文研ブログ

ことばのはなし 2019年12月24日 (火)

#226 植木に水を「やる」?それとも「あげる」?

メディア研究部(放送用語)滝島雅子

子どもに小遣いを「やる」「あげる」
ペットにえさを「やる」「あげる」  
植木に水を「やる」「あげる」      191224-1.pngのサムネイル画像

   ・・・みなさんは、どちらを使いますか?
おそらく、「「やる」はちょっと乱暴な言い方だから「あげる」のほうが丁寧でいい」と思った人も多いのではないでしょうか。
従来、このような「あげる」の使い方は、「敬語の誤用」とされてきました。「あげる」は敬語の分類で言うと「謙譲語」であり、本来、敬意が必要な相手に使うことばなので、目下の人やペット、植木に敬語を使うのはおかしいというわけです。ところが、今回、文研が行った調査では、7割を超える人が「おかしくない・自分でも使う」と答えました。どうやら、こうした「あげる」は、もはや「誤用」とは言えない状況になっているようなのです(図1)。

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図1:「あげる」は「おかしくない・使う」(全体)


また、「あげる」について「おかしくない・使う」と答えた人を年代別に見ると、「子どもに小遣い」「ペットにエサ」「植木に水」では、20~50代は8割前後から9割の高い割合を示していますが、60代以上は、いずれも割合が下がっており、高年層では「人」以外に対して「あげる」を使うことへの抵抗感がうかがえます。

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 図2:「あげる」は「おかしくない・使う」(世代別) 

国語辞書編(さん)者の飯間浩明氏は、最近の著書の中で、植木に水を与えることを「水やり」ではなく「水あげ」、動物にえさを与えることを「餌やり」ではなく「餌あげ」とする、名詞としての使い方も増えてきたと指摘しています。改めて、「あげる」の勢力拡大ぶりに驚かされます。ここまで来ると、「あげる」を「誤用」として回避するのは、もはや、難しくなってきているとも言えそうですが、みなさんは、どう考えますか?

詳しくは、『放送研究と調査』11月号「相手選手に点を“あげて”しまってもよいのか~2019年「日本語のゆれに関する調査」から~」をご覧ください。今回の調査報告では、ほかに、「気象情報での気温の伝え方についての調査」や、最近問題になっている英語入試のあり方にも関連する「外国語・日本語をめぐる意識調査」の結果も報告されています。報告を読んで、「へえ~」「なるほど~」「おもしろかった~」などと感じていただけたら、ぜひ、知り合いの人にも教えてあげて・・・くださいね。

(参考文献)飯間浩明(2019)『知っておくと役立つ街の変な日本語』朝日新書


放送博物館 2019年12月20日 (金)

#225 NHK放送博物館で「放送が伝えた宇宙」の展示を開催中です

放送博物館 山本さぎり

NHK放送博物館では、12月7日から企画展放送が伝えた宇宙 ~ そして、宇宙から あなたへ ~を開催しています。

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この企画展は宇宙がテレビを通じて身近なものになってきたことや、宇宙を利用した技術が衛星放送など日々の生活に密着していることを、NHKが保管する映像や資料をもとに紹介しています。同じ階の<ヒストリーゾーン>もご覧いただくことで放送技術への理解がより深まる内容になっています。ここでは展示のテーマと概要を紹介します。

tenji.jpg展示風景

1. テレビ放送開始までの天文現象の放送
1925年にラジオ放送が始まると、京都の天文台からの観測中継や、皆既日食の国内27局からのリレー中継など、さまざまな天文現象が伝えられるようになりました。
戦時中や戦後に映画館で毎週上映された「日本ニュース」では日食の観測を紹介しています。

2. 宇宙への進出とテレビ放送
アメリカとソ連を中心として各国が宇宙に進出し、その映像がテレビで放送されると視聴者の宇宙への関心も高まりました。
ソ連のガガーリン宇宙飛行士が人類初の宇宙飛行を成功させ1962年に来日すると、NHKは「ガガーリン少佐にきく」を放送しました。1966年には世界中の宇宙開発を取材した「海外取材番組<宇宙時代>」を放送しました。
アメリカがアポロ計画を進め、アポロ11号が1969年7月に月面着陸に挑むことになると、NHKは10日間にわたる特集番組を放送しました。特にアームストロング船長が人類初の月面着陸をした時間帯はおよそ6割の世帯がテレビをつけていました(関東地区)。

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アポロ11号の月面着陸特集番組スタジオ風景

3.NHKが関わった宇宙開発技術
 ここでは衛星放送の開発史を紹介しています。日本で人工衛星が作られ始めた頃は、NHKも独自に放送衛星を開発していました。衛星本体を製作しなくなってからも衛星放送の研究と実験を続け、1984年には衛星放送を家庭で直接受信できるようになりました。
 また、NHKのカメラは宇宙でも活躍しています。宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に高感度カメラを持ち込み、宇宙からの映像を届けています。また月周回衛星「かぐや」にハイビジョンカメラを搭載し、月から見た「地球の出」などの映像を送るなど科学的にも大きな成果をあげています。

