」が56%。また、この避難計画で安全に避難できるかどうかについては、(あまり+まったく)「できない」が53%。
調査からわかること:
原発再稼働には多数の人が賛成する一方で、半数程度の人が大きな事故が起きることや避難計画に不安を感じている。
成果の公表:
「ナビゲーション 検証 原発避難計画~“再稼働時代”の陰で~」(2017年9月15日)
関西NEWS WEB「原発アンケート“避難に課題”」
担当:
世論調査部 外池武司 副部長
大阪 万博誘致などに関する意識調査 【世論調査】
概要:
2025年の万博誘致、カジノを含むIR・統合型リゾート施設誘致への賛否などについて、大阪府民の意識を探った。
2018年3月23日(金)~25日(日)実施。電話法(RDD追跡法)。
調査相手は大阪府の18歳以上の男女1,694人。回答率62.3%。
結果のポイント:
万博誘致は「賛成」46%、「どちらともいえない」39%、「反対」11%。カジノを含むIR・統合型リゾート施設誘致は、「反対」42%、「どちらともいえない」34%、「賛成」17%。大阪都構想や総合区への賛否は、「どちらにも反対」33%、「大阪都構想に賛成」27%、「総合区に賛成」18%。
調査からわかること:
万博誘致は賛成が最も多く反対は少数。カジノを含むIR・統合型リゾート施設誘致は、反対が最も多く賛成は少数。
成果の公表:
「ニュースほっと関西」(2018年4月3、4、5、6日)
担当:
世論調査部 外池武司 副部長
ISSP国際比較調査「社会的ネットワークと社会的資源」 【世論調査】
概要:
約50の国・地域が加盟する国際比較調査。人々がどのような人間関係のネットワークを構築しているかを調べた。10月28日(土)~11月5日(日)実施。配付回収法。
調査相手は全国の18歳以上2,400人。有効率67.0%。
結果のポイント:
悩み事を相談できるような友人は、「2~3人」が49%、「いない」は22%。「いない」は高齢層ほど多い傾向があり、女性より男性の方が多い。SNSの利用が多い人は、利用が少ない人より18歳以上の子との接触が多い。今の生活について『満足』している人は61%、人と良く接する人や友人が多い人は満足度が高い傾向がある。
調査からわかること:
親しい友人や人との接触は高齢になると減る傾向があり、生活への満足度とも関連がある。
成果の公表:
「放送研究と調査」2018年6月号
担当:
世論調査部 外池武司 副部長
ISSP国際比較調査「仕事と生活」の二次分析 【世論調査】
概要:
2015年に実施した調査「仕事と生活」の結果より31の国・地域を比較・分析し、仕事とストレスの関係を考察した。
結果のポイント:
仕事でストレスを(いつも+よく)「感じる」日本人は男女とも半数程度で各国より多い。仕事を「自分ひとりでできる」と感じる人は多くの先進国で8割以上だが、日本は2割台。仕事を「おもしろい」と考える人も、日本は各国より少ない。
調査からわかること:
日本は仕事によるストレスを感じる人が各国より多い。各国で共通してストレスに強く影響しているのは「仕事が家庭生活の妨げになること」。日本ではこのほか、仕事の自律性の低さや仕事がおもしろくないという認識も影響している。
成果の公表:
「放送研究と調査」2018年3月号「何が仕事のストレスをもたらすのか」、第90回日本社会学会大会(2017年11月4日)
担当:
世論調査部 外池武司 副部長

