文研ブログ

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】台風進路予報円 精度良く表示, 災害危険度が高い地域を明確化

気象庁は,台風の進路を予報する際の予報円と暴風警戒域(台風の中心が予報円内に進んだ場合に風速25m以上の暴風となるおそれのある範囲)を,これまでより狭く絞り込んで,精度良く表示する方法を6月下旬に始めた。


数値予報技術の改善などにより実現したということで,台風による災害の危険度が高い地域の明確化につながると期待されている。
この方法が,7月15日に南シナ海で発生し,北西へ進んだ台風4号に初めて適用された。
この方法について,気象庁が2019(令和元)年に東日本や東北で河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ,甚大な被害をもたらした「令和元年東日本台風」をモデルケースに検証したところ,3日先以降の予報円と暴風警戒域がこれまでより狭くなり,特に5日先の予報円は,約40%狭くなって,精度が向上したという。
気象庁は「災害の危険度が高い地域をより絞り込めるようになるので,早めの避難などの防災行動につなげてほしい」と話している。


ただ,変わらないこともある。▼予報円の定義が「台風の中心が70%の確率で入ると予想される範囲」(つまり30 %は入らない可能性がある)であることや,▼台風の進路予報が3・6時間おきに発表され,そのたびに変化すること,▼いわゆる「迷走台風」など進路予報の難しい台風については,どうしても予報円が大きくなること,などである。
今回の新たな表示方法の導入をきっかけに,メディアを通じて最新の情報を常に確認することの大切さを,改めて認識する必要があるだろう。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】韓国KBS,受信料の分離徴収が確定, 施行令改正受け,憲法裁に判断求める

韓国で7月12日,公共放送KBS の受信料を電気料金とともに徴収する方式から分離徴収に改める放送法施行令が施行された。
これを受け,KBSは,改正施行令が憲法に違反していないかなどの判断を憲法裁判所に求めた。

KBSは1994 年以降, 月額2,500ウォン(約270円)の受信料を電気料金とともに徴収してた。
この方式は,KBSに安定した収入をもたらした一方,放送を見ていなくても支払う仕組みとなっていることに対する国民の反発もあり,政府は制度の見直しを行っていた。
今回の改正について,ハン・ドクス(韓悳洙)首相は「国民の料金に対する意識と関連する権利への理解が深まると期待される」と述べた。

一方,KBSのキム・ウィチョル(金儀喆)社長は声明で,「受信料を徴収するために2,000億ウォン(約217億円)以上を浪費せざるを得なくなり,公共サービスのための番組の削減や廃止につながるだろう」との見通しを示し,「国民に多大な損害と混乱をもたらすことが予想されるので,改正を受け入れるのは困難だ」としている。
そのうえでキム社長は,憲法裁判所に判断を求めた目的について,「今回の改正が公共放送の憲法上の価値を損なう可能性の有無を検討し,どのような徴収方式が国民の大多数にとって有益かを判断することだ」と述べた。
同時にキム社長は,「KBSが最善の努力をしてきたにもかかわらず,急速に変化するメディア環境の中で,国民に対し,その価値を十分に発揮できていないことについて,心からお詫びする」と謝罪した。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】女子W杯,FIFA 放送権交渉に課題も

サッカー女子の世界一を決める「FIFA女子ワールドカップ2023 」(以下,女子W 杯)が7 月20日,オーストラリアとニュージーランドの共同開催で開幕した。
FIFA(国際サッカー連盟)が2019 年の大会の成功などをふまえ,女子W杯の放送権を男子W 杯と切り離したが,欧州の主要国などとの交渉が難航し,合意が開幕直前までずれ込むなど課題を残した。

FIFAは初の南半球開催となった今回の女子W杯で,参加チームを8 増やして32とした。
FIFAによると,2019 年大会の視聴者数は11億人で女子サッカーの人気は高まっている。
女子W杯の放送権は初の単独での販売となったが,これまで男子W 杯とセットの契約だったこともあり,いわゆる欧州5大リーグがあるイギリス,スペイン,ドイツ,イタリア,フランスの欧州主要5か国で放送権交渉が難航した。

FIFA会長は5月,5か国の放送事業者の提示金額について,男子W杯の1/20 ~ 1/100と「落胆する内容」で,「このままでは放送をやめざるを得ない」と見直しを迫った。
その後,FIFAとEBU(欧州放送連合)が既存の契約を修正し,5か国を含める形で放送が決まったのは,女子W杯開幕のわずか1か月前であった。
日本でもNHK が日本代表の全試合放送を発表したのは7月に入ってからだった。