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このほか、映像ブースでは宇宙飛行士がスペースシャトルや国際宇宙ステーションで活動する様子を、飛行士たちの目覚めの音楽とともに上映しています。
会期中は学芸員によるギャラリートークやJAXA研究員による講演会を開催いたします。ぜひお越しください。

 
NHK放送博物館 企画展示「放送が伝えた宇宙 ~ そして、宇宙から あなたへ ~」

会期  :2019年12月7日(土)~2020年3月29日(日)
会場  :3階 企画展示室
休館日 :月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は火曜日休館)、年末年始
入場料 :無料
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
所在地 :〒105-0002 東京都港区愛宕2-1-1
TEL  : 03-5400-6900

メディアの動き 2019年12月17日 (火)

#224 筆頭株主交代!茨城放送の今後

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

都道府県の中で唯一、県域民放テレビ局が存在しない県があるのを皆さんはご存じでしょうか。茨城県です。県域FM局もなく、あるのはAMラジオ局(現在はFM波で同じ放送を行うFM補完局も運営中)だけなんです。
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 それがIBS茨城放送です。開局は古く1963年。去年55周年を迎えた老舗局です。主要株主は、朝日新聞社(議決権比率32.41%)、茨城県(同比率16.14%)、日刊スポーツ新聞社(同比率2.71%)でしたが、11月15日に茨城放送から主要株主変更のお知らせがありました。

 朝日新聞社及び日刊スポーツ新聞社の株式全てを買い取ったのは、グロービス経営大学院の学長を務め、ベンチャーキャピタルも運営する堀義人氏。また、茨城県所有の株式のうち10%についても、堀氏が取締役オーナーを務める、水戸市を本拠地とするプロバスケットボールチーム「茨城ロボッツ」の運営会社が買い取りました。今回の株式買収はあわせると45.12%にのぼります。県域民放において、新しい株主によるこれだけ大きな株式取得劇は極めて珍しく、放送業界では大きな話題になりました。堀氏は4位以下の株主の株式の購入にも意欲を示しています。12月13日に開かれた臨時株主総会で堀氏は茨城放送の取締役に就任。翌14日に水戸市の本社でリスナーと堀氏との対話集会が行なわれると聞き、どんな雰囲気なのか参加してきました。
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 集まったのは日頃からいずれも熱心にラジオを聞いているリスナーの皆さん30人位で、40代~70代の方が多いように感じました。対話集会ではまず、堀氏から株式を取得した経緯と、茨城放送で目指したい理念についての説明、その後、リスナーからの意見や質問、それらに対して最後にまとめて堀氏が返答する、という流れで1時間半行われました。
 堀氏はまず、自身が小学校から高校まで水戸で過ごしたこと、その後、2015年に久しぶりに同窓会に参加するために水戸を訪れた際、街中に人影が消え、廃墟になったビルや空き地やシャッター街の光景に愕然としたこと、その衝撃の光景が原点となり、水戸の再生に立ち上がったことが話されました。
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堀氏は市長に志願する形で「水戸ど真ん中再生プロジェクト」を創設し座長に就任、わずか4年の間に、自身の経営するグロービス経営大学院の特設キャンパスを開設したり、インバウンドのための海外発信を自身の出身校であるハーバード大学の歴史学者と共に仕掛けたり、プロバスケットボールチームの茨城ロボッツの再生も支援。現在は、水戸市最大の観光名所である偕楽園と常盤神社の隣接地に、千波湖を一望できるガラス張りのカフェを建設中だそうです。そうした動きを進めていく中で、県内のメディアの脆弱性をなんとかしたい、という思いで今回の株式取得に至った、ということが説明されました。

 その上で、新たな茨城放送の理念案として、「ラジオを含む動画・テキストメディアを通して、茨城県の内外にスポーツ・音楽・ライフスタイル/学びの情報やニュースを提供し、茨城を元気にし、日本全体に茨城の魅力を伝える!」というミッションと、「ラジオの枠を超えて、ネット・動画・イベントなどを組み合わせた新たな地方発メディアカンパニーの魁モデルを創る!」というビジョンが示されました。
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 私は、そんな堀氏の滔滔(とうとう)としたプレゼンにやや圧倒されてしまいましたが、リスナーからは、そんな堀氏にものおじすることなく、次々と意見や質問がありました。20人以上が発言したのでその全てを紹介することはできませんが、例えば、パーソナリティが定着しない、若いアナウンサーにもっと教養を身に着けてほしい、購入番組が多すぎるのでもっと生ワイドを増やしてほしい、リスナー参加型コーナーを増やしてほしい、若者番組が多くなっているので大人がもっとしみじみ聞ける文芸関係の内容の番組がほしい等々、極めて具体的な放送内容に関する要望が多く挙げられました。また、台風19号など災害時の対応については、情報が全く入らない市町村もあり市民の中には怒っている人もいる、といった厳しい指摘もなされました。YouTubeなどのネット配信やAIスピーカー対応など、堀氏の新たなデジタル展開戦略に期待したい、という声も複数聞かれました。また、メディア改革を急速に進める宣言をした堀氏に対し、今日集まっているような古くからのラジオリスナーとの距離を感じないか、との問いかけもありました。