時代に適応した調査方法の開発・検討

住民基本台帳からの無作為抽出によるWEB世論調査の検証 【調査・研究】
概要:
従来の世論調査手法である個人面接法や配付回収法の有効率は長期的に低下しており、特に若年層における有効率の確保が課題となっている。こうした状況に対応するとともに、従来の世論調査手法に代わりうる回答回収方法の可能性を探るため、「WEB式調査」(住民基本台帳からランダム・サンプリングで選んだ調査相手に、郵送で協力を依頼し、WEBで回答してもらう手法)の実験調査を行った。また、WEB式調査と比較するための郵送調査も並行して行った。
2017年10月31日(火)~12月11日(月)実施。調査項目:日常生活や社会に対する意識など。調査対象:全国の16歳以上59歳以下の男女。調査相手:住民基本台帳から層化無作為2段抽出
(WEB式:3600人(18人×200地点) 比較用郵送:2400人(12人×200地点)
結果のポイント:
WEB式の有効率は54.5%で、前回(2016年調査)と比べ大きく向上したが、比較用の郵送調査の59.1%は下回った。ただし、30代以上の有効率は、比較用の郵送調査と差がない水準にまで高めることができた。回答に利用したデバイスは「スマートフォン」が約7割。WEB回答画面に少なくとも1度ログインした人の96%が最終質問まで回答した。
研究からわかること:
WEB式の有効率の推移、有効者のサンプル構成比、回答分布の特徴、調査設計における課題などを分析・検証し、「住民基本台帳からの無作為抽出によるWEB世論調査」の質の向上を図る。
成果の公表:
「放送研究と調査」2018年6月号
担当:
世論調査部 原美和子 副部長
「国民生活時間調査」調査項目の検討と、研究成果の社会還元 【調査・研究】
概要:
「NHK国民生活時間調査」は、時系列比較のため調査項目の大枠を変えずに継続してきたが、近年、メディア利用の測定が喫緊の課題となっている。外部研究者との共同研究で、時代に即した新しい調査項目・調査方式の検討を進める。あわせて、2015年の調査結果を国際学会で発表する。
研究のポイント:
メディア利用の先端層を対象としたグループインタビューからは、細切れ・同時行動の記入、インターネット上のコミュニケーションの分類、メディア利用行動の分類とワーディングという3つの課題が見出された。今後の調査の方向性について引き続き研究・検討を進めていく。
成果の公表:
東京大学大学院情報学環紀要 情報学研究・調査研究編No.34、「放送研究と調査」2018年5月号
担当:
世論調査部 木村義子 副部長

④ 「公共放送・メディアの役割」

2020東京オリンピック・パラリンピックに向けた調査研究

東京オリンピック・パラリンピックに関する調査 【世論調査】
概要:
2020年東京オリンピック・パラリンピックについての関心や意識、価値観と、2018年のピョンチャンオリンピックパラリンピックに関する人々のテレビ視聴やメディア利用状況を調べた。(「文研2020オリンピック・パラリンピック研究プロジェクト」関連)
2017年10月7日(土)~15日(日)と2018年3月17日(土)~25日(日)に実施。配付回収法。調査相手は全国20歳以上3,600人。有効率は2017年10月68.9%、2018年3月68.3%。
結果のポイント:
2017年10月と2018年3月を比較すると、2020年東京大会の開催を評価する人(よい+まあよい)はやや減少(87%→84%)した。関心がある人(大変+まあ)はオリンピックが同程度(80%→78%)、パラリンピックは減少(61%→56%)した。2018年ピョンチャン大会の放送や映像を「ほぼ毎日見聞きした」人は、オリンピックが48%、パラリンピックが19%。
調査からわかること:
2020東京大会についてはオリンピック・パラリンピックとも関心が高い。ピョンチャン大会の視聴については、オリンピックと比べパラリンピックは低くなっている。
成果の公表:
2017年10月調査「おはよう日本」(12月21日)
「放送研究と調査」2018年4月号 2018年 3月調査「ニュース7」「ニュースチェック11」「ワールドニュース」(6月6日)
担当:
世論調査部 原美和子 副部長
「障害者スポーツと放送」研究 【取材・研究】
概要:
東京2020パラリンピックが近づくなか、2017年3月の文研フォーラムで「パラリンピックと放送の役割」をテーマにシンポジウムを開催し、パラリンピックを皆で楽しみ、共生社会の実現につなげるため放送はどのように貢献できるかを考えた。このシンポの概要を取りまとめて、シンポから得た示唆を共有し、新たな研究の視点を考えた。
結果のポイント:
パラリンピックを楽しみ、共生社会につなげていくには、パラリンピック期間中だけではなく、それ以前からのアプローチの重要性が認識された。
研究からわかること:
パラリンピックはトップアスリートの競技であり、障害について語り合う際のハードルを低くすることの必要性が指摘された。大会の開催までに放送などを通じて、競技の基礎知識の普及など障害者と健常者の双方が障害者スポーツを通して語り合うことができるようにしていくことが必要である。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年9月臨時増刊号「パラリンピック研究」
担当:
メディア研究部 山田潔 研究主幹
ピョンチャンオリンピックに向けた韓国放送業界の4Kシフト研究 【取材・研究】
概要:
韓国では、2018年2月に開催されたピョンチャン五輪を「世界最高のICTオリンピック」「世界初の5Gオリンピック」などとPRし、この機会に、地上4K放送の普及促進を図ろうと地上テレビ局が取り組んだ。その現状と課題を現地取材し、月報で報告した。
結果のポイント:
韓国ではケーブル・衛星放送など有料放送の加入率が全世帯の90%以上に上り、地上テレビの直接受信は5%程度で、オリンピックの高画質視聴には有料放送への再送信が欠かせない。地上テレビ局は4Kへの投資を回収するために送信料の大幅な引き上げをもくろんだが、有料放送側は4Kでの制作比率の低さなどを理由に難色を示した。調査段階では、地上放送側と有料放送側で折り合いはつかず、4K放送を巡りどのようなビジネスモデルが築けるのか不透明であった。
研究でわかること:
韓国は世界で最も早く4K放送の実用化に取り組んできた国であり、地上4K放送でも世界の先端を走ることで関連産業の活性化につなげようとしている。ただ、その中核となる地上テレビ局が明確なビジネスモデルを提示できなければ、将来は必ずしも楽観できるものではないだろう。
成果の公表:
「放送研究と調査」2018年2月号
担当:
メディア研究部 山田賢一 上級研究員