FIFAは,男女の格差解消に向け,今大会の賞金総額を前大会の3 倍以上の1億5,200万ドル(約215 億円)に増額し,次期W杯で男女同額をめざすとしている。
一方で,経営が厳しい放送事業者の放送権料負担の増加やFIFA が女子W 杯を過小評価してきた問題などを指摘する声も上がっている。

メディアの動き 2023年08月21日 (月)

【メディアの動き】英BBC,国際サービス利用者大幅減

イギリスの公共放送BBCは7月11日,2022年度の年次報告を発表した。
受信許可料の値上げが見送られ,財源削減策を進めたことなどの影響で,国際放送サービスで大幅に利用者が減少したことが明らかになった。


報告書によると,BBCの受信許可料による収入は,支払い件数が43万7,000 件減少した結果,37億4,000万ポンド(約6,769 億円)と前年比で1.6%の減少となった。
その他の収入は,商業部門の売り上げが28%伸び,19 億8,500万ポンド(約3,593 億円)となったが,インフレの影響やデジタル投資などで支出が増えた結果,グループ全体の収支は1億2,000万ポンド(約217 億円)の赤字となった。
利用実績は,統計の取り方を変えたため前年との比較はできないが,16歳以上の週間接触率は69%だった。
また動画配信サービスiPlayerの利用件数は前年比11%増の73 億件で過去最多となった。
一方,世界でBBCのテレビやラジオ,ウェブなどを利用した人は4 億4,700万人で,前年比9%減となった。
特に2022 年に一部言語のラジオ放送の廃止や人員削減策などを決めた国際放送BBC World Serviceでは,43のサービスのうち29で利用者減となった。
西アフリカで使われるヨルバ語やインドネシア語が70%以上の減となる一方,中国語は26%,ロシア語は19%,ウクライナ語は11%の増となった。


BBCは2023 年から,偽情報対策や同局のブランドを広める効果が低いプラットフォーム経由でなくBBCに直接アクセスしてもらうことを優先するとしたうえで「ニュース環境の変化や,経費削減のために国際放送は今後も難しい決断が必要になる」としている。

調査あれこれ 2023年08月01日 (火)

あなたはコンテンツや情報にお金を払いますか?【研究員の視点】#500

世論調査部(視聴者調査)渡辺 洋子

 インターネットで面白そうだと記事を読み始めたら、「ここから先は有料」の文字・・・。
 あるいは、面白そうな動画を見つけ、見たいと思ったら有料だった

 みなさんは、このような経験をしたことはありませんか。
 こうした時、あなただったらどうしますか。
 お金を払ってでも見る? それとも、お金を払ってまでは見ない?

 世の中の人は、どうなのでしょうか。
 NHKが行った世論調査をもとに、考えてみようと思います。

 こちらは「全国メディア意識世論調査・2022」で、映像コンテンツや情報にお金を払うことについて、どのように思うかを尋ねた結果です(図1)。

図1 お金を払うことに対する意識
graph1_ishiki.png

「映像コンテンツ」と「情報」のそれぞれについて、お金を払ってでも見たい(手に入れたい)かどうかを尋ねたところ、「好きな番組や動画なら、お金を払ってでも見たい」と答えた人が35%、「自分の知りたい情報は、お金を払ってでも手に入れたい」と答えた人が31%で、お金を払ってでも見たい、あるいは手に入れたいという人はともに3割台でした。※「どちらかといえば」を含む

 一方、お金を払ってまで見たい、あるいは手に入れたいと思わないと答えた人が6割以上を占めていて、
好きな番組や動画、自分の知りたい情報に対して、お金を払ってまで見たい、手に入れたいという人は多くないことがわかります。

 回答者全体では、このような結果となりましたが、年齢による違いはあるのでしょうか?
 年層ごとの結果を示したのが下のグラフです(図2)。

図2 お金を払うことに対する意識(年層別)graph2_1_ishiki.pnggraph2_2_ishiki.png

 映像コンテンツでも、情報でも、若い人たちほどお金を払ってでも、見たい、あるいは手に入れたいという意識が強い傾向がみられます。
 特に16~29歳では、「好きな番組や動画なら、お金を払ってでも見たい」と答えた人が52%と半数を超えていて、自分の知りたい情報に対する「お金を払ってでも手に入れたい」の38%よりも高く、「映像コンテンツ」に対して、よりお金を払ってでも見たいという意識が強いことがうかがえます。
 この背景には、何があるのでしょうか。

 いくつか要素が考えられますが、そのうちの1つは、メディアの効用の重要度、つまり自分が重要だと思っている目的や場面に対して、どのメディアがもっとも役に立っていると思うかという意識の違いです。