 これまでラジオ局の運営に携わったことはなく、30年以上水戸を離れていた立場の堀氏からすると、何十年も茨城放送の番組を聞いてきた地元リスナー達は、ある意味、株主以上になかなかに手ごわい存在でもあります。堀氏は、番組内容や編成についてはradikoから得られる視聴データをベースに考えていきたい、と繰り返し、局の運営については茨城ロボッツのスポンサー営業とイベント事業のシナジーを最大化したいと力説しました。手腕が試されるのはまさにこれから。集まったリスナー達はひとまず、1つ1つの意見を必死にメモをとって聞く堀氏の姿に好感を持ったようです。
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 堀氏は、ゆくゆくはテレビ局の開設も視野に入れているそうです。今後について、メディアを調査・研究している私としては期待とともに懸念もあります。ここでは懸念について2点ふれておきます。
 1つは、地域再生にはスピード感が必要であることは、堀氏がこれまで行なってきた取り組みの実績が示していると思いますが、メディアについては特に、改革を急速に進め過ぎることがもたらす課題についても真摯に向き合って乗り越えていってほしいということです。50年にわたってメディアを支えてきてくれたリスナーを取り残さないようにしながら新たなユーザーを獲得していく経営とはどのようなものなのか示してほしいです。2点目は、堀氏は茨城県や水戸市にとっては、突然現れた“救世主”のような存在かもしれませんが、だからこそ、基幹放送としての地域ジャーナリズムの立ち位置、特に、取締役である堀氏や堀氏自身が手掛ける地域再生事業について、一定の距離感を持って報道するという役割を果たし得るのか、そのための番組編集方針をどのように掲げていくのかを熟考し続けてほしいと思います。これらは、新たなユーザーの獲得と地域密着が喫緊の課題となっている民放ローカル局の将来にとっても共通の課題だと思います堀氏はMBAを輩出する大学院を運営する、まさに“経営のプロフェッショナル”ですから、このあたりを注視していきたいと思います。

 

放送ヒストリー 2019年12月10日 (火)

#223 カーラジオから聞こえてきたのは・・・

メディア研究部(メディア史)大森淳郎

初任地、富山での思い出です。
ある冬の嵐の日、富山湾岸を雨漏りのする中古のスズキジムニーで飛ばしていました。
何の取材だったか思い出せないのですが、うまく取材が進んでいなかったことだけは確かです。暗い空とうねる波。冬の日本海は、眺めているだけで気持ちが塞ぎますが、仕事もうまくいっていないとなればなおさらです。そんなときでした、付けっぱなしにしていたカーラジオから突然、不思議な女性の声が聞こえてきたのは。

あなたたちは騙されているのです・・・・。

北朝鮮の謀略放送でした。もっと色々なこと(アメリカ帝国主義がどうだとか、日本はその傀儡であるとか)を聴いたはずですが、今でも鮮明に覚えているのは「あなたたちは騙されているのです」という印象的なフレーズだけです。普通なら、笑い飛ばすか、面白い経験を誰に話そうかとニンマリするところですが、そのときはこう思いました。「騙されている?なるほど、そうかもしれないな」。きっと心身ともに疲弊しきっていたのです。
でも、今でもこうは思います。私たちは、北朝鮮の人々(全部ではありません)が騙されていると考えるけど、あちらから見ればその逆なんだろうな。私は北朝鮮の社会がよいものとは思いませんが、価値の体系はいつも相対的なものです。

さて、なぜ、こんな遠い昔の出来事を思い出したかといえば、『放送研究と調査』11.12月号に掲載したシリーズ戦争とラジオ第5回「“慰安”と“指導” ~放送人・奥屋熊郎の闘い~」を書くにあたって、同じようなことを考えたからです。
奥屋熊郎は日本の放送の基礎を築いた1人です。ラジオ体操、野球中継、国民歌謡・・・。奥屋が開拓した放送分野は枚挙に暇がありません。希有な構想力と実行力を兼ね備えた大プロデューサーでした。そしてリルケやベートーベンを愛する芸術肌の人物でした。奥屋は、太平洋戦争の真っ只中の1943年、大阪中央放送局(BK)放送部長の地位を棄てて日本放送協会を去っています。ファナティックな軍国主義に染め上げられたラジオ放送に堪えられなくなったからでした。でも、そんな奥屋ですが、日中戦争から太平洋戦争初期にかけては、BKで戦争の旗振り役を積極的に担っていました。おそらく、日本の社会全体が右に向かって地滑りを起こした1930年代、奥屋自身も、ごく普通の国を愛する1人として社会の地盤もろともに右に転がり落ちたのだと思います、そのことは、奥屋自身には見えない。彼もまた日本という1つの価値体系の住人だからです。でも、だからといって奥屋が免責されるわけではない。彼は社会に大きな影響力をもつメディアの人間でした。大衆に働きかけて、社会の地盤をまるごと右に地滑りさせた1人でもあるのです。

メディアで働く人間も社会の地盤に立っている。でも、ときにはその地盤そのものをメディアが動かす場合もある・・・。そんなことを考えているとき、ふと遠い昔の思い出が蘇ったしだいです。
冬の日本海、なんだか悪く書いてしまいましたが、天気が良ければ海越しに立山連峰を望む絶景です。そして、魚がうまい!


