NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男
週明けの11月13日。神田憲次財務副大臣が就任から2か月足らずで辞任しました。事実上の更迭です。神田衆議院議員は、もともと税理士でもありますが、地元である名古屋の市税事務所から税金の滞納で4回にわたって差し押さえを受けていたことが9日に発覚していました。
しかし税に関して重い責任を持つ財務副大臣でありながら直ちに職を辞することをせず、野党側はこぞって「辞任は当然」と攻め立てました。そして週末をまたいで遅きに失した辞任となったわけですが、山田太郎文部科学政務官、柿沢未途法務副大臣に続いて、9月の内閣改造後、不祥事が明らかになって辞任した3人目の政務三役となりました。
この財務副大臣の進退問題が議論の的になっていた11月10日(金)から12日(日)にかけてNHKの月例電話世論調査が行われました。国民の不興を買っていた問題が岸田内閣を直撃しました。
☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。
支持する |
29%(対前月ー7ポイント) |
支持しない |
52%(対前月+8ポイント) |
おととし10月に岸田内閣が発足して以来、初めて30%を割り込みました。支持する29%、支持しない52%という数字は、おととし8月調査=菅内閣末期の数字と全く同じです。永田町・霞が関に激震が走りました。
思い返せば、当時、菅義偉総理は衆議院議員の任期満了を前に、自民党総裁選挙で再選を果たして政権継続を目指す腹積もりでした。しかし、支持率の低迷で自民党内から「菅では選挙を戦えない」の大合唱が起き、総裁選への立候補を断念したいきさつがあります。
上記の内閣支持率を与党支持者、野党支持者、無党派の別に見てみると、「支持する」は与党支持者で53%、野党支持者で12%、無党派でも12%となっています。
野党支持者、無党派の支持率の低さもさることながら、与党支持者(自民党支持者が9割以上)の支持率も5割程度ですから足元がおぼつかない状態です。
ちなみに岸田内閣の支持率が発足以来最も高かった去年7月調査の59%の時には、与党支持者の支持率は今回調査より30ポイント以上高い86%に上っていました。今は与党支持者の岸田離れが顕著になっています。
内閣改造が浮揚力を生まず、逆に政務三役の辞任続きが低迷の最大要因かというと、それ以上にもっと大きな問題が横たわっているようです。
☆政府は物価高に対応するため、所得税などを1人あたり4万円減税し、住民税が非課税の世帯には7万円給付する方針です。これを評価しますか。評価しませんか。
この回答についても与党支持者、野党支持者、無党派の別に見てみると、「評価する」は与党支持者で50%、野党支持者で20%、無党派で29%となっています。
内閣を支える立場の与党支持者でも半数しか評価していないという結果で、減税と給付を柱に据えた経済対策が広く国民の心に届いたとはいえないでしょう。ではなぜ国民の心に届かないのでしょうか?
☆岸田総理大臣は、今回の減税と、防衛費の財源確保に向けた将来的な増税は「矛盾するものではない」と説明しています。これに納得できますか。納得できませんか。
納得できないが7割近くに上っています。与党支持者でも57%が「納得できない」と答えています。1回だけの減税と給付を掲げる一方で、去年の暮れに閣議で決めた「5年後の防衛費を対GDP2%水準にまで増やす計画」を実現するためには増税も必要としていることを国民はよく知っています。
国民の中に「先に減税を掲げ、時間がたってから後で増税するつもりだろう」という、さいぎ心に満ちた受け止めが広がっていることに、岸田総理とその周辺がどこまで気づいているのでしょう。
岸田総理と周辺は「政権の継続のためには国民の評価が得られる減税を先に進め、国民に我慢をお願いする増税は先送りするのが得策」と判断している様子が見え隠れします。しかし、そう判断するのであるならば財政健全化に欠かせない「増減税一体」の原則の下に、増税の時期と規模を明確にすべきです。さらには社会保障制度の維持のために必要な国民負担の増加の時期と規模についても明らかにするのが誠実な姿勢でしょう。
こうした先々を見通すことが可能な発信がないために、減税や給付という話に対し、与党支持者も含めて「場当たり的な延命策にしか見えない」というシニカルな受け止めが広がっていると言わざるをえません。このあたりに岸田総理の思い違いの核がありそうです。
ついでに言えば、3年前の安倍内閣当時、新型コロナ禍に向き合う緊急事態宣言を全国に広げるために国民1人あたり10万円を給付したのと比べ、1人あたり4万円の減税というのはどう映るか。物価高が続く中でありがたみが薄いと感じる人が決して少なくないという面もあります。
岸田総理は来年9月に予定されている自民党総裁選挙で再選を果たし、長期政権を目指したいという気持ちに変わりはないようです。そのためには、遅くとも来年夏までの間に衆議院の解散・総選挙に踏み切り、最低でも現在の単独過半数の議席を維持する必要があります。
しかしながらここまで見てきたように、岸田内閣を取り巻く環境には厳しいものがあります。とりわけ与党支持者の岸田離れは深刻で、これを受けて自民党内から「解散はさせない。首のすげ替えが必要だ」といったうねりが表面化しないとも限りません。
「政界、一寸先は闇」と言います。当面は岸田総理が局面の打開のためにどういう一手を打つことができるのかに注目です。ただ、国際情勢が混とんとしているのと同様に、国内情勢も先月末に衆議院議員の4年間の任期を折り返した後、さまざまな選択肢が渦巻き始めているように感じます。
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島田敏男 1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。 小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。 2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。 2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。
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