 まず、下の表に示した「世の中の出来事や動きを知ること」「感動したり楽しんだりすること」などの項目について、それぞれどの程度重要だと思うかを尋ねました。
 「世の中の出来事や動きを知ること」を「とても重要」と回答した人の割合は、16~29歳を除いたどの年層でも、もっとも高い項目の1つで半数を超えています。

 ところが16~29歳では、上位を占めたのは「感動したり、楽しんだりすること」(59%)、「生活や趣味に関する情報を得ること」(51%)、「癒やしやくつろぎを感じること」(49%)で、「世の中の出来事や動きを知ること」は半数に至らず(42%)、4番目でした。

 若年層では「世の中の出来事や動きを知ること」よりも「感動したり、楽しんだりすること」のほうが、重要度が高いと考えている人が多いことがわかります。

表 効用の重要度 (「とても重要」と回答した人の割合)(年層別)chart_kouyou.jpg

 次に、16~29歳で高かった「感動したり、楽しんだりすること」について、どのメディアがもっとも役に立っていると思うか、回答結果をみていきます(図3)。「テレビとYouTube、どんなときに役に立っている?【研究員の視点】#499」参照

 16~29歳では、「感動したり、楽しんだりするうえで」もっとも役に立っていると思うメディアとして、YouTubeが42%で、テレビなど他のメディアを大きく引き離す結果となりました。

 また、YouTubeには及ばなかったものの、テレビやYouTube以外のインターネット動画が続いていて、上位3つはすべて映像メディアとなっています。

図3 「感動したり、楽しんだりするうえで」もっとも役に立っているもの(16~29歳)graph3_media.png

 ここまでみてきたように、若年層にとっては、「感動したり、楽しんだりすること」が重要だと思う人が多く、さらに、その「感動したり、楽しんだりするうえで」、YouTubeをはじめとした映像コンテンツがもっとも役に立つと考えている人が多いため、若年層で特に映像コンテンツに対して、お金を払ってでも見たいという意識が強いという結果になったと考えられます。

 さらに、こうした若年層の意識を知る上で、もう1つポイントになる結果を紹介します。
 それは「好きなものに対する意識」です(図4)。

 「好きになったものには、とことんのめり込む」ことや、「好きなものだけに囲まれて過ごしたい」と思うことについて、あてはまるかどうかを尋ねたところ、若年層ほど、「あてはまる」と答えた人の割合が高くなる傾向が出ています。※「とてもあてはまる」「まああてはまる」の合計

図4 好きなものに対する意識(年層別)graph4_1_favorite.pnggraph4_2_favorite.png※ピンクの文字は、「とてもあてはまる」「まああてはまる」の合計

 このように、若年層ほど、好きなものにのめりこんだり、好きなものだけに囲まれて過ごしたりしたいという思いが強く、そうした意識が、好きな番組や動画に対して、お金を払ってでも見たいという結果につながっているのではないかと考えられます。

 今回のブログでは、年層によって、メディアに対する意識の違いやお金を払ってまでみたいと思う意識の違いをみてきましたが、「放送研究と調査7月号」では、紹介した結果以外にも、コロナ禍以降のメディア利用の変化や、人々の意識とメディア利用の関係について、詳しく報告していますので、ぜひご覧ください。

おススメ記事
2023年7月号
コロナ禍以降のメディア利用の変化と,背景にある意識
~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20230701_5.html

2022年8月号
テレビと動画の利用状況の変化,その背景にある人々の意識とは
~「全国メディア意識世論調査・2021」の結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20220801_8.html

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【渡辺洋子】
2001年NHK入局。仙台放送局、千葉放送局でニュースなどの企画制作を担当。
放送文化研究所では10年以上にわたり視聴者調査の企画・分析に従事。国民生活時間調査は2005年から担当。
共著『図説日本のメディア[新版]』『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』など。

調査あれこれ 2023年07月31日 (月)

テレビとYouTube、どんなときに役に立っている?【研究員の視点】#499

世論調査部(視聴者調査)行木 麻衣

 みなさんは、世の中の出来事や動きを知りたいと思ったとき、テレビを視聴しますか。新聞を読みますか。それともインターネットの検索サイトを見ようと思いますか。あるいは、癒やされたり、くつろいだりしたいと思ったときは、どのメディアを利用しようと思いますか。

 文研では、人々がどのようにメディアを利用しているのか、その背景にある意識は何か、2020年から「全国メディア意識世論調査」を実施しています。今回は、2022年の「全国メディア意識世論調査」から、メディアの効用、つまりそれぞれの目的ごとに、どのメディアがもっとも役に立つと思うかを尋ねた結果をご紹介します。

