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調査あれこれ

調査あれこれ 2022年11月17日 (木)

#429 大谷翔平選手、2年連続MVP受賞なるか!?

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 明日(日本時間11月18日)、アメリカ大リーグ(MLB)アメリカン・リーグのMVPが発表されます。
 MVPはレギュラーシーズンに最も活躍した選手に贈られ、全米野球記者協会に所属する記者30人の投票によって選ばれます。今年はリーグ記録となる62本のホームランを打ったヤンキースのアーロン・ジャッジ選手と、投手として15勝、打者として34本塁打を記録し、受賞すれば2年連続となる我らが"二刀流"大谷翔平選手が、熾烈なMVP争いを繰り広げていることが、多くのメディアで取り沙汰されています。

saito_2211_0_gettyImages-1233842873.jpg 実際にはもう投票は終わっていますし、いまさら私がここで何を言ったところでどうなるわけでもありませんが、楽しみに待っている日本のファンの皆様のために、今回は、文研ならではの、"これは、もしかして受賞できるのではないか?"と思いたくなるデータを!
 ご紹介するのは、文研が6月最初の1週間で実施した「全国個人視聴率調査」の、NHKBS1の視聴率上位ランキングです。MLBを放送しているBSの視聴率は地上波に比べてそもそもの数字が小さい上に、まだまだシーズン序盤の1週間限定のデータなので、シーズン全体の活躍や視聴の盛り上がりを反映したものではないことをご承知いただいたうえで、あえて、順位だけでお話ししていきます。
 今年のランキング表をみると、なんと、トップ7がいずれも大谷選手の出場したエンジェルス戦。つまり調査週に行われた7試合すべてがランクインしたのです!*1

2022年 BS1視聴率高位番組

 アメリカ西海岸に本拠地を置くエンジェルスの試合は、ナイトゲームの場合、日本では日中に放送されることもあり、やはりトップ2は多くの人が比較的視聴しやすい日曜と土曜の試合となりました。平日トップとなった6月10日(金)のレッドソックス戦は、大谷選手が先発投手としてマウンドに立ちながら、指名打者として打席にも立つ"リアル二刀流"でした。視聴率は1.2%ですが、じつは、この時間にリアルタイムでテレビを視聴していた人たちを100とした割合(占拠率)は18%にのぼります。つまり、この時間にテレビ放送を視聴していた人の5人に1人が大谷選手の試合を見ていたことになります。
 この「全国個人視聴率調査」は、コロナ禍の影響で2020年と2021年は実施できませんでしたので、残念ながら、初のMVP受賞となった去年のランキングがどうだったのかをお示しすることができないのですが(去年も同じであれば、"だから今年もきっと!"とファンの皆様をさらに勇気づけることができたかもしれませんが......)。
 ご参考までに、大谷選手がMLBでの挑戦を始めた2018年と、翌2019年のデータを紹介します*2。なお、大谷選手は、2018年は打者としては114試合に出場し、打率2割8分5厘、22本塁打。投手としては10試合に登板し、4勝2敗、防御率3.31という好成績で、アメリカン・リーグの「新人王」を受賞しました。2019年は肘の故障で投手としての出場はなく、打者として106試合に出場し、打率2割8分6厘、18本塁打でした。その両年、6月第1週に「全国個人視聴率調査」BS1トップ10に入ったのはいずれも3試合でした。

2018年 BS1視聴率高位番組

2019年 BS1視聴率高位番組

 これだけでも、今年、7曜日すべての試合がトップ10入りしたのがどれだけ凄いことなのかおわかりいただけると思いますが、2001年以降の各年のトップ10中にランクインした試合数を振り返ると......、

BS1視聴率トップ10に入ったMLB中継

 なんと、全7試合がトップ10に入ったのは、今回が初めてだったのです。
 次に多かったのは2001年。この年にはイチロー選手がMLBに挑戦して大活躍。首位打者、盗塁王、最多安打、シルバースラッガー賞、ゴールドグラブ賞のタイトルを同時獲得。新人王、そして、MVPにも選ばれています。あの伝説のイチロー選手MLBデビューイヤーよりも多くの試合がランクインしたのだから、きっと今年も大谷選手がMVPを...。と願ってしまうのは、分析者というよりもファンとしての気持ちがまさってしまい、ちょっと説得力に欠けますでしょうか......。
 ちなみに調査では、今年6月の大谷選手の試合が少なからぬ女性にも見られたことがわかり、大谷選手の活躍を応援する女性ファンの存在も想像できて、興味深い結果でした。
 「全国個人視聴率調査」の結果は『放送研究と調査』10月号に掲載していますので、ぜひそちらもお読みいただければ幸いです!

 果たして、結果はどうなるのか!?皆さんと一緒にワクワクしながら、明日の発表を待ちたいと思います!


