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調査あれこれ

調査あれこれ 2022年04月19日 (火)

#392 自治体による災害時のラジオ活用をどう進めるか?

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

はじめに ~災害とラジオ~

 このところ全国各地で地震が続いています。先月16日には、福島沖を震源とする最大震度6強の地震が起きました。東日本大震災発生から11年を迎えた3月11日からわずか5日後のことでした。大震災の時と同じ地域で再び被害があったということも耳にします。一日も早い復旧を願っています。
 私の自宅のある東京は震度4でしたが、長時間の横揺れが続いたため、食器棚からお気に入りのティーポットが落下して割れてしまいました。それを機に、改めてテレビや棚類の転倒防止対策を再確認しました。いまは防災リュックをベッドの横に置いて寝ています。
 防災リュックにはラジオを2つ入れています。懐中電灯とセットになった手回し充電式と、携帯用の電池式のもので、替えの電池も10個入れています。皆さんはいかがですか?最近はラジオ端末を持っている人も減っていますし、以前は100円ショップで簡単に携帯ラジオを購入することができましたが、最近はあまり取扱われていないようです。家電量販店やネットショップ、もしくは防災グッズを専門に扱うお店では購入できると思いますので、もし防災リュックに入れていないという人は入手しておくことをお勧めします。
 なぜお勧めするかというと、よく言われていることですが、災害時に最も頼りになるメディアがラジオだからです。とはいえ、そう言われても、停電でテレビがつかなくなったり、災害情報のプッシュ通知やSNSで情報を入手できるスマートフォンが使えなくなったりする状況は、その場に身を置いた経験がない限り実感は湧きにくいと思います。私はこれまで被災地に取材に行くことが多かったので、停電で余震が続く中で眠れない夜を過ごしたり、同僚と連絡を取る手段がないまま目的地まで何キロもの道を徒歩で向かったりしたことがあります。あくまで被災した方々を取材するという立場で被災地の状況を経験したにすぎませんが、現場で痛感したのは、命を救うため、様々な行動を判断するため、不安な心を落ち着かせるため、パニックや混乱を防ぐため、信頼できる情報を得られるツールが身近にあることがいかに大事か、ということでした。
 改めてラジオの強みを確認しておきましょう。一番の強みはなんといっても停電に強いことです。2018年の北海道胆振東部地震では、道内全域で大規模な停電(ブラックアウト)が起きましたが、地震発生当日に最も利用されたメディアはラジオでした1)それから端末の持ち運びが出来て乾電池だけで動くこと。数日間であればつけっぱなしにしていても、スマートフォンのようにバッテリーの残量を気にする必要はありません。また言うまでもなく、放送は通信と異なり、錯綜することなく情報を届けることができること。もちろん東日本大震災のような激甚災害になると、放送を送り届けるラジオの送信所(中継局)そのものが大きな被害を受ける可能性もあるのですが、テレビの中継局とは構造が異なることもあり、東日本大震災の時にはテレビに比べて停波した局は少なかったです(図1)。

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 東日本大震災以降、国の進める国土強靭化計画のもと、災害情報を伝達する責務を担う自治体や放送事業者、通信事業者は、伝達手段の多様化やインフラの強化、停電対策を進めています。しかし、どんなに対策が進められたとしても、南海トラフ地震や首都直下地震などの激甚災害の場合には、やはり停電が長時間続き、通信も放送も途絶え、被災地が完全に孤立してしまうような最悪の事態を想定しておくことが賢明であると思います。

1.首都圏の市町村によるラジオ活用の道広がる

 前置きが長くなってしまいました。本ブログの本題は、災害時における自治体によるラジオ活用についてです。先月、総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」が、「放送用周波数の活用方策に関する取りまとめ3)」を公表しました。あまり注目されていないようですが、災害時の情報伝達という観点から見るとこれまでにない画期的な方向性が示されていると感じたので取り上げておきたいと思います。
 今回の取りまとめで対象とされた放送用周波数は、2018年9月末まで放送大学学園4)の番組を放送していた地上テレビとFMラジオの帯域と、2020年3月末まで放送していた「新放送サービスi-dio」のV-Low帯域5)です。これらは国が放送用に割り当てている周波数であるため、今後、放送サービスとして活用したい事業者がいるかどうかの需要調査が行われました。その結果、V-Low帯域については、多くの民間AMラジオ事業者が2028年までにAMを停波してFM化を進めていることから、帯域の一部をFM放送用周波数として拡充する方針が示されました6)。また放送大学の地上テレビの"跡地"については、放送技術の高度化の実験・実証フィールドとして活用する方針が示されました。
 同時に、V-Low帯の一部と放送大学のFM放送の跡地については、自治体によるラジオ活用に道が開かれました。V-Low帯は、市町村が伝達手段として整備している防災行政無線(同報系)と連動させてFMで同じ情報を届ける「FM防災情報システム」への活用、FM放送跡地は、災害時に自治体が免許人となって開局できる「臨時災害放送局」専用帯域としての活用です。それぞれ詳細を見ていきましょう。

2.「FM防災情報システム」としての活用

 FM防災情報システムという存在、初耳の方がほとんどではないでしょうか。実は、今回の検討会の議論の中で新たに発案されたものだそうです。図2が取りまとめで示されたシステムのイメージです。防災行政無線の屋外拡声子局にFMの送信設備をつけ、防災行政無線の音声をFMで再送信するという仕掛けになっています。
 自治体の7割以上が、災害時にたまたまその地域を車で通過する人達や、車中で避難生活を送る人達に対する情報伝達に課題を感じているという調査結果を受け、車に装備されているカーラジオ等に防災行政無線と同じ内容を伝達することが出来るこのシステムが考案されたそうです。

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 防災行政無線についてはこれまで、豪雨等の時に聞き取りにくいということが繰り返し指摘されてきました。こうした中、国では、自宅等に設置する戸別受信機を自治体が住民に貸与することを積極的に財政支援してきました。しかし、専用端末であるために高額であること、持ち運びが不便なこと等がネックとなっており、普及には課題も少なくありませんでした。今回のシステムはFM波を使うことから汎用性のあるラジオ端末(カーラジオ等)が活用でき、戸別受信機ではカバーできない移動中の人達に向けた伝達も可能となります。特に、津波の到達が早い沿岸部の自治体や、氾濫の恐れのある河川を抱える自治体では、このシステムの導入を積極的に検討して欲しいと思います。

3.首都圏の「臨時災害放送局」専用周波数として活用

 災害時の自治体のラジオ活用として開かれたもう1つの道が臨時災害放送局(災害FM)です。災害時に自治体が免許人となり臨時のラジオ局を開設できるというこの制度は、阪神・淡路大震災の際に誕生し、東日本大震災で多くの市町村で開設され、認知が広がりました。その後も、熊本地震、西日本豪雨、北海道胆振東部地震等で多くの自治体が開設していて、私は現場を取材し続けてきました(図3)8)

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 なぜわざわざ自治体の情報伝達にラジオが必要なのか、先に触れた防災行政無線で十分ではないのか、と疑問を感じる方もいらっしゃると思いますので少し説明しておきます。防災行政無線は主に屋外に向けて、短い言葉で避難を呼びかけたり注意喚起をしたりすることを主とする伝達手段です。しかし、避難生活が長期化する場合には安否情報や救援情報、生活情報や各種行政情報等の情報を整理して伝え、地域内の住民たちで共有し、それらの情報が的確に更新されていくことが不可欠となります。つまり、大量の多様な情報を伝達していくことが必要であり、防災行政無線だけでは担いきれないのです。
 こうした状況に陥った際に活躍が期待されているのが、自治体を主なカバーエリアとする地域メディアであるケーブルテレビやコミュニティ放送局です。特にラジオメディアであるコミュニティ放送局は、災害対策への関心の高さから開局が年々増え続けています(図4)。大半の局が自治体と防災協定を結んでおり、いざという時にはタッグを組んで情報伝達する体制を構築しています。しかし制度上、平時から放送を行うコミュニティ放送局は自治体が免許人になれないため、民間事業者として地域内で広告スポンサーを確保し、日々の放送を維持していかなければなりません。災害対応、住民の安全確保という観点から見れば、どの地域にもくまなくコミュニティ放送局が整備されることが理想ではありますが、現状ではコミュニティ放送局の全国の自治体カバー率は5割には満たない状況に留まっています。

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 一方、災害FMはあくまで災害時にのみ限定して自治体が開設し運営する放送局です。開設するのも簡単で、機材や一定の条件が揃えば、総務省に電話1本することで放送を開始できます。そのため、コミュニティ放送局がない自治体では、災害FMに対する関心が高まっているのです。
 もちろん課題もあります。災害が発生してからの対応になるため、①自治体が開設を希望していても実際に周波数が空いていなければ開設できない、②周波数を事前に(平時から)住民に伝えておくことが出来ず、周知が発災後になるため認知されにくい、③ラジオ端末を持っている人が少なく、日頃からラジオを聞いたことがない人も少なくない、④機材の準備や運営のノウハウ、スキルを持った人の確保が必要、等です。特に首都圏エリアは他の地域に比べて①の課題が深刻でした。そもそも空いている周波数が少ないのです。
 こうした中、今回の検討会では、東京の4つの区が災害FM開設を要望するプレゼンを行いました10)。これらの自治体では、既にラジオを運営するための機材を購入していたり、実際に住民を巻き込んだ訓練を行ったりしています。検討会で行った調査では、首都圏エリアで開設を希望する自治体は現段階で14あるそうです。このため取りまとめでは、首都圏を放送エリアとしていた放送大学跡地のFM周波数を、災害FMの専用周波数としてあらかじめ確保しておくという方針が示されました。日常的に帯域を活用するのではなく災害の備えとして活用するという方針は、従来にはない画期的なものと感じました。

4.今後考えていくべきこと

 今後は示された方針を具体的に進めていくことになりますが、放送大学跡地のFM周波数は2つしかないため、希望する複数の自治体が時間を区切って共用する(○○区は9時~10時、××市は10時半~11時半等)という形を取ることになりそうです。つまり、各自治体の送信設備から放送波を出しては止め出しては止め、ということを繰り返していくことになるわけです。これまであまり例のない形で運営していくわけですから、調整役となる総務省や関東総合通信局の役割は重要です。また放送のプロではない自治体の人たちが、災害時の混乱の中で実施していかなければならないわけですから、相応の準備も必要となってくるでしょう。
 また検討会では、首都圏エリア以外でも、こうした災害FM用の専用帯域の確保や希望する自治体との調整、あらかじめ固定した周波数を住民に周知するといったことが出来ないのか、という意見があがっていました。総務省に尋ねると、首都圏エリアはもともと周波数が足りない状況の中で首都直下地震が想定されていたため、放送大学跡地の議論が今回の方針につながったとのこと。そのため他の地域で同様の議論や方針を示すことは今のところ考えてはいない、とのことでした11)
 ただ、私も災害FM関連のシンポジウムや講演会に参加させていただいたことがある近畿総合通信局では、南海トラフ地震に備えて和歌山県の沿岸自治体12市町村で、災害FMを同時開局できるかどうか周波数を選定するシミュレーションや実地調査を実施し、その結果を自治体と共有する取り組みを行っています(図5)。これは、災害FMを取り入れた防災訓練を積極的に行ってきた和歌山情報化推進協議会12)と総合通信局のディスカッションからスタートしたものです。和歌