文研ブログ

放送ヒストリー 2020年09月18日 (金)

#272 電車の中で考えたこと

メディア研究部(メディア史研究) 大森淳郎


 1年ほど前のことです。電車の中で下校途中の高校生の一団が北朝鮮のアナウンサーのものまねをしてふざけていました。中々上手で、思わずニヤッとしてしまいました。でも、高校生たちが笑いながら電車から降りていった後、ちょっと嫌な後味が残りました、彼らの笑いの中に、批判とは別の、なにか人をばかにしたような侮蔑のニュアンスを感じたからです。
しかし、まあ仕方がないのかもしれません。あのアナウンサーの女性(リ・チュニさん)の朗々たるニュースの読み方は、私たちにはどうしても滑稽なものに聞こえてしまいます。
 さて、シリーズ「戦争とラジオ」第6回「国策の「宣伝者」として~アナウンサーたちの戦争~」では、戦時ラジオ放送におけるアナウンス理論の問題に焦点を当てています。北朝鮮には「放送員話術」というアナウンサーの理論書があるそうです。リ・チュニさんのアナウンスも、そこに書かれた理論に基づくものです。北朝鮮の体制を維持するためにはどんなアナウンスが相応しいのか、きっと真剣な議論があるのでしょう。日本でも同じでした。日中戦争から太平洋戦争にかけて、日本放送協会のアナウンサーたちは、どうすれば戦争協力に寄与できるのか、侃々諤々の議論を重ねていました。
 ニュースの内容ではなく、その読み方によって国民を戦争に動員する。それはどんな挑戦だったのでしょうか。詳しくは拙稿をお読み下さい。


調査あれこれ 2020年09月11日 (金)

#271 外国人の増加に賛成?反対?世論調査から見えてきた本音

世論調査部(社会調査) 岡田真理紗


皆さんは、日常生活で、外国人と接する機会がどのくらいありますか?
新型コロナウイルスの影響で、外国人観光客は大幅に減少していますが、コンビニエンスストアやファストフード店などでは外国人が接客する姿がよく見られます。職場にさまざまな国籍の同僚がいる、という人もいるでしょうし、留学生と一緒に学んでいる学生もいると思います。
NHK放送文化研究所では、外国人労働者の受け入れを拡大する「改正出入国管理法」が施行されて今年4月1日で1年になるのを前に、3月中旬に「外国人との共生社会に関する世論調査」を実施しました。
日常生活で、外国人と接する機会については、次の様な結果が出ました。

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 普段の生活の中で外国人と接する機会が『ある』という人は38%。接する機会が『ない』という人は59%で、全体では、外国人と接する機会が『ない』という人のほうが多くなっています。
 しかし、年層別にみると、50代までは、50%前後の人が外国人と接する機会が『ある』と答えています。現役世代では、およそ半数の人が、外国人と日常的に接していると答えているんです。

 それでは、日本で働く外国人が増えることについては、どう思っているのか。結果は、このようになりました。

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 全体では、70%と多くの人が『賛成』していて、『反対』は24%にとどまっています。年層別でも、『賛成』は60代までは70%を超え、70歳以上でも58%と、すべての年層で半数を超えています。外国人労働者が増えることを容認する人が多いことが、今回の調査から分かりました。

 ただ、そうした外国人が、自分の家の近くに住むとなるとどうでしょうか。

自分の住む地域に外国人の住民が増えることへの賛否を尋ねた結果です。

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 全体では、『賛成』は57%と半数を超えていますが、日本で働く外国人が増えることに『賛成』の人が70%だったのに比べると、賛成の割合が減っています。
 これを、日本で働く外国人が増えることへの賛否別でみてみると、外国人労働者の増加に『反対』の人では、86%の人が、自分の住む地域に外国人が増えることにも反対しています。また、外国人労働者の増加に『賛成』の人でも、21%、およそ5人に1人は『反対』と答えていて、外国人労働者が増えることに賛同しながらも、身近には住んでほしくないと思っている人が、少なからずいることがわかります。

 調査では、外国人の増加に対する不安や期待、外国人が地域社会に溶け込めるようにするために国や自治体が取り組むべきこと、などについても尋ね、人々の意識を詳しく分析しています。調査の結果は、『放送研究と調査』8月号に掲載していますので、ぜひご一読ください。


メディアの動き 2020年09月10日 (木)

#270 『テラスハウス』ショック ~リアリティーショーの現在地① 木村花さんの死から3か月が過ぎて~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


 5月23日、フジテレビ系で放送していたリアリティーショー『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020(以下、『テラスハウス』)に出演中だった22歳の女性プロレスラー、木村花さんが亡くなりました。花さんはSNS上で番組の内容を発端とする誹謗中傷を受けており、それを苦に自ら命を絶ったとみられています。その花さんの死から3か月が過ぎた8月26日、ABEMAが制作する恋愛リアリティーショー『いきなりマリッジ シーズン4』に出演していた23歳の濱崎麻莉亜さんが自ら命を絶ったことがわかりました。麻莉亜さんはAmazonプライムのリアリティーショー『バチェラー・ジャパン シーズン3』にも出演していました。現時点で、彼女の死が番組と関係があるのかについて詳細はわかっていませんが、2件続いたリアリティーショーの出演者の死という事実について、社会は重く受け止めなければならないと思います。
 このような問題が繰り返されないためには、何を考え、どのような取り組みを行っていかなければならないのでしょうか。私は以前から、リアリティーショーの持つ光(発展)と影(課題)に関心を持っていたにもかかわらず、特に“影”の部分についてこれまで考察を行ったり問題提起をしたりしてこなかったことに忸怩たる思いを抱いています。出演者が自ら命を絶つという痛ましい事例は、すでに欧米では繰り返し発生し問題となっていました。にもかかわらず教訓が生かしきれなかったのだとしたら……悔やんでも悔やみきれません。
 同時に、こうした痛ましい問題を眼前にすると、議論はどうしても、リアリティーショーは今後一切制作すべきではない、とか、SNS上の言論の規制を強化すべきだ、といった“極論”に流れがちです。しかしこうした時にこそ、複雑に絡み合う問題の背景を冷静かつ丁寧に検証することで、実効性のある対応策を導き出したり、メディアが抱える本質的な問題に粘り強く迫ったりする機会にすべきだと考えています。
 このテーマについて、私は今後、腰を据えて考えていきたいと思い、まもなく発行される「放送研究と調査」10月号からシリーズで連載していきます。本ブログでは2回にわたり、その内容の一部をお伝えしたいと思います。