*1:マルチ放送(BS101と102で別の番組を放送)の場合、今回はMLB中継を優先して表示しています。なお、ニュースなどによる中断を挟んで、1つの試合が複数の番組として放送された場合は視聴率の高かったほうを優先し、表における開始時刻も該当の番組の開始時刻を示します(試合開始時刻ではありません)。
*2:「全国個人視聴率調査」は、原則6月の第1週、調査相手に5分刻みのマークシートで、視聴した時刻と局を記入してもらっています。2019年までは配付回収法(調査員がお宅を訪問する方法)でしたが、コロナ禍による2年の中断を経て、2021年からは「郵送法」に切り替えました。配付回収法と郵送法の視聴率などの結果は単純に比較できません。
調査あれこれ 2022年11月15日 (火)

#428 暗雲漂う岸田政権の前途 ~外交で挽回は図れるのか~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 10月24日、ロシア軍がせきを切ったようにウクライナに侵攻を開始してから8か月になったこの日、日本の永田町では岸田政権の足元で不安視されていた堤の一角が崩れ落ちました。

 山際大志郎経済再生担当大臣が「国会運営に迷惑を掛けたくない」として、岸田総理大臣に辞表を提出し、後任には後藤茂之前厚生労働大臣が充てられました。

 安倍元総理を死に追いやった銃撃犯の供述をきっかけに旧統一教会問題が噴出し、長年にわたる深い関係を指摘され続けていた山際大臣。旧統一教会関連の催しへの出席など、新たな事実が報道で明らかになるたびに「記憶になかった」という言い訳を連発し、辞任は時間の問題とされていました。

 この問題と安倍元総理の国葬に対する批判がないまぜになって、各種世論調査での岸田内閣の支持率は、8月以降、下り勾配が続いています。

 そして山際大臣の辞任から3週間足らずの11月11日午後、今度は葉梨康弘法務大臣が辞表を提出しました。法務大臣の重要な職責である死刑執行の署名を、パーティーの挨拶で受け狙いの話のタネに使った軽率さが問題視されていたからです。

 しかし葉梨大臣は、その日の午前中の国会答弁でも「職責を全うする」と繰り返し、辞任する考えはないと強弁していました。前日に岸田総理と会って確認した通りに発言していたということですが、これには自民党内からも反発の声が噴出しました。

 岸田総理は後手に回った事態の対応に追われ、予定していたアジア歴訪への出発を遅らせて、後任に齋藤健元農林水産大臣を充てました。

 11月のNHK月例電話世論調査は、この法務大臣交代のさなかの11日(金)の夕方から13日(日)にかけて行われました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  33%(対前月-5ポイント)
 支持しない  46%(対前月+3ポイント)
 わからない、無回答  21%(対前月+1ポイント)

NHK世論調査での岸田内閣の支持率は、7月に発足以来最も高い59%を記録した後8月から下がり始め、これで4か月続けて最低を更新したことになります。

 相次ぐ閣僚辞任を巡って、自民党のベテラン国会議員たちからは「辞任ドミノを避けたい気持ちがあるのだろうが、人事権を持つ総理の決断の遅さが負のスパイラルを生んでいる」という声が聞こえてきます。

 「聞く力」はあるが「決める力」に欠けているという身内からの厳しい指摘です。

 10月と11月について、与党支持者、野党支持者、無党派の別に内閣支持率を比べてみるとこうなります。

 10月➡与党支持者68% 野党支持者16% 無党派17%
 11月➡与党支持者59% 野党支持者14% 無党派17%

 与党支持者の内閣支持率が9ポイント急落していて、もともと支持率が低い野党支持者、無党派層よりも落ち込みが激しくなっています。言い換えれば与党支持者の中で進む岸田離れの気配をうかがわせるものです。

 自民党の国会議員の中には「衆議院選挙や参議院選挙を控えていれば『岸田降ろし』が表面化しかねないが、当面は来年4月の統一地方選挙だけだからそうはならない」と語る人たちもいます。

 果たしてそうなのでしょうか。私は日頃から地方議会の議員たちとの意見交換を心がけていますが、先月あたりから「このままでは来春の選挙で当選できない」という自民党議員の悲痛な声を耳にするようになりました。11月のNHK世論調査では、こういう質問もしています。

☆旧統一教会と国会議員の関係が、相次いで問題になっています。あなたは、地方議員も関係を点検し、明らかにすべきだと思いますか。それとも明らかにする必要はないと思いますか。

 明らかにすべきだ  71%
 明らかにする必要はない  18%
 わからない、無回答  11%

国民の7割が「明らかにすべき」と答えているところに、旧統一教会を巡る問題に対する国民の厳しい視線を感じます。これに応えないままで国民の政治意識が変化するとは考えにくいというのが正直なところです。

 岸田総理は、葉梨前法務大臣から齋藤新法務大臣へのバトンタッチを見届けて、東南アジア各国で開催されている各種の首脳会議に精力的に臨んでいます。安倍内閣で4年8か月にわたって外務大臣を務めた経験を生かし、国際情勢が不安定化する中で、外交で存在感を示したいという思いが強いのはよくわかります。

 13日にはASEAN関連の首脳会議が開かれたカンボジアで、アメリカのバイデン大統領と日米首脳会談を行いました。厳しさを増す安全保障環境に対応するために、日米同盟の抑止力と対処力の一層の強化を図ることで一致しました。

 ただ、気になるのは日米同盟の強化に必要な防衛費の増額についてです。財源問題を含めて、具体的な内容が国民の目に触れるのは、まさにこれから。財務省は財源確保のためには各種の増税も必要になるという方針をすでに示していますが、そこに国民の理解が得られるかは不透明です。

 周囲を中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本で、国民の多くが総論では防衛力強化は必要と考えても、増税を伴う各論に理解を得るのは容易な仕事ではありません。

 岸田総理の胸中を推し量れば、来年5月19日から21日に自らの地元の広島で開催するG7サミットに向けて外交・安全保障でポイントゲットを重ねて政権の浮揚を図りたいということでしょう。

 しかし、その前に今の臨時国会での補正予算案審議、年明けの通常国会での来年度予算案審議などを乗り越えなくてはなりません。「政権の体力回復」が必須条件で、そのために国民にどう自らの考えを発信していくのか。正念場です。

調査あれこれ 2022年10月17日 (月)

#427 人が太りすぎるのは、怠けているから?