 まず、回答者全体の結果をみると(図1)、一番上の「世の中の出来事や動きを知る」ときはテレビが59%と半数を超え、もっとも役に立つと評価されています。また、グラフの2番目「感動したり、楽しんだりする」からグラフの下から2番目の「人のぬくもりを感じる」までについても、テレビに対する評価は、ほかのメディアと比べ、もっとも高くなりました。一方、テレビ以外で、どのメディアを利用しているかをみると、赤色のYouTubeは、グラフの真ん中ほどにある「癒やしやくつろぎを感じる」「退屈しのぎをする」で、テレビに迫っています。

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 全体でみると、多くの目的で、テレビがもっとも役に立っていると評価を受けていましたが、これを16~29歳の若年層に限ってみると、異なった様相がみられます(図2)。 全体の回答でテレビが6割ほどを占めていた「世の中の出来事や動きを知る」は、テレビが31%、Twitterが22%で、テレビとTwitterの間に有意差はなく同程度となっています。「癒やしやくつろぎを感じる」はYouTubeが51%と半数を超え、もっとも評価されています。また、「感動したり、楽しんだりする」「生活や趣味に関する情報を得る」「退屈しのぎをする」も、YouTubeがもっとも役に立つと評価されていました。

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 16~29歳では、「癒やしやくつろぎを感じる」という目的のときに、YouTubeがテレビを大きく上回って半数以上を占めました。この「癒やしやくつろぎを感じる」について、16~29歳以外のほかの年層がどのように思っているのかをみてみます(図3)。テレビは年層が高くなるほど評価が高く、反対にYouTubeは年層が低いほど評価が高く、対照的な結果となっています。この中間にあたるのが40~50代で、テレビとYouTubeが同程度でした。

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 このように、16~29歳では、テレビよりもYouTubeから癒やしやくつろぎを感じている人が多いですが、具体的にはどのような状況や場面で、どのようなコンテンツを見ているのでしょうか。今回の調査に関連して、2023年3月に30代以下の男女18人を対象に、オンライングループインタビューを行いました。その中での発言をいくつかご紹介します。

「癒やしやくつろぎを感じるうえで」(女性28歳 会社員)
(休日の朝にのんびりと、YouTubeでモデルの動画を見るときは)
「すてきなライフスタイルを送っていて憧れじゃないけど、そういう気持ちになれるのでなんか気分が高まる。それが自分のまったりしたい気分、のんびりしたい気分に合っているのかな。」

(女性29歳 パート・アルバイト)
(休日の朝、ご飯のあと、ソファでTwitter、パソコンでYouTube。YouTubeでは)
「このときは流し作業的な感じで、アーティストのライブ映像を流していたと思う。」


 時間に余裕があるときに、YouTubeで好きな動画を見たり、音楽を聴いたりしながら、のんびりとした時間を過ごしている様子がわかります。

 ここまでみてきたように、全体でみれば、テレビは「世の中の出来事や動きを知る」だけでなく「感動したり、楽しんだりする」「人と共通の話題を得る」など多くの目的や場面で、多くの人にもっとも役に立っていると思われています。一方で、16~29歳で顕著にみられたように、「感動したり、楽しんだりする」「癒やしやくつろぎを感じる」「生活や趣味に関する情報を得る」「退屈しのぎをする」といった場面では、その目的にかなう動画や情報をその場で見ることのできる、YouTubeを役に立っていると思う人が多くみられ、役に立っていると思うメディアが多様化している現状を垣間見ることができました。

 『放送研究と調査』2023年7月号では、今回ご紹介したメディアの効用をはじめ、メディアの利用実態、メディア利用と意識などについて、「全国メディア意識世論調査・2022」の結果をご紹介しています。
コロナ禍以降のメディア利用の変化と、背景にある意識~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~
どうぞ、ご覧ください。

【行木麻衣】
2013年からNHK放送文化研究所で視聴者調査の企画や分析に従事。
これまで、全国個人視聴率調査、幼児視聴率調査、全国メディア意識世論調査などを担当。

調査あれこれ 2023年07月21日 (金)

動画配信サービスに見る 沖縄「慰霊の日」の地域放送番組【研究員の視点】#498

メディア研究部 高橋浩一郎

はじめに
 6月23日は慰霊の日です。この時期には例年沖縄戦を伝える番組が集中して放送されます。今年も全国向け、ローカル含めさまざまな番組が放送されました。本ブログでは、これまで沖縄県以外では見ることができなかった地域放送番組が動画配信サービスによって視聴可能になった現状を受け、NHKプラス、TVer、YouTube、各社ホームページで確認できる沖縄戦関連の地域放送番組を概観し、こういった状況が今後開いていく可能性と課題について考察します。

