パーティー券裏金問題 改革論議は進むのか? ~対応遅れの岸田自民党~【研究員の視点】#526
NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男
通常国会が召集されて2週間余りの2月10日(土)から12日(月・祝)にかけてNHKの月例電話世論調査が行われました。自民党内の安倍派、二階派、岸田派の議員や関係者が政治資金規正法違反の罪で起訴されてから初めての調査でした。
☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。
支持する | 25%(対前月-1ポイント) | |
支持しない | 58%(対前月+2ポイント) |
昨年後半から下降傾向が続いていた内閣支持率は、年明けに下げ止まった形でしたが、今月も上昇には転じることがなく低水準での横ばいが続いています。逆に不支持率は2か月前の12月と並び、岸田内閣が発足してから最も高くなっています。
このNHK世論調査の結果が出た13日に、自民党は党所属の国会議員らを対象にしたアンケート調査の結果を公表しました。過去5年間にパーティー券収入を政治資金収支報告書に記載しなかったり、不正確な記載だったりした現職議員が82人に上るという内容でした。
自民党の調査票
しかし、不記載のカネを何に使ったかや、本人からの申告に対してどこまで詳しく調査を行ったのかも分かりませんでした。野党側からは「単に調査をやっただけで、問題のあった議員が後になって明らかになるのではないか」といった指摘が相次ぎました。
今の通常国会では、元日に能登半島地震という大規模な震災が発生し、与野党双方ともに予算審議と裏金問題を切り離していくのが得策だという認識で一致しています。政治とカネの問題を厳しく追及するとしている野党各党も、災害復旧経費などを含む予算の成立を遅らせては国民の理解は得られないと判断しました。このため政治とカネの問題に関しては、岸田自民党が、自ら積極的に対応するかが焦点になっています。
☆あなたは自民党の派閥の政治資金パーティーの問題に対する岸田総理大臣の対応を評価しますか。評価しませんか。
評価する | 23% | |
評価しない | 69% |
岸田総理は自らが率いていた岸田派の解散を打ち出し、安倍派や二階派などの解散を促すのは早かったのですが、パーティー券裏金問題の事実関係を究明する調査が遅れたことなどに、国民が厳しい視線を向けていることが分かります。
政治とカネを巡る問題の再発防止に向けて与野党で新しいルールを議論するためには、裏金とされるカネを何に使ったのか、どうして報告書に記載しないという扱いが生まれたのかといった点を明らかにする必要があります。
野党側は予算審議とは切り離し、衆参両院に設置されている政治倫理審査会で、問題が明らかになった議員や旧安倍派などの派閥幹部に詳しい説明を求める方針です。そして、ここで説明ができないならば、予算委員会での参考人招致や証人喚問などを求めていく構えです。
その上で野党側や与党の公明党はルールの見直しの中身について、政治資金収支報告書に問題があった場合には、従来のように政治団体の会計責任者だけでなく、議員本人の責任も問うべきなのは当然だと主張しています。
☆あなたは政治資金規正法に違反する会計処理があった場合、会計責任者だけでなく、議員も責任を負う「連座制」を導入すべきだと思いますか。導入する必要はないと思いますか。
導入すべきだ | 82% | |
導入する必要はない | 9% |
これを与党支持者、野党支持者、無党派の別に見ても、与党支持者と無党派では8割強、野党支持者では9割強が導入すべきだと答えています。自民党支持者が大部分を占める与党支持者でも、政治とカネを巡る事件の再発を防ぐためには甘い顔はできないという考えが広がっています。
首相官邸
こういう状況の中で、岸田総理と周辺はどういう展望を描いているのかが気になるところです。内閣支持率は低迷していますが、自民党内では「岸田降ろし」の目立った動きはなく、自民党全体が様子見の状態になっています。
ある政権幹部は、今年9月の自民党総裁選で真正面から挑んでくる対抗軸が一つに定まってこなければ、岸田総理は続投を断念する判断には至らないだろうと見ています。
岸田総理と周辺は、令和6年度予算の年度内成立を前提にした比較的楽観的な見立てを消し去っていません。先に触れたように、野党側も予算を人質に取る戦術は取りにくいという事情があります。それと並行する春先の労使交渉での大幅賃上げ、6月の定額減税(国民1人当たり4万円)の実施と続けば国民の視線も和らいでくる・・・かなりの期待が込められていますが、岸田総理の心の安定につながる見立てではあります。
ただ仮にそういう展望が描けたとしても、東京地検が現職議員3人の立件で捜査を終結させたことに不満を持つ国民は多く、一般市民が構成する検察審査会が立件されなかった議員について起訴すべきという起訴相当の議決を行う可能性は十分にあります。そしてその先には、過去にも例がある強制起訴に進むことも否定できません。国民の視線が厳しくなるのは避けられないでしょう。
こう見てきますと、当面の政治状況は視界不良が続きそうです。政治とカネを巡る問題を乗り越えるには新しいルールが必要で、それを自民党だけで作ろうとしても国民は納得しません。与党の公明党や野党側の意見を取り入れた抜本的な議論が必要です。
リクルート事件などに端を発した平成の政治改革の足らざる部分が今回の事件を生んだ面があります。令和の政治改革で、その足らざる部分を全面的にカバーすることができるのか。国民が求めているのは、情報化時代にふさわしい、可視化を前提とした政治とカネのルール作りに他なりません。
島田敏男 |