世論調査部(社会調査) 村田ひろ子

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 学生時代に先輩が、「私、太っている人って嫌い。だって、太ってるってことは、自己管理ができていない、ってことでしょ」と言っていました。かすかに違和感を覚えたのは、「太りやすい体質の人もいるし、病気が原因のこともあるだろうし、『太っている=自己管理ができていない』と決めつけるのはどうなの?」と思ったからです。
 それでは、実際のところ、人々は、肥満についてどのように考えているのでしょうか?文研が実施した健康・医療に関する世論調査※1の結果をみると、「人が太りすぎるのは、多くの場合、怠けているからである」という意見について、『そう思う(どちらかといえばを含む)』が32%※2、「どちらともいえない」が32%、『そうは思わない(どちらかといえばを含む)』が31%で、意見が分かれています。

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 『そう思う』と答えた人を男女別にみると、男性が37%で、女性の28%を上回っています。また、男女年層別にみると、男女ともに、若年層ほど回答が多くなる傾向があります。特に男性の40代以下では、半数を超える人が『そう思う』と考えていることがわかります。

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 回答者の体型別でみると、『そう思う』と回答した人は、『標準』の人が34%、『肥満』の人が32%、『やせ型』の人が28%で、回答に差はありませんでした。
 一方、運動習慣の有無別にみると、『そう思う』は、運動をしている人では38%で、運動をしていない人の28%よりも多くなっています。運動をしている人では、「肥満は自己責任」と感じている人が多く、生活習慣によって、健康についての考えが異なることがうかがえます。そういえば、冒頭で紹介した先輩も、毎日のようにプールで泳いでいたっけ...。

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 「放送研究と調査」2022年9月号では、世論調査の結果から、こうした健康をめぐる人々の見方や、医療格差についての意識を分析・報告しています。新型コロナウイルスの感染拡大で、医師や医療制度に対する信頼がどう変わったのかも注目のポイントです。ぜひご一読ください!!


※1 ISSP国際比較調査「健康・医療」・日本の結果 時期:2021年11月3日~12月2日、調査方法:郵送法、調査対象:全国18歳以上の2,400人、調査有効数(率):1,453人(60.5%)
※2 回答結果をまとめる場合は、実数で足し上げて%を計算しているため、単純に%を足し上げた数字と一致しないことがある。
調査あれこれ 2022年10月12日 (水)

#425 深まる岸田総理の憂鬱 ~内憂外患の秋から冬へ~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 9月30日、プーチン大統領がウクライナ東部・南部4州のロシアへの併合を一方的に宣言しました。2月24日にウクライナ侵攻を開始して以降、「力による現状変更」の最も露骨な姿を世界中の人たちに見せつけました。

 ウクライナを支援する日本などG7の国々、NATO(北大西洋条約機構)加盟の国々は、ロシアのあくなき領土拡張の行動を国際法違反だと批判し、制裁措置や武器援助を追加したりしています。

 しかしプーチン大統領は「国際秩序を破壊しているのはアメリカとそれに追従する国々で、我々はロシア人が暮らす地域を奪還したに過ぎない」と繰り返し、非難と攻撃の応酬が続くばかりです。

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 先日、ロシアの駐日大使、ミハイル・ガルージン氏の話を聞く機会がありましたが、2014年のクリミア併合はそこで暮らすロシア系住民を守るために行ったことだの一点張り。その後の東部・南部での停戦合意の話し合いを無にしたのは、ウクライナとアメリカなどNATO側だと強調するのみです。

 7月にはウクライナの駐日大使、コルスンスキー・セルギー氏の話も聞きました。セルギー大使は「ウクライナの真の独立は、旧ソビエト連邦から解き放たれた1991年当時の国の姿に戻ることだ」と強調していました。ロシアがクリミア併合に踏み切る以前の姿が本来のウクライナだということです。

 この両者の話を聞くと、大陸国家の抱える歴史的な困難さを突き付けられた思いがします。民族や宗教が異なる人々が、それぞれ背にしている違いを抱えながら平和な暮らしを営むことがいかに難しいか。島国日本の国民にとっては、目をこらして見ないと分かりにくい現実が存在しています。

 そうは言っても、プーチン大統領のやっていることは領土拡張を目指す覇権主義の表われ、専制主義的行動に他なりません。そこには「自由を尊重する」という気配が伺えないからです。黙認するわけにはいきません。

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 さて、こうした厳しい国際情勢が長期化の様相を見せる中で、日本国内では夏以降、岸田内閣の支持率に陰りが見え、政権を取り巻く環境が厳しさを増しています。

 10月8日から10日にかけて行われたNHK月例電話世論調査にも、それが如実に表れています。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  38%(対前月 -2ポイント)
 支持しない  43%(対前月 +3ポイント)
 わからない、無回答  20%(対前月 ±0ポイント)