戦後78年の慰霊の日
 地域放送番組に言及する前に、全国向け番組の全体状況を概観します。今年6月23日の慰霊の日に地上波テレビでどれくらい関連報道がなされたのか、「沖縄戦」をキーワードにメタデータ(PTP社の全録型HDD「SPIDER PRO」による)を収集し報道量を算出しました。各局の報道量を比較すると局ごとに大きな差があることがわかります。
 NHKでは『おはよう日本』『ニュース7』『ニュースウオッチ9』『時論公論』などで、日本テレビでは『news every.』『news zero』などで、テレビ朝日では『大下容子ワイド!スクランブル』『スーパーJチャンネル』『報道ステーション』などで、TBSでは『ひるおび』『Nスタ』『news23』などで、テレビ東京では『ゆうがたサテライト』で、フジテレビでは『Live Newsイット!』などで、慰霊の日のニュースや関連企画を放送しました。

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 なお、6月23日以外に沖縄戦を伝えた番組として、TBS『報道特集』(6月17日/沖縄戦終焉(しゅうえん)の地・糸満市摩文仁に「平和の礎(いしじ)」が作られた経緯などを振り返ることで、戦没者を慰霊することの意味を問いかけた)や、『ETV特集 置き去りにされた子どもたち~沖縄 戦争孤児の戦後~』(6月24日/国や社会の支援がないまま過酷な人生を強いられた戦争孤児たちの戦後を描いた)、『NHKスペシャル 戦い、そして、死んでいく』(6月25日/アメリカ議会図書館に保管されていた海兵隊の音声記録を元に「あらゆる地獄を集めた」と言われる沖縄戦の実相を描いた)などが放送されました。

沖縄ローカル番組の配信状況
 全国向けに放送された「慰霊の日」関連のNHK・民放の番組は上記のとおりですが、これ以外にも沖縄でNHKと民放が県内向けに番組を放送しました。こうした番組は従来、基本的には沖縄県内で視聴できるだけでしたが、動画配信サービスの広がりによって県外でも見られるようになっています。ここでは沖縄の民放3局に関し、6月28日時点でTVer(在京民放キー局、準キー局、準キー局以外の系列局などが制作した番組を一元的に視聴できる動画配信サービス)やYouTube、各社ホームページで視聴できた番組について述べます。

【OTV沖縄テレビ】
 OTV沖縄テレビは6月23日当日、沖縄全戦没者追悼式の模様をオンライン中継し、その前後に過去に放送されたドキュメンタリー『むかし むかし この島で』(2005)やニュースで過去に放送された企画などを挟み、およそ2時間半にわたってYouTubeで生配信しました。
 『むかし むかし この島で』は『サンマデモクラシー』(2021)などのドキュメンタリー映画の監督でもある山里孫存さんが2005年に手がけた番組です。沖縄戦の記録フィルムの検証を続ける作家・上原正稔さんの活動に共感した山里さんは、1年半にわたって県内各地で上映会を開き、当時のフィルムに映っている人と場所を特定していきます。アーカイブ映像を戦争の悲惨さを伝える手段としてではなく、それぞれかけがえのない誰かの物語が刻まれた記録として丁寧に読み解き、視聴者と同じように当たり前に暮らしていた人たちが体験した沖縄戦を描き出しています。20年近く前の番組ですが、慰霊の日の数日前からYouTubeで公開され7月20日現在で14万回以上視聴されています。1)

mukashi_2_W_edited.jpgYouTubeより

【RBC琉球放送】
 RBC琉球放送もOTV同様追悼式を中継で配信したほか、6月21日に県内で放送された特別番組『池上彰も知らない慰霊の日のこと』をTVerで配信しました。(あわせて昨年放送された『池上彰と復帰50年を総決算スペシャル』も配信。ともに配信終了)ジャーナリストの池上彰さんとRBCの仲村美涼アナウンサーが司会を務め、4人のゲストをスタジオに招き、VTRを交えながら進行するという構成で、サムネイル画像を見る限りではバラエティー番組のように見えます。しかし実際に見てみると、辺野古の新基地建設や南西諸島の自衛隊配備など、沖縄戦が過去の出来事ではなくさまざまな形で現在につながっていることを伝える報道番組でした。
 その中で、池上さんが自衛隊の駐屯地が開設された石垣島を取材したVTRを受け、ゲストの新城和博さん(沖縄の出版社ボーダーインク編集者)は次のようにコメントしました。「70年前の戦争を考えると、防衛ラインを引くっていうのは、その防衛ラインを守るのではなくて、その背後を守ろうとしているんですね。その背後って何だろうか。少なくとも我々はそういうところの犠牲になりたくないですね」。もし自分が沖縄に暮らし、身近に沖縄戦の体験者がいたら、このように感じるのは当然ではないでしょうか。RBCの担当者によると、全国的に知名度のある池上さんを司会として起用しているのは、沖縄県内向け放送としてだけではなく、動画配信によって多くの本土の人に見てもらいたいという意図が込められているということです。2)