メディアの動き 2019年12月05日 (木)

#222 災害時の障害者向け情報伝達の課題と今後

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

11月24日(日)、東京・品川で、災害時に障害者に対してどのように情報を届けていけばいいのかを考えるセミナーが行なわれました。
医療・福祉従事者を対象としたセミナーで、私はコーディネーターを務めたのですが、関係者以外にも広く知ってもらいたいテーマであると感じたため、このブログで内容を紹介しておきたいと思います。

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セミナーは、午前は「大規模災害時における現場での取り組み」、午後は「災害時の(障害者に向けた)情報発信フォーラム)」という2部構成で行なわれました。第1部で障害者の医療に携わる専門家が課題を問題提起し、第2部はそれを受ける形で、メディアによる取り組みやアプリなどのツールを活用して解決につなげる方策を議論しました。

第1部では障害者の家族への調査結果等から、災害時における障害者の避難行動や避難所生活における様々な課題が報告されました。報告の中で、最初から避難することをあきらめてしまっている障害者達が少なからずいるという現実に言葉を失いました。私は研究所で災害時の情報伝達を研究テーマの1つにしていますが、自身の勉強不足と認識の甘さを反省させられました。
提起された課題の中で私が最も深刻だと感じたのは、避難行動要支援者に対する「個別支援計画」の整備がほとんど進んでいないことでした。東日本大震災後の2013年に災害対策基本法が改正されて、自力で避難することが困難な高齢者や障害者は「避難行動要支援者」と位置づけられ、市町村には名簿の作成が義務付けられました。その名簿に基づいて、実際に対象となる一人一人について、避難のルートや避難場所、避難を支援する地域の人や組織などを取り決めるのが個別支援計画です。名簿の作成については、総務省消防庁の調べによると、既に全国の95%を超える市町村で進んでいるそうですが、個別支援計画となると、全員分を作成している市町村は15%に満たない状態だそうです。
こうした状況では、安否の確認も、適切な避難場所への誘導も、避難してからの支援もままなりません。しかし、障害者は地域とのつながりが薄いケースも少なくなく、また、自らも被災することが想定される中で障害者の支援を引き受けることに負担に感じる人達の気持ちも理解できます。災害ではよく「自助・共助・公助」ということが言われますが、名簿作成という「公助」は整っても、個別支援計画という「共助」の仕組み化は容易ではないと改めて痛感しました。第1部の最後では、障害者自身やその家族が、平時から災害に対する知識を身につけたり、避難訓練に参加したりする「自助」の重要性も強調されました。

第2部では、まずNHKの福祉ポータル「ハートネット」の取り組みが三宅有子プロデューサーより報告されました。ハートネットは“誰も取り残さない防災”を掲げ、「災害時 障害者のためのサイト」を作っています。障害別情報を9つのカテゴリーに分け、災害が起きた時にはどのようなことに注意すればいいかなど、障害者自身による「自助」のための行動指南がまとめられています。


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https://www6.nhk.or.jp/heart-net/special/saigai/index.html 

この内容は「通常モード」で、災害時は「発災モード」に切り替えるそうです。しかし三宅プロデューサーからは、発災モードへの切り替え判断はなかなか難しいという実情が明かされました。その理由として、組織をあげた報道ニュース取材と違って、まずは福祉番組担当ディレクターだけで障害者の被災状況を聞き取る体制になっているため、障害者団体や現地の社会福祉協議会、障害者施設への電話による人海戦術でどこまで情報収集出来るのか、限界があること等があげられました。

次に、前総務省近畿総合通信局長の大橋秀行さんから、東日本大震災以降ライフワークとして手がけている災害情報伝達について、スマートフォンの応用の紹介がありました。このアプリは今年、訪日外国人向けに実証実験を行なったそうです。利用者が事前に自身の情報を登録しておけば、必要な情報が理解しやすい内容に変換されて届けられます。また位置情報をもとにした安否確認もできるということでした。

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ただ、こうしたアプリは平時と非常時を“地続き”で考える発想でないとうまく機能しないこと、そのためには誰が運営主体となるのか、そして、その運営主体は障害者の個人情報や、登録情報を扱うことを引き受ける覚悟があるのか、などの問題提起がなされました。

それぞれの報告を受け、国立障害者リハビリテーションセンター病院長で発達障害情報・支援センター長の西牧謙吾さんからコメントをもらい、会場とのやりとりも行ないました。
NHKのハートネットの取り組みに対しては西牧さんから、NHKと当事者団体・医療現場との連携を組織的に深めていくことはできないか、具体的には、発災時に収集した団体や医療現場の情報をNHKと共有する枠組みを考えていくといったことが提案されました。会場からは、災害報道において高齢者の取材は多いのに障害者の取材が少ないのはおかしい、当たり前のこととして障害者の被災も取り上げてほしい、といった厳しい意見もありました。
また、災害情報伝達アプリについては、都内で大規模障害者施設を運営する人から、通所者の安否確認に是非活用してみたい、という声があがりました。それを受けて西牧さんから、現在兵庫県丹波篠山市で取り組まれている事例が紹介されました。