*リアリティーショーの歴史をひも解く
 10月号では、リアリティーショーの誕生から今日に至る歴史を、欧米と日本を比較しながらひも解いてみました。
 リアリティーショーは「リアリティー番組」「リアリティーテレビ」などとも呼ばれますが、明確な定義はなく捉え方もさまざまです。ただ、そのように呼ばれる番組群の特徴を見てみると、「制作者が設けたシチュエーションに、一般人や売り出し中のタレントなどを出演させ、そこに彼らの感情や行動の変化をひき起こす何らかの仕掛けを用意し、その様子を観察する」というのがおおよその共通項と言えるのではないかと思います。『テラスハウス』でも、番組冒頭で毎回、タレントのYOUさんが「この番組は、男女6人がひとつ屋根の下で生活をします。番組が用意したのは、すてきなおうちと、すてきな車だけです。台本は一切ございません」という定番セリフを言っていますね。フィクションとノンフィクションの境界のあいまいさが、ドラマでもドキュメンタリーでもないこのリアリティーショーの最大の特徴であるといえましょう。

<光と影の20年>
 こうした特徴の番組群がポピュラーになったのは、いまから約20年前、2000年前後です。ヨーロッパで生まれ、アメリカに渡ったリアリティーショーは、瞬く間に全世界に広がりました。そして当初から、各国において特に若い層を中心に爆発的な人気を博し、軒並み高視聴率を叩き出す、放送局にとっては“ドル箱コンテンツ”となります。その反面、視聴者が出演者の様子を“のぞき見”るという倫理的な特質や、出演者に葛藤を与える仕掛けをするという“社会実験”的な側面、出演者の心を“虚実皮膜”の状態に長時間置くストレスの課題が絶えず指摘され、批判もされてきました。番組で演じる“リアル”と自分の人格の“リアル”とのギャップを埋められず、放送中、あるいは放送が終わってからも、アイデンティティの崩壊を食い止められない出演者も少なくなく、それは出演者が自ら命を絶つという最も痛ましい形で表出していくことになります。
 当時の記事やリポートからは、リアリティーショーに対して各国の視聴者が熱狂し、放送局が興奮し、社会が大きく困惑する様子をうかがうことができます。まさにリアリティーショーの歴史とは、“光と影”が表裏一体となって織りなしてきた歴史といってもいいでしょう。

<日本の系譜>
 しかし日本では当初、リアリティーショーを巡る熱狂も困惑も無縁といっていい状況でした。2001年には欧米の番組が購入・放送されたり、その日本版も制作されたりしたのですが、大きなインパクトはなく、むしろ視聴者からは敬遠される方向にありました。他方で、1990~2000年代の日本では、日本テレビ系の『進め!電波少年』やフジテレビ系の『恋愛観察バラエティー あいのり』などのバラエティー番組が人気を博していました。2つの番組とも、リアリティーショーの特徴とも共通する、「制作者が設けたシチュエーションに、一般人や売り出し中のタレントなどを出演させ、そこに彼らの感情や行動の変化をひき起こす何らかの仕掛けを用意し、その様子を観察する」内容だったのですが、何が異なっていたのでしょうか。『電波少年シリーズ』のプロデューサーだった土屋敏男さんは自身のブログで、こうした番組群はバラエティー番組の中から誕生しており、それは「ドキュメントバラエティ」というジャンルであること、「アンチクライマックス性、アンチドラマ性」が日本の特徴であり、ドラマティックに作り上げる欧米のリアリティーショーとは異なる系譜を持つものであると述べています1)
 そんな中、2012年に『テラスハウス』が誕生します。企画を提案したフジテレビの太田大プロデューサーは、雑誌のインタビューにおいて、これまでのドキュメントバラエティに対するアンチテーゼともとれる考えを述べており、同時に、「欧米のリアリティーショーみたいな番組」を常々制作したいと思っていたとも明かしています。ただ、『テラスハウス』は単なる欧米リアリティーショーの輸入ではなく、「もっとリアルな,ドキュメンタリー性を重視」したものにしているとのことでした2)。そうした意味からも、『テラスハウス』は初めての“日本型リアリティーショー”といえるのではないか、というのが私の見立てです。
 ドキュメントバラエティにしても日本型リアリティーショーにしても、日本では木村花さんの死以前には、欧米のように出演者が自ら命を絶つという痛ましい問題が起きることはありませんでした。ただ、両プロデューサーがいみじくも強調していたように、日本では欧米に比べてドキュメントにこだわったが故に、やらせ疑惑というような批判は後を絶ちませんでした。これが欧米と異なる日本における“影”の部分ともいえるかもしれません。ただこれについても、制作者・出演者・視聴者の三者のぎりぎりとも絶妙ともいえるバランスのもとで番組が成り立ってきたのではないかと思います。

