文研ブログ

調査あれこれ 2023年06月16日 (金)

「放送法4条の政治的公平について考える」 ~「メディアと法」研究会 講演から#492

放送文化研究所 渡辺健策

 本稿では、昨今あらためて議論になっている放送法4条の政治的公平をテーマに、筆者が司会進行役をつとめたマスコミ倫理懇談会全国協議会「メディアと法」研究会(5月18日、日本プレスセンタービルで開催)の講演概要をお伝えします。講師は、BPO放送倫理検証委員会の委員長を長くつとめられた川端和治弁護士です。「放送法4条の政治的公平について考える」と題して、約2時間にわたって講演いただきました。
(講演内容から一部抜粋。章ごとのサブタイトルは、筆者が補足したものです)

川端和治弁護士

1970年 司法研修所修了とともに弁護士登録 2000年~2001年 日本弁護士連合会副会長
2005年~2007年 法制審議会委員   2007年~2018年 BPO放送倫理検証委員会委員長 
2011年~2014年 法務省政策評価懇談会座長 現職:BPO放送倫理検証委員会調査顧問

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<戦前の教訓と後悔が「放送法」の出発点>

 川端でございます。本日はお招きいただきましてありがとうございます。
私はBPO放送倫理検証委員会の委員長を11年やりましたけど、その間に考え、その後、『放送の自由――その公共性を問う』という本を書いたときに考えたことをお話ししていきたいと思います。
 放送法について考える時、私がいつも強調しているのは、この法律は非常に普通の法律とは違う成立の歴史背景を持っている、その歴史的背景をよく理解しないと、条文の目指したもの、真の意味を理解できないだろうということです。まず、この放送法の背後にある歴史について簡単にご説明します。
 重要なのは、戦前において日本の電波というのは軍(国)が使用するもので、放送はその余った部分について使用を許されていたに過ぎなかったということです。放送局は、政府によって予算、人事、実際の運営、実権を握られていました。政治上の講演議論、治安・風教上悪影響を及ぼす恐れのある事項、そういったものを禁止する。それを監視するため、リアルタイムで放送中に監視している人がいて、「これは駄目だ」ということになると、ただちに放送を遮断するという体制でしか放送は認められていなかった。それが戦前の放送です。しかも太平洋戦争が始まった時に放送の全機能をあげて大東亜戦争の完遂にまい進するということになりまして、放送はすべてのプログラムを国民の戦意を高揚するということに使われた。さらに悪いことに、戦争についての戦果は大本営発表しか認めないということになっていたんですけど、ミッドウエーで思いがけない大敗戦を喫し、大本営が負けを勝ちとねつ造するようになってしまった。だから相当あとになるまで、つまり本土の空襲が激しくなるまで多くの人は日本が勝っているんだと思っているという状況が生まれたんですね。戦っているうちに必勝の信念とか神風が吹くとか、そういう感情が国民の間にも起こってくる、マスコミはひたすらにそれをあおる、そういうことを続けていた。
 その結果、本来ならとっくにあきらめて降伏するべき状況だったにも関わらず、ぎりぎりまで戦争を続けて、原爆を2発落とされてようやく降伏を認めるというところまでいってしまったわけです。当時の放送を担当した人たち、放送行政、電波行政を担当した人たちにとっては、敗戦についての自分の責任とそれを悔いる気持ちを残しました。
 戦後、放送法を制定する国会で審議をした時に、担当した官僚が質疑応答の原稿を作っているんですけど、その中に「放送番組に政府が干渉すると、放送が政府の御用機関になって国民の思想の自由な発展を阻害して、戦争中のような恐るべき結果を生じる」と書いているんですね。そういうつもりで放送法をつくるということがはっきりと意識されていたということを記憶しておかなければならないと思います。

 一方でGHQ(連合国軍総司令部)は当然、日本を民主化する、軍国主義を徹底的に除去するという覚悟を持って日本に乗り込んできた。ファイスナーという人が放送関係の事項を担当したんですけどこの人は着任したときに逓信省の事務次官を呼びつけて、「私は軍国主義、封建主義、官僚主義の3つをつぶすためにきた」と宣言したということも、当時を回想した記録に残っています。
 新しい憲法ができるので、放送法制も完全にそれに合ったものにしなければならない。GHQと逓信省の官僚がやりとりしている中で「これが絶対に必要だ」ということでGHQが示した事項がありました。1つは放送の自由を確立するということ、不偏不党の放送にすること。放送の役割としては、公衆に対するサービスであるということ。技術的な水準は満足すること。もうひとつ重要なのは、その管理は政府から独立した機関によるべきだという大原則を示したんですね。その結果、放送法が作られていくんですけど、これが単純には作れなかった、何度か行ったり来たりをするということになります。

<「番組編集準則」と「停波処分」の制定経緯>
 1950年1月には、放送法を含む電波3法を制定する国会の審議が開始されました。ただ、これもそのまま素直にすんなりと成立したわけじゃなくて、4党の共同修正案が提出されてようやく1950年6月に成立するんですけど、この時の共同修正というのが非常に重要な修正で、今日にいたるまで問題となる、尾を引くような修正であったということになります。

shiryou1_2_W_edited.jpg(川端和治弁護士 講演資料より)

 もともとの放送法案では、NHKは公共放送として立案され、公共放送だからということで放送内容を規制する規定として2つ重要なものがあったんですね。1つめは「公衆に関係のある事項について事実を曲げないで報道すること」。2つめは「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」。修正案は、この2つにN H Kについての別の条項にあった「政治的に公平であること」を加え、さらに「公安を害しないこと」を加えた4項目を「番組編集の準則」とし、これを民間放送にも準用するということで、全ての放送局に適用するようにしたんです。

 もう一つ、これはほとんど当時の国会審議でも言及がなかった不思議な修正なんですけど、電波法76条(停波処分)は電波法にある技術的な条項、放送のハード面についての規定だったんですけど、そこに放送法を加え、放送法違反も電波法による停波処分の対象になると、論理的には読める規定に修正しているわけです。この4党共同提案の修正がどういう意味を持つかというと、それまでは実は民間放送についての規定はほとんど何もないに等しかったんですね、確か2か条しかなかったと思いますけど、民間の意見として「NHKの規定ばかりで民間を全く無視しているじゃないか、おかしい」という議論もあったんです。
 この修正によって番組編集準則が民間放送にも適用になるということになり、公共性をもつ放送として民間放送も位置づけられる、だから日本の放送法制は、NHKのようなピュアな公共放送に加えて本来は商業放送として考えられていた民間放送も公共性を持つ、2つの体制が二元的に並び立つという体制になったという意味では非常に大きな修正だったわけです。
 NHKはもともと公共放送として構想されていますから、とにかく受信設備を持っている人からは誰からでも受信料を取れるということのまさに裏側として、全ての受信契約者に対してサービスしなきゃいけない。政治的に一部の勢力側に付いて放送をしたのではそういうのは公共性がないということになりますから、どうしても政治的に公平であることを課す必要があった。
 しかも公共放送は民主主義の成立には必要だから、公共放送と名乗れるだけの最小限の制約を加えることは合理性がある、従って憲法上の問題はないというふうに一応考えられる。ですけど、民間放送の場合は、なぜ表現内容についての規制を受けなければならないのかという、憲法21条との間の整合性の問題を、実はこの時に生じさせているんです。ただ、国会審議を見ても、そういうことはほとんど意識されていなかった。
 電波法76条の規定に放送法違反を追加した点ですけど、なんで電波法に放送法違反を加えるという改正がなされたのかというのが、私が当時持っていた資料を読んでもさっぱり分からなかった。国会審議録、全部の審議経過を読んでも何の議論もされていなかったんですね。

pdf_3_W_edited.jpg (NHK放送文化研究所『放送研究と調査』2020年7月号 村上聖一「電波三法 成立直前に盛り込まれた規制強化」より)

 NHKの村上聖一さんが『放送研究と調査』2020年7月号に「電波三法 成立直前に盛り込まれた規制強化」という論文をお書きになっていて、それを読むと放送文化研究所の書庫に「荘宏文書」というのが残っている。荘宏というのは当時、電波庁の文書課長をしていた人で、つまり電波3法の修正の実務担当をしていた人です。その荘宏文書を見ると1月に国会審議が開始されたんですけど、その翌月に衆議院電気通信委員会と衆議院法制局と電波庁の担当者が箱根で合宿をしていて、電波法の原案がその合宿の資料として配られているんですけど、そこに手書きで「放送法」と、途中(76条)に加える修正がなされているというのが、その資料を見るとわかるんですね。これが2月なんです。翌3月の段階で参議院の電気通信委員会で「電波法の76条に放送も加えなくていいのか」という質問がなされたんですね。それに対して網島電波監理長官、この人は箱根の合宿の参加者名簿に載っている人ですけど、「放送法にもごく僅少ではございまするが、いろいろ施設者に義務づけられた事項もございまするので、ただいまのお説は私どもといたしましてもごもっともなお説ではないかと考える次第であります」と答弁している。要するに、もともと電波法はハードについての法律で、いろんな施設について書いていて放送局としてはこういうものをふまえなければいけない、それに違反したらそんな不十分な施設で放送してはいけないから停波処分という法律なんで、もっぱらそういう技術的事項の違反しか考えていなかった条文なんです。
 実はこの1月から3月で、放送法にも技術的規定があるから(電波法76条に)こういう修正をするということが国会で言われた後になってから、今の放送法4条の改正の議論が始まっているんです。そういう意味では電波法の改正というのは、そういう4条を民間放送にも適用する、政治的公平を民間放送にも課す、という議論の前にそれとは無関係に決まっていた、ということなる。そうすると、あれは放送法総則とは全然関係のない技術的事項についてだけ適用するということを考えた修正だったという説も根拠があるんだと初めて納得したんです。

<自主自律を尊重する「政府見解」>
 番組編集準則は倫理規範であることをはっきり示しているのが、1959年の放送法改正案が国会に提出された時、田中角栄郵政大臣(当時)が参議院本会議で行った法案の趣旨説明です。この時の改正案では、番組編集準則に「善良な風俗を害しない」という項目を付け加えたんですけど、その番組編集準則を守ってほしい、しかしそれを直接政府が強制したんでは表現の自由を侵害することになるからそれはできない。考えた結果、この番組編集準則を見て各放送局に自主的自律的に番組基準を作ってもらうことにした。各局はその番組基準に従って番組を作る。しかも各局に有識者からなる番組審議会をつくって、そこに必ず各局の番組基準は諮問しなきゃいけない。さらに番組基準自体全て公表するということにさせた。そうなると、見ている人は各局の番組基準を知っていますから、「これは番組基準に反するんじゃないか」と批判するだろう、審議会でも「こんな番組はわれわれが認めた番組基準に反するんじゃないか」というだろう。そういう形で批判させることによって番組基準が実行され、しかも番組基準は番組編集準則を1つの理想と放送の理念とみて作られるので結局それが実現されることになる。当時の答弁を見ても、放送事業者の自主性に任せて、番組の統制はしないと答弁しています。

 もう一つ重要なのは、国会の審議で、「極端に変な放送がされた時にどうするんだ」という質問があったんですけど、「例えば、わいせつ放送であれば電波法108条によって刑罰が課せられます、だからそういう心配はありません」という答弁をしているんです。一方、電波法76条は、当時すでにあったにもかかわらず、それについては全く述べていないんですね。だからそういう極端におかしい放送でも電波法76条の処分の対象になるというのは全然考えられていなかった、というのはこれからも明らかです。

 また、政府見解としては、1962年の臨時放送関係法制調査会という公の機関で当時の担当部局である郵政省が意見書を出しているんですけど、番組編集準則というのは1つの目標で、法的効果としては精神的規定の域を出ない、要は事業者の自律に待つほかないと答えています。さらに1977年には電波法76条の適用についての質問に対して、「検閲はできないことになっているから番組の内容に立ち入ることはできず、番組が放送法違反だという理由で行政処分をすることは事実上不可能です」とか、「放送事業者が自主的に放送法違反について判断する、あるいは番組審議会、世論というものの存在がその是非を判断する」という答弁をしているんです。
 電波法76条の停波処分の適用は論理的には可能だという意識は放送行政の担当者にはずっとあったと思うんですが、しかしそれはできない、という形でずっと守られ続けていた。それが椿発言問題でくるっとひっくり返っちゃった。そうすると番組編集準則が憲法21条違反じゃないかということが正面から問題にされるようになりまして、いろんな憲法学者がいろんな意見を述べるということになった。通説として、これは倫理規範なんだ、だからこの規定を政府が強制することはそもそもできないんだから憲法21条の問題にはならないというのが、学説として最も広く受け入れられた見解です。

shiryou2_4_W_edited.jpg(川端和治弁護士 講演資料より)

 最高裁判所も、これは女性戦犯法廷事件の判決の中にありますけれども、放送事業者がみずから定めた番組基準に従って番組の編集が行われるという番組編集の自律性について規定したものという書き方をしています。裁判所も放送法というのは自主自律の体制だというのを述べているんですね。
 しかもこれは前から言われていることですけど、総務省には強制力を持って調査する権限が法律上ない、という答弁も2022年の放送法改正時の国会審議でしています。ただ番組編集準則が法規範であって、その違反に対して電波法76条の処分ができるというこの1点は譲らなかった。たぶん「伝家の宝刀」というか、究極の脅しの手段として――それは、政府は放さないよ、という宣言だと思います。
 自主自律で編集ができるのだとすれば、これは明らかに、例えば政治的公平に反するかどうかという判断は、番組を制作する側にまず委ねられる、そこで番組編集の自由が発揮されるということになります。そういう自主自律による編集権をどこまで自由に実行しているのかという放送局側の問題が、今度は問われることにならざるを得ない。

<自主自律・報道の自由をいかせるか>
 ごく最近で言えばジャニー喜多川の(損害賠償)事件についてですね、放送に限ったことではないが、最高裁判決まであるにも関わらず、メディア全体がひたすら沈黙を守り続けてきたということがありますが、本当に放送は自分たちに与えられた自主自律による自由な編集権を行使しているのかということが問われざるを得ないと思います。
 ただ、政府見解であれは法規範で76条による処分ができるという、「伝家の宝刀」と申し上げましたけど、これがものすごい脅しの材料になっているんですね。椿発言の時に実際にテレビ朝日は、免許の更新を条件付きのものにされたということもあって、放送局の経営者にしてみれば、絶対にそういう事態は起こしたくないという意識がありますから、これが上から下までにいたる萎縮効果をもたらしているんです。そもそも政府が、何が政治的公平なのかということを判断できる体制のもとでは、政府権力はもともと権力の行使についてマスメディアによって監視されるべき立場なんですけど、監視される側が「これは政治的公平に反する、法律違反だから処分できる」ということが言えることになれば、政府批判の萎縮をもたらすような結果にならざるを得ない、そうなると一番重要なマスメディアの機能である権力監視機能が損なわれるんじゃないか、という問題があります。しかも何が政治的公平で、何が政治的公平でないのかというのは、非常に漠然としているわけですね。

 国論を二分する問題でいうと、最近の例でいえばイギリスがEU(欧州連合)を脱退するかどうかという問題の時、あのときも脱退すれば経済的にすごくイギリスが利益を受けるというキャンペーンを保守党の側がやったんですね。しかし、実際にはうそだったということが後で分かるんですが、そういう国論を二分する問題について今政府がこう言っている、憲法改正問題で言えば改正賛成の方がこう言っているけれども、それは事実に反するとか、あるいはそういう説明はでっち上げだフェイクだ、あるいは論理的にいってそういう議論は成立しないということが分かっている時に、「それはおかしい」ということを放送することは、何ら問題はない公正な放送であって、それを止めるということは、そもそも表現の自由を保障した趣旨に反するんですよね。なぜかというと、国民はそういう問題があるということを全然知らされないまま、ある候補に投票したり、あるいは選択したりすることになってしまうので、そういうことが許されるんであれば、そもそも民主主義が機能しなくなるという問題がある。もともとは民主主義をよく機能させるための基盤であるから、放送には憲法上その自由が保障されるという関係なのに、全然その機能を果たさないことになってしまう。

shiryou3_5_W_edited.jpg(川端和治弁護士 講演資料より)

 なぜそうなるかというのを考えたのが、BBCのガイドラインです。ずっとBBCが第一の絶対に守るべきものとして掲げてきたのがimpartialityなんです。このガイドラインを読むと、impartialというのは議論の全てのサイドを反映することで、そしてどのサイドもひいきにしないことである、とされています。もっと大事なのは単にimpartialであることを求めているのではなくて、due impartialityが求められている、つまり適正な、ふさわしいimpartiality。何かを報道するときの結果について考えるときには、その事柄の性質、内容において、またその報道が及ぼす結果についても、よく考えた上でやらなきゃいけないという適正な公平性でなければいけないというのがBBCの見解です。

<ジャーナリストたちへの期待>
 私が期待したいのは、ジャーナリストとしての矜持(きょうじ)、ジャーナリズムの力、それがもっと発揮できるようになれば、もっといい放送ができるんじゃないか。週刊文春は、ああいう問題を果敢に取り上げてしかも裁判で争うこともいとわない、あそこには腕っこきの弁護士がついていて、判決で勝つ。ある意味、裁判をしても闘うという、きちんと筋が通っている。日本の場合、どうも裁判沙汰になることをテレビ局の幹部は恐れているのかなという気がすることがありますが、いま文春には、とにかくいろんな情報がどんどん飛び込んでくる。「文春に駆け込めば報道してもらえる」ということで、そういう状態になっているということを文春の編集長が書いていましたけど、もっと勇気を持ってしかも文春のようにきちんとしたリーガルな備えも万全に整えた上で臨めば、重要な問題だけれど報道されないということが、少なくなっていくのかなと思います。

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 議論のある問題について、できるだけ全体を伝えるというのは、これはそもそも放送が公共性を持つ上で絶対の条件ですね。だからといって間違った意見も伝えなきゃいけないとか、事実じゃないフェイクの主張も伝えなきゃいけない、ということにはならないと思います。だからいろんな立場いろんな意見があるとして、その中でまともに取り扱うべき意見と、全然相手にならない意見があったとしたら、それを両方とも載せなきゃいけないというのは、これはおかしいですね。BBCが言うdue impartialityがというのはそういうことだと思います。impartialでなきゃいけないけど、しかしそれはdueでなきゃいけない。間違ったことなのか、うそなのか、これを判断するのは放送局の側ですから、ジャーナリストとして判断するということになります。

 「エコーチェンバー現象」というのがありますけど、それを打ち破るのは、本来の表現の自由の考え方で言えば、「モア・スピーチ」なんですね。言論の力でそれを打ち破っていかなければいけない。
 逆に言えば、放送が本当に真実を伝える場なんだ、放送というのはそういうものとしてそういう制度としてできあがっているんだ、だから信頼できる言論機関なんだということがきちんと確立できるようになれば、そちら側の方向でいろいろな事を推し進めていけば、インターネットに一方的に負けてしまうことはない、というのが私の希望的な観測です。でも、「本当にそういう意味で信頼できるような言論機関になっていますか」というのが、いま一番投げかけられている大きな疑問なのではないでしょうか。

【渡辺健策】
1989年NHK入局。報道局社会部、首都圏放送センターなどで記者として環境問題を中心に取材。
2011年から盛岡放送局ニュースデスクとして東日本大震災の被災地取材に関わり、その後、総務局法務部などを経て2022年から現所属。

おススメの1本 2023年06月14日 (水)

ロイター・デジタルニュースリポート2023 概要(Executive Summary)の日本語版を発行#491

メディア研究部(海外メディア)税所玲子

 イギリスのオックスフォード大学のロイタージャーナリズム研究所(Reuters Institute for the Study of Journalism)が、毎年、発行する「デジタルニュースリポート」。
2023年の報告書が6月14日に発表されました

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デジタル化が、人々のニュースに関する考え方や接し方にどのような影響を与えているのか、調査・分析をしているこのプロジェクトに、NHK放送文化研究所は2022年から参加しています。今回は、世界でのリリースと同時にその内容を日本語で読んでいただこうと、Executive Summary(概要)を準備しました。

今回のヘッドラインは、若者層を中心に、ソーシャルメディアを通じてニュースに触れる人がさらに増え、物価高騰の中で購読者数が伸び悩む既存のメディア組織は、さらに苦戦を強いられている、という点です。


オンラインでニュースに触れる主な方法とその割合(2018~2023) ― 全ての国と地域
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 調査をしている46の国と地域の平均をみると、ニュースを報道機関のホームページやアプリで見る人と、ソーシャルメディアを利用して見る人の割合は、2021年以降、逆転していますが、今回はそれが加速したばかりか、TikTokやYouTubeなど動画系のプラットフォームの勢いが増しているということです。

過去1週間にソーシャルネットワークをニュースのために使用した人の割合(2014~2023) ― 一部の国の平均
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 一方、前回のリポートで話題になった「ニュース回避」の傾向も続いていて、ウクライナでの戦争や物価高などの暗いニュースを避けることなどが浮き彫りになっています。今回は、ニュースそのものを避けるのか、特定のニュースを避けるのか、など具体的にどのようにしてニュースを避けるのかにも焦点をあてています。

頻繁にまたは時々ニュースを避けようとしている人の割合(2017~2023年) ― 全ての国と地域
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その他、今回のリポートでは
●メディア批判、●アルゴリズムの影響、●誤情報・偽情報、●ニュースについての議論への参加、●ポッドキャストの動向、●公共サービス放送のほか、毎年継続調査している「ニュースへの信頼」や「関心」などがカバーされています。

余談ですが、翻訳作業では、デジタル化の中で生まれた新しい用語の使い方にも頭を悩ませました。例えば原文で出てくるpublisherという言葉。従来の「出版」だけでなく、放送やオンライン、ゲームなど広くコンテンツを発信する主体を意味していますが、日本語に置き換えるにはどうしたらよいのか。また、ニュースを「見る・読む」だけでなく、「消費する」(consume) が多く用いられています。なるべく日本語で読みやすいように、文脈によって書き分けるなどしてみましたが、果たしてそれが正解だったのか。これからも必要に応じて改善を続けていきたいと思います。

Executive Summaryの日本語版は、こちら
本編のリポート(英語)は下記からご覧になれます。
https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/digital-news-report/2023

また、日本の動向と分析は、去年と同様に夏以降、NHK放送文化研究所の「放送研究と調査」にシリーズで掲載する予定ですので、あわせてご覧いただけると幸いです。


ⅰ) 調査対象国は:地域ごとに原則としてアルファベット順に
(ヨーロッパ)イギリス,オーストリア,ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ(北米・中南米)アメリカ、アルゼンチン、 ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー (アジア太平洋)オーストラリア、香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国  台湾、タイ (アフリカ大陸)ケニア、ナイジェリア、南アフリカ
調査対象は、合計93895人、調査は2023年1月下旬から2月上旬にかけて実施。

ⅱ) 調査のパートナー団体は、NHKのほか、
Google News Initiative、BBC News、イギリスOfcom、アイルランドBroadcasting Authority of Ireland (現Coimisiún na Meán)、オランダDutch Media Authority(CvdM)、フィンランドMedia Industry Research Foundation、ノルウェーFritt Ord Foundation、韓国言論振興財団(Press Foundation of Korea)、イギリスEdelman、ロイター通信のほか、学術支援団体のドイツLeibniz Institute for Media Research/Hans Bredow Institute、スペイン・ナバーラ大学(University of Navarra)、オーストラリア・キャンベラ大学(University of Canberra)、カナダCentre d’études sur les médias、デンマーク・ロスキレ大学(Roskilde University)

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【税所 玲子】
1994年入局、新潟局、国際部、ロンドン支局、国際放送局などを経て2020年7月から放送文化研究所。

ヨーロッパを中心にメディアやジャーナリズムの調査に従事。

調査あれこれ 2023年06月13日 (火)

G7サミット終えて内閣支持率足踏み ~財源問題先送りはどう影響?~【研究員の視点】#490

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 岸田総理大臣はG7広島サミットの議長を務め、ウクライナ支援で足並みをそろえつつ、核兵器のない世界実現の機運を盛り上げようというメッセージを発信。ゼレンスキー大統領が急きょ広島に駆けつけたことも大きなインパクトをもたらしました。外務省幹部は「このところ影が薄くなっていたG7サミットだが、今回は世界に向けた強い発信に成功した」と胸を張りました。

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 ただ岸田総理自身は「それなりの成果はあった」とやや控えめの評価に終始していました。被爆者団体の人たちから「核兵器の廃絶に向けて一歩前進したとはとても言えない」と厳しい評価が発せられたこともあるでしょう。そしてロシアのプーチン大統領がG7に反発するかのように、ウクライナと国境を接するベラルーシに核兵器の配備を打ち出したのも暗い現実です。

 サミット閉幕直後には支持率が急上昇した新聞社の世論調査もありました。しかしその直後に総理秘書官を務めていた長男が公邸の公的スペースで親族による忘年会の記念写真を撮っていた問題が発覚し、更迭されました。「はしゃぎ過ぎの岸田一族」とも評され、その後の各種世論調査には支持率低下のものが目立ちました。

 サミットからちょうど3週間後の6月9日(金)から11日(日)にかけて行われた6月のNHK月例電話世論調査も、岸田総理にとって少々厳しい結果になりました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  43%(-3ポイント)
 支持しない  37%(+6ポイント)

 2月から5月にかけて4か月連続で上向いていたNHK世論調査の内閣支持率が、ここで足踏み状態になったように見えます。この数字を年代別に見ると、40歳以上では「支持する>支持しない」なのですが、18歳から39歳の若い世代では「支持する<支持しない」となっているのが目立ちます。

 もろもろの出来事に対する反応が絡み合って出てくるのが内閣支持率ですが、今回は6月1日に政府の「こども未来戦略会議」が少子化対策の方針を発表した動きも一つの要素になっていそうです。

child_2_W_edited.jpgこども未来戦略会議(6月1日)

☆少子化対策について、政府は今後3年をかけて年間3兆円台半ばの予算を確保し、児童手当の拡充策などに集中的に取り組む方針です。あなたは、この少子化対策に期待していますか。期待していませんか。

 期待している  39%
 期待していない  56%

こちらはすべての年代で「期待している<期待していない」となっています。政府が手当てをばらまくだけでは少子化に歯止めはかからないと冷静に受け止めている人が結構多いことがうかがえます。

☆政府は、少子化対策の財源を社会保障費の歳出改革や新たな支援金制度で確保するとしていますが、具体的な内容は今後検討を進めるとしています。あなたは財源確保をめぐる政府の対応についてどう考えますか。

 すみやかに全体像を示すべきだ  44%
 時間をかけて検討すべきだ  48%

これはちょっと分かりにくい数字です。与党支持者では「すみやかに<時間をかけて」ですが、野党支持者では「すみやかに>時間をかけて」となっていて逆の傾向が出ています。無党派層は相半ばです。

 「少子化対策の財源確保の方法まですみやかに示すべきだ」と考える人たちには、国民に新たな負担を求めるのかどうかを誠実に示してくれないと、いくら良い話でも賛否を判断できないという気持ちがあるのでしょう。

 この新たな国民負担のありなしに向けられる厳しいまなざしは、終盤国会で大詰めの論戦が続いている防衛費大幅増額の財源問題とつながっているように思います。

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 終盤国会の与野党対決法案として参議院財政金融委員会で審議が続く防衛力強化財源確保法案は、国の無駄な歳出を減らして防衛費増額の財源にするというものですが、結論が先送りされている増税の中身と一体のものです。

 この防衛費増額のための増税について、財務省や自民党税制調査会は東日本大震災の復興財源に充てている復興特別所得税(基準所得税額に2・1%相当を上乗せ)の仕組みを部分的に転用する案を示し、結論が先送りされているという問題があります。
 
 12日に福島市で開かれた参議院財政金融委員会の地方公聴会では、「復興の財源を国防の財源に充てるというのは筋違いだ」といった反発が相次ぎました。

fukusima_4_W_edited.jpg参院財政金融委 地方公聴会(福島市 6月12日)

 このところ足並みがそろわない野党各党ですが、この問題では「先に防衛費を対GDP2%にするという目標ありきで、後から国民負担の中身がついてくるというのでは不誠実だ」「取りやすい方法で取るというのは姑息(こそく)だ」という批判は共通です。

 通常国会の会期末21日が近づくにつれ、与党側からは衆議院の解散・総選挙もありうるという発信が相次いでいます。

 ただ、少子化対策でも防衛費増額でも、必要な財源のよりどころとなる国民負担の中身を示すことなく、『つけの先送り』が次々と国民の目に見えてくると岸田政権の先行きに対する不信感は増してくるでしょう。
こういう状況を背負ってでも、岸田総理が会期末の衆議院解散・7月総選挙を選択するのかどうか。

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 自民党内には、財源問題を先送りし続けて時間を作れば選挙に影響はないという楽観論もあります。一方で、サミット後に表面化した東京都での自民党と公明党の与党内選挙協力を巡る行き違いの影響を懸念する声もあります。

 岸田総理の自民党総裁としての任期は来年9月まで。政権の先行きをどう考え、どういう判断を示すか。注目の会期末1週間になりそうです。

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島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。

調査あれこれ 2023年06月09日 (金)

3年に及んだコロナ禍は、人々に何をもたらしたのか? ~「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)」の結果から~#489

世論調査部(社会調査)中川和明

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新型コロナウイルスの法律上の扱いが5月8日から変更されました。
法律上の扱いが変わったことによって、国が法律に基づいた行動制限を求めることができなくなったほか、医療費の扱いについても見直しが行われました。
また、新型コロナの感染者数は、医療機関などが毎日すべての感染者数を報告する「全数把握」から、指定された医療機関が1週間分の感染者数をまとめて報告する「定点把握」に変更され、3年以上続いたコロナ対策は、大きな転換点を迎えたことになります。

こうしたことを受けて、社会のさまざまな分野で、感染拡大以前の日常に戻そうという動きが加速していますが、3年に及んだコロナ禍は、人々に何をもたらしたのでしょうか。
今回は、これについて、NHK放送文化研究所(以下、文研)が行った世論調査をもとに、少し考えてみたいと思います。

コロナの感染拡大によって、さまざまな社会経済活動が制約を受け、多くの人がこれまでとは違った生活を営まざるを得ず、大きな影響を受けました。

 文研が2022年11月から12月にかけて行った「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)」で、感染拡大をきっかけにした生活の変化は、自分にとって、プラスの影響とマイナスの影響のどちらが大きかったと思うかを尋ねました。
『マイナスの影響が大きかった(どちらかといえば、を含む)』と答えた人が74%で、『プラスの影響が大きかった(どちらかといえば、を含む)』と答えた人の23%を大きく上回りました。これを前回(2021年)、前々回(2020年)の調査と比べてみると、『マイナスの影響』、『プラスの影響』ともに、大きな変化はありませんでした(図①)。

図① プラスとマイナスどちらの影響が大きかったか

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

2022年の調査結果を男女年層別にみますと、各年代とも『マイナスの影響』と答えた人が多くなりましたが、特に、男性の70歳以上と女性の60代で8割を超え、全体の回答値(74%)を上回りました。一方、『プラスの影響が大きかった』は、男性の30代から50代、女性の30代と40代で30%ほどとなって、全体(23%)よりも高くなりました。中でも、男性の30代は『プラスの影響』が大きかったと答えた人が37%で、4割近くの人がコロナ禍での生活の変化を肯定的にとらえていました(図②)。

図② プラスとマイナスどちらの影響が大きかったか
       (男女、男女年層別)

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

この結果をみて、コロナ禍をプラスだと思う人がいるんだ。その理由は何だろうと思われる方も多いと思います。
そこで、『プラスの影響が大きかった』と回答した人に最もあてはまる理由をひとつだけ選んでもらった結果をみてみます。
最も多いのは、「手洗いなどの衛生意識が向上したから」の42%で、次いで、「家族と過ごす時間が増えたから」が21%、「在宅勤務など柔軟な働き方ができるようになったから」が12%、「家でできる趣味など今までとは違う楽しみを見つけられたから」が8%などとなりました(図③)。

図③ 感染拡大による生活の変化『プラスの影響』の理由
(該当者:『プラスの影響が』大きいと答えた人=524人)

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

 回答の多かった「手洗いなどの衛生意識が向上したから」や「家族と過ごす時間が増えたから」など4つの回答について、年層別に詳しくみてみると、「手洗いなどの衛生意識が向上した」は、60歳以上で7割近くに達したのに対し、18歳から39歳では23%と若年層ほど低くなっていて、高齢層など年齢の高い人たちで多く感じられた理由であることがわかります。
一方、「家族と過ごす時間が増えた」は、40代・50代で26%と、全体(21%)を上回ったほか、「在宅勤務など柔軟な働き方ができるようになったから」と「家でできる趣味など今までとは違う楽しみを見つけられたから」は18~39歳でそれぞれ全体を上回っていて、若年層や中年層を中心に、働き方や時間の使い方の変化を肯定的にとらえている人たちが一定程度いることがわかります(図④)。

図④ 感染拡大による生活の変化『プラスの影響』の理由
(「手洗いなどの衛生意識が向上」「家で過ごす時間が増えた」
「柔軟な働き方」「今までと違う楽しみ」:年層別)
(該当者:『プラスの影響が』大きいと答えた人=524人)

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

 さらに新型コロナウイルスの感染拡大による人と人との関係への影響などを考えるため、次の調査結果も紹介したいと思います。
新型コロナの感染拡大の影響に関して、「人と実際に会うことの大切さがあらためてわかった」や「人とつながることに関してインターネットのありがたさがあらためてわかった」など4つの項目を挙げて、自分の考えがあてはまると思うかどうかを尋ねました。
『あてはまる(かなり+ある程度)』と答えた人が最も多かったのは、「人と実際に会うことの大切さがあらためてわかった」の76%で、次いで「人とつながることに関してインターネットのありがたさがあらためてわかった」が48%、「義理で会っていた人に会わなくなってよかった」が45%、「人と会うのがおっくうになった」が36%となりました(図⑤)。


図⑤ 感染拡大の影響に関して『あてはまる』もの

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

 『あてはまる』と答えた項目のうち、「人と実際に会うことの大切さがあらためてわかった」と「義理で会っていた人と会わなくなってよかった」、「人と会うのがおっくうになった」の3つについて、男女年層別にみると、「人と実際に会うことの大切さがあらためてわかった」は、女性の60代で全体を上回っていますが、おおむね、どの年代でも7割から8割ほどに達していて、年層ごとに大きな差はありませんでした。
 一方、「義理で会っていた人と会わなくなってよかった」は、男性の40代、50代、女性の50代以下の年代で、全体を上回って半数を超えていて、これまでの職場や近所、親戚、さらに、子どもを介した親同士のつきあいなどが減ったことで、どちらかといえば、義理で会っていた人たちと会うことがなくなり、かえって、よかったと答えた人が多くなったと考えることもできます。
他方、「人と会うのがおっくうになった」は、女性の30代から50代で全体より高くなっています。この要因について、明確に判断できる材料はありませんが、特に女性で高い傾向が出ていることから、例えば、女性では、コロナ禍で家にいることが多くなった影響で、外出するために化粧をしたり、服装を選んだりすることが面倒になったと感じている人がこうした回答をした可能性も考えられます(図⑥)。

図⑥ 感染拡大の影響に関して『あてはまる』もの
(「人と実際に会うことの大切さがわかった」「義理で会っていた人と会わなくなってよかった」
「人に会うのがおっくうになった」:男女年層別)

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文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

 新型コロナの感染拡大は、人と人との接触が制限され、多くの人が今までと違った生活を余儀なくされたことで、マイナスの影響が大きかったと感じている人が多くなりました。
ただ、そうした中にあっても、若年層や中年層の人たちを中心に、家族と過ごせる時間が増えたことや、在宅勤務など柔軟な働き方ができるようになったこと。さらに今までと違う楽しみを見つけられたことなど、コロナ禍を前向きにとらえる人たちがいることも、調査結果は示してくれています。

また、社会の分断が指摘されたコロナ禍ではありましたが、人と実際に会うことの大切さがあらためてわかったなど、多くの人が人と人のつながりを大切だと思い、同じ価値観を共有した点も、コロナ禍がもたらしものと考えることができると思います。
さらに、今までの生活を変えざるを得なくなったことで、義理で会っていた人と会わなくなってよかった、かえって面倒なことをしなくてよくなったと前向きにとらえる向きもみられました。

新型コロナの感染拡大の影響について、さまざまな受け止めがあると思いますが、3年に及んだコロナ禍とは何だったのか。
その答えが出るにはもう少し時間が必要なのかもしれませんが、これからも関心をもってみていきたいと思います。

「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)」のその他の結果については、「コロナ禍3年 社会にもたらした影響-NHK」で公開しています。ぜひご覧になってみてください。
また、「放送研究と調査 2023年5月号」では、3年にわたるコロナ禍によって、人々の意識や暮らしがどう変わったかなどについて詳しく紹介しているほか、本ブログでも、「マスクの着用『個人の判断』になってから2か月 その後、どうなった?」などで取り上げていますので、ぜひご覧ください。

メディアの動き 2023年06月07日 (水)

NHKを巡る政策議論の最新動向③NHKのネット活用業務の必須業務化に向けた説明に質問相次ぐ【研究員の視点】#488

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

はじめに

 5月26日、NHKは総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下、在り方検)」の公共放送ワーキンググループ(以下、WG)第8回会合において、現在は任意業務として行っているインターネット活用業務(以下、ネット活用業務)について、今後は必須業務化を前提に考えたいという意思を表明しました1)。そして、必須業務の範囲については、「『放送と同様の効用』をもたらす範囲に限って実施することが適切2)」との説明を行いました。 
NHKの説明の詳細については後ほど詳しく触れますが、説明の後に行われた約80分間の議論では、NHKに対して構成員たちから数多くの厳しい質問が投げかけられました。「質疑がかみ合っていない、(NHKは)かならずしも答えていないところが多々見受けられる3) 」との指摘もあり、WGでは構成員の質問を整理した上で、再度NHKに回答を求めることになりました。

 WGの3日後の同月29日には自民党の情報通信戦略調査会が開かれ、NHKは同じテーマでヒアリングを受けました。調査会は非公開で行われましたが、NHKはWGの質疑で述べた内容よりも踏み込んだ見解を述べたことが新聞などで報じられました4)。そして、6月7日午後に開催される在り方検の親会では、再びNHKによる報告が行われます。また同日午前にはWGも開かれ、NHKのネット活用業務の必須業務化に対して懸念を述べてきた新聞協会と民放連が主張を述べることになっています。

 以上のように、NHKを巡る政策議論は急ピッチで進んでいますが、こうした最中に発覚したのが、現在は業務として認められていないBSの同時配信の開発に向けた設備整備費用として、2023年度の予算として9億円を計上することを決定し、その後、調達や契約の手続きを進めていたという問題です。5月29日、NHKは予算・事業計画との明確な関係性について内外に十分な説明が行われてないまま手続きが進められていたことは適切でなかったとして、必要な是正措置をとったことを総務省に報告しました5)。総務省は「NHKにおける契約手続きその他の意思決定のプロセスについて、ガバナンスの面で再確認」を期待するとのコメントを発表。NHKは今後、会長直下に弁護士等からなる検討会を設置し、改革を行っていくとしています。ネット活用業務の必須業務化に向けた議論が大きく注目され、また、それを審査・評価するためのNHK内部のガバナンスの強化が問われている中でなぜこのような事態が起きてしまったのか。NHKは言葉を尽くして説明していく必要があります。

 いずれにせよ、NHKのネット活用業務の必須業務化というテーマは、視聴者・国民の負担、今後の日本社会におけるNHKや放送メディアの姿、デジタル情報空間における課題解決のあり方など、非常に多くの重要な論点が複雑に絡み合ったものであることは言うまでもありません。本ブログでは政策議論にできるだけ並走しながら論点を整理し、今後の議論を読み解くための視座を示していきたいと考えています。第3回の今回は、在り方検におけるNHKの説明とその後の構成員の意見・質問の内容を論点別に私なりに整理します。なお、NHKが回答した内容については、前述したように、再度NHKに回答する機会が与えられることになりましたので、その際にきちんとまとめたいと思います。

1. NHKの説明の概要

 NHKが第8回会合で示した資料は、NHK自身が「すでに報告をしている内容も多く含まれている」と前置きで語ったように、去年11月の第3回で報告した資料をベースに作成されたものでした6) 。その資料をもとに、NHKはまず、「視聴者国民の皆様のメディアへの期待を踏まえてNHKの進むべき道を考えるのが適切である」という認識を改めて示しました。そして、ネット活用業務の必須業務化については、視聴者国民からの期待が高い「情報空間の参照点」となるような信頼できる基本的な情報の提供と、新聞や民放などの「信頼できる多元性確保」への貢献を基本的な考え方としていることを述べました。その上で、今回は①業務範囲、②ガバナンスのあり方、③負担のあり方、④(情報空間全体の)多元性確保への貢献、の4点について説明しました。以下、それぞれについて、NHKの説明とそれに対する構成員の主な意見もしくは質問を対照させて見ていきます。なお、本ブログの執筆時点では総務省のウェブサイトに議事録が公開されていないため、構成員の発言は筆者のメモからの意訳であることをあらかじめお断りしておきます。

2.必須業務の範囲と規律のあり方

*NHKの説明
 図1は、NHKが今回初めて示した必須業務の範囲に関する考え方です(図17))。ネット活用における必須業務の範囲は、『放送と同様の効用』をもたらすものに限って実施していくことが適切であるとし、放送の同時・見逃し配信ならびに放送と同一の情報内容を多元提供する報道サイトを基本とする、との考えを示しました。理由としては、視聴者・国民の間には、新聞や民放などの伝統メディア全体への期待が高いということを踏まえたとしています。 

(図1)

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 また、『放送と同様の効用で異なる態様のもの』についても一部必須業務にすることが考えられるとしました。『異なる態様のもの』、つまり、放送と同一の内容ではないけれど同様の効用をもたらすものとは何を指すのでしょうか。NHKは4つの例を示しながら説明を行いました。図2はその4例について、NHKの資料と説明をもとに、問題意識と具体的な内容に分けて私なりに簡略化して示したものです。詳細はNHKの報告資料8)を参照ください。

(図2)

table_murakami.png※OTT9)

 また、NHKはプラットフォーム等を通じた提供も含めて、サービスの横幅が広がることがある一方で、縦幅が縮まることも示唆しており(図1の下段の点線で囲った部分)、今後一層、NHKとして経営資源の選択と集中を行っていくことを強調しました。

 NHKは必須業務化した際の規律のあり方についても触れています。ネット活用業務が必須業務となった際には、「全体として公平性確保、多角的論点提示等の規律が必要」であり、「『放送』同様の自律型モデルが望ましいと考える」と述べました。

*構成員の意見・質問
 NHKが必須業務の範囲は、『放送と同様の効用』をもたらすものに限るとしたことについて、構成員からの意見が相次ぎました。まず、宍戸常寿構成員からは、「放送と同様の効用が一体何なのかについて、個別案件を説明し、NHKの独りよがりではなくファクトデータに基づく裏付けがあるということは非常に重要。ただ、ネット活用業務を必須業務化することで、全体像として何を目指していこうとしているのかを発信してほしい。どこかのタイミングで示してもらいたい」とのコメントがありました。大谷和子構成員からも、「NHKは放送と同様の効用という言葉を使っているが、国民・視聴者にとってどんな効用があるのか、必須業務とすることの意義について、NHK自身の言葉で聞きたい」と、同趣旨のコメントがありました。落合孝文構成員からは、「ネット活用業務においても放送と同様の効用という提起だったが、電波で情報発信していた時代の放送に社会的に求められるものと、ネット社会で情報が氾濫する中で求められる役割については、実態が変わっている部分もあるのでは」という問題提起がありました。
 放送と同様の効用で『異なる態様のもの』に関する意見や質問も複数ありました。その多くが、NHKが任意業務として、受信契約の有無にかかわらず広くネット上で展開してきた、番組の周知・広報、ニュースを深掘りするテキスト記事などの「理解増進情報」についてでした。「これまで理解増進情報については、なしくずし的な拡大ということを民放連や新聞協会が懸念してきたが、『放送と同様の効用』と理解増進情報とはどういう関係にあるのか?」(落合構成員)。「理解増進情報は廃止になって、『放送と同様の効用で異なる態様のもの』に衣替えしていくのではないか。その際に、これまで言われていた「歯止めがない」という問題と同じ問題が発生するのでは?」(曽我部真裕構成員)。このほか、「これまでの理解増進情報の中で、公共放送に関する理解を深めてもらうものやサービスへの誘導についてはどう考えているのか」(瀧俊雄構成員)、といった質問や、「現在の任意業務における費用は190億円強で行っており、多くは放送との共通費であると理解しているが、純粋にネット業務にかかっている費用はどのくらいか?また、この先、どのくらいの額を想定しているのか?」(内山隆構成員)といった質問もありました。また曽我部構成員からは、「成長性は低いが公共性が高いアーカイブの提供についてはより積極的に必須業務に位置づけていくことが求められるのではないか?」といった意見もありました。

 また、ネット活用業務が必須業務化された場合、放送と同様の規律はネット業務においてどうなるのか、という点についての質問も相次ぎました。まず具体的な内容としては、「NHKプラスは現状では全ての番組が流されているわけではないが、必須業務化した際には全部流す方向で考えられているのか?またBSについてはどう考えているのか?」(長田三紀構成員)、「ネット必須業務化に関して、あまねく受信義務についてはどう制度として整理していくのか?」(内山構成員)、「番組編集準則やあまねく受信義務、放送番組審議会、重大事故報告などの放送法の規律がネット活用業務にかかることを考えた場合、NHKが業務を行う上で支障はあるか?」(山本隆司構成員)という質問がありました。林秀弥構成員からは質問ではなく、「ネット上の規律を法的に措置するということには慎重であるべき。協会内部の自主自律にとどめることが妥当」という意見が述べられました。

3.ガバナンスのあり方

 NHKのネット活用業務が必須業務になったとして、民間事業者との公正競争を確保するという観点から、どのような内容のサービスをどのくらいの費用をかけて行うのか、事前の審査や事後の評価の仕組みはどうあるべきか、そして国はどこまでその仕組みに関わるべきなのか。このテーマについては、これまで約半年行われてきたWGの議論でも多くの時間が割かれてきました。中でも、構成員たちの関心が高かったのが、経営委員会を軸とした組織のガバナンス強化にNHKがどう取り組むかという点でした。NHKの取り組みの中身によって、審査や評価に関する国の関与の度合いが異なってくるためです。議論では、国の関与を強めるよりも、できる限りNHKの自発的な取り組みに期待したい、という声が多かったように思います。では、NHKはどのような説明を行ったのでしょうか。

*NHKの説明
 NHKはネット活用業務が必須業務となった場合、放送各波と同様に、毎年度の予算・事業計画で規模、内容を示すことになるのではないかと述べ、現在の放送同様のガバナンスを想定していると発言しました。また、一定の規模の新規サービスを始めるにあたっては、経営委員会の監督のもと、サービスの公共性が市場影響を上回るかどうかを審査する、BBCで実施中の「公共価値テスト」のようなものを事前に実施した上で業務範囲に追加していくことも検討したいということを述べました。「公共価値テスト」は、サービスの公共性が市場影響を上回るかどうかを審査するテストで、イギリスの公共放送BBCが実施しています。加えて、BBCが全体状況の変化に合わせ、民間企業との公正競争が確保されているかどうかを数年に一度チェックする競争レビューのようなものを行うこともあり得るのではないかとしました。

*構成員の意見・質問
 林構成員からは、「BBCがこうだから日本も横にならえ、ということにはならない。総務省内に市場検証会議のようなものを立ち上げて、定点観測的にレビューを行うべき。今回の説明で書かれている程度のことでもし競争ルールをすますというのであれば、懸念を払拭するのは難しいし賛同しがたい」と厳しいコメントがありました。また、林構成員は、事前のチェックに関しては「メディアを巡る市場構造の激変の可能性をはらむ制度改正が行われようとしているときに、チェックやガバナンスを当事者による強化だけに委ねていいのか。必須業務化するのであれば、執行部をチェックする経営委員会による監督と機能強化はマストだがそれでは足りない。少なくとも最初の数年間は費用の上限も含め、現在の実施基準を作成して総務省のチェックにかけるべき」とも発言。そして「総務省といっても電波監理審議会の諮問と議決というプロセスを踏むので、いわゆる政治色が入ることはないだろう」と付け加えました。
 宍戸構成員からも、「従来のガバナンスで本当に十分なのか、どういう工夫をするつもりなのかがはっきりしないと、外からの強い枠組みを考えていかざるを得ない。電波監理審議会もしっかりした組織だが、政府の監督が及ぶことはやはり慎重な配慮が必要。自律的な判断をNHKが行い、それを外から評価する形でないとうまく回らない。だからこそ経営委員会制度があるのだが、WGの議論の温度感が経営委員会にきっちり伝わっているのか気になっている」という厳しいコメントがありました。曽我部構成員からも、「一般的なNHKのガバナンスで処理していくということになると、個別のネットのコンテンツに対する批判があることを考えると、経営委員会でそれをチェックするというのは難しいのではないか。特別なガバナンスが求められてくるのではないか」との指摘がありました。

4.負担のあり方

 この論点についても、WGではこれまで多様な角度から議論が行われてきました。その結果、テレビを所有しておらずNHKと受信契約を締結していない人についても、アプリをインストールし、個人情報の入力など、何らかの強い利用の意思を示した場合には受信契約の対象になり得るのではないか、という一定の方向性がみられていたと思われます10)

*NHKの説明
 NHKが示した考え方も、WGでの一定の方向性と近しいものといっていいと思います。NHKは、「多機能端末であるスマートフォンを所有しただけで、現在のテレビ受信機のように扱うことは選択肢には入らない」とした上で、「公平性、公平負担の観点から、同様の効用が得られているのであれば、同様の負担を頂くのが適当ではないか」と述べました。そして制度的には、「“受益感”が無い“所有即契約”ではなく、“受益感”が公平性を上回る有料契約=“サブスク”でもない形」であるとし、詳細は詰めていく必要があるとしました11)

*構成員の意見・質問
 この論点については、WGの一定の方向性と近しいものだったこともあり、ほとんど意見はありませんでしたが、山本構成員からNHKに対し、法制度を今後WGで議論していく上で、実務上留意してほしい要望や積極的な考えはないか、との問いかけがありました。

5.(情報空間全体の)多元性確保への貢献

*NHKの説明
 NHKからは、具体的な内容として大きく2つの方向性が示されました。1つは、新たに取り組みが始まっている、伝統メディアによる情報空間全体の多元性確保に向けた動きへの貢献(図312))、もう1つが放送分野における貢献です。こちらは、民放があまねく受信努力義務などを遂行するにあたり、NHKは必要な協力をするよう務めなければならないという改正放送法の内容を意識したものであると思われます。具体的には放送ネットワークの効率的な維持・管理、日本のコンテンツ産業の後押しや放送ソフトウエア開発等を挙げていました。

(図3)

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*構成員の意見・質問
 内山構成員からは、「民放ローカル局の番組の配信としてNHKプラスへの参加を考えた場合に NHK側は協力可能か?どういった形の供給が可能か?視聴者に見える表舞台ではなかなか難しいという感じもするが、例えば(ユーザーにコンテンツをスムーズに届けるためのキャッシュサーバーのネットワークである)CDN のようなバックヤードの部分で協力するということはありえるのか?」「国際展開において、日本のコンテンツホルダーやIP(知的財産)ホルダーとの協力への展望はあるか?」といった具体的な質問がありました。さらに「2040年におけるNHKの競争相手は誰だと考えているのか?」という問いかけもありました。曽我部構成員からは、「多元性確保について必須業務として取り組むのであれば、案件があってそれに個別ベースで取り組むというのではなく、NHKが計画性をもって戦略的に施策を考えるというのがあるべき姿ではないか」との指摘がありました。

おわりに

 今回のブログは、NHKの説明とそれに対する構成員の意見や質問を整理してまとめ、できるだけWGの議論の雰囲気を伝えられればと思いましたが、いかがでしたでしょうか。80分の議論の最後には三友仁志主査から、「NHKには情報空間の健全性やメディアの多元性多様性を維持するために、ネット活用に向けた日本のリーダーとしての矜持(きょうじ)を伺いたかった」「NHKに関する様々な懸念が示されているところ。ぜひNHKにはそれらを自らが払拭する一層の努力を期待している」との重い言葉が投げかけられました。
WGや在り方検の親会の議論は、今夏のとりまとめに向けたラストスパートに向かっています。今後も引き続き議論に並走しながら、論点を整理し、議論における課題があれば、その都度指摘していきたいと考えています。


1)   在り方検・公共放送WG第8回 NHK説明資料 https://www.soumu.go.jp/main_content/000882687.pdf

2)   NHK井上樹彦副会長の発言

3)   三友仁志座長の発言。その他、落合孝文構成員からも同様の発言があった

4) 複数の新聞報道によると、ヒアリングにおいてNHKは、必須業務化後は、ネット活用業務は「映像と音声が伴うものに純化したい」とし、テキスト情報のみの報道については、今後見直す可能性についても触れたとのこと

5)   https://www.nhk.or.jp/info/otherpress/pdf/2023/20230530_1.pdf

6)   第3回のNHKの報告内容については下記で詳細を記載している
  https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/100/478763.html

7)   1)参照 P11

8)   1)参照 P13~16

9)   オーバーザトップの略。ネット回線を通じてコンテンツを配信するストリーミングサービスのこと

10)   議論の詳細については https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2023/05/18/

11)   1)参照 P20~23

12)   1)参照    P25

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村上圭子
報道局でディレクターとして『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』等を担当後、ラジオセンターを経て2010年から現職。 インターネット時代のテレビ・放送の存在意義、地域メディアの今後、自治体の災害情報伝達について取材・研究を進める。民放とNHK、新聞と放送、通信と放送、マスメディアとネットメディア、都市と地方等の架橋となるような問題提起を行っていきたいと考えている。

調査あれこれ 2023年06月06日 (火)

中高生の悩みの相談相手は... ~第6回「中学生・高校生の生活と意識調査」から~【研究員の視点】#487

世論調査部 (社会調査) 中山準之助

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 今月6月には「父の日」、先月5月には「母の日」と、親との関係性について考える機会が多くなるのではないでしょうか。そこで、今回、中高生とその親との意識に迫る調査結果をご紹介します。
 文研世論調査部では、昨夏「中学生・高校生の生活と意識調査2022」(以下、「中高生調査」)を実施し、中高生に、「悩みごとや心配ごとを相談するとしたら、主に誰に相談するか」を尋ねました。結果は、中学生では、「お母さん(グラフのオレンジ色)」と「友だち(グラフの薄紫色)」が3割台で同程度。高校生では、「友だち」が4割で最も多いものの、次いで「お母さん」が3割となりました。「お母さん」は、「友だち」と同様、悩みごとなどの相談相手としても重要な位置を占めているのが確認できます。

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 男女中高別にみると、女子中学生と女子高校生では、「お母さん」と「友だち」がそれぞれ4割程度で、有意な差がなく、同性の親が、悩みや心配ごとの相談相手としても、友だちと並んでとても重要な存在であるのが分かります。また、男子中学生でも「お母さん」が28%、男子高校生では「お母さん」が25%で、男子の中高生も、4人に1人が「お母さん」を選び、男子からしても、「お母さん」が頼りになる存在であると言えそうです。

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 では、親から見たらどうなのか。昨夏2022年に実施した世論調査「中高生調査」では、中高生の親に、「子どもが悩みごとや心配ごとがあるときに、主に誰に相談すると思うか」を尋ねました。結果は、父親の回答では、「母親」が64%で最も多く、次いで「友だち」が16%、「父親(自分)」は6%でした。一方の母親では、「母親(自分)」が44%で最も多く、次いで「友だち」が30%、「父親」は5%でした。いずれもグラフのオレンジ色で表した「お母さん」にあたる部分が最多で、父親と母親ともに「母親の存在は大事である」と考えている傾向がみてとれます。特に父親で「母親」の傾向が強いようです。

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 なお、「中高生調査」は、これまでに1982年、1987年、1992年、2002年、2012年と5回実施し、中高生の親に「子どもが悩みごとや心配ごとがあるときに、主に誰に相談すると思うか」を尋ねてきました。
 郵送法で行った2022年の調査とそれ以前の調査は、調査手法が異なるため、単純に比較はできませんが、過去5回の変化を見ても、オレンジ色の「お母さん」にあたる部分が、父親では過半数で推移、母親も3割台で推移してきたことが分かります。

<参考・過去調査> 父母への調査 子どもが悩みごとや心配ごとを誰に相談すると思うかgraph4.png

 今回は、母親が比較的大きな割合を占めた設問を紹介しましたが、「中学生・高校生の生活と意識調査2022」では、親と子の関係や、親と子の意識の違いなど、さまざまな分野で迫っています。
 ・ 一生懸命勉強すれば将来よい暮らしができるようになると思うか。
 ・ 夫婦の子育て分担
 ・ コロナ禍のストレスは?
 ・ 将来、海外で力を発揮したいか。 将来、海外で力を発揮してほしいか。
 ・ 18歳で大人として扱われることについて などなど
ぜひ、その他の結果や論考もご覧ください!

中学生・高校生の生活と意識調査2022の結果は、こちらから!↓↓↓
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20221216_1.html

コロナ禍の不安やストレス,ネット社会の中高生
~「中学生・高校生の生活と意識調査2022 」から①~
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20230501_5.html

ジェンダーをめぐる中高生と親の意識
~「中学生・高校生の生活と意識調査2022 」から②~
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20230601_5.html

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【中山準之助】
2018年からNHK放送文化研究所で、視聴者調査や社会調査の企画や分析に従事。
これまで「視聴率調査」「接触動向調査」、「東京五輪・パラ調査」「復帰50年沖縄調査」「中高生調査」などを担当。
特に、アナウンサーとして盛岡局で勤務していたとき、東日本大震災が発生し、被災各地の取材を重ねた経験から「震災10年調査」はじめ、『災害・防災に関する調査』を実施し、ライフワークとして研究中。

執筆した記事
文研ブログ
#250 何が避難行動を後押しするのか!? ~「災害に関する意識調査」結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/429627.html
#341 被災地の人々が求めている復興とは? ~「東日本大震災から10年 復興に関する意識調査」結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/453673.html
#422 いまの沖縄の人たちの思いとは? ~「復帰50年の沖縄に関する意識調査」結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/473346.html

おススメの1本 2023年06月05日 (月)

自然番組の源流となる「生態放送」 90年前の6月5日に日本初の生放送【研究員の視点】#486

世論調査部 (社会調査) 小林利行

6月5日が何の日か知っていますか?
あまり知られていないのですが、「ダーウィンが来た!」や「さわやか自然百景」などの自然番組の源流となる、野生動物の鳴き声をラジオで流す「生態放送」という番組が日本で初めて放送された日なのです。

90年前(1933年)の6月5日の早朝、今の長野市の戸隠山から、野鳥の鳴き声が全国に生放送で届けられました。
野生動物相手の生放送という難易度の高い取り組みに、開局2年目で人も機材も少なかった当時の日本放送協会の長野放送局が日本で初めて成功したのです。

naganokyoku_1_W_edited.png日本初の「生態放送」に成功した長野局の面々

この番組はリスナーからの評判もよく、その後各放送局が競うようにして同様の番組を放送しました。
(録音機が発達していなかったことから、1941年ごろまでは「生態放送」は全部生放送でした)
そしてそのノウハウはテレビの自然番組に受け継がれ、コアなファンを持つジャンルの1つとして今でも独特の存在感を示しています。
このブログでは、日本で初めての「生態放送」について簡単に紹介したいと思います。

○キーパーソン 猪川珹
そもそもの発端は、長野局の猪川珹初代局長のひらめきでした。
当時の職員の手記によりますと、局の慰安旅行で戸隠山に訪れた際に、野鳥が盛んに鳴くのを聞いて、これを番組にできないかと思い立ったそうです。
猪川局長は、日頃から長野の特色を生かした全国向けの番組制作を強く意識していて、いつも「何かないか」と探していたといいます。そのアンテナに引っかかったのが戸隠の野鳥の鳴き声だったというわけです。

さっそく猪川局長は、この計画を当時の日本放送協会の中山龍次理事に相談します。しかし中山理事は、▼放送中に鳥がうまく鳴いてくれるかということと、▼鳴いたとしてもそれをリスナーが興味を持って聞いてくれるかということを心配して、なかなか承認しなかったそうです。

○「生態放送」が承認されたひとつの偶然
ところが、ちょうどそのころ中山理事は、ある事実を知ることになります。
アメリカの放送局のNBCが、伊豆諸島にある大島の三原山の火山活動の様子をアメリカ全土に生放送したいと希望しているというのです。
このとっぴな話に中山理事も驚いて関係者に事情を聴いたところ、何年か前に、NBCがイタリアの火山の噴火の音をアメリカで生放送したら、本土に火山のないアメリカのリスナーに大好評だったらしいのです。
そしてその関係者は、「その土地に直接行かなければ聞けないようなものを、自分の家や街角で聞けるという番組が、アメリカではリスナーに特に好まれている」とも話しました。
これを聞いた中山理事は、猪川局長の提案を承認することに決めたそうです。

○さまざまな制約
アメリカの事例から、野鳥の鳴き声を届ける番組がリスナーに興味を持ってもらえそうだということはわかりましたが、長野局としては、中山理事のもう1つの心配の「放送中にうまく鳴いてくれるのか」をクリアしなければなりません。

そこで局の関係者は、地元の人に話を聞きながら、放送予定の早朝に戸隠山中で最も野鳥が鳴く場所を探し始めました。
そして最終的に、戸隠神社の近くの小さな森を中継現場としました。

ただし、さまざまな制約がありました。

まず場所ですが、当時の長野局が持っていた一番長い中継線が1キロメートルだったことから、電話線につなぐ拠点となる戸隠の郵便局を中心として半径1キロ以内という制限があったのです。
1キロというと広いように感じますが、鳥がよく鳴くうえに、そこまで放送機材を安全に運べてマイクなどもうまく設置できるような場所となると、探すのはなかなか難しかったようです。

それから、中継に使う郵便局の電話線についても、放送中に急病人が出るなどの緊急事態が発生して電話を使う必要が生じたら、直ちに放送をストップするという約束で借りていました。
病人などを優先するのは当然のことですが、うまく野鳥が鳴いてくれたとしても放送を中断する可能性もあったわけです。

○ガラス細工を積み上げるように
さて、場所も決まっていよいよ放送当日を迎えます。
当日はマイクを3つ用意しました。1つは基本的にアナウンサー用で、2つが野鳥用でした。
少しでも鳥の鳴き声を拾いやすいようにと、野鳥用のマイクは木につるしました。

mic_2_W_edited.png戸隠山の木につるされたマイク

このマイクも、おいそれと設置できたわけではありません。
当時のマイクはスタジオで使うことが前提だったので、早朝の山中の湿気が故障につながる可能性が高かったといいます。
その対策として、乾燥材を詰め込んだ箱にマイクをしまっておいて、中継直前に取り出すという方法で対応しました。

このように、1つ1つの作業に神経をとがらせながら、まるでガラス細工を積み上げていくように準備を進めたのです。

○現場の喜びを代弁した青と白のきれ
そして、午前5時40分から20分間の生放送が始まりました。
実際の放送の音源は残っていないのですが、実況を担当した岡部桂一アナウンサーが、その手記の中で現場の様子をドラマチックに再現しています。
「うぐいす、ホトトギス、かっこうがトリオとなって盛んに鳴きだしたときは本当に嬉しかった。ふと操作係の平井君と青木君を見ると、白と青のきれを盛に振るではないか。ホトトギスを感じたら白、かっこうを感じたら青いきれを振るように約束していたからである」

おそらく、青と白のきれを使って、鳴いた鳥の種類をアナウンサーに知らせるという体制だったのでしょう。
岡部アナウンサーも、うまく鳴いてくれるかどうか心配していたようですが、ふたを開けてみれば予想以上にうまくいったようです。
もちろん現場では、スタッフが歓声を上げるわけにはいきません。そのかわり、青と白のきれを力いっぱい振り上げて、その喜びを表していたのではないでしょうか。

○「生態放送」の “隠れテーマ”
実は、長野局をはじめとした各放送局の「生態放送」への挑戦には “隠れテーマ” がありました。
それは「地域から中央へ!」です。
当時のラジオ放送には、中央(大都市)の文化を地域に広げるという目的もあったといわれています。つまり「中央が送って地域が受け取る」という形です。そんな中で、地域から中央に打って出ることのできる貴重なコンテンツの1つが「生態放送」だったのです。
おそらく、地域局ならではのものを全国に届けたいという関係者の思いが、野生動物相手の生放送という冒険にも踏み切らせたのでしょう。

今回紹介した長野局の取り組みは成功しましたが、中には放送枠の30分間に鳥がまったく鳴かなかったという壮大な失敗談もあります。
それも含めて「放送研究と調査 2016年4月号」では、初期の「生態放送」について詳しく紹介しています。
興味のあるかたは、ぜひご覧ください。

おススメの1本 2023年06月02日 (金)

子ども向け造形番組の変遷~『NHK年鑑』からみた『できるかな』『つくってあそぼ』『ノージーのひらめき工房』~#485

計画管理部 久保なおみ

 NHKの幼稚園・保育所向け番組『できるかな』で「ノッポさん」として長く親しまれた俳優の高見のっぽさんが、昨年亡くなられました。相棒のキャラクター「ゴンタくん」との掛け合いも絶妙で、ひと言もしゃべらずにパントマイムでダイナミックな工作を造り出す姿が人気でした。
NHKではテレビ放送を開始して4年目の1956年から「幼稚園・保育所向け」の番組を制作しており、中でも子どもたちの表現意欲や創造力を高める“造形”がテーマの『できるかな』と『つくってあそぼ』は20年以上にわたって放送され、多くの子どもたちに親しまれました。私は『つくってあそぼ』『なかよくあそぼ』『うたってあそぼ』『かずとあそぼ』『お話でてこい』などの番組を担当していましたので、今回は幼稚園・保育所向けとして始まった造形番組が変遷していった背景を、みていきたいと思います。

 『できるかな』の前身である『なにしてあそぼう』は、1966年に“絵画制作番組”として新設されました。『NHK年鑑』1) には「幼稚園・保育所の時間」枠のひとつとして掲載されており、1970年『できるかな』に改定された際、以下のようにそのねらいが記されています。

 ―4年間継続した絵画制作関連番組『なにしてあそぼう』に終止符を打ち、新たに同じく絵画制作番組『できるかな』をスタートさせた。意図するところは前番組『なにしてあそぼう』が、あそびを通して創作意欲を育てることに主眼をおいたのに対し、制作過程そのものの興味に重点をおこうとしたものである。(『NHK年鑑』1971)

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 『できるかな』は最初、5人の男の子・女の子が「けんかしたり、失敗したりしているうちに、自然に絵画制作に必要なことをこどもの心の中にしみこませるように構成」(『NHK年鑑』1971)していました。しかしながら『なにしてあそぼう』に出演していたノッポさんの再登場を求める声が多かったため、翌年に出演者の改定を行います。

 ―番組のねらいは、こどもたちの絵画製作活動によい刺激になるよう構成。「ノッポさん」と呼ばれる工作のお兄さんと、こどもたちが共同製作で作り上げたロボットとも怪じゅうともつかない人形が、いろいろなものを作ったり、絵を描いたりする番組。(『NHK年鑑』1972)

 最初のゴンタくんは、箱の中にいて動かない“ロボットとも怪じゅうともつかない人形”で、おなじみの“動く”ゴンタくんがデビューしたのは1973年のことでした。パントマイムのノッポさんが作り役と遊び役を兼ねていて、子どもの代表ともいうべきゴンタくんが邪魔をしたり、失敗したりしながら絡んでくる名コンビで、1990年3月まで放送されました。

 『できるかな』が長く愛された要因を、当時ディレクターだった武井博さんは次のように分析しています。2)

  • ①「ハウ・ツー」の部分と、モティベーションの誘発部分とを両立させた
      作る過程も、作ったもので遊ぶ楽しさをも“ショー”として見せることに成功した
  • ②アイディアの変わらぬ新鮮さ
      造形教育研究科・枝常弘さんが現場のニーズに耳を傾けつつ、新鮮なアイディアを出し続けた
  • ③高見映さんという優れたエンターテナーを得た
      ノッポさんとゴンタくんの間に“愛情”があり、キャラクターがその“世界”の中で“生きて”いる
  • ④工作用具の進歩
      セロハンテープやフェルトペンの登場で、省略やテンポアップが可能となった
  • ⑤簡単に動かせる軽い素材を選んだ
      段ボールとプラスチック容器で、大きな切り出しが可能となり、作るのも遊ぶのも容易になった


gontatonoppo_2_W_edited.png『できるかな』 ゴンタくんとノッポさん

 武井さんと一緒に『できるかな』や『つくってあそぼ』を制作していた田村洋さんは、テレビ創成期のディレクターで、入局したばかりの私に番組づくりのいろはを教えてくださいました。私は田村さんの退職記念パーティーで初めて高見のっぽさんにお会いして、とても軽快に話されるお姿に驚いたことを覚えています。田村さんは「のっぽさんは動きがダイナミックで繊細でとてもすばらしいんだけれども、おしゃべりだから、逆に何も話さないでパントマイムにした方が面白いと思ったんだ」と、いたずらっぽく笑っていらっしゃいました。

 1990年、「幼稚園教育要領」と「保育所保育指針」の改訂に伴い、幼稚園・保育所向けの番組は大規模な改編を行いました。新しい指針では「幼児の発達に必要な体験を得るよう適切な教育環境」を創り出すことの重要性が指摘され、幼児教育の領域も6領域から5領域に変更されました。そこで、それまで領域ごとに別々に制作していた幼稚園・保育所向けの番組を『ともだちいっぱい』というシリーズに統合し、共通の舞台で、トータルに以下の5領域を演出することにしたのです。

  • ①表現~造形『つくってあそぼ』
  • ②人間関係 『なかよくあそぼ』
  • ③環境~自然『しぜんとあそぼ』
  • ④表現・音楽『うたってあそぼ』
  • ⑤ことば・数量の認識『かずとあそぼ』(1991年に新設)


 各領域の番組が『ともだちいっぱい』シリーズへと移行される中で、『できるかな』も『つくってあそぼ』へと改定されました。この改定の背景のひとつに、大量消費からリサイクルへと向かった社会的な事情もあると、田村さんに教わりました。1980年代後半は、清掃工場で焼却しきれなくなったごみが大きな問題となり、市民活動が盛んになり始めた時期でした。3)

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 そのため『つくってあそぼ』のねらいでは「身近にある素材を利用」することが強調され、実際の工作もリサイクル素材を多用するようになりました。当時はNHKの制作グループ内でも牛乳パックやトイレットペーパーの芯などを集めており、リハーサルや収録で使用していました。

 ―子どもたちの表現意欲や創造力を高める造形番組。牛乳パックやダンボール,紙コップなど, 子どもたちの身近にある素材を利用して, その素材の意外な特徴や性質を発見しながら造形活動をする。そして, 物を作る喜びや表現する楽しさを味わう。特に, 工作上手のお兄さんのワクワクさんと, 熊の人形のゴロリが, 「何ができるんだろう」「何だろう」と考えさせながら工作に挑戦する「間」を大切にする。テーマは, 「季節の風物」や「行事」「遊び」など, 子どもたちの生活の中に見つける。(『NHK年鑑』1991)

gororitowakuwaku_4_W_edited.png『つくってあそぼ』 ゴロリとワクワクさん

 『つくってあそぼ』も全国で「つくってあそぼショー」を展開するなど広く親しまれ、2013年3月まで、23年間放送されました。『できるかな』と同様、ワクワクさんとゴロリの間に“愛情”があり、キャラクターとして生き生きと存在する“世界”が確立していたからこそ、長く続いたのだと思います。

 しかしながら1990年の「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」で幼児の直接体験の重要性が強調されたことや、2004年に日本小児科医会と日本小児科学会が「2歳までの子どものテレビ・ビデオ長時間視聴を控えること」を基調とした提言を出したことなどによって、幼稚園・保育所でのテレビ利用は漸減傾向が続きました。4)  番組の内容も、次第に家庭視聴向けとの境がなくなってきたことから、2011年には「幼稚園・保育所向け」という放送枠がなくなり、「幼児・子どもゾーン」に統合されました。

 そして2013年4月に『ノージーのひらめき工房』が始まりました。そのねらいは、以下のように記されています。

 ―4,5歳児から小学校低学年の子どもたちに向けた新しい工作番組。『つくってあそぼ』の後継番組として4月にスタートした。ひらめきの天才「ノージー」と仲間の妖精たちが遊びの国で工作に詳しいクラフトおじさんのアドバイスを受けながら, それぞれ独自の作品を作っていく。マニュアルに沿っていかに上手に作るかではなく, 自分自身の発想やひらめきを大切にしながら, 個性豊かな自分なりの工作を生み出すプロセスを大切にした番組。(『NHK年鑑』2014

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 開発を担当した大谷聡プロデューサー(当時)は、「『つくってあそぼ』が料理番組のように完成品を見せてその作り方を教える番組なら、次は素材や材料を好きに選んで自分だけの作品を作る“正解”のない番組」にしたいと考えたそうです。
「幼稚園教育要領」における「表現」領域でも、それまで「表現する意欲を養い、創造性を豊かにする」とされていたねらいが、1998年に「自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い」と改訂されたように、他の多くの子ども番組も、個性の尊重や自己表現を認める方向に向かっていきました。

sinapotonosy_6_W_edited.png『ノージーのひらめき工房』 シナプーとノージー

 結果ではなく発想のプロセスを大事にして、作品の出来不出来、失敗という概念がない『ノージーのひらめき工房』の方針は、自己肯定感につながると、保育の現場からも好評を得ました。

 このように「幼稚園教育要領」や時代背景に合わせて、NHKの子ども向け造形番組は変遷してきました。
けれども、子どもたちに作ることの楽しさを伝えたいという根底は、変わりません。
『できるかな』と『つくってあそぼ』では、子どもたちが「自分でも作れそう、作りたい!」と思えるよう、子どもが作ったかのような純粋さで、大人の造形スタッフが絵や工作を製作していました。「ほんとうの子どものような絵を描ける人は、そう多くはない。子どもの絵が描けるスタッフを、大切にね」と、田村さんは教えてくださいました。
『できるかな』と『つくってあそぼ』の造形アイディアを担当されていたヒダオサムさんは、「どんなものにも形だけでなく、いのちをみつけるこころが育ってほしい」とおっしゃっていました。ちぎっただけの紙でも、そこに目や手足を描くと、今にも動きだしそうに感じます。ヒダさんは、ものにいのちを吹き込んで遊ぶ体験が、人への思いやりや、ものを大切にする心、いのちを慈しむ心へとつながっていくと考え、常にそのことを念頭に置いてアイディアを出してくださっていました。

 ノッポさんは、子どもたちに敬意をこめて「小さい人」と呼んでいらしたそうです。番組を制作する私たちも「小さい人」に敬意をこめて、その可能性を広げるお手伝いをしていきたいと思っています。


1)『NHK年鑑』は、NHKを中心に放送界の1年間の動きを記録したもの。1931年創刊。 NHKで放送している膨大な番組の解説を放送系統別に掲載している。NHK年鑑2022-NHK

2)「放送教育50年」第1章 番組制作の展開(1)幼稚園・保育所向け番組
 A造形番組「できるかな」武井博(日本放送教育協会)1986年

3)「ごみとリサイクル」寄本勝美(岩波新書)1990年

4) 幼稚園・保育所におけるメディア利用の現況と今後の展望 | 調査・研究結果 - 番組研究 | NHK放送文化研究所

 

 

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【久保なおみ】
子ども番組が作りたくて、NHKに入局。
企画・制作した番組:『いないいないばあっ!』『にほんごであそぼ』
担当した主な番組:『つくってあそぼ』『なかよくあそぼ』『お話でてこい』『こどもにんぎょう劇場』『おかあさんといっしょ』
2022年夏から現所属。
月刊誌『放送研究と調査』や、文研フォーラム、ウェブサイトなどを担当。文研の調査・研究の成果を発信している。
好きな言葉は「みんなちがって みんないい」「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」

☆こちらの記事もぜひお読みください
『いないいないばあっ!』が生まれるまで ~ワンワン誕生秘話~ | NHK文研
『にほんごであそぼ』コンサートのはじまり ~坂本龍一さんと作った福島コンサート~ #471 | NHK文研

メディアの動き 2023年05月29日 (月)

ヨーロッパ公共放送の文化支援 "放送オーケストラ&合唱団"をめぐって【研究員の視点】#484

メディア研究部 (海外メディア研究) 小笠原晶子

 “放送オーケストラ”や“放送合唱団”についてご存じでしょうか?ラジオ放送が開始された1920年代から組織された放送局専属の楽団で、放送に向けた演奏や音楽文化の普及の役割を担ってきました。現在も、ヨーロッパには、規模やレベルはさまざまですが、ドイツのMDRライプチヒ放送交響楽団(1924年創立)やバイエルン放送交響楽団(1949年創立)、イギリスのBBC交響楽団(1930年創立)など世界的に知られた楽団が多数存在します。日本にも、定期演奏会や大河ドラマのテーマ音楽の演奏などでおなじみのNHK交響楽団は1926年設立で、まもなく100周年を迎えます。

 ヨーロッパでは近年、こうした放送オーケストラや放送合唱団の存続が議論になっています1)。 経営合理化や経費削減により、縮小や廃止の方針が打ち出されるなどしています。 その一方で、そうした方針には、音楽家や市民などから強い反対の声が上がり、 楽団の廃止やリストラ計画が保留となるケースも相次ぎました。 最近の動きは放送文化研究所の月報「放送研究と調査」2023年4月号2)、5月号3)の「メディアフォーカス」で報告しています。

 今回のブログでは、音楽家や市民が、放送オーケストラの存続を求めた声に注目します。民間オーケストラが多数存在するなか、公共放送のオーケストラや合唱団の存続がなぜ求められたのか、人々の声から、公共放送の音楽文化支援、ひいては公共放送のサービスに求められているものは何かを考えたいと思います。

オーストリア公共放送ORF 放送オーケストラ廃止案に音楽界から反発
 まず、オーストリアのケースです。2023年2月、音楽の国オーストリアの公共放送ORF会長が、1969年に誕生した放送オーケストラ、ウィーン放送交響楽団(RSO)の廃止案を発表しました。ORFはインターネットによる番組配信サービスなどに対応する新しい財源制度検討の条件として、政府から経費削減を求められ、ORF会長は2026年までに約3億ユーロ(約450億円)を削減する策を示しました。その中にRSOの廃止が含まれていました。

 RSOはミッションの柱の1つに、「現代音楽の保護・育成」を掲げています。特に現代音楽4)については、新曲の委嘱や初演に力を入れ、これまでも、新たな作曲家の作品を世に送り出してきたことをホームページで紹介しています5)

rso_1_W_edited.pngRSOのミッションステートメント「われわれの時代の音楽をわれわれの時代の人々に」を紹介するホームページ

 今回のRSOの廃止案に対しては、こうした活動実績を踏まえ、RSOはもとより、音楽関係者や市民の間でも存続を求める声が強く上がりました。以下、新聞やニュースを通じて報じられた声です

★ウィーンフィルハーモニー管弦楽団6)(RSO ホームページ記事より 抜粋)
「RSOはかけがえのない重要な文化財だ。創設以来、世界の音楽界に大きな影響を与えてきた。その独自性は、何よりも現代音楽への姿勢だ。オーストリアのオーケストラでこれほど多くの現代音楽を演奏しているところはない。」

★ウィーン交響楽団 芸術監督 ヤン・ナスト氏7)(ORF  ニュース記事より 抜粋)
「RSOは現代音楽の保護・育成によって、ウィーンの音楽文化の中にしっかり根づいている。組織やコンサートホールの収益性を度外視できないウィーンフィルやウィーン交響楽団に比べ、RSOは音楽市場でより大胆に活動できる。」

 また、上記ウィーン交響楽団のホームページには、他の国内オーケストラと連名で、RSOの現代音楽の振興に向けた貢献を評価し、存続を求める声明が掲げられています8)

wien_2_W_edited.png※ウィーン交響楽団ホームページに掲載された、ウィーン交響楽団と国内7楽団の連名によるRSO廃止反対を訴える声明

★現代音楽作曲家 オルガ ノイヴィルト氏(Derstandard紙 記事より抜粋9)
「コロナやロックダウンで、現代音楽の活動の回復には時間がかかっている。現代音楽を支援するどころか、もはや必要とされていないように見える。RSOの廃止は取り返しのつかない結果を招くであろう。音楽の革新に対する政治家や社会の軽視を示す。MDW(ウィーン国立音楽大学)の教授である私にとって特に悲しいのが、若い世代に芸術表現の機会が奪われてしまうことだ。」

★現代音楽作曲家 ゲオルグ フリードリッヒ ハース氏(Derstandard紙 記事より抜粋10)
「RSOが廃止され、現代音楽のラジオ放送もなくなれば、遅かれ早かれ、商業放送はORFと不当な競争を強いられると訴えるだろう。私を含む多くの芸術家が、ORFが文化的使命を全うせず、大衆迎合のプログラムで、民間より競争で有利に勝つために受信料を使っていると証言するだろう。」

 そしてRSOの廃止案発表からまもなく、「SOS RSO」という楽団の廃止撤回を求めるオンラインの署名活動も立ち上がりました11)。これは8万人分の署名を集めましたが、オーストリアの人口の1%近くに相当する数字です。その中には、世界的にも著名なドイツの放送オーケストラ、バイエルン放送交響楽団の首席指揮者サイモン・ラトル氏らの署名もありました。同楽団ではホームページでも、RSOの特筆すべき現代音楽への貢献を挙げ、反対の声明を発表しています。

bayern_3_W_edited.png※バイエルン放送交響楽団のホームページに掲載されたRSOの存続を求める声明

 こうした音楽家や市民からの反対の声や、政府内にもRSOの廃止に反対する声も上がるなか、政府は3月23日、廃止案を見送り、存続に向けた財源を検討するとしました12)。RSOは翌24日、ツイッターで、次のように支援者への感謝を伝えています。

rsotw_4_W_edited.png※RSOツイッターより:3月24日、RSO廃止案撤回の発表を受け、支援者に感謝を伝えるメッセージ13)
「われわれは喜びでいっぱいである。発表されたように、オーストリア政府はRSOを将来にわたって継続的に守ると表明した。われわれは全ての支援者に感謝したい。そしてみなさんのために音楽を続けることができてとても嬉しい。」

 クラシック音楽は、およそ500年という歴史を持ち、さまざまな音楽形式や演奏スタイルが時代と共に生まれてきました。そうしたクラシック音楽文化の継承と発展には、新しい作品の創造への投資が不可欠ですが、一方、まだ評価の定まっていない新しい現代音楽のプログラムは集客リスクを伴います。RSOは公共放送のオーケストラとして、そうしたリスクある投資も担い、クラシック音楽を今日まで継承させてきたと支持され、存続を求める声につながりました。

BBC放送合唱団廃止と放送オーケストラ人員削減案  市民などもから強い反発
 オーストリアに続き、イギリスでは3月、放送局傘下の楽団の縮小や廃止に向けた動きがありました。BBCは財源不足に対応しながらデジタル化や経営合理化を進めるなか、3月7日に新しいクラシック音楽の戦略を発表しました。戦略には、イングランドの3つの放送オーケストラ(BBC交響楽団、BBCコンサート管弦楽団、BBCフィルハーモニック)の人員20%削減、そして100年の歴史がある合唱団BBC Singersの廃止が含まれていました。その目的は、オーケストラはより多くの音楽家と柔軟に、全国各地で演奏する、そして合唱は、全国各地の合唱団と活動し、より幅広くイギリスの合唱界全体に投資するため、などとしています。

 この案には、BBC傘下のオーケストラ指揮者をはじめ、音楽家や市民から強い反対の声が上がりました。中でも廃止案が出されたBBC Singersについては、ヨーロッパの各国の放送合唱団や、広く民間の合唱団からも強く存続を求める声が上がりました。BBC Singersの団員は20名で、長年、現代音楽の初演や幅広いレパートリーの演奏のほか、各地域で音楽普及活動にも取り組んできました。民間の合唱団のメンバーは、なぜBBC Singersを支持しているのか、ホームページやSNSに上がった主な声を紹介します。

☆国内外の多数の合唱団から「Don't Scrap BBC Singers!」

bbc_5_W_edited.png※BBC Singers廃止撤回を求める「Don’t Scrap The BBC Singers!」YouTube投稿動画より14)

 上記YouTube動画は、イギリス国内のさまざまな合唱団の人々によって、BBC Singers廃止反対を広く訴えるため投稿されたものです。イギリスはじめ海外も含む100近い民間合唱団が、それぞれ「Don’t Scrap BBC Singers!」などと訴えています。参加している合唱団は、子どもや若者から高齢者まで、また活動場所と思われる撮影場所も教会やコミュニティーハウスのような施設などさまざまです。参加者はメッセージを歌にしたり、こぶしを振り上げたり、それぞれ工夫をこらして廃止撤回を訴えています。そして動画には次のようなメッセージが添えられています。
「イギリスでは毎週、200万人が合唱団で歌っています。BBC Singersは、100年にわたってイギリスの音楽生活に不可欠な存在で、世界的にも名声を博しています。アマチュアもプロも、音楽家はいたるところ、BBC Singers解散の決定を覆すよう、BBCに求めます。イギリス中の受信許可料支払者は要求します。“BBC SINGERS を守れ!”」

☆アマチュア合唱団200団体 BBCへ反対の公開書簡
 国中のアマチュア合唱団が連携し、BBC会長宛にBBC Singersの廃止撤回を求める公開書簡を送るという動きもありました。3日間で、229の合唱団メンバー18,290人が,この呼びかけに賛同したとしています。

wimbledon_6_W_edited.png合唱団 Wimbledon Choralのツイッターに投稿されたBBC Singers存続を求める公開文書15)
(1頁に続き、2~4頁に合唱団の名前が記載されている。)

手紙によると、合唱団は、廃止撤回を求める思いについて、次のように書いています。一部を紹介します。
「合唱団の長いリストを見てください。都市部から地方まで、全国各地の団員18,000人です。高齢者から若者まで、コミュニティーも仕事もさまざまです。(大半はもちろん、受信許可料支払者です)。伝統的な合唱団や室内合唱団ほか、コミュニティーや職場、若者の合唱団、男声合唱団、LGBT+やホスピス、また教会やカレッジの合唱団です。小さなグループから何百人規模のグループまであります。美しい合唱を愛する人々にエリート意識はありません。」
「BBC Singersはイギリスの合唱界で、とても重要な位置を占めています。アマチュアが憧れるトップレベルの素晴らしさだけではありません。たくさんの親密なつながりがあるからです。BBC Singersはかつてのわれわれのメンバーであり、BBC Singersの現役メンバーや元メンバーが、数多くわれわれ合唱団の指揮をつとめています。ソリストとして定期的にアマチュア合唱団と演奏しています。われわれの地域に来て演奏し、定期的に素晴らしい音楽を届けています。個人的に、われわれ合唱団の家族なのです。イギリストップのプロ合唱団をつぶすことは、われわれをないがしろにするということになるでしょう。」

☆オンライン署名活動で BBC Singers存続を求める15万人分の署名
 BBCがBBC Singers廃止の発表した3月7日に、廃止撤回を求めるオンライン署名もスタートしました。

singers_7_W_edited.png※BBC Singersの存続を求めるデジタル署名サイト16)

このサイトは、最終的に15万人を超える署名を集めました。なぜ廃止に反対か、署名に添えられた支援者の声には、将来的に音楽を目指す若者が職を得られなくなる、芸術は必要でぜいたく品ではない、 BBCは世界の放送局が羨望する文化振興の模範であるべきだ、などといったコメントが投稿されていました。

 今回のBBC Singers廃止やBBCのオーケストラの人員削減案については、BBC傘下のオーケストラの指揮者や音楽家はもとより、音楽界の重鎮や政治家からも反対の声が上がっていました。3月24日、BBCは複数の団体から代替財源に関する提案があったとして合唱団の廃止案は保留し、オーケストラについても、強制的な人員削減は避けると発表しました。4月13日には、BBCは経費削減は必要としながら、オーケストラの人員削減について代替案を検討すると発表しました。

 2023年に入って続いたオーストリアやイギリスの動きですが、ヨーロッパで多くの主要公共放送が、経費削減や経営合理化で厳しい経営を迫られています。財源が限られるなか、何をサービスとして維持するのか、判断を迫られています。文化的支援についても、その成果を何をもって評価するか、客観的な指標が求められますが、今回のオーストリアやイギリスの動きを見ると、数字的な評価や短期的な視点では計れない、人々や社会の豊かな営みを支える役割や価値があるように思いました。今回は音楽に注目しましたが、歴史ある文化を広く継承し発展させるため、公共放送が担う役割とは何か、今後も欧州の動きを追いながら考えていきたいと思います。


1)例として、フランスの公共ラジオRadio France傘下の合唱団Chœur de Radio Franceのメンバーが2020年に約30%カット、アイルランドの公共放送RTÉ のオーケストラと合唱団National Symphony Orchestra and Choirs が2022年1月、National Concert Hallの運営に移管された。

2)https://www.nhk.or.jp/bunken/research/focus/f20230401_6.html

3)https://www.nhk.or.jp/bunken/research/focus/f20230501_6.html
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/focus/f20230501_8.html

4)音楽の友社 「新音楽事典(1997版)」によると、「もっとも広い意味をもつ<現代音楽>は,<20世紀音楽>のほぼ同義語と考えられる。」

5)https://rso.orf.at/en/node/4617

6)https://rso.orf.at/en/node/4668

7)https://orf.at/stories/3305907/

8)https://www.wienersymphoniker.at/de/news/2023/2/stellungnahme-zur-geplanten-einsparung-des-rso-wien

9)https://www.derstandard.at/story/2000143781592/ueberlebenskampf-des-rso-wer-traegt-die-verantwortung

10)https://www.derstandard.at/story/2000143781592/ueberlebenskampf-des-rso-wer-traegt-die-verantwortung

11)https://mein.aufstehn.at/petitions/sos-rso-rettet-das-radiosymphonieorchester-wien

12)その後4月24日、政府は2026年まで連邦政府の補助金で運営し、それまでにそれ以降の財源形態について検討することを表明した。

13)https://twitter.com/rsowien/status/1638948339965374464?cxt=HHwWgMDRjZ21274tAAAA

14)https://www.youtube.com/watch?v=T4ft6ghF6y8

15)https://twitter.com/WimbledonChoral/status/1638103785024225280

16)https://www.change.org/p/stop-the-planned-closure-of-the-bbc-singers

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小笠原晶子
報道局、国際放送局を経て、2019年6月から放送文化研究所研究員。
フランスやヨーロッパのメディア動向、メディアの多様性に関する調査など担当。

メディアの動き 2023年05月25日 (木)

NHKを巡る政策議論の最新動向②民放連・日本新聞協会の主張は?【研究員の視点】#483

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

はじめに

 NHKを巡る政策議論の最新動向、1回目は総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下、在り方検)」の「公共放送ワーキンググループ(以下、WG)」で行われた受信料制度議論についてまとめました 。1)そこでも紹介しましたが、4月27日に民放連は、「NHKインターネット活用業務の検討に対する見解と質問について2) 」をWGに提出しています。そして5月19日には日本新聞協会メディア開発委員会(以下、新聞協会)も、「NHKインターネット活用業務の検討に対する意見 3)」を提出しました(以下、「意見書」と総称)。
 両者の意見書には、NHKが受信料財源によるネット展開を拡大することや、現在の任意業務を必須業務化することへの懸念が示されています。こうした中、5月24日、NHKの稲葉延雄会長は定例会見で、インターネットの世界でも放送と同じ役割を果たしていきたい、と必須業務化への意欲を示しました。26日のWG 4)ではNHKが報告を行う予定になっていますので、2回目の今回は、その報告前に、民放連と新聞協会が公表した意見書のポイントをまとめておきたいと思います。

1.6つの項目

 意見書では、民放連は13、新聞協会は10の質問をあげています。1つ1つの質問文が比較的長く、中には200字近いものもあります。少なくとも私は、文章をそのまま読んだだけではなかなか理解が進まなかったので、質問内容を項目に分けて整理してみました(図1)。

<図1>

  • 1)NHKのネット活用業務拡大と「情報空間の健全性」との関係
  • 2)ネット活用業務を中心としたこれまでのNHKの取り組みの検証            
  • 3)ネット活用業務の必須業務化に伴う民間事業者への影響
  • 4)NHKの説明責任
  • 5)制度改正に対する疑問 ①必須業務化②受信料制度③義務・規律
  • 6)政策議論の今後

 この6項目に従い、民放連と新聞協会のそれぞれの質問を整理したのが図2です。この図に沿って、両者の主張を見ていきたいと思います。

<図2>

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2.両者共通の主張

 まず民放連と新聞協会がおおむね同じ主張をしていると思われたのが、1)「NHKのネット活用業務拡大と情報空間の健全性との関係」、4)「NHKの説明責任」、5)「制度改正に対する疑問①必須業務化」、6)「政策議論の今後」です。それぞれ見ていきます。
 改めて確認しておくと、在り方検の問題意識の前提にあるのは、課題が山積するデジタル情報空間におけるインフォメーションヘルスの確保です。公共放送WGでも、NHKには先導的な役割を期待するという方向で議論が進んできました。しかし、民放連および新聞協会は、NHKのネット活用業務の拡大は、どのように「情報空間の健全性」の確保につながるのか、必須業務化でなぜ健全性が高まることになるのか、という根本的な疑問を投げかけています。
 そして両者とも、もしネット活用業務の拡大や必須業務化の議論を進めるのであれば、まずNHK自らがネット上で具体的にどのような業務を行おうと考えているのかを説明すべきであると主張。その上で、そうした業務がネット上でもたらす効果や市場への影響を検討するというのがあるべき議論の順序ではないか、としました。民放連からは、対象業務が抽象的なままでは公正競争の議論も抽象論になってしまう、との指摘もありました。新聞協会からは、そもそもなぜネット活用業務が任意業務ではだめなのか、NHKにはその理由を説明してほしいという要望もありました。NHKは去年11月、第3回のWGで報告を行っていますが、両者の質問からは、NHKの報告内容に納得できていなかったことがうかがえます5)
 また、仮に制度改正が行われ、NHKのネット活用業務が必須業務化になったとして、具体的にNHKの業務展開はどう変わり、ひいては視聴者 ・国民にとって何が変わるのか、という質問もありました。また民放連からは、もしもネット活用業務を区分し、一部を必須業務、残りを任意業務とする場合は、どのように規定するのか、という質問もありました。

 WGの今後の議論の範囲や進め方についても、民放連と新聞協会は同じ問題意識を持っていると感じました。NHKのネット活用業務の必須業務化を検討するということは、NHKにとどまらず、デジタルプラットフォーマーも含めた事業者がユーザーに対して持つ情報空間の健全性確保の責務や、 ネット空間における公共性のあり方を考えることにも通じるとし、そうした「放送法の外側にあるネット配信全般についての検討」(民放連)や、「放送法の枠を超えた議論」(新聞協会)を行うつもりはあるのかが問いかけられました。
 以上見てくると、意見書はあくまでWG宛てですが、質問の多くはNHKに対しても向けられていることがわかります。

3.新聞協会の力点

 ここからは民放連、新聞協会の主張の力点の違いを見ておきたいと思います。 まず、新聞協会の質問書からは大きく2つの主張が読み取れます。1つは、2)のNHKのこれまでの取り組みに対する検証をしっかり行うべき、という要望、もう1つは、3)のNHKのネット活用業務拡大は民間の報道機関の公正な競争を難しくさせるのではないか、という懸念です。検証の要望については3つの質問で、公正競争への懸念については4つの質問で自らの考えを示しています。これらの質問に通底する意識が次の文章からも読み取れます。「NHKのネット業務拡大が情報空間全体の改善にどの程度寄与するか、その効果が他の報道機関などに与える悪影響より優先されるのかを示すべき(中略)。一度棄損されたメディアの多元性や言論空間が元の姿を取り戻すことは難しく、そうした点に留意した議論が行われるべきだ」6)
 NHKは現在、受信契約者であるかどうかに関わらず誰でも視聴することができる、「理解増進情報」と呼ばれる番組関連情報・コンテンツをネット上で展開しています。新聞協会は、この内容について、 オリジナルコンテンツが多いのではないか、また提供方法については受信料制度上問題がないのか、それぞれ検証すべきではないかと主張しています。具体的なサービスとして「NHKニュース・防災アプリ」「NHK NEWSWEB」「NHK政治マガジン」をあげていることからも、これらのサービスを特に問題視していることがわかります。
 
4.民放連の力点

 民放連は13の質問を提出していますが、そのうちの大半が放送制度に関する内容でした。質問のベースには、これまでNHKは、「『放送』を規律するための放送法のもとで、それと矛盾しない形でインターネット活用業務を広げてきた」が、「今般のWGの議論は、この従来の枠組みを一気に超えていこうとしている」のではないか、という問題意識があります7) 。意見書で民放連が挙げた放送制度のうち、受信料に関しては意見書提出後に開催されたWGの第7回で議論されていました8) ので 、ここでは義務・規律に関する質問について触れておきます。
 民放連は今回の意見書のみならずWGの発言においても、NHKのネット活用業務の必須業務化をきっかけに、「放送」全体の枠組みにも何らかの制度変更が及ぶ可能性がないかという懸念もあり、以前から敏感に反応してきました。 民放はこれまで、ネット配信は放送制度の下で行うサービスとは異なり、あくまで個別の局によるビジネス領域であるというスタンスで取り組んできています。しかし、もしもそれが、「放送法において、インターネット配信を放送のように規律する考え」となると、今後のビジネス展開にも影響が及びかねません。そうした意味でこの点は、二元体制の一翼である民放特有のテーマであるともいえます。

5.意見書公表が意味するもの

 今回意見書として示された民放連と新聞協会の主張には、過去半年間に開かれた7回のWGで、論点化され議論されてきたことも数多く含まれています 。在り方検の前身である「放送を巡る諸課題に関する検討会」に設けられた「公共放送の在り方に関する検討分科会 9)」でも、NHKのネット活用業務について議論が続けられてきました。にもかかわらず、ここにきて、こうした質問が提出されたということは何を意味するのでしょうか。
 1つ目は前述した通り、当事者であるNHKの姿勢が問われているのだと思います。 NHKがまず主体的にネット上でどのような役割を果たしたいのか、その考え方や具体的な業務内容を示すべき、という意見は、民放連、新聞協会からだけでなく、複数の構成員からも出されています。NHKはこれまで、まずはWGでの議論を待ちたい、というスタンスを示してきました。これまでのWGの議論、そして 民放連や新聞協会の意見書を受け、5月26日のWGではどのような内容の報告を行うのか。改めてNHKの姿勢が問われることになるでしょう。
 2つ目は、NHKのネット活用業務の拡大や必須業務化を少しでも先送りさせたいという、民放連、新聞協会の思惑ではないかと思います。 放送や新聞といった伝統的なメディア企業は、公共放送であるNHKと同様、人々の知る権利に奉仕し、民主主義を下支えし、文化の発展を担ってきた存在です。在り方検の議論では、デジタル情報空間の課題への対応は待ったなしである、とか、外資系のデジタルプラットフォーマーが存在感を増す中で国内の事業者同士が争っている場合ではない、という問題意識が示されていますが、こうしたテーマに、民放も新聞も、時に私企業としての利害を超えて解決策を検討する議論に参画する責務があると私は思います。一方で、民放や新聞の経営の立場にたって考えてみれば、NHKも含めて、ライバルになり得る事業者は1つでも少ないほうがいいし規模も小さいほうがいいというのも当然の発想です。既存事業の落ち込みとネット上のビジネスの伸び悩みの状況が一層深刻になる中、“あるべき論”を振りかざすだけでは議論は前に進まなくなってきているということだと思います。

 WGでは、何度も確認されているとおり、インターネット時代のNHKの役割、ネット業務の範囲、公正競争のあり方、財源・受信料問題をひと通り議論し終わった後、改めて積み残された論点を議論していくことになっています。今後どういう進め方をしていけば建設的な議論ができるのでしょうか。
 民放連、新聞協会が共に疑問を投げかけていたとおり、デジタル情報空間における健全性の確保と各メディアの役割という議論は、NHKだけでなく、放送法の枠を超える議論です。公共放送WGと平行して別な会合でも議論を進め、WGの議論と接合させながら改めてNHKの役割や業務を考えていく、そうした議論の設計も必要なのではないかと思います。
 また、NHKが主語の議論になると、どうしても民放・新聞とNHKの関係が「競争」の観点一辺倒の議論になりがちです。もちろん、公正競争の議論はWGでもさらに具体的に進めていくことになりますが、一方で、「協調」「連携」の観点からの議論をどのように進めていくのかも考えていかなければなりません。今回の両者の意見書には出てきませんでしたが、過疎化や地域経済の衰退に悩む地域を基盤にしたローカルメディアの状況は、東京や全国を基盤とするメディアよりもさらに深刻です。こうした地域に地盤を置くローカル局、ケーブルテレビ、コミュニティ放送局、地方紙などのローカルメディアを支えるための協調や連携を、NHKはどう進めていくべきか。受信料を財源にした何らかの枠組みを作っていくことはできるのか。このことは、今回のWGの議論の主舞台であるネット空間にとどまらず、幅広く考えていかなければならないテーマだと思います。そのためには、NHK主語ではなく、地域メディア主語の議論をしていく必要があるはずです。
 現在示されているスケジュールでは、WGは今夏にとりまとめを発表することになっています。今後、どこまで議論は深まっていくのか。引き続き注視し、ブログを執筆していきたいと思います。


  •   1.  https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2023/05/18/
  •   2.  https://j-ba.or.jp/category/topics/jba105989
  •   3.  https://www.pressnet.or.jp/statement/20230519.pdf
  •   4.  https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/02ryutsu07_04000377.html
  •   5.  第3回のNHKの報告とそれを受けた議論について詳しくは...
           https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2023/01/25/
  •   6.  カギカッコ部分は新聞協会の意見書1Pから引用
  •   7.  カギカッコ部分は民放連の意見書2Pからの引用
  •   8.  WG第7回の議論の内容については1)を参照
  •   9.  公共放送の在り方に関する検討分科会とりまとめ
  •        https://www.soumu.go.jp/main_content/000733495.pdf

 

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村上圭子
報道局でディレクターとして『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』等を担当後、ラジオセンターを経て2010年から現職。 インターネット時代のテレビ・放送の存在意義、地域メディアの今後、自治体の災害情報伝達について取材・研究を進める。民放とNHK、新聞と放送、通信と放送、マスメディアとネットメディア、都市と地方等の架橋となるような問題提起を行っていきたいと考えている。