ikegami_3_W_edited.jpgTVerより

【QAB琉球朝日放送】
 QAB琉球朝日放送は6月23日に、平日夕方に放送している地域向けニュース情報番組『キャッチ―』内で「慰霊の日特別編」として30分番組を放送、その後動画を番組HPで公開しました。『キャッチ―』は通常、16時台の第1部(情報番組)、18時台の第2部(ニュース)に分かれており、出演者もそれぞれ異なります。今回の特別番組では、第1部MCのタレント・東江万那美さんとお笑い芸人・金城晋也さんが番組第2部の司会の中村守アナウンサーと一緒に沖縄戦について考えるという内容で、ニュース番組だけではなく、普段の暮らしの中で自分に引き寄せてほしいというねらいが感じられました。
 中でも印象的だったのは、若い世代の演劇人が戦争体験を語り継ぐ創作劇に取り組む姿を取材した企画でした。11歳の時に日本兵によってスパイ容疑をかけられ殺されそうになったという、宜野湾市の大城勇一さんの実体験を元に、劇団O.Z.Eの永田健作さんは『平和劇』というタイトルの作品を作り上げます。6月に行われた公演には体験者である大城さんも立ち会いましたが、公演後、大城さんは劇団員たちの苦労をねぎらったうえで、自分が体験した苦しみや悲しみには到底及ばず「がっかりした」と率直に伝えました。大城さんの厳しい言葉に永田さんたちはぼう然としながらも、直接言葉をもらえたことを「これからの活動にプラスになる」と前向きにとらえ、大城さんも「次はもっといい劇を作ってほしい」と激励しました。
 実際にその場にいた人にしかわからない体験を、当事者以外の他者が想像し表現することには限界があります。一方わからないから何もしないのではなく、わからないからこそわかろうと努力しなくてはならないこともあります。沖縄戦から学ぶとはどういうことなのか、その大切さと難しさが予定調和でない形で伝わる企画でした。3)

qab_4_W_edited.jpgQAB番組ホームページより

NHKプラスに見る各地の番組
 NHKプラス(NHK総合・Eテレの常時同時配信・見逃し番組配信サービス)ではこれまで各県域でしか見ることができなかった数多くの地域放送番組が視聴可能になっています。まず沖縄では慰霊の日当日の番組として、平日夕方に放送されるニュース番組『おきなわHOTeye』(県内各地の追悼の様子や記憶の継承をテーマとした特集企画を伝えた)や、ドキュメンタリー『流転~沖縄 引き裂かれた集落~』(九州沖縄管内/米軍の土地接収によりブラジル移住を強いられた宜野湾市の伊佐浜住民の人生を描いた)、『ザ・ライフ 平和のバトン託し続けて~元学徒・中山きくさんの生涯~』(九州沖縄管内/後述)などを見ることができました。(いずれも配信終了)
 沖縄以外では、北海道『ほっとニュース北海道』、名古屋『まるっと!』、広島『お好みワイドひろしま』、宮崎『てげビビ!』、鹿児島『情報WAVEかごしま』などのニュース情報番組で沖縄戦や慰霊の日に関連する企画が確認できました。中でも広島放送局の『お好みワイドひろしま』は、原爆ドーム近くで沖縄戦の犠牲者を追悼する様子を中継したり、平和の礎に新たに広島県出身者296人の名前が刻まれたニュースなどを伝えたりしたほか、「沖縄戦 平和のバトン」という企画を放送しました。被爆と地上戦という違いはありますが、同じように多くの犠牲者を出した広島と沖縄のつながりを感じさせました。
 企画の「沖縄戦 平和のバトン」は九州沖縄管内で同日放送された先述の『ザ・ライフ “平和のバトン”託し続けて~元学徒・中山きくさんの生涯~』の素材を広島局で独自に編集したものです。沖縄局のクルーが番組の取材に訪れることを知り、広島に特化した形のニュース企画として編集したそうです。ここでは広島局の企画の元になった『ザ・ライフ』について説明します。この番組は今年1月に94歳でなくなった沖縄戦の語り部の中山きくさんの生涯を、甥(おい)でタレントの津波信一さん(沖縄局の地域放送番組『きんくる』MC)がたどるという内容です。中山さんは元白梅学徒隊の一人で、苛烈な地上戦の体験を全国から訪れる若い世代に語り続けましたが、戦後長らく自らの体験を話そうとはしなかったといいます。中山さんがどうして年に数十回に及ぶ講話をするようになったのか。そのきっかけは夫の転勤で広島に引っ越し、そこで被爆者たちの活動を目にしたことにありました。「自分たちが経験した悲惨な思いを繰り返させない」という広島の被爆者たちの思いは、沖縄戦の当事者である中山さんを突き動かします。「思っているだけでは平和は来ない。何か行動をすることが大切ではないか」中山さんが語り部になったきっかけを知った津波さんも、濃淡はあれやはり当事者の一人であることを改めて意識します。そして番組を見た視聴者も間接的ではありますが、バトンを託された者として無関係ではないと感じさせる番組です。4)