*制作者・出演者・視聴者の関係性の変容
 しかしこの三者の関係性は、SNSが普及してから大きく変容したと言えます。SNS以前は、その良し悪しはともかくとして、制作者が出演者・視聴者をコントロールすることが可能な時代でした。しかしSNSの普及によって、三者の関係性はフラットになっていきます。そのことは、制作者が視聴者との距離を縮めて番組を盛り上げる可能性を広げましたが、同時に、出演者と視聴者が(制作者がコントロールできないところで)直接つながっていくことにもなりました。特にリアリティーショーにおける出演者は、売り出し中のモデルやタレントなどが少なくありません。彼らは番組に関する内容はもちろんですが、それ以上に自身の“リアル”な胸の内や活動内容を発信します。フォロワーは、番組に出演している姿を見てファンになった人もいれば、番組以外の彼らの活動を通じてつながった人達もいます。SNSの世界においては、リアリティーショーの制作者が作った“リアル”と、彼らの活動の“リアル”に境目はなくなり、視聴者は時に番組を視聴する以上に高い熱量で出演者とつながっていくのです。
 同時にSNSは広く一般に開かれる匿名が許される空間でもあるため、出演者に対する強いアンチのコメントの書き込みや,視聴者以外の“通りすがり”による悪質な“落書き”,ストレスを発散したり炎上を目的としたりする“誹謗中傷”にも遭いやすい環境です。出演者たちはリアリティーショーに出演して急に有名になってしまい、“たたかれる”ことに対する免疫も十分に用意できない中でその環境にさらされるわけで、かなりのストレスだということは想像に難くありません。
 このように、出演者と視聴者という関係性を超えてしまったところで起きてしまうSNS上の様々な問題に対して、制作者はどこまで関われるのか、そして関わるべきなのか……。こうしたことが問われているのが、今のリアリティーショーを巡る状況ではないかと思います。

*花さんの死から3か月の間に起きたこと
 花さんの死後、フジテレビは、『テラスハウス』の収録と放送、自社の運営する動画配信サービスFODでの配信を中止し、7月31日には社内横断メンバーによる検証報告3)を公表しました。報告では、制作スタッフにはSNSの炎上は予見できず、炎上を煽ろうとするような意図はなかったこと、SNSで花さんに対して批判的なコメントが増えてからは、スタッフは彼女と電話やLINEで連日連絡を取りあい、自宅にも複数回訪問するなどしてきたこと、しかし、ケアや健康状態への認識には結果的に至らぬ点があり力が及ばなかったことが記されていました。それに対し、花さんの母親の木村響子さんは、「外部の人による調査ではなく、公正かつ真摯に調査が行われたとは感じられない内容4)」だと不信感を募らせています。響子さんは7月15日、放送倫理・番組向上機構(以下、BPO)に番組に人権侵害があったと申し立てる書類を提出しました。BPOが審理するかどうかの判断はこれからです。現時点では両者の言い分は大きく食い違っていますので、10月号の「放送研究と調査」ではこの件についてはあえて触れていません。議論の行方を見守りつつ、取材を深めていきたいと思っています。
 3か月の間に最も進んだのが、SNS上の誹謗中傷への対策ではないかと思います。総務省では以前から「プラットフォームサービスに関する研究会」と「発信者情報開示の在り方に関する研究会」という2つの研究会で議論が行われていましたが、花さんの死後、より積極的に議論が進められてきた気がします。まず、8月末に出された研究会の中間取りまとめ5)を受けて、インターネット上の誹謗中傷の被害にあった人が匿名の発信者の特定を行いやすくするための省令改正が行われました。被害者は誹謗中傷の書き込みをした発信者に対して損害賠償などの法的請求を行うことができますが、その前提として発信者を特定しなければなりません。しかしそうした書き込みをするアカウントは匿名のことが多いです。そのため、権利が侵害されたことが明らかであり、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときに、被害者はプロバイダーに対して発信者情報の開示を請求することができ、これを受けたプロバイダーは原則として被害者の意見を聴取した上で、開示をするかどうかを判断することとされています。これがプロバイダー責任制限法における発信者情報開示制度というものですが、今回の改正で、開示対象に発信者の電話番号が追加されることになったのです。今後は、この制度のプロセスが被害者にとって多くの時間・コストがかかり負担になっており、権利回復のための手続を断念せざるを得ないこともあるとの指摘に応え、新たな裁判手続の創設など、更に踏み込んだ議論が行われる予定です。また9月1日には、プロバイダーの自主的取り組みやユーザーのリテラシー向上の啓発活動などをまとめた「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ6)」も公表されています。このテーマはリアリティーショーを超えた議論ではありますが、SNS上の表現の自由の今後を考える上でも重いテーマであり、また制作者・出演者・視聴者の三者の関係性を考える上でも重要な内容となってくるため、今後「放送研究と調査」で執筆すべく、取材を進めていきたいと思っています。

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次回のブログでは、リアリティーショーを巡る海外の最近の動きについて報告します。
海外では30人以上の出演者が自殺したなどと報じられていますが、実際にどういう人たちがどういう背景のもとで亡くなったのか?イギリスでは放送局がリアリティーショーを制作する際に遵守すべきことを放送規則に加えようという動きがありますが、その最新動向はどうなっているのか?などについてです。

 