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丹波篠山市では、先に述べたような、自治体が災害時を想定して名簿を作成し、それに基づいて個別支援計画を作成するという方法ではなく(図の上部の「現行の仕組み」)、一人一人の障害者を日常に生活支援するための計画(ケアプラン)を作成する際に、災害時の個別支援計画を組み込んでしまうという方法(図の下部)をとっているそうです。こうした動きはいま少しずつ自治体に広がっているそうで、このような流れができれば、日頃から関わっている施設が、障害者やその家族にアプリを配布し、平時から活用してもらえる枠組みが作れるのではないか、との提案が行なわれました。

災害が日常化する日本で、「共助」の枠組みをいかに重層的に作っていけるか。今回のセミナーは障害者が対象でしたが、“誰も取り残さない防災”、すなわち、“誰も取り残さない社会”を目指していくという意味では、普遍的な内容を議論しているとコーディネーターを務めていて感じました。会場で提起された課題や提案については、単なる掛け声に終わらないよう、引き続き注視していきたいと思います。

なお、NHKでは12月8日(金)まで「体感・首都直下地震ウイーク」と題して、防災減災の必要性を「自分ごと」としてとらえてもらえるよう様々な番組や企画を行なっています。是非“体感”してください。
https://www.nhk.or.jp/taikan/ 


おススメの1本 2019年11月29日 (金)

#221 平成時代の「放送研究」あれこれ~放送文化研究所・30年間の論文から~⑦「北京オリンピックはどう見られたか~先進的視聴者のメディア接触状況~」

メディア研究部(メディア動向)柳澤伊佐男

平成の30年間、NHK放送文化研究所(文研)が手掛けた調査研究について振り返るシリーズ、7回目は、平成20年(2008年)の『放送研究と調査』11月号に掲載された「北京オリンピックはどう見られたか~先進的視聴者のメディア接触状況~」を取り上げます。

この論考は、2008年に開かれた「北京オリンピック」を題材にしています。タイトルの中にある“メディア接触”という用語は、情報(この場合はオリンピック情報)を得るために、視聴者がどのようなメディアを利用(接触)したかという意味で用いられています。

放送とオリンピックとの間には、切っても切り離せない関係があります。1964年の東京大会での衛星中継、カラー放送など、オリンピックを舞台に放送の新しい技術が導入されてきました。テレビ放送は、オリンピックとともに進化してきたとも言われ、文研でも、オリンピック放送に関する様々な調査研究が行われています。その中で、なぜ、この論考を取り上げたのかといいますと、北京大会でのメディア接触(利用)状況を確認しておくことが、これからの放送の姿を展望する手がかりになるかもしれないと思ったからです。

当時は、「地上デジタル放送」が始まって5年、「ワンセグ」サービスの開始2年で、大会直前に国内でのスマホ普及のきっかけとなった「iPhone」が発売されたり、大会の動画映像がインターネットで国内向けに初めて配信されたりするなど、放送や通信の環境が大きく変わろうとした時期でした。論考では、「様々なデジタルツールを手に入れ、既に利用している人たち~先進的視聴者~が、『北京オリンピック』にどうアクセスし、各メディアをどのように使い分けたか」を調べようと大会期間中の2日間、調査会社のモニター男女800人を対象にインターネット調査を行った結果が記されています。

それによりますと、オリンピックの情報を得るために最も利用されたのが「地上デジタル放送」で、次いで「新聞」、「BSデジタル放送」、「パソコンによるインターネット」という順になっていました。このうちネットについて、「毎日2回以上」もしくは「ほぼ毎日」アクセスしたと答えた人が全体の半数を超えていて、論者は「職場や家庭に広く普及したパソコンが、テレビや新聞と同様に情報取得の簡便なツールとして定着化してきたことがうかがえる」と分析しています。
その一方、「ワンセグ放送」「データ放送」といった“新たなメディア”への接触率は、高いものでも50%以下という結果で、「テレビ視聴の補完的役割にとどまっている」と判断されました。その上で、論者は「放送・通信をめぐる環境が変化する中でも、“スポーツの祭典”を楽しむ最適のメディアは、やはり『テレビ』であった」と結論づけています。

それから10年あまり、放送と通信の融合が一段と進み、インターネットによる動画配信や番組の同時配信、4K・8KやAI、VR・ARなど、様々な技術が目まぐるしいスピードで進化を遂げています。また、大容量のデータを瞬時にやり取りできる次世代の通信規格・5Gを活用した新しいサービスも本格的にはじまろうとしています。2020東京大会での「メディア接触状況」は、どうなるのでしょうか。


調査あれこれ 2019年11月26日 (火)