nhkplus_5_W_edited.jpg『ザ・ライフ“平和のバトン”託し続けて~元学徒・中山きくさんの生涯~』番組ホームページより

地域放送番組が地域外で見られること
 ここまで動画配信サービスを通じて、沖縄戦や慰霊の日を伝えた沖縄の民放とNHKの各地域のローカル番組を見てきました。沖縄の民放局の取り組みでは、デイリー番組の出演者が自分のこととして沖縄戦を考える企画や、著名人に出演してもらい広く関心を喚起しようとする番組、アーカイブ番組の活用など、多様なアプローチがありました。またNHKプラスでは、沖縄以外の地域で作られた関連企画を通して、全国向け放送からはわからない地域間のつながりを確認することができました。
 NHK放送文化研究所が2022年に行った「復帰50年の沖縄に関する意識調査」の結果によると、6月23日が「慰霊の日」であることを知っている割合は、沖縄が92%なのに対し、全国は27%にとどまるなど、沖縄戦に対する認識には沖縄と本土の間で差があります。これまで沖縄県内にとどまっていた地域放送番組が動画配信によって県外でも視聴可能になる状況は、沖縄戦とその結果としてもたらされた基地問題について、本土の人々の理解を深めることにつながります。実際にどのくらい見られているか俯瞰的に判断できる材料はありませんが、YouTubeで公開された『むかし むかし この島で』が14万を超える視聴回数を記録しているように、全国放送されなくても動画配信によって少なくない人に見てもらえる可能性があります。また、今回はNHKプラスでしか確認ができませんでしたが、沖縄以外の地域で関連企画が放送されていることを相互に参照できるようになれば、広島と沖縄の例のように、今後地域どうしのさまざまな連携が生まれることも期待できます。
 一方で、TVerにしてもNHKプラスにしても、視聴できる期間も番組も限定されており、すべての番組が見たいときに見られるわけではありません。特にTVerで視聴可能な地域放送番組は数としては増加しているものの、バラエティー番組やドラマが多く、単発のドキュメンタリー番組や報道番組はほとんどありません。確実により多くの人に届けるには各放送局は単独ではなく、複数のプラットフォームの活用を視野に入れるなどさまざまな取り組みが求められます。
 今後、沖縄と本土の意識の差を埋めるどのような試みがなされるのか、地域放送番組の動画配信サービスの動向を注視していきたいと思います。


1) https://www.youtube.com/watch?v=l0-oq8BUd8M
 https://www.fujitv.co.jp/b_hp/fnsaward/14th/05-330.html

2) https://www.rbc.co.jp/tv/tv_program/ikegami_ireinohi/

3) https://www.qab.co.jp/movie/movie/catchy230623

4) https://www.nhk.jp/p/ts/9RZY9ZG1Q1/episode/te/Q8RG52VY92/

メディアの動き 2023年07月15日 (土)

【メディアの動き】NHK放送文化研究所で世論調査対象者1,200人の個人情報紛失

 NHK放送文化研究所(文研)は6月2日,2022年11月に実施した世論調査「ISSP『家庭と男女の役割』に関する国際比較調査」の対象者1,200人分の個人情報が記載された資料を紛失したと公表した。

 紛失したのは,住民基本台帳法に基づいて自治体の台帳から閲覧・抽出し,2023年1月,委託先の調査会社から提出を受けた調査対象者の「氏名」「住所」「生まれた年」「性別」が書かれた資料100枚。