新しい時代の公共メディアサービスと、ジャーナリズム

“ポスト真実の時代”のマスメディアに関する研究 【調査・研究】
概要:
SNSを中心にフェイクニュースが氾濫し、「事実」よりも「感情への訴えかけ」が世論形成に強い影響を与える「ポスト真実の時代」はどのように生成されたのか?その生成過程や活動主体を先行研究/調査から明らかにし、その生成要因、背景、全体構造をメディア論的視座から分析した。
結果のポイント:
「ポスト真実の時代」は、人々の情報行動やコミュニケーションがSNSに強く影響される状況を察知した特定の政治的経済的利害を共有する勢力が、最新のマーケティング、データ解析、AI技術等を駆使し、人々の行動、判断、世論形成の操作やマスメディア、公的機関の信頼失墜を試みた、極めて政治的なメディア現象である。
研究からわかること:
ニュースの主要流通経路がSNSへ移行しつつあり、そのビッグデータは人々の集合的感情の可視化や個々人の情動に最適化された情報発信を可能にした。そのことがメディア・コミュニケーションを情報伝達型から情動共有型へと変容させ、「感情」が世論に強く影響を与える「ポスト真実の時代」を生成させた。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年11月号:ポスト真実の時代とマスメディアの揺らぎ
~その構造的理解のために、米国大統領選挙2016を事例として~
担当:
メディア研究部 伊吹 淳 特任研究員
世界の公共放送最新事情・各国の個別研究(世界の公共放送:制度と財源執筆) 【取材・研究】
概要:
海外メディア調査グループでは2012年に「世界の公共放送の制度と財源報告」をまとめた。それから6年が経ち、放送と通信の融合が一層進展した中で、新たなネットサービスの開発状況や、受信料制度改正、ガバナンスの見直しなど、最新の動向を調査し、年報2018で報告した。
結果のポイント:
調査したヨーロッパの公共放送では、2009年までに放送と通信の融合のための法整備を済ませ、公共放送の業務範囲もネットまで拡大した。それぞれ、ネット上で放送と同時にあるいは見逃し視聴できるサービスを提供している。さらに、2016年に放送を止めてネットのみの提供になったイギリスのBBC Threeやドイツで始まったネット新チャンネルfunk、ネットで同時再送信されるフランスの24時間ニュースチャンネルFranceinfoなど新サービスが始まっていた。
研究でわかること:
主要国の公共放送はメディア環境の変化に合わせて、サービス、企業統治、財源のあり方など、変革を続けている。今後も運営財源の確保や効率化など課題は残る。加えて、放送からネット視聴へ比重が移り、視聴者のメディア利用習慣や社会構造の変化に対応して、公共放送の使命や目的を改めて問われている。
成果の公表:
「NHK放送文化研究所年報2018」
担当:
メディア研究部 田中孝宜 副部長
世界の公共放送最新事情・各国の個別研究(イギリス) 【取材・研究】
概要:
イギリスの公共放送BBC存続の基本法規にあたる特許状が2017年1月、10年ぶりに更新された。特許状の更新にあたっては、毎回、財源やガバナンスなどBBCのあり方について国民的な議論が喚起される。今回の議論のポイントや見直された点を整理し、月報で報告した。
結果のポイント:
イギリス政府は、2015年、議論のたたき台としてグリーンペーパーを作成し、「BBCの使命、目的、事業範囲、財源などについて、一般から意見を募集した。その結果、デジタル時代に合わせてBBCが事業や予算規模を拡大することに69%が賛成し、60%の人が受信許可料制度の変更は必要ないとした。そうした中で、今回の最大の変更はガバナンスであり、BBCの歴史上はじめて、外部の独立機関Ofcom(放送通信庁)がBBCの規制・監督を担うことになった。
研究でわかること:
特許状更新議論の過程でBBCはイギリス国民の高い信頼を維持していることが改めて確認された。新たにBBCを監督下に置くことになったOfcomは、制度上はBBCに対して強い権限を持つことになったが、Ofcomは政治権力から独立した第三者機関であり、BBCの独立が保障されることは特許状にも明記された。
成果の公表:
「放送研究と調査」2018年2月号
担当:
メディア研究部 田中孝宜 副部長
世界の公共放送最新事情・各国の個別研究(スペイン) 【取材・研究】
概要:
財源や政府からの独立などの課題を抱え、公共放送改革に動き出したスペインで現地調査を行い、その結果を月報で紹介した。
結果のポイント:
スペインでは大手商業放送局による市場の寡占化が進み、公共放送の影響力が低下している。こうした中、公共放送への政治介入を排除し、国民の信頼を取り戻すための法改正の動きが本格化した。しかし、独裁政治の歴史が長く、テレビも国営放送の時代が続いたスペインでは、今でも政府の放送と同一視する意識があり、それが公共放送を巡る最大の課題だと指摘されていた。
研究でわかること:
公共放送のあるべき姿をめぐって模索を続けるスペインの現状から、公共放送が民主主義に根差したものであり、人々の関心や理解に拠って立つものであることが改めて確認された。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年2月号
担当:
メディア研究部 斉藤正幸 研究員
世界の公共放送最新事情・各国の個別研究(香港) 【取材・研究】
概要:
香港が中国に返還されてから20年が経過したが、この間に「報道の自由」がじわじわと侵食されているとの懸念が高まっている。過去20年に起きた放送の自由を巡る事案を整理し、現地を訪問し、メディア関係者への聞き取り調査を行った。
結果のポイント:
既存メディアは中国政府とその意向を反映した香港政府、経済界による「圧力」の影響が次第に顕在化していて、報道の自由の萎縮が進み、特に商業放送TVBではその傾向が顕著であった。一方公共放送RTHKは、こうした風潮に抵抗する意識が強く、圧力を押し戻す事例もみられるが、予算や人事を通じた間接的な「締め付け」で「おとなしい状態になりつつある」とされる。
研究でわかること:
香港返還から20年、既存メディアは、直接的・間接的な圧力に委縮する一方で、急激に普及しているネットメディアが存在感を高めていた。しかし、現状ではネットメディアは既存メディアに比べ規模や影響力が小さく、報道の自由にどこまで貢献しうるかは、今後も注視する必要がある。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年12月号
担当:
メディア研究部 山田 賢一 上級研究員
「きょうの料理」の歴史と今後のメディア展開に関する研究 【取材・研究・シンポジウム】
概要:
1957年から60年続く『きょうの料理』。家庭の食卓に寄り添い4万品の料理を紹介してきた。しかし今やレシピはネットで手軽に手に入り、中食や外食の発展で料理は買えばすむ時代。“公共メディア”コンテンツとしての今後のあり方を番組の歴史と食卓の変遷をひもときながら考察した。
結果のポイント:
放送開始当初から時代のニーズに合わせたレシピに徹底的こだわり、その積み重ねが「信頼」に繋がっている。また、番組に付随したテキストの発刊という「メディア展開」を古くから行ってきており、そのノウハウを生かすことで近年のネット展開も積極的に進めることができた。
研究からわかること:
ネットの発展とともに玉石混交の情報が溢れるようになった現在、「信頼」は最大の付加価値となりうる。豊かな食文化を育む質の高いコンテンツの制作は公共メディアの役割であり、より多くの人に届けるために、テレビ、テキスト、ネットそれぞれのメリットを生かした、効果的なメディア展開が求められる。
成果の公表:
「放送研究と調査」2018年1月号
・文研フォーラム2018:シンポジウム『きょうの料理』60年の歴史とこれから
~“老舗”番組から考えるコンテンツの未来~
担当:
メディア研究部 大野敏明 副部長
民放ローカル局の地域情報発信に関する調査研究 【取材・研究】
概要:
民放ローカル局は開局時、地域情報の発信を通じた地域社会への貢献を謳っていた。しかし、実際はキー局制作の番組の放送を優先し、地域性が見えにくくなっている局が少なくない。こうした中、地域番組の制作に積極的な山陽放送、東海テレビ、KBS京都の3局を実践例として取り上げ、放送に求められる地域性について考察した。
結果のポイント:
民放ローカル各局の取り組みは、『月刊民放』や『GALAC』などの業界誌を通じて、各局の個別実践例としてはこれまでも取り上げられてきた。一方、本研究は積極的に地域番組の拡充を図る上記3局の動向を新たな潮流として捉え、放送に求められる地域性実現の実践例として示した。
研究からわかること:
民放ローカル局を含めた地域メディアは、全国メディアが見落としがちな地域社会の問題・課題を取り上げてこそ、その存在意義がある。放送に求められる地域性とは、地域の情報を積極的に掘り起こし、全国へ向けて問題提起したり、伝えたりすることである。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年6月号:「“地域性”に回帰する民放ローカル局の可能性」
担当:
メディア研究部 関谷道雄 主任研究員
「BPO放送倫理検証委員会の10年」についての研究 【取材・研究】
概要:
BPOの放送倫理検証委員会が2017年に発足10年を迎えたのを機に、委員会が10年間に出した勧告や見解など25の委員会決定を分析し、その活動の意義と課題について考察した。
結果のポイント:
25の事例のうち①証言やインタビューの真実性や信頼性が問われた事案、②バラエティー番組での情報や事実の正確性が問われた事案、③選挙報道での公平・公正性が問われた事案の3つで、既視感を覚えるような類似の問題が起き、同じような指摘が繰り返されていることがわかった。
研究からわかること:
類似の事案が繰り返される背景には、放送現場での制作会社スタッフとの関係や制作体制などの構造的な問題とともに、BPOの委員会決定が現場に十分に伝わっていない課題があることがわかった。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年5月号:<立体検証>BPO放送倫理検証委員会の10年
担当:
メディア研究部 塩田幸司 特任研究員
放送と音楽著作権に関する研究 【取材・研究】
概要:
放送で使用される大量の音楽の権利処理(著作権管理団体への使用曲目報告)について、放送局のフィンガープリント技術導入による自動化が加速している。技術導入に至る放送局と著作権管理団体の経緯と背景を辿り、放送コンテンツのさらなる展開に向けた課題と展望を考察した。
結果のポイント:
かつては不要だった使用曲目報告は、著作権法の改正や放送番組配信への期待、権利者意識の高まりから不可欠なものとなった。その過程で放送局と著作権管理団体は契約形態の見直しを迫られ、大幅なルール変更を行った。報告の自動化はそのための重要なツールであった。
研究からわかること:
放送の裏側にある実務の現場と、そこでの長い議論の積み重ねを詳述することで、放送の法的支柱である著作権法の理念と現実の問題が浮き彫りとなる。また、放送コンテンツのさらなる活用の為に不明権利者問題が今後の課題として横たわっており、テクノロジーだけに依存せず、合意形成の努力が求められる。
成果の公表:
「放送研究と調査」2018年2月号:調査研究ノート フィンガープリント導入への道程
~放送と音楽著作権の新時代~
担当:
メディア研究部 大高 崇 研究員/世論調査部 吉澤千和子 研究員