岸田内閣の支持率は、発足直後の去年10月に49%でスタートし、衆議院選挙、参議院選挙での勝利を経て、7月には59%にまで上向きました。

しかし、8月、9月とじりじり下がり始め、10月は上記のように【支持する38%<支持しない43%】で初めて不支持が支持を上回りました。

☆岸田内閣の発足から1年がたちました。あなたは、この1年間の岸田内閣の実績を評価しますか。

評価する 38% < 評価しない 56%

岸田内閣の挙げた成果といえるものがなかなか見えてこない、ふわふわしているという国民の受け止めが少なくないことを物語っている数字に見えます。

 安倍元総理が健在だった7月8日より前までは、総理OBとなった安倍氏が展開する安全保障などでの保守的、あるいはタカ派的な政策提言を浮揚力として利用し、そこに「ちょっと待った」と言いながら国民に慎重さをアピールする面がありました。

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 しかしそれは成果・実績とは別のもので、向かい風を利用して空に舞う凧の姿にも似たものだったでしょう。それが安倍氏の死によって浮揚力を失い、失速の憂き目にあっているようにも見えます。

 改めて8月以降の内閣支持率の低下の理由を考えますと、大きく2つのことが密接に絡まった結果とする指摘は否定できないでしょう。

 1つ目は凶弾に倒れた安倍元総理を国葬で追悼したことです。そこには評価が割れている政治家の追悼を全額国費で行った、実施の根拠が曖昧なまま国会の議論を経ずに決められた、などの不満がまとわりついています。

 2つ目は旧統一教会と自民党の関係について疑問が残り続けている点です。安倍氏の命を奪った容疑者の供述がきっかけになり、霊感商法などが社会問題化してきた旧統一教会との関係が浮かび上がったにも関わらず、自民党が議員本人からの申告に基づく「点検」にとどめたことに対し、中途半端さ、曖昧さを感じる国民が多いということです。

 自らの政権運営の浮揚力となってくれていた安倍元総理との関連などで足元が揺らぐ現状。岸田総理にとって憂鬱な気分が深まる秋になっています。

 そして季節は秋から冬へと向かいます。岸田総理は状況を打開しようと、ウクライナ情勢を背景に冬場に懸念される電気料金などの上昇への備えに急ぎ足で取り組み始めました。

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 目指すのは家計や企業を直接支援する制度の創設で、岸田総理は「電力会社への補助金ではなく、全て国民の負担軽減に充てることを明確に示す仕組みにしなければならない」と強調しています。

 この冬のエネルギー対策は世界規模の問題です。エネルギー危機の発端となったロシアのウクライナ侵攻は2月下旬、北半球が冬から春へと向かう中で始まりました。従って今度の冬に初めて問題の深刻さに真正面から向き合うことになります。

 資源大国ロシアは、石油や天然ガスを戦略物資と位置付けて強気の姿勢を変えないでしょう。その時、エネルギーをロシアに依存してきたドイツなど、ウクライナを支援するヨーロッパの国々に揺らぎが生じはしないか。気になるところです。

 内憂外患。昔から「難しい問題はまとめてやってくる」と言います。一方で世界史的な難問への対処、一方で国民の信頼をつなぎとめるための努力。
秋から冬にかけて、岸田総理の発言や判断に、耳をすまし目をこらして向き合う必要がありそうです。

調査あれこれ 2022年09月27日 (火)

#424 興味のなかったことに関心を持つうえで、もっとも役に立っているメディアは?

世論調査部(視聴者調査) 渡辺洋子

ちょっとしたきっかけで、これまで興味がなかったものに関心を持つというような経験、皆さんもありますよね。

私は、少し前にSNSで流れてきた投稿をきっかけに、これまで特に関心がなかった戦国マンガに夢中になって、大人買いする、なんていうことがありました。
そのあと、しばらく寝不足になり、大変な思いをしました・・・。

 

さて、みなさんは何をきっかけに、新しいことに興味を持ちますか?

文研で、全国16歳以上の方を対象に、興味のなかったことに関心を持つうえで、もっとも役に立っているものを尋ねたところ、下のグラフのような結果になりました(図1)。

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「テレビ(録画再生・インターネット動画サービスを含む)」を挙げた人が29%ともっとも多く、「あてはまるものはない」が17%、そして「YouTube」が13%と、メディアとしては「テレビ」が1番目、「YouTube」が2番目です。

テレビが1番多いのは予想どおりでしたが、テレビに次いでYouTubeが多かったのは、意外な結果でした。

YouTubeは、利用者の視聴履歴をもとに、それぞれの利用者が関心を持ちそうな動画が目につきやすいところに表示されるしくみになっています。
そうした仕組みのサービスでも、「興味のなかったことに関心を持つ」という感覚の人が一定数いるということです。

 

16~29歳に限ると、さらに驚くべき結果となりました。
YouTubeが28%、テレビが17%と、YouTubeがテレビを逆転していたんです(図2)。

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16~29歳では、興味のなかったことに関心を持つうえで、テレビよりもYouTubeの方を評価しているということです。

もしかすると、若い人はテレビを見ないのでテレビの評価が低くなったのかもしれないと、テレビを見ない人を除いて確認してみることにしました。
※ちなみにこの調査では、16~29歳で、録画やインターネットで見る番組も含め、テレビ番組を日常的に(週に1日以上)見ない人は12%でした。

さて、どのような数字になったのでしょうか。

結果は、テレビ番組とYouTube、どちらも週に1日以上利用する16~29歳でも、
YouTubeが31%、テレビが19%と、YouTubeがテレビを上回っていました。

つまり、テレビもYouTubeも両方利用していても、16~29歳では、テレビよりYouTubeの方を、興味のなかったことに関心を持つうえで役に立つと思っているんですね。

 

