【メディアの動き】イスラエル・ハマス軍事衝突,困難な中で報道続く,課題も浮き彫りに
中東パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスは10月7日,イスラエルへの大規模な攻撃を行い,これに対する報復としてイスラエル軍は,ガザ地区への水や食料,燃料の供給を断ったうえで,陸空から大規模な軍事行動に踏み切った。10月31日までに,イスラエル側で少なくとも1,400人が死亡,パレスチナでは3,500人を超える子どもを含む8,525人が死亡した。ジャーナリストの死者も増える中,公平性など報道の課題も議論になっている。
ニューヨークに本部を置くCPJ(ジャーナリスト保護委員会)によると,10月31日までにジャーナリスト31人が死亡した。このうちイスラエル人が4人,パレスチナ人が26人,レバノン人が1人となっている。また8人がけがをし,9人が行方不明となっている。
イスラエルに封鎖され,往来が厳しく制限されてきたガザでは,以前から日々の取材の多くをパレスチナ人のジャーナリストが担ってきた。NHKガザ事務所でもプロデューサーのムハンマド・シェハダとカメラマンのサラーム・アブタホンが家族の避難場所を探したり,食料を求めたりしながら,現地の状況を取材し続けている。ロイター通信は10月27日,イスラエル軍がハマスは意図的にジャーナリストや市民の周辺で軍事行動を展開しているとし,こうした中でジャーナリストの安全を保証することはできないとの警告文を同社に送ってきたと伝えた。
CPJは,死亡した1人1人の履歴を紹介しながら,「ジャーナリストは紛争を報じるという大切な仕事をしている一般市民であり,紛争当事者から攻撃の対象になってはならない」と,増え続ける犠牲に懸念を示している。
イスラエル,ハマス双方が情報戦を繰り広げる中,正確性や公平性についての議論も起きている。10月17日,ガザの住民が避難先として身を寄せていた病院で,数百人が死亡した爆発では,発生直後,イギリスの公共放送BBCやNew York Timesなど複数のメディアが,イスラエルによる攻撃を示唆した。アメリカ政府などがガザから発射されたミサイルの可能性を示すと,各メディアはハマスの情報に頼り十分な検証をしなかったなどと認め修正した。各社とも現場の映像などをもとに検証を続けているが,最終的な事実の確定には至っていない。
また,アメリカのAP通信やBBCは,編集ガイドラインの中で,政治的な意味合いを持つ「テロリスト」という言葉は,発言を引用する場合を除いて使用せず,「武装勢力」と形容していたが,イギリスでは閣僚などから批判が相次いだ。一方,ハマスの攻撃だけを「大量虐殺」と形容し,イスラエル軍による市民の犠牲とのバランスを欠くなどの不満も出て,BBCの正面玄関に赤いペンキが投げられる事件も起きた。
ソーシャルメディアでも,過去の映像やAIで合成した画像を使った偽情報が拡散された。また多くの国でテロ組織に指定されているハマス関連のコンテンツが投稿されていることも問題視された。2023年8月,大手プラットフォームに偽情報やヘイトスピーチを監視し,削除する責任を課すデジタルサービス法が発効したEU(ヨーロッパ連合)は,10月10日から13日にかけX(旧Twitter),Meta,TikTok,YouTubeに違法コンテンツの削除など対策をとるよう警告文を送った。MetaもXも,対応をとったと説明したが,その後も誤情報,偽情報の拡散は続いている。