 1枚に12人分の情報が記載されていた。

 資料は研究所内の施錠された棚で保管されていたが,原則半年間の保管期限を前に廃棄のために確認した際,紛失に気づいた。

 居室内を繰り返し探したが見つからず,総務省などに報告するとともに,対象者にお詫びと経緯等を説明する書面を発送した。

 紛失した資料が流出,または悪用された事実は確認されていない。

 文研では,世論調査に関する個人情報の内部ルールを設け,保管場所から資料を取り出す際には名前や資料名などを台帳に記録することにしていたが,徹底されていなかった。

 NHKは「調査へのご協力をお願いした皆様や自治体の方々に大変ご迷惑をおかけし,深くお詫び申し上げます。(略)管理体制を強化し,二度とこのような事態を起こさないよう,対策を徹底してまいります」とコメントしたが,法律で住民基本台帳を利用できる特別な配慮を与えられていたにもかかわらず,個人情報の管理が甘かったことは痛恨の極みであり,筆者も含め,組織全体で文字どおり管理体制の抜本的な改革に取り組んでいかなければならないと考える。

メディアの動き 2023年07月15日 (土)

【メディアの動き】「5月は地震多かった」気象庁データ発表,メディアも詳細分析

 5月は「地震が多かった」と感じた方もたくさんいたのではないだろうか。

 6月8日に気象庁が発表した「5月の地震活動」のデータからもその多さが裏づけられた。

 それによると,▼5日午後2時42分に能登半島沖で発生したマグニチュード(以下,M)6.5の地震で最大震度6強を観測。

 その約7時間後には,この地震の震源付近でM5.9の地震が起きて震度5強を観測した。

 ▼11日には千葉県南部の地震(M5.2)で震度5強,▼13日には鹿児島県のトカラ列島近海の地震(M5.1)で震度5弱,▼22日には伊豆諸島の新島・神津島近海の地震(M5.3)で震度5弱,▼26日には千葉県東方沖の地震(M6.2)で震度5弱を観測した。

 これらを含め,震度4以上を観測した地震はあわせて17回に達した。

 各メディアは解説記事などを掲載。

 このうちNHKは気象庁のデータベースを使って調べた結果,「震度4以上が17回」は,▼熊本地震が発生した2016年4月,▼北海道胆振(いぶり)東部地震が発生した2018年9月に次いで,この10年で3番目に多くなったと報じた。

 専門家は「科学的にもあまりみられない“まれな現象”が起きていたといえる」などとしたうえで,いずれの地震も予測されている巨大地震の想定震源域から遠く離れていることなどから,「南海トラフ巨大地震や首都直下地震に直接関係するものではない」とみている。

 5月の地震をめぐっては,ネット上でも不安の声が広がった。

 「何が起きているのか」を視聴者や読者に丁寧に説明し,地震への備えを考える機会につなげることが,メディアの重要な役割であることを改めて認識させた現象だったといえるだろう。

メディアの動き 2023年07月14日 (金)

【メディアの動き】総務省で放送業界によるプラットフォームの在り方に関する検討始まる

 6月19日,総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」に「放送業界に係るプラットフォームの在り方に関するタスクフォース(TF)」が立ち上がった。

 議論の主軸として想定されているのは,NHKによる「日本の放送業界への貢献」である。

 2022年6月の放送法改正ではNHKの民放への協力努力義務,2023年5月の改正ではNHKと民放で中継局の共同利用を可能とする規定がそれぞれ追加されたことが背景にある。

 提示された論点は,①在り方検で議論が進む「地上波放送の中継局」共同利用の加速化,②NHKの「衛星放送の番組制作」への外部制作者に対する機会提供,③ローカル局の番組も含めた「インターネット配信」の推進におけるNHK・民放の役割,④現状は2社が維持・管理・運用を行う「衛星放送」のハード設備の将来像,⑤放送業界あげての「国際発信」推進,の5点。

 初回ならびに6月29日の2回目に議論が集中したのは③であった。

 構成員からは,NHK,民放,ローカル局の番組がネット上で一覧性を持って選択・視聴できるプラットフォームが用意されることが望ましいとの声が相次いだ。

 それに対して民放連からは,ネットサービスは個別企業の経営判断であり,放送法という共通の基盤とは異なり,新たな共通基盤という考え方は難しいという見解が示された。

 TFは7月中にあと2回,計4回の議論を行ったうえでとりまとめる急ピッチの予定が示されている。

 NHKには自らの責任,役割範囲を示すことが期待されている。