テレビでは、ニュース、バラエティー、ドラマ、ドキュメンタリーなど、さまざまなジャンルの番組が、誰に対しても同じように流れます。 自分が好きなものが流れてくる確率は低いかもしれませんが、まったく知らなかったものを偶然目にして関心を持つという、新たな出会いが生まれやすいのではないかと考えていました。

ところが今回の結果をみると、若い人にとっては、さまざまなものが流れてくるテレビより、視聴履歴をもとにおすすめを提示してくれるYouTubeの方が、新たな関心を広げる上で役に立つと感じられていることがわかりました。

メディアに対する意識は、年齢や利用状況によって様々です。

『放送研究と調査』2022年8月号では、テレビやYouTubeなどのメディア利用と意識について、「全国メディア意識世論調査・2021」の結果をご紹介しています。
テレビと動画の利用状況の変化,その背景にある人々の意識とは~「全国メディア意識世論調査・2021」の結果から~

どうぞ、ご覧ください。

調査あれこれ 2022年09月15日 (木)

#422 いまの沖縄の人たちの思いとは? ~「復帰50年の沖縄に関する意識調査」結果から~

世論調査部(社会調査) 中山準之助

 あなたは、沖縄と聞いて、どんなことをイメージしますか?青い海にサンゴ礁、マングローブに、さとうきび畑。そうした自然以外にも、アメリカ軍基地を挙げる人もいると思います。
 沖縄は今年、アメリカから日本に返還された「本土復帰」から50年を迎えました。そこで、沖縄の人たちが日本への復帰をどう評価し、今の沖縄をどう見ているのか。今後の沖縄はどこへ向かい、どんな姿になっていくのかを探るため、世論調査部では、全国世論調査を実施し、沖縄と全国の回答を比較して、それぞれの意識の分析を試みました。その結果の一部は、文研ブログ#411 「沖縄局以外のNHK地域放送局が伝えた 沖縄本土復帰50年」(2022年8月5日)でも紹介されている通り、沖縄の人たちの意識と、全国の人たちとで、異なる点がいくつか見えてきたのです。

 ひとつ紹介しますと、沖縄の人たちに「沖縄の誇り」を(図1)、全国の人たちには「沖縄の魅力」を(図2)同じ選択肢で尋ねた結果です。

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 どちらも「豊かな自然」が最も多く挙げられています。沖縄の自然は“誇り”であり、“魅力”でもあるのです。ところが、「観光リゾート地」は、全国の人たちの65%が「沖縄の魅力」に挙げて2番目に多いのに対し、沖縄の人たちの「誇り」では34%にとどまり,選択肢の中でも下位です。全国の人たちが「魅力」と思うほど、沖縄の人たちは「誇り」とは思っていないと言えます。
 一方で、全国の人たちが感じている以上に、沖縄では、「沖縄の音楽や芸能」、「家族や親戚を大切にしていること」、「食文化」、「助け合いの気持ちが強いこと」などが6割前後で上位に並んでいます。沖縄の人たちは、“家族の絆”や“人との関係”を大事にしていることが見てとれます。

 沖縄と全国との違いでさらに注目されるのが、これからの沖縄にとって特に重要な課題は何かを尋ねた質問(図3)です。
 沖縄では、「貧困や格差の解消」が77%で最も多く、次いで「経済の自立・産業の振興」が68%、「子どもの学力向上」が64%、そして「アメリカ軍基地の整理・縮小」と「自然環境の保護」がそれぞれ61%などとなりました。一方、全国では「自然環境の保護」が64%、「アメリカ軍基地の整理・縮小」が61%と並んで多く、次いで「経済の自立・産業の振興」が50%、「沖縄の歴史の継承」が49%となっています。
 沖縄で最も多い「貧困や格差の解消」は、全国では25%と少なく、「子どもの学力向上」も全国では18%と少ないなど、課題の認識に差がみられました。

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 全国の人たちが、環境保護や基地の整理・縮小など、社会全体に及ぶ課題を挙げたのに対し、沖縄の人たちは、貧困や経済の自立、子どもの学力向上など生活に直結した身近な課題をより多く挙げている点は、今後の沖縄を考える際に、非常に大事な視点になってくるでしょう。

 今回の調査では、「本土復帰の評価」や、「米軍基地」についても、詳しく聞いています。その結果の一部をご紹介します。

▽沖縄の本土復帰は『よかった』という人が、沖縄では84%、全国では93%。
▽復帰して『よかった』と思う理由の1番は「沖縄は日本であることが望ましいから」。
 よくなかった』と思う理由は、沖縄では「沖縄の意向が尊重されていないから」が44%。

▽日米安全保障条約は『役立っている』が沖縄では約6割、全国では8割超。
▽復帰後も残るアメリカ軍基地について、沖縄では「やむを得ない」が51%、「必要だ」が11%。
▽在日アメリカ軍専用施設の約7割が沖縄に集中していることについて、沖縄では「おかしいと思う」が56%で、どちらかといえばを含めると8割超。全国でも合計は79%に達するが、このうち「どちらかといえばおかしいと思う」が55%と多い。

 このほかにも、「本土復帰の日」「慰霊の日」の認知、「50年間の印象的な出来事」のほか、「沖縄の経済」、「沖縄戦の継承」などについても尋ねました。
 詳細については、「放送研究と調査2022年8月号」で、1970年代から継続して実施してきた沖縄に関する世論調査結果も交えても紹介しています。是非、ご一読ください。
 復帰50年、沖縄の人々の思いを知る一助になることを心より願っております。

調査あれこれ 2022年09月13日 (火)

#421 足元揺らぐ岸田内閣 ~続く旧統一教会問題・安倍氏国葬批判~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 日本時間の8月10日。二刀流の大谷翔平がMLBでベーブルース以来となる2桁勝利・2桁ホームランの快挙を達成しました。この直前に行われたNHK月例電話世論調査で内閣支持率が13ポイントも急落していた岸田総理。胸中にあったのは「あやかりたい」の一言だったでしょう。

 しかしながら1か月後の9月9日から11日にかけて行われた月例調査でも、足元の揺らぎが収まる気配はありません。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  40%(対前月 -6ポイント)
 支持しない  40%(対前月+12ポイント)
 わからない、無回答  20%(対前月 -6ポイント)

岸田内閣の支持率は、発足直後の去年10月に49%でスタートし、衆議院選挙、参議院選挙に勝利して7月には59%という安定水準に達していました。

 それが2か月続きでジリジリと下がり続けている背景には様々な要因がありそうです。

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 まず、8月の支持率急落を受けて前のめり感を漂わせながら行った内閣改造と自民党役員人事の評判がよろしくない点です。

☆あなたは岸田総理大臣が8月10日に行った内閣改造と自民党の役員人事を全体として評価しますか。評価しませんか。

 評価する 34% < 評価しない 56%

岸田総理が態勢立て直しを目指した人事でしたが、萩生田光一政務調査会長や山際大志郎経済再生担当大臣など、旧統一教会との接点の存在を認めざるを得なかった議員が相次ぎました。

 9月に入って公表された自民党の集計では、旧統一教会やその関連団体と何らかの接点があった国会議員は、所属する379人のうち179人と半数近くに上りました。

 改造内閣の閣僚や自民党役員の中に接点の存在を認めざるを得なかった議員が相次いだのも、旧統一教会側が政権与党の自民党、とりわけ“これからの有望株”にすり寄っていたことを物語っています。

 もちろん選挙運動に大勢のスタッフを動員してもらっていた議員らと、頼まれて行事に祝電を打っていただけの議員らでは程度が違うのは確かです。

 ただ総じて言えることは、かつての霊感商法や多額の寄付の強要などで社会問題化してきた組織に対する警戒心の不足です。「選挙に勝つためにはわらをもつかむ」と語る議員もいますが、選挙の主役である有権者がNOを突き付ける存在をつかんではいけません。

 この問題と密接不可分となった安倍元総理の国葬に対しても、国民は厳しい視線を向けています。

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☆政府は9月27日に安倍元総理大臣の「国葬」を行うことを決定しました。あなたは、この決定を評価しますか。評価しませんか。

 評価する 32% < 評価しない 57%

参考に7月、8月調査での国葬に関する質問の答えは以下の通りです。

 7月 ⇒ 評価する 49% > 評価しない 38%
 8月 ⇒ 評価する 36% < 評価しない 50%

 安倍元総理と旧統一教会の関係について、岸田総理は「本人が亡くなっているので確かめようがない」と国会で答弁しています。

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 理屈の上ではそうですが、国民にとっては「すっきりしないグレーのまま」と受け止めざるを得ず、それで国葬か?という疑問符が次第に強調されている感があります。

 そこに英国のエリザベス女王の訃報が重なり、彼我の国葬を比較する素朴な世論が形成されつつあります。9月19日のエリザベス女王の国葬、そして27日の安倍元総理の国葬が近づくにつれ、どういう反応が出てくるのでしょうか。

 安倍氏を国葬という最大級の追悼の場で弔うことを決めた岸田総理にとって、自らの判断が国民に受け入れられるかどうかは今後に向けて大きな節目になります。まだまだ説明が足りないと思います。

 さて、10月に入れば秋の臨時国会が開かれ、来年度予算案の編成という政府の一番の仕事が正念場を迎えます。

 特に今年は2月のロシア軍のウクライナ侵攻に端を発した国際情勢の大変動、それに呼応するかのような中国の台湾に対する威嚇行動が相次ぎました。ロシアとも中国とも海を挟んで間近に接する日本にとって、安全保障政策の再構築が急務なのは確かです。

 岸田総理は国民を守る抑止力を強化するために相当な防衛費の増額を目指すと強調しています。問題はどういう部分に予算の積み増しを図るかです。

 安全保障の専門家の間では、最近「ウサデン」なる言葉が飛び交っています。意味しているのは、ウ=宇宙、サ=サイバー、デン=電磁波です。

 そこに示されているのは、従来型の陸海空自衛隊の装備や人員に予算を積み増す発想だけでは駄目だということです。ロシア、中国、そして北朝鮮の軍事的脅威に備えるためには、宇宙からの監視、サイバー攻撃への備え、電磁波による相手の無力化といった手法こそが有効だという判断を示しています。

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 こうした議論を年末までに具体的に深め、国民に提示していくのは相当の力仕事です。そして国民に示す時には、新たな財源をどう確保するかが明確でなければ納得を得ることはできません。

 最も単純なのは防衛費増額のために国債を発行して財源を得るという手法ですが、「これでは戦前の日本と同じではないか」という反発が出るのは避けられません。

 ロシアのプーチン大統領のように歴史の針を巻き戻すようなことはやってはならないでしょう。岸田総理がこの大仕事を通じて国民に対する説得力を発揮できるかが2022年後半の最大の焦点です。

調査あれこれ 2022年09月01日 (木)

#419 スマホの利用時間は、年齢によってどう違う?~「メディア利用の生活時間調査 2021」の結果から~

世論調査部(視聴者調査)伊藤 文

 文研では、現在の多様化したメディア利用行動をとらえることを目的に、2021年10月に「メディア利用の生活時間調査2021」を実施しました。
この調査では、「テレビ画面」「スマートフォン・携帯電話」「パソコン・タブレット端末」という3種類の機器(デバイス)について、「動画を見る」「SNSを使う」といった、その具体的な内容を含めて利用実態を調べています。また、他のさまざまな生活行動―食事や仕事、家事など―ともども、“時間”の観点から利用実態を把握できるのが特徴です。調査では、15分刻みの行動をまる2日間、記録してもらいました。

 その結果から、まず、1日にどのくらいの割合の人々が、「テレビ画面」、「スマートフォン・携帯電話」(以下スマホ)、「パソコン・タブレット端末」(以下PC)を利用しているのかを紹介します。これをわたしたちは「行為者率」と呼んでいます。
 itou13.pngのサムネイル画像 全体の結果では、テレビ画面の行為者率がひときわ高く、82%です(図1)。スマホはテレビ画面ほど高くなく、64%です。PCは25%で、利用している人のほうが少数派です。

 続いて、テレビ画面・スマホ・PCが、1日あたりそれぞれ何時間ぐらい利用されているのか、時間量をみてみます。

itou12.pngのサムネイル画像テレビ画面が3時間23分、スマホが1時間18分、PCが34分です(図2)
時間量は、テレビ画面 > スマホ > PCの順となり、これは1日の行為者率の高い順と同じです。
 これをさらにくわしくみてみましょう。
itou11.png 図3のグラフは、テレビ画面・スマホ・PCの1日あたりの時間量を、男女年層別にみたものです。
 オレンジ色のテレビ画面は、年齢が上がるほど利用時間が長くなっています。10代は男性で57分、女性で1時間2分、これに対し、70歳以上は男性で5時間17分、女性で5時間19分と、大きな差があります。
 一方、青色のスマホは、20代が男性で3時間26分、女性で3時間28分と突出しています。30代から上の年代では、男女とも年齢が上がるほどスマホの利用時間が短くなっています。
 このようにスマホやテレビ画面の利用時間は、年齢によって大きな違いがあり、男性30代以下と女性20代以下では、テレビ画面より、スマホを利用している時間のほうが長いことがわかりました。スマホを肌身離さず持ち歩き、外出先であれ自宅であれ、手元に置いて頻繁に利用している様子が想像できます。そのなかには、SNSやニュース、メールのチェック、ゲームや動画視聴などが含まれるかもしれません。テレビ画面を利用する場合も、その内容は、放送のリアルタイム視聴のほか、録画視聴・動画視聴・DVDやブルーレイの視聴、ゲームなど、さまざまでしょう。

「放送研究と調査2022年7月号」では、「メディア利用の生活時間調査 2021」の結果から、1日の生活の流れのなかでのスマホやテレビ画面の利用実態、「動画視聴」「ゲーム」「SNS」など具体的なメディア利用行動と、そうした行動を活発に行っている特徴的な年代、また、スマホとテレビ画面の両方を同時に使う行動などについても分析し、報告しています。
是非ご一読ください。

 

調査あれこれ 2022年08月19日 (金)

#417 「東京パラリンピック視聴と障害者スポーツへの理解」③ ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

 前回に続いて、文研が2016年から実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、東京パラリンピック(以下、東京パラ)を人々がどのように視聴し、それが障害者スポーツへの理解促進につながったのかどうかのお話です。

 <前回ブログまでのポイント>
 ①多くの人が、東京パラをNHKや民放の放送や、NHKプラスなどのインターネット向けサービスを通じて視聴した。
 ②東京パラをNHKで視聴した人の大多数が、大会をきっかけに、障害者や障害者スポーツへの理解が進んだと回答し、東京パラをスポーツとして楽しめた人が多い。

 今回も、東京パラをNHKで視聴した人の回答に注目しますので、まずは視聴した人の割合を改めてご紹介しておきます。74%と非常に多くの人が視聴してくださいました。

saiitou3-1a.png 今回のブログでは、NHKで東京パラを視聴した人たちが、障害者スポーツに対してどのようなイメージを持ったのか、みていきます。

 調査では、人々が障害者スポーツに対してどのようなイメージを持っているのかを把握するために、「あなたは、『障害者スポーツ』と聞いて、どのような言葉を思い浮かべますか」という質問をしました。その回答結果を、東京パラをNHKで視聴した人と視聴しなかった人別に集計したのが、次の表です。

saitou3-2a.png ご覧のように、視聴した人でも視聴しなかった人でも、トップは「感動する」というイメージですが、その割合には大きな差があります。また、視聴した人では、「すごい技が見られる」「明るい」などポジティブなイメージを持つ人が、視聴しなかった人よりも軒並み多くなっています。
 前回のブログでは、NHKで視聴した人は、東京パラをスポーツとして楽しめたというお話をしましたが、ここでも、「すごい技が見られる」「迫力のある」「面白い」「エキサイティングな」など、スポーツとしてのポジティブなイメージを持つ人が、視聴しなかった人よりも多いことがわかります。
 一方、「難しい」「痛々しい」「親しみのない」というネガティブなイメージを持つ人の割合は、視聴した人では、視聴しなかった人よりも少なくなっています。そもそも、視聴しなかった人では「感動する」以外はどの項目も20%未満と少ないので、「障害者スポーツ」と聞いても、パッと思い浮かぶイメージがあまりない、ということなのかもしれません。
 パラ競技は、選手の障害の種類や程度などによって、競技のクラス分けやルールが細かく設定されているので、どうしても、ふだん見慣れているオリンピック競技よりも「難しい」という印象を持たれるように思いますが、前述のように、視聴した人では「難しい」というイメージを持った人はわずか8%でした。言い換えれば、ほとんどの人が、“東京パラを視聴しても、難しいとは思わなかった”わけです。
 現実問題として、難しいはずなのに、どうして「難しい」と思わなかったのか。これについては、別の質問で、東京五輪・パラを楽しむためにどのような放送やサービスが役立ったのかを複数回答で尋ねた結果をご紹介します。

saitou3-3a.png 調査相手全体のトップは「競技の見どころをまとめたハイライト番組や映像」(57%)ですが、東京パラをNHKで視聴した人では「競技への関心につながるような選手やルールの紹介や解説」が65%で最も多くなりました。また、「競技中継の内容や注目点を画面上でわかりやすく伝える文字情報」を挙げた人も、全体より多くなっています。
 今回の東京パラで、多くの人が視聴したNHKの競技中継や番組では、画面上のテロップやアナウンサーの実況、解説者のコメントによって、かなり詳しくルールを説明していましたので、そうした工夫が、パラ競技のわかりにくさを減らし、結果的に、スポーツとして楽しめた人を増やしたのかもしれません。

 『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、今大会が人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しています。特に、今回のブログでご紹介した障害者への理解促進に関しては、「大会をきっかけにバリアフリー化が進んだかどうか」を尋ねた結果で、日ごろ障害のある人と身近に接している人と、接していない人では、回答に違いが出ていて、深く考えさせられました。ぜひお読みください!



調査あれこれ 2022年08月18日 (木)

#416 「東京パラリンピック視聴と障害者スポーツへの理解」② ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

  前回に続いて、文研が2016年から実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、東京パラリンピック(以下、東京パラ)を人々がどのように視聴し、それが障害者スポーツへの理解促進につながったのかどうかのお話です。

 <前回ブログのポイント> 
 ①東京パラでは、オリンピックと同様に、日本がメダルを獲得した競技が多くの人の印象に残った。
 ②多くの人が、東京パラをNHKや民放の放送や、NHKプラスなどのインターネット向けサービスを通じて視聴した。
 ③東京パラをNHKで視聴した人の大多数が、大会をきっかけに、障害者や障害者スポーツへの理解が進んだと回答した。

 このあとの分析をお読みいただく前提として、改めて、東京パラをNHKで視聴した人の割合をご紹介しておきます。74%と非常に多くの人が視聴してくださいました。

saitou2-1.jpg 今回のブログでは、NHKで東京パラを視聴した人たちが、障害者スポーツに対してどのような感想や意見を持ったのかを、もう少し具体的に掘り下げます。
 
 調査では、東京パラを視聴してどう思ったか、9つの感想を示して、「そう思う」かどうか尋ねました。NHKで東京パラを視聴した人の回答結果はご覧の通りです。

saitou2-2a.png 「そう思う」という人が最も多かったのは、「選手が競技にチャレンジする姿や出場するまでの努力に感動した」(87%)と「想像していた以上の高度なテクニックや迫力あるプレーに驚いた」(86%)で、9割近くにのぼります。
 私が注目したのは、東京パラを、スポーツとして捉えた人の多さです。上記の「想像していた以上の高度なテクニックや迫力あるプレーに驚いた」に加え、緑色でお示しした「記録や競技結果など純粋なスポーツとして楽しめた」は76%、「これからもっと障害者スポーツを見たいと思った」は60%と、いずれも半数を大きく上回っています。
 一方で、「オリンピックの楽しみ方とパラリンピックの楽しみ方はまったく違うと思った」という人は45%と半数以下にとどまりました。すなわち、パラリンピックも、オリンピック同様に、世界のトップアスリートたちがメダルをかけて競い合う姿を観戦し、応援するという楽しみ方をするものだと考える人のほうが多いわけです。
 これに関連して、今回の世論調査を振り返ると、大会前の第6回では、「パラリンピックには、スポーツとしての側面と、福祉として側面がありますが、放送では、どのように伝えるべきだと考えますか」という質問をしました。

saitou2-3a.png 「オリンピックと同様に、純粋なスポーツとして扱うべき」という人が43%と最も多く、「なるべくスポーツとしての魅力を前面に伝えるべき」(23%)と合わせると、『スポーツとして伝えるべき』だという意見が67%にのぼり、「競技性より、障害者福祉の視点を重視して伝えるべき」(4%)という意見を圧倒的に上回りました。
 つまり、大会前から、東京パラをスポーツとして楽しみたいと思っていた人が多く、実際に大会を視聴した人の感想としても、スポーツとして楽しめた人が多かったのです。
 ふだん、オリンピック競技ほどには見慣れていないはずのパラ競技を、オリンピックと同じようにスポーツとして楽しめた人が多かったという結果は、東京でのパラリンピック開催や、それを伝えたメディアが、障害者スポーツの理解促進に寄与したことのひとつの証ではないでしょうか。
 次回のブログではさらに、東京パラの視聴が、人々の障害者スポーツに対するイメージに、どのような変化をもたらしたのかをご紹介します。

 『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。そうした状況で大会をどのように楽しんだのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しています。どうぞご一読ください!