災害情報の伝達・防災への取り組み

2016年熊本地震における「生活情報」の伝達に関する世論調査 【世論調査・取材・研究】
概要:
2016年4月に発生した「平成28年熊本地震」では震度7を2回観測し、一時は約18万人が避難生活を送った。地震発生直後から、被災地の自治体やメディアは、物資の配布や交通、医療などの「生活情報」を多様な媒体を通じて発信した。自治体・メディアへの聞き取りと、被災地住民2,000人を対象とした世論調査に基づき、大規模災害時の生活情報伝達をめぐる課題を検討した。
結果のポイント:
自治体が事前に指定していた避難場所が被災し、活発な地震活動が続く中で、自家用車内で寝泊りをしていた人が6~7割に上った。避難場所が分散したことが、自治体からの情報伝達を困難にしていた側面がある。若年層は「スマートフォン・携帯電話」が主要な情報入手の手段となっていた。地震前から活断層地震のリスクを認知していた人は、防災対策の実施率も高かった。
研究からわかること:
被災地域の住民に必要な生活情報を伝達するためには、自治体とメディアの連携が不可欠である。また、平常時から地域の災害リスク情報を周知・浸透させておくことは防災上有効と考えられる。
成果の公表:
「放送研究と調査」2017年9月号:被災地住民が求める「生活情報」とその発信
~平成28年熊本地震被災地における世論調査から~ 熊本局「クマロク!」、全中「ニュースチェック11」(2017年4月30日)
担当:
メディア研究部 入江さやか 上級研究員
災害情報の伝達に関する研究 【調査・研究】
概要:
豪雨災害が多発する中で、災害情報とメディアの情報伝達はどのように変わろうとしているのか緊急時コミュニケーションの視点から洪水・高潮・内水氾濫の3水害を対象に調査分析を行った。
結果のポイント:
洪水では、中小河川の氾濫リスクを初期の段階から可視化する情報が新設され、NHKがリアルタイム解説に活用。高潮・内水氾濫では潮位・下水道水位が一定レベルに達すると、それぞれ「氾濫危険情報」が新たに発表されることになり、運用に向けての準備作業が進められている。
研究からわかること:
災害情報の変革の重点は、①リスクの予測を初期の段階から時間的・地理的に可視化して伝えていくこと、②予測とは別に、水位などの実況値を迅速に収集して危機を的確に伝えること、に置かれている。高度化し、複雑化する災害情報の意味を整然と如何にわかりやすく伝えるかがメディアの課題である。
成果の公表:
「放送研究と調査」
・17年9月号:2017年夏・防災気象情報の変革と豪雨災害 ~報道はどう変わったか~
・17年12月号・18年1月号:高潮・内水氾濫危険情報の新設
~緊急時コミュニケーションを考える(上・下)~
担当:
メディア研究部 福長秀彦 特任研究員

⑤ 「効果的な成果展開と、研究のさらなるレベルアップ」

研究成果の発信・社会還元に向けた取り組み

「文研フォーラム」の開催
3月7日(水)~9日(金)の3日間、千代田放送会館で「NHK文研フォーラム2018~テレビの未来 メディアの新地図」を開催した。今回は、放送と通信が融合する中で進む放送局のネット戦略の最新事情報告や、これからのテレビの将来像やその役割を大学生と考えるシンポジウムなど、多彩なプログラムが展開された。のべ参加者数は1,419人(3/7 501人、3/8 517人、3/9 401人)。
プログラム:
<3月7日(水)>
A 【シンポジウム】「欧米メディアのマルチプラットフォーム展開」
B 「トランプ時代のアメリカと日本~日米同時世論調査から考える~」

<3月8日(木)>
C 【ワークショップ】「大学生たちと考える“テレビ”の未来~スマホ時代のテレビの可能性~」
D 「これからの“放送”はどこに向かうのか?~民放連会長に聞く~」

<3月9日(金)>
E 【ワークショップ】「データから読み解くドキュメンタリー研究」
F 「放送の中の美化語を考える~視聴者とアナウンサーへのインタビュー調査から~」
G 【シンポジウム】「『きょうの料理』60年の歴史とこれから
~“老舗”番組から考えるコンテンツの未来~」
なお後日、フォーラムに参加できなかった職員向けに、放送センターで一部のプログラムの内容を再構成して報告する「文研フォーラムin渋谷」を開催した。(3月14日「欧米メディアのマルチプラットフォーム展開」、15日「これからの“放送”はどこに向かうのか?」)
放送文化セミナーの開催
地域の視聴者を対象にNHKの地域放送局が行う「放送文化セミナー」に、文研研究員が出向いて講師を務める取組みを継続した。2017年度は、熊本、高松、松江、奈良、札幌局の5局で、「子ども文化としてのメディア」等のテーマで開催した。
デジタル発信の強化
昨年度に引き続き「文研ブログ」(2017年度は47本発信)、「ツィッター」(123本発信)を活用し、月報等の刊行物や文研フォーラムのプログラムの紹介など、デジタル発信に積極的に取り組んだ。また論文検索システム「J-Stage」に月報掲載論文の公開を開始した(月報2018年1月号~)。
放送博物館を活用した成果展開
概要:
2016年1月のリニューアルで拡張した放送博物館の展示室を活用して、NHKの放送の歩みを紹介する企画展を開催した。
・特別展「東日本大震災 伝え続けるために」(2017年3月~9月)
・企画展「ヒロインたちの肖像 連続テレビ小説ポスター展」(2017年9月~2018年1月)
・企画展「減点パパ+減点ファミリー展 ―初代三波伸介が描いた似顔絵から―」(2018年3~7月)

企画展の開催により、所蔵資料の活用方策や、NHKの関連部局と連携した展開の可能性が明らかになった。また、リニューアルに伴い新設した「愛宕山8Kシアター」では、4K・8Kの試験放送の公開を随時行った。
放送文化研究委員会
放送文化に関する研究調査の充実を目的に、幅広い分野で活躍している方々を放送文化研究委員(文研委員)に委嘱し、文研の活動について助言をいただいている。2017年度は上期下期の二回委員会を開催。また7名のうち3名の委員が任期満了で交代、新しい体制となった。

刊行物による発信

放送文化研究所では、2017年度に以下の刊行物を発行した。
「放送研究と調査」(毎月1日発行)
日常の研究・調査の成果を継続的に公表する場として、毎号、複数の論考とともに、国内外のメディアの最新動向やことばに関するコラムなどを掲載。加えて、2017年度は9月号臨時増刊号として「パラリンピック研究」を発行した。
「NHK放送文化研究所年報2018 第62集」(2018年1月発行)
長期的な研究や共同研究を体系的・総括的に取り上げた論考を掲載する年間誌で、2017年度は、世界の8つの国と地域の公共放送の制度・財源についての調査報告(「世界の公共放送-制度と財源報告2018」など、公共放送の役割を広く考察した論考3本を掲載した。
「NHK年鑑2017」(2017年11月発行)
NHKを中心に、2016年度の放送界の動向について、主な事項・統計・放送日誌などをまとめた。メディア史の研究をはじめ、さまざまな調査・研究の基礎となる貴重な記録となった。
「データブック世界の放送2018」(2018年2月20日発行)
1953年初刊の「データブック世界の放送」の2018年版を執筆・編集・刊行した。世界66の国と地域について、「概況」「最新動向」「放送制度」「地上デジタルテレビ」「地上テレビ」「公共放送」「衛星・ケーブル」「HDTV」「ラジオ」「国際放送」「放送と通信の融合サービス」の共通テーマで調査し、最新動向を報告、刊行した。

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NHK放送文化研究所 計画管理部計画グループ