1) T_producer「ドキュメントバラエティとリアリティーショー①②」(『note』2020年5月29日、6月9日)
https://note.com/t_shacho/n/naac4a83fd770?magazine_key=mc08264c4a9a0
https://note.com/t_shacho/n/ne2b834ce6b7e?magazine_key=mc08264c4a9a0
2) 「ネットで火が付いた!「テラスハウス」のサクセスストーリー【フジテレビプロデューサー・太田大】」(『ザ・テレビジョン』2018年7月18日)
https://thetv.jp/news/detail/154545/p2/
3) フジテレビ「「TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020」検証報告」(2020年7月31日)https://www.fujitv.co.jp/company/news/200731_2.pdf
4)「テラスハウス問題の検証結果 木村花さん母「不信感しかない」」(『NHK NEWS WEB』2020年7月31日)
5) 総務省「発信者情報開示の在り方に関する研究会 中間とりまとめ」(2020年8月31日)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/02kiban18_02000104.html
6) 総務省「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」の公表(2020年9月1日)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/02kiban18_02000105.html


調査あれこれ 2020年09月08日 (火)

#269 「データをもっと身近に!~国民生活時間調査の新サイト誕生」

世論調査部(視聴者調査) 木村義子


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文研サイトには、さまざまな調査結果の論考がPDFで掲載されています。
でも何だか「とっつきにくいな」とか、「調査データを使ってみたいけどPDFは扱いにくいな」…など感じたことのある、メディア関係者や研究者の方も、いらっしゃるのではないでしょうか?
 この新サイトは、それらを解決し、世論調査データをもっと多くの方に利活用して頂きたけたら…という思いでスタートした試みです。ぜひ、実際にサイトを、ご覧いただければ幸いです!

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 ・・・とその前に、このブログでは、国民生活時間調査について少しだけご紹介した後、
「ここをぜひ見て!」というポイントを3つご紹介します。手っ取り早く、サイトの魅力を知りたい方は、ぜひもう少しだけ、お付き合いください。

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 「日本人は1日をどんなふうに過ごしているのか」。国民生活時間は、ズバリ、日本人の生活そのものがデータから見えてくる調査です。1960年から5年ごとに、NHK放送文化研究所が行ってきた歴史ある調査で、統計の基礎データとして、各方面で活用されてきました。マスメディアへの接触のみならず、睡眠・仕事・学業・家事・レジャー活動・食事など、生活行動別に時間の使い方がわかることが特徴です。

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 今回、サイト制作で心掛けたのは、データを身近に感じてもらうこと。そのために、まずはデータを見て、実際にふれてほしい、と作られたのが、この動くバブルチャートです。

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 好きなデータを選び、時計を動かすと…様々な生活行動を表したバブルチャートの大きさが、時間と共に変わります。グラフは左右2つあり(スマホ版は「矢印」で左右グラフを切り替え)、2つのデータの比較もできます。使用しているのは、「時刻別行為者率」=1日の中で、ある時刻に該当の行動をしている人の割合を、15分ごとに示したデータです。
 例えば、この画像では、左側に2015年20代男性の平日、右側に2015年50代女性の平日のデータが選ばれていますが、朝7時~7時15分に、男性20代は【睡眠】【身のまわりの用事】【通勤】が大きく、女性50代は【家事】【マスメディア接触】【食事】が大きいことがわかります。同じ時刻でも、属性の違いで、生活行動が大きく違うことが、円の大きさで直観的にわかるようにしました。

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 調査結果を、1テーマごとに簡潔に紹介した「データにまつわる話」。いわば、コラムです。2015年調査の結果を中心に、全部で5つのコラムを掲載していますが、2020年秋にも調査を実施するため、新しい結果が出たら、コラムは増やしていく予定です。もし、コラムを読んで、詳しく知りたいと思ったら…「放送研究と調査」の関連記事ともリンクしていますので、ぜひ、あわせてお読みください。

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 そして最大のポイントは、1995年~2015年までの主な調査結果を、CSVデータとしてダウンロードできること。研究者の方やデータに関心のある方に、ご活用頂ければと思います。ダウンロードできるデータの種類は、バブルチャートの元となっている「時刻別行為者率」や、「全員平均時間量(日本人全体が、その行動に費やした時間量の平均)」などです。調査年や、どの種類の層(国民全体・男女年層別・職業別・在学別・都市規模別)のデータが欲しいか、選んでダウンロードできます。
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 生活時間調査のチームでは、この秋の2020年調査の実施に向けて、準備を進めています。今回は期せずして、コロナ禍での日本人の生活を調査でとらえることになりそうです。この新サイトと共に、2020年の結果(2021年公表予定)にも、ぜひご期待ください。


 

メディアの動き 2020年09月04日 (金)

#268 安倍首相2度の退陣表明 ~中継で伝わったこと、伝わらなかったこと~

放送文化研究所 島田敏男


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安倍総理大臣は8月28日(金)17時からの記者会見で、自らの判断で職を辞する考えを国民に向けて表明。「持病の潰瘍性大腸炎が再発し、国民の皆様の負託に自信を持って応えられる状態で無くなった」と、その理由を率直に語りました。新しい薬の投与を受けて効果は確認できたものの、「病気と治療を抱え、大切な政治判断を誤ることがあってはならない」と自らに言い聞かせるように発する言葉は、これまでになく丁寧でした。

 在任中、繰り返し「国会答弁が早口で聞きづらい」「活舌が悪い」といった批判を受け続けてきた安倍総理。自らの決断で余力のあるうちに身を引くことを決めたという事実が、中継から説得力を持って伝わってきました。

 この中継を見ていて私は13年前の1度目の退陣表明を思い出し、国民に対する政治家としての責任感が強くなったものだと一種の感慨を覚えました。

 2007年(平成19年)9月12日(水)予定されていた本会議での代表質問を取りやめて行われた突然の辞意表明会見。この時は辞任の理由について「海上自衛隊によるインド洋での給油活動を継続させるために局面を変えるべきだから」と繰り返し、自らの健康状態の悪化には一切触れませんでした。この1か月半前、安倍自民党は参議院選挙で敗北し、野党の協力がなければテロとの戦いの活動継続に必要な特別措置法の改正ができない厳しい状況に追い込まれていたのは確かです。

 しかしそれ以上に、持病の潰瘍性大腸炎の病状は悪化していて公務継続がままならず、この点を公にしたのは当時の与謝野馨官房長官(故人)でした。与謝野氏は「安倍総理が自ら伝えなかったのは健康状態だ」と述べました。そこには政治指導者は自らの健康について国民に明らかにする責任があるのだと、若い安倍氏をたしなめる風がありました。

 それと比べると今回の退陣表明会見は、国の政治をつかさどる立場に相応しい「余力を残して身を引く」という判断を鮮明に示したものでした。桂太郎を超える憲政史上最長の通算在任期間、大叔父の佐藤栄作を超える連続在任期間を記録したことが、こういう余裕ある判断を生んだのは確かでしょう。

 しかし、この中継で伝えられることが無かったのが安倍氏の胸中にあった打算でしょう。このまま持病との格闘を抱えながら政権を担当し続けても、新型コロナウイルスとの戦いで圧倒的に勝利できるとは限らない。今後の展開次第では1年遅れの東京オリンピック・パラリンピックの開催も確実とは言えない。経済活動の低迷が長引けば企業の倒産、失業者の増大といった危機的な状況は、政治の責任に帰することになる・・・

 安倍総理が首脳外交に情熱を傾けたのは確かですが、拉致問題でも北方領土を巡る問題でも大きな進展は無く、現在の厳しい世界の状況のもとで楽観的な見通しを持つことはできない・・・

 こうした恐ろしい想定を口にすることはできないでしょうから、当然、中継の中で触れられることはありませんでした。ただ、世界の転換点とも言えるコロナ禍の下で、この記者会見を見て、聞いていた視聴者の側には、政治指導者の中にある懸念がうっすらと透けて見えたことでしょう。

 来年9月までの安倍氏の残任期を担う自民党の後継総裁選びは、党員投票を省略した両院議員総会で行われることになりました。菅官房長官、岸田政務調査会長、石破元幹事長が競う見通しですが、最終的に誰が国会で総理大臣の指名を受けたとしても、安倍長期政権の前に立ちはだかったコロナ禍の厳しさは変わりません。

 これにどう立ち向かうのか。国民は今まで以上に、一つ一つの政治判断に目を凝らしていくことが必要になると思います。


調査あれこれ 2020年09月01日 (火)

#267 千曲川決壊 住民の「8割避難」を可能にしたものは何か?

メディア研究部(メディア動向) 入江さやか


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写真:台風19号で堤防が決壊した千曲川 手前が長沼地区
(2019年10月13日午前7時すぎ NHK総合テレビ)


 東日本を中心に記録的な豪雨をもたらした昨年10月の台風19号(東日本台風)。千曲川が決壊し、集落が濁流にのみこまれました(写真)。しかし、決壊地点の長沼地区では住民の8割が、早い段階で危険を察知し、自宅を離れて避難していたことがNHK放送文化研究所の調査でわかりました。

住民の8割が「立ち退き避難」をしていた長沼地区
 NHK放送文化研究所は、台風19号で浸水したと推定される長野市長沼地区と隣接する豊野地区の20歳以上の男女1,000人を対象に、郵送法による世論調査を実施し、77.5%から回答を得ました。
 この調査では、回答者の51%が「自宅からほかの場所に避難した」、すなわち「立ち退き避難」をしたことがわかりました。過去の一級河川の氾濫事例に比べて、非常に高い避難率です。決壊地点のある長沼地区に絞ってみると、回答者(193人)の84%もの人が立ち退き避難をしていました。避難を始めた時間帯を聞いたところ、長沼地区では決壊前の午前3時台に78%の人がすでに避難しており、立ち上がりの早さも顕著でした(図)。

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図 長沼地区の住民が立ち退き避難を始めた時刻

早期避難の3つのキーワード 「(いぬ)満水(まんすい)」「隣互力(りんごりょく)」「川の防災情報」

 調査結果からは、こうした早期避難の背景には、3つの要因があることがわかりました。第一は、多くの住民が地域の「水害リスク」を認識していたことです。長沼地区には、1742年にこの地域を襲った大水害(いぬ)満水(まんすい)の浸水深を記録した水位標など、地域のあちこちに水害のリスクが「見える化」されていました。
 第二は、平常時からの取り組みです。毎年6月に地域ぐるみで防災訓練を行い、台風19号の際には、自治会役員が一人暮らしの高齢者などに声をかけて早めの避難を促しました。前・長沼公民館長の宮澤秀幸さんは、地域特産のリンゴにちなみ、この地域の防災力を隣互力(りんごりょく)と呼んでいます。
 第三が、積極的な防災情報の取得です。当時、防災情報を得ていたアプリやウェブサイトを聞いたところ、国土交通省の「川の防災情報」1)が35%で最多でした。「川の防災情報」では、川の水位や河川カメラの映像がリアルタイムで確認できます。自治体からの情報を受け身で待つのではなく、「取りに行く」姿勢も、早めの避難につながっていたようです。

新型コロナで「早めの避難」が一層重要に
 新型コロナウイルスの感染拡大により、避難場所での「3密」の回避が大きな課題になっています。今年7月の豪雨では、感染防止のために避難場所の定員が減らされていて、別の場所に“再避難”を余儀なくされたケースもありました。「3密」を避けるためにも、時間に余裕をもった「早めの避難」が一層重要になっています。

 今回の調査の詳細をぜひご一読ください。
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告①
~長野・千曲川決壊 住民の「8割避難」を可能にしたものは何か?~


1) 国土交通省「川の防災情報」
  https://www.river.go.jp/portal/#80


放送ヒストリー 2020年08月28日 (金)

#266 残された資料をもとに探る放送法・電波法の制定過程

メディア研究部(メディア史研究) 村上聖一

 放送局(放送事業者)が「政治的公平」などを定めた番組準則(放送法4条)に違反した場合、電波法76条に基づいて放送局の運用停止処分(いわゆる電波停止)ができるのかという問題をめぐっては、今なおさまざまな見解が見られます。
 電波法76条には確かに、「総務大臣は、免許人等がこの法律、放送法若しくはこれらの法律に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反したときは、三月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ、又は期間を定めて運用許容時間、周波数若しくは空中線電力を制限することができる」と書かれています。
 これだけを読めば、放送法の何らかの規定に違反すれば、電波停止処分ができるようにも見えます。しかし、そもそもこの条文は番組準則違反のようなケースまで想定して制定されたのでしょうか。

 その点を検証するため、『放送研究と調査』2020年7月号「電波三法 成立直前に盛り込まれた規制強化」では、1950年の放送法・電波法の制定時にさかのぼって条文の趣旨を探りました。
 詳しくは論考をお読みいただければと思いますが、結論としては、番組準則と電波停止処分に関する検討は別々になされ、双方を結びつける議論はなされていなかったと考えられます。もっとも、議論がなかったことを証明するのは難しく、せめて国会審議の場で言及されていれば、あるいは制定過程を記録した文書が保存されていれば、といった思いを抱かざるを得ません。

 次の写真は、電波法が成立する2か月前の1950年2月に行われた検討の記録です。ただし、公文書として正式に残されたものではありません。議論に加わっていた当時の電波庁幹部がその後長く保管し、1980年代になってNHK放送文化研究所に寄贈された資料に含まれていたものです。

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検討事項が手書きで書き込まれた電波法案(右は表紙、左は電波法76条部分)
表紙には手書きで「昭和二五、二 宮ノ下審議」とあり、その横に出席者名が書かれている。
(NHK放送文化研究所所蔵 荘宏文書)


 これを読みますと、前年12月に国会に提出された電波法案や放送法案をめぐって、電波庁や衆議院法制局の幹部が箱根の温泉旅館に泊まり込み、修正の検討を行ったことがわかります。このとき、電波法76条の処分の対象として、当初の法案にはなかった「放送法違反」を新たに加える検討がなされたことが記されています。しかし、放送法案の番組準則については何も書き込みはありません。また、なぜ法案を修正するのかという点も書かれていません。

 一方、番組準則はこれとは別に、その後の国会内の協議で、「政治的公平」などに関する修正がなされたものと見られますが、その経過がはっきりわかるのは、当時、日本を占領していたGHQの文書によってです。そうした日本側とのやり取りの記録がGHQ側に残されていたケースは少なくありません。
 次の写真は、衆議院の電気通信委員会が1950年3月、法案修正についてGHQの承認を求めるために送付した文書の一部です。衆議院が作った英文の文書ですが、日本側では見つかっていません。文書はGHQによって保管されていたものがアメリカの国立公文書館に移され、それを日本の国立国会図書館が複写して公開しているものです。

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衆議院電気通信委員会・辻寛一委員長名のGSあて書簡(1950年3月16日)
(国立国会図書館所蔵 GHQ/SCAP文書)

 この文書を含め、GHQが残した資料には電波法76条と番組準則を結びつける記述は見当たりません。放送法には、一般に電波法で規定されている設備関連の規定があるため、その点もカバーするため電波法案の修正がなされた可能性が高いと思われますが、決定的な証拠はありません。
 ただ、もし仮に電波法76条の規定が番組規制につながるものとして日本側の立法担当者の間で議論になっていたとすれば、放送の民主化を求めていたGHQがまったく記録を残さないことは考えにくく、そうした点からは、番組準則違反と電波停止を結びつける議論は、少なくとも公式の場では、なされなかった可能性が高いと考えられます。

 このように放送法や電波法の成り立ちには、今なお、はっきりしない点が残されています。電波法76条をめぐってさまざまな見解があることは冒頭に触れたとおりですが、そうした相違が生じている原因の一つとして、文書が残されていないために、そもそも、なぜ電波法76条の対象に放送法違反が加えられたのかがわからないという点があると思います。
 この条文に限らず、放送法や電波法をめぐっては、「立法過程を記した文書が保存・公開されていれば、条文の趣旨が明確になり、より建設的な議論ができるのではないか」という思いを抱くことは少なくありません。日本の法律の成り立ちを振り返るうえで、GHQの文書に頼らざるをえないというのも残念なことです。
 そして、こうした問題は、必ずしも過去のものではないように思われます。どのように政策が決定され、法律ができあがってきたのかを明確にしておくためにも、公文書をきちんと保存し、公開していくことがきわめて重要ではないかと、放送法や電波法の制定過程を振り返りつつ、改めて思います。

メディアの動き 2020年08月26日 (水)

#265 「市民が選んだ課題」にもとづく選挙報道 ~アメリカ地方メディアのエンゲージメントの試み~

メディア研究部(海外メディア) 青木紀美子


11月3日に行われるアメリカ大統領選挙まで2か月あまり、8月17日から20日にかけてアメリカの野党民主党の大統領・副大統領候補を指名する党大会が開かれました。大勢の政治家や運動員が集まる祭典としてのイベントは中止され、演説も応援もほとんどが収録かオンライン、いつもは会場から中継するテレビ番組も現場取材ができず、キャスターたちがスタジオで動画を見ながら伝えるという異例の報道になりました。その放送も前回4年前に比べてテレビで見る人は減り、動画配信で視聴する人が大幅に増えました。新型コロナウイルスの影響はメディアに選挙報道の見直しを迫り、そのデジタル展開を加速させようとしています。

2020年のアメリカの選挙報道では、報道する内容を変えていこうという動きも起きています。前回2016年の大統領選挙で、多くのメディアがトランプ大統領の当選を想定外としたのは有権者の声に十分に耳を傾けていなかったからだという反省、また、従来の選挙報道が、候補者の日々の発言内容やパフォーマンス、陣営の内情や戦略、支持率の変化などを伝える情勢分析に時間を割き、人々の暮らしに関わる候補者の政策や実績など、有権者の投票判断に資する材料をわかりやすく丁寧に伝えることに取り組んでこなかったという問題提起にもとづくものです。

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「KMUWが地方選挙をどう報道するか、一緒に考えてください」
(カンザス州の公共ラジオKMUWのウェブサイトから)1)

これまでとは違う選挙報道の試みが特に目立つのは地方のメディアです。大統領選挙とあわせて行われる連邦議会や州知事、州議会、市長など地方選挙の報道で、候補者の主張ではなく有権者の関心事を取材の出発点にし、選挙情勢よりも政策の検証に重点を置く、市民目線の報道をめざすところが増えています。

これは新型コロナウイルスの感染拡大とコロナ禍による経済への打撃、黒人男性の警察官による暴行死を機に全米に広がった人種差別への抗議など、予想外の事態が次々に起きる中で、報道の軸足をどこに置くかを見直し、市民の情報ニーズを優先する動きとも連動しています。コロナ禍による広告収入の落ち込みで経営状況が一段と厳しさを増す中、人々が必要とする付加価値ある情報を提供できなければメディアとして存続できないという危機感の表れでもあります。

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「市民が選ぶ課題~地域の政治家に何について話しあってもらいたいですか」
(シカゴの公共ラジオWBEZのウェブサイトから)

中西部イリノイ州シカゴの公共ラジオWBEZは「陣営や利益団体ではなく、市民の課題を優先したい」としたうえで、とりわけコロナ禍に最も大きな影響を受けた地域や市民層の声に耳を傾け、その関心に沿って取材力を発揮したいと述べています。政治家に何を議論してもらいたいか、オンラインで質問や意見を募集して「市民が選ぶ課題」を5つに絞り、ここにWBEZの選挙取材の照準をあわせる計画です2)。各地の地方メディアはこうしたオンラインでの意見募集だけでなく、チラシを配ったり、新聞や雑誌の紙面を使ったり、複数のメディアが連携してオンラインの会合を開くなど、さまざまな方法で市民の声を聞き取る機会をつくり、それぞれの選挙取材の指針にすることを試みています。

このように人々が何を求めているかを起点にする「市民が選ぶ課題」3)を柱にした選挙報道は、ニューヨーク大学のジェイ・ローゼン教授が提唱し4)、メディアの信頼回復を助けるTrusting News、報道に市民の声を反映させるノウハウや技術を提供するサービスHearken、ジャーナリズムのシンクタンクAmerican Press Instituteなどが実践に向けた支援を行ってきました5)

その源には、メディアが人々の声に耳を傾け、市民を情報の受け手ではなく情報発信のパートナーに位置づける「エンゲージメント」を重視するジャーナリズムの広がりがあります。選挙報道だけでなく、日常の報道や調査報道なども含め、取材から発信までの姿勢を見直していこうという動きです。なぜこうした「エンゲージメント」を重要と考えるのか、どのような経験にもとづき、何を試みているか、公共ラジオのエンゲージメント担当者や、前出Hearkenを創始した元WBEZのプロデューサーなど、実践者たちが語る思いや試行錯誤の軌跡など
「放送研究と調査」の6月号7月号8月号で3回にわたって紹介しています。



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エンゲージメントの実践者たち:左からThe CityのTerry Parris Jr.氏、HearkenのJennifer Brandel氏、City BureauのDarryl Holliday氏


1) https://www.kmuw.org/post/help-shape-kmuws-local-elections-reporting
2) https://www.wbez.org/stories/help-us-build-a-citizens-agenda-this-election-season/e28e07bd-f48d-4d9b-9e3c-48fa79d91da2
3) https://www.thecitizensagenda.org/
4) https://pressthink.org/2018/11/election-coverage-the-road-not-taken/
5) https://electionsos.com/


メディアの動き 2020年08月21日 (金)

#264 「トイレットペーパー買いだめ」に見る群衆行動と流言

メディア研究部(メディア動向) 福長秀彦

 “パンデミック”(感染症の大流行)や大災害の時には、人びとの不安や恐怖などによって事実の裏づけのない「流言」が拡散して、社会に悪影響を及ぼす「群衆行動」を引き起こすことがあります。新型コロナウイルスでも、事実無根の流言がきっかけとなって、「トイレットペーパーの買いだめ」という群衆行動が起きました。その事例研究を『放送研究と調査』7月号に書きましたので、簡単にご紹介します。
 流言の内容は、「トイレットペーパーは原材料がマスクと同じなので、マスクの増産に伴って品不足になる」「マスクの次はトイレットペーパーが不足する」などで、2月中旬以降、Twitterに次々と投稿されました。この後、各地で散発的に買いだめが起き始め、2月末になると買いだめは急加速して全国に波及しました。
 トイレットペーパーの買いだめについて、3月に全国の20~79歳の男女4千人を対象に、インターネット調査をしました。それによると、「買いだめをした」人は全体の8%、「買いだめをしようとしたが、できなかった」人は9%でした。
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 買いだめをしたり、しようとした理由は次の通りでした。

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 買いだめの主な理由は、自分が流言を信じたからではありませんでした。流言を信じた他人に買い尽くされてしまうと思ったからでした。この心理は、トイレットペーパーが売り切れる店舗が増えるとともに増幅し、買いだめに拍車をかけました。また、流言とは関係なく、空の商品棚を見て不安に駆られた人も多くいました。
 流言を否定する情報は、店頭からモノが消えてゆくに連れて、効果が逓減しました。流言を打ち消すテレビ報道の多くが、空の商品棚の映像を伝えたことで、結果的に不安を煽り、買いだめを促すことになってしまいました。
 買いだめに限らず、いったん群衆行動が起きると止めるのは容易ではありません。群衆行動にエスカレートする前に、流言の拡散を抑えこむ必要があります。7月号には、この点について幾つか提言を書きました。ご一読頂ければ幸いです。

放送ヒストリー 2020年08月07日 (金)

#263 『おかあさんといっしょ』の60年③ ~"子どもの歌"の"おかあさん" 作曲家・福田和禾子~

メディア研究部(番組研究) 高橋浩一郎


 『おかあさんといっしょ』は、毎月1曲程度、既存曲やオリジナル曲を番組内で紹介しており、これらの一連の曲は1986年から「月の歌」の名称がつけられ親しまれるようになっています。(1961~1966年の間は『うたのえほん』という別番組の企画でしたが、1966年以降『おかあさんといっしょ』に統合されました。詳しくは「NHK放送文化研究所年報2020」掲載、「NHK幼児向けテレビ番組の変遷」参照)
 一時期途絶しているものの、番組班では1961年から「月の歌」(1986年にその名がつくまではこれらの一連の曲には固有の名前がありませんでしたが、この稿では名称がついていなかった時期も含めて「月の歌」とします。)の曲の記録を残しており、400曲以上に上る楽曲リストを見ると、作曲者名から、時代の傾向を伺うことができます。

 1960年代には、中田喜直さん、林光さん、富田勲さん、團伊玖磨さん、服部公一さんなど、クラシック音楽をバックグラウンドに持つ作曲家が並びます。1970年代の記録はありませんので、1980年代に目を移すと、五輪真弓さん、小椋佳さん、村下孝蔵さん、深町純さんなど、フォーク、ニューミュージックやフュージョン系のミュージシャンの名前が見られるようになり、2000年代に入ると、奥居(岸谷)香さん、中西圭三さん、平沢進さんなど、ロック、ポップス系のアーティストの名前が連なるようになります。性別で見ると、男性が圧倒的に多く、昔ほどその傾向が強いようです。

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福田和禾子さん

 その中で最も多くの曲(25曲)を「月の歌」に提供したのが、福田和禾子さんです。福田さんは1941年、流行歌手の松平晃さんの一人娘として生まれました。父の影響で幼少期から音楽を始め、高校から作曲を専攻し、東京芸術大学作曲科へと進学。そして卒業後すぐ、藤山一郎さんのピアノ伴奏などを務めながら、童謡作曲家として活動を始めました。

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「ぼうずのうた」譜面

 福田さんが手がけた「月の歌」の中で最も古い曲として、1969年1月の「ぼうずのうた」が記録に残っています。同番組で発表した代表的な曲として、「そうだったらいいのにな」「北風小僧の寒太郎」(のちに『みんなのうた』でも放送)「銀ちゃんのラブレター」などがあります。他にも『みんなのうた』で、「赤鬼と青鬼のタンゴ」や「ありがとう・さようなら」などを、NHKの教育番組『おーい!はに丸』や『たんけんぼくのまち』などの主題歌も数多く担当しています。また作曲だけでなく、1972年には『おかあさんといっしょ』にスタジオピアニストとして出演しているほか、出演者の歌唱指導も担当するなど、『おかあさんといっしょ』やNHK教育番組に多大な貢献をしました。


 2008年10月、福田さんは『おかあさんといっしょ』ファミリーコンサートの録音作業の休憩中に倒れ、66歳で急逝されました。生涯一貫して子どもの歌を作り続け、1000曲を超える作品を残した福田さん。まだ女性の作曲家が少なかった時代に、自らその道を切り拓いたパイオニアでした。
 福田さんには息子さんが一人います。長男・匠さんは現在眼科医をされていて、2017年に医師会の機関紙に「私の母・福田和禾子」という文章を書いています。そこには、小さいころ録音スタジオに付いて行き、仕事をする母親の姿を見て「子供ながらに、かっこいい人」と思ったこと、また福田さんが仕事に関して大変厳しい考え方を持っていて、「『仕事は、人生を掛けて、死ぬ気で取り組まないとならないし、死ぬまで勤め上げないとならない。』と何度も叱咤激励された」ことが書かれています。
 福田さんが作曲した曲の中に「あのねママ」という歌があります。文章では音をお聞かせできないので、歌詞(作詞:田中大輔・井出隆夫)の一部を以下に引用します。

ママのたいせつな たからもの
それはね あなたのことば

あのねママ ボクどうして
うまれてきたのか しってる?
ボクね ママにあいたくて
うまれてきたんだよ

ほしぞらの どこかで
あたらしいいのちが
きらりん きらりん
うまれる そのときを
そっと まってたの
それが あなた

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「あのねママ」(1998年12月)

「あのねママ」は、あらゆる子どもが母親から生まれるという必然の不思議さと、その出会いの幸せを、母子が互いに話しかけるという形で描いた作品です。1児の母親である福田さんもさまざまな思いを込めて、この曲のメロディを紡いだにちがいありません。


NHK放送博物館では、7月4日~9月27日にかけ企画展『~パパもママもみていた!~おかあさんといっしょ』を開催しています。