#220 「アナ雪」「税率アップ」...5年前の日本とテレビのいま

世論調査部(視聴者調査)保高隆之

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  週末、映画館で「アナと雪の女王」の続編を見てきました。美しい映像と耳に残る楽曲は相変わらずでしたが、加えて、キャラクターたちとの再会には親戚と久しぶりに会うような「なつかしい」感覚がありました。調べてみると、前作(日本での興行収入は255億円!)の日本公開は2014年3月。みんなが「レリゴー」と歌い、「ありのままで」が流行語となり、紅白歌合戦でも話題になってから、もう5年が経っていました。まさに光陰矢の如し…。
  さて、その5年前の2014年。他にも今年とつながっている大きなニュースがありました。何だと思いますか?(ヒント:2014年の「今年の漢字」にも選ばれています。)
答えは、「税」。消費税率が5%から8%になったのがこの年の4月だったのです。
ご存じの通り今年は消費税が10%になり、5年前のことを思い出す機会が頻繁にありました。個人的には、「そんなに前だっけ?」という印象なのですが、みなさんにとって、「5年前」はどのくらい前のイメージでしょうか。「だいぶ前」?、それとも「つい最近」?
…少なくとも放送局にとっては変化があった5年間だった、というのが今回の本題です。
   こちらのグラフをご覧ください。文研が毎年6月に実施している「全国放送サービス接触動向調査」の結果から抜粋したものです。この調査は、全国の7歳以上の個人が1週間で放送局の提供するコンテンツやサービスにどのように接触しているかを「リアルタイム」(放送と同時に視聴)、「タイムシフト」(録画や録音再生)、「インターネット」(ホームページや動画、SNS、ネットラジオなど)に分けて把握しています。

 

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   このグラフの緑の線「リアルタイムリーチ(週間接触率)」は5年前の93.2%から89.1%へと減少しました。一方、青の「インターネットリーチ」24.0%から31.6%へと増加しています。放送局にとっては、リアルタイムでの視聴であっても、インターネット経由の利用であっても、ニュースや番組に触れていただくことに変わりはありませんが、(タイムシフトを含め)いずれかに接触した「トータルリーチ」は、残念ながら5年前の94.8%から92.3%へと減少してしまいました。つまり、この5年では「インターネットリーチ」の増加が「リアルタイムリーチ」の落ち込みをカバーしきれなかった、というわけです。
   巷でいわれる「テレビ離れ」がいよいよ数字に表れてきたのだな、と、放送業界にとっては悲観的な結果にみえます。…が、ここで注目したいのが、もっともテレビから離れていそうな(?)20代の5年間の変化です。
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   上の図は2014年と2019年の20代について、接触の仕方の組み合わせを示したグラフです。図中の青い数字は統計的に有意な減少、赤い数字は増加を示しています。もちろん20代でも「リアルタイム接触」は81%から70%へと減少(特に不等号で示した「リアルタイムとタイムシフトのみ」が減少)しているのですが、「いずれにも接触なし」は5年前の15%と今年の18%で統計的な差がありません。つまり、20代のトータルな週間接触率は減少しなかったのです。少し意外に思われませんか?

   実は、代わりに「リアルタイム以外のみで接触」4%から12%へと大きく増加しました。具体的には「タイムシフトのみ」と「インターネットのみ」で接触する人が増え、「リアルタイム接触」の減少をカバーしたのです。
   これは放送局にとって歴史的な変化の兆しかもしれません。これまで、放送業界ではリアルタイムでの接触が圧倒的な割合を占め、録画再生やインターネットのサービスを利用している人も、リアルタイムで放送に接している人たちと重なっているとされてきました。しかしながら20代の調査結果からは、放送局が決めた放送時間に縛られずに自由に番組を楽しむ人たちが増えたこと、そして視聴方法の多様化が「テレビ離れ」に歯止めをかける可能性がみてとれます。

  5年後に振り返ったとき、はたして2019年は放送局にとってどんな年だったと評価されているのでしょうか。詳しい調査結果については、「放送研究と調査」10月号をご覧ください!


放送ヒストリー 2019年11月15日 (金)

#219 教育テレビ60年を番組のグループごとに振り返る

メディア研究部(番組研究)宇治橋祐之

1959年1月、日本初の教育専門テレビ局として開局したNHK教育テレビは、2019年で開局60年を迎えました。現在は唯一の教育専門局として「教育番組75%以上、教養番組15%以上」という編成比率で放送を続けています。こうした編成の変遷の全体像については『放送研究と調査』2019年1月号「教育テレビ60年 生涯学習波への広がりとインターネット展開」をご覧ください。

教育番組の比率が高いのが教育テレビの大きな特徴ですが、番組の内容をグループに分けてみると、高校講座などの講座番組や語学番組、幼児向けや青少年向けの番組だけでなく、趣味・実用番組、芸術・芸能番組、科学・健康番組、産業・経済番組など、さまざまなジャンルの番組を放送してきました。

また、かつては番組を家庭で見るだけでなく、学校の授業のように集団で視聴する「テレビ市民セミナー」や「市民大学講座」が各地で開かれていたのも、教育テレビならではの特色でした。

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テレビ利用の市民大学講座(1970年代)

放送文化研究所では、教育テレビ40年の際に番組を16のグループに分類して、その変遷をまとめました。それを引き継ぐ形で60年の変遷を『放送研究と調査』10月号から、3回シリーズで連載しています。

それぞれの番組グループごとに60年の番組の変遷を表にまとめてみると、前半の30年と後半の30年では大きな違いが見られました。例えば最初の30年は番組のタイトルが変わらず10年以上続くことも多かったのですが、後半の30年は3~5年ごとに変わることが増えてきました。

タイトルそのものも開局初期の『技能講座』が趣味どきっ!、『日曜大学』が『知る楽』、『婦人学級』が『すくすく子育て』、『社会福祉の時間』がハートネットTVというように、「講座」「大学」「学級」「時間」という、学校の授業や指導をイメージさせるタイトルから、カタカナや擬音を入れた、視聴者の感情に寄り添うものに変化してきています。

近年は「Eテレ」の愛称が定着し知的エンターテインメントを目指す番組が増えてきましたが、教育テレビの60年の変化を知っておくことは、この先の教育メディアで変えるべきものと守るべきもの、「不易流行」を考える上で大切だと思います。


メディアの動き 2019年11月13日 (水)

#218 これからの"放送"はどこに向かうのか? 

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

このブログでも何度か書いていますが、NHKはいま、インターネットで放送と同じ番組をまるごと配信する「常時同時配信」の実施に向けた準備を進めています。
その準備の1つが、「インターネット活用業務実施基準(ネット実施基準)」の策定です。
これは、NHKがネット活用業務を行うにあたり、その内容や実施方法、費用について自主的に定めるものですが、総務大臣の認可を得られなければNHKはネット業務を行えないきまりとなっています。NHKは先月(10月)、策定したネット実施基準案を総務省に提出、総務大臣の認可の申請を行いました。

先週金曜日(11月8日)、この案に対して総務省から、「NHKインターネット活用業務実施基準の変更案の認可申請の取扱いに関する総務省の基本的考え方」という文書が出されました。http://www.soumu.go.jp/main_content/000654087.pdf

この文書は新聞等でも大きく取り上げられたため、すでに目にしている人も少なくないかもしれません。文書は10ページに及んで、多岐にわたる項目に総務省側の考え方が記されています。総務省から検討の要請を受けたNHKは、現在総務省に申請中の案の内容を、改めて見直さなければならないことになりました。同時に総務省は、NHKだけでなく、広く国民・視聴者の意見も踏まえた上で最終的にNHKのネット実施基準を認可するかどうかを判断したいとのこと。既にNHKは9月に「素案」という形で広く意見募集を行いましたが、今回、総務省はこの基本的考え方に対して意見募集を行うと発表しました。私は2013年から放送政策の取材を続けていますが、こうした形の意見募集は異例のことといえます。意見募集の締め切りは来月(12月)8日です。そのため本ブログでは、この文書のポイントをまとめておきたいと思います。

ポイントの1つ目は、今回はNHKのネット活用業務の内容を定める実施基準の認可申請であるにも関わらず、「業務」「受信料」「ガバナンス」の三位一体改革の必要性が改めて指摘され、その詳細について触れられているということです。
中でも子会社については、NHKは今年既に1件の、そして来年にはもう1件の経営統合を目指していますが、文書では「子会社の在り方をゼロベースで見直す抜本的な改革については(中略)、更なる取組を着実かつ徹底的に進めることが必要」としています。
また受信料についても、NHKは先月(10月)に値下げを実施したばかりですが、「既存業務全体の見直しを徹底的に進め、受信料額の適正な水準を含めた受信料の在り方について、引き続き検討を行うことが必要」と記されています。

ポイントの2つ目は、ネット活用業務についての厳しい要請です。少し複雑なので個別に区切ってみていきます。

<常時同時配信>
NHKは常時同時配信を、協会との受信契約が確認された世帯向けの放送の補完サービスと位置付けています。申請中の案では、利用申し込みを促進させるために「「特例措置」を講ずることができること」とし、オリンピック・パラリンピック大会もその対象と位置付けました。しかし総務省からは民放の懸念を踏まえ、市場競争の観点等から「特例措置は設けないことが望ましい」との考え方が示されました。

<ネット活用業務全般の費用>
提出中の案でNHKは、受信料収入の2.5%を上限とする業務の他に、新たに「公益性の観点から積極的な実施が求められる業務」として別枠の費用を設けることを提示中です(図1)。これに対して総務省は、「受信料収入の約3.8%相当となり現行の実施基準と比較して著しく増加する(中略)」と指摘したうえで、令和2年度についてはオリパラ業務費用を除き「「受信料の2.5%」を維持することとし、既存のインターネット活用業務についても、真に必要なものかを検証して見直し、効率化を図ることが望ましい」としました。

図1(参考:ネット活用業務の費用に関するNHK案)
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<見逃し番組の配信>
NHKが常時同時配信と共に行う予定としている見逃し番組の配信についても、次のような指摘がなされました。「従来、有料業務として提供していた既放送番組の配信を受信料財源業務として提供することとした明確な理由も示されていない」。そして、現在、繰越欠損金が約70億円に上る有料のNHKオンデマンドの今後の収支に与える影響等を考え、「ニーズの高いコンテンツの見逃し配信については、有料業務で提供することなども考えられる」のではないかとしています。

この他にも、「地方向け放送番組」の提供を実施する時期及び内容について示すことや、NHKが行うネット活用業務の評価について、市場で競合する可能性のある民間事業者からも意見を聞く枠組みを作ること等についての検討も要請されています。

NHKの常時同時配信については、2015年秋から総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」で議論が開始され、足掛け5年かけて今年6月に改正放送法が公布されました。今回示された総務省の文書からは、これまでの議論や、急速なメディア環境の変化をNHKは十分に鑑みて案を策定しているのか、という総務省の厳しい眼差しが根底にあるように感じます。また、「「公共メディア」としての役割と具体的な構想」について、NHKは国民・視聴者に示しきれてきたのか、という指摘も甘んじて受けなければならないと思います。
しかし、これはあくまで私の取材の範囲における実感としてではありますが、今回の指摘の中には、これまでの議論の中で論点化されてこなかった、もしくは、議論で一定の結論に至ってきたことを逆戻りさせるような内容も含まれているように思います。NHKの問題とは、当然のことながらNHK自身にとどまらず民放との二元体制という放送メディア全体の問題でもあり、総務省が所管する放送政策の問題でもあります。総務省はこの間、NHKの将来像に対し、またNHKを含む放送メディアの将来像に対して、放送政策としてのグランドデザインをどこまで示せてきたのでしょうか。そして今回の文書は、その政策の延長線上でどのような位置づけにあるのでしょうか。このことも同時に問い直していくことが必要ではないかと思っています。

このNHKの常時同時配信を巡る最近の政策議論についてまとめた「放送研究と調査」2019年10月号「これからの“放送”はどこに向かうのか?Vol.4」を、今月1日に文研のウェブサイトに公開しました。原稿ではこのほか、2019年上半期の放送を巡る最新動向として、ローカル民放の放送外収入に向けた新たな取り組みや、各局で進む視聴ログデータの取り組みの可能性と課題についても触れています。また今回は単なる動向の整理だけでなく、メディア環境変化と同時に進行する社会の変化についても俯瞰図を作成することで、より広い視野で現状認識を行うことを試みました。
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原稿の公開に併せて、2018年10月から2019年9月までのテレビ・放送に関連する新サービスの動向をまとめた表(共同作成:東京大学大学院・田中瑛氏)も公開しています。併せてご活用ください。


メディアの動き 2019年11月08日 (金)

#217 台風!豪雨!「避難のしかた」わかりますか?

メディア研究部(メディア動向)入江さやか

■激甚な気象災害 誰もが被災者になる時代
猛烈な暴風が大規模な停電を引き起こした台風15号。大型で強い台風19号では、記録的な豪雨で長野県の千曲川や福島県の阿武隈川などで堤防が決壊し、13の都県で死者94人(災害関連死含む)にのぼる甚大な被害が出ました。さらに、台風21号から変わった低気圧による豪雨で水害に見舞われた地域もありました。
昨年の「西日本豪雨」は「平成最悪の豪雨災害」と呼ばれましたが、令和の時代にあっては「甚大な気象災害が毎年のように起きる、そして誰もが被災者になり得る」と考えておくべきなのかもしれません。
そこで、あえてみなさんに問います。「避難のしかた」、わかっていますか?

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写真:台風19号で堤防が決壊した千曲川(2019年10月13日午前7時すぎ NHK総合テレビ)

■いつ?どこに?何を着て?何を持って?
NHK放送文化研究所とNHK松山放送局では、昨年の「西日本豪雨」で大きな被害を受けた愛媛県在住の男女3,000人を対象にインターネットで調査を実施しました。「豪雨災害のおそれがあるとき、テレビやラジオはどのような放送をすべきだと思うか」を自由に書いてもらいました。

「どこに避難をすればいいか、避難場所の人の多さ、食事などの備蓄はあるか」
「最低限何を持って、どんな格好で避難すべきかという情報」
「必要な最低限のものと、何時頃までに避難の必要があるのか」(原文ママ)

服装や持ち物を含め、そもそも「避難のしかた」がわからない。だから、テレビ・ラジオで教えてほしい。そういう趣旨の意見の多さに驚かされました。確かに、大地震を想定した「避難訓練」は、学校や職場で経験している人は多いと思いますが、台風や豪雨を想定した避難訓練の機会は少ないかもしれません。避難のタイミングを逃さないために、今後はそのような避難訓練も必要になってくるのではないでしょうか。

NHKのウェブサイトでは、台風の際の「避難の心得」を動画で紹介しています。避難の際の服装や足回りなど、この機会にぜひ確認してください。
https://www.nhk.or.jp/sonae/douga/typhoon0007.html

■「避難のスキル」で命を守る
「今後、豪雨災害のおそれがある場合に、何をきっかけに避難するか」(複数回答)という質問に対しては、64%の人が「防災情報を見聞きして」と回答しました。ところが、被害が甚大だった宇和島市・大洲市・西予市では、「防災情報」を選んだ人の割合はやや低く、「雨の降り方が激しくなる」「災害の前兆を見聞きする」の割合が高くなっています。西日本豪雨を経験し、自治体やメディアからの情報を待たず、自ら状況を判断して早めに避難行動を起こそうとする姿勢がうかがわれました。


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今回の台風19号でも、自治体などから住民への防災情報伝達が十分でなかったケースが見受けられました。平常時から、地域の浸水リスク・土砂災害リスクを知っておく。テレビ・ラジオやウェブの情報に注意しながら、周囲の状況を見て避難すべきタイミングを自ら判断する。自分や家族の命を守るために、そんな「避難のスキル」を身につけておきたいものです。

今回の調査詳細は、以下でご覧いただけます。
頻発する豪雨災害 放送は何をどう伝えるべきか?
     ~愛媛県における西日本豪雨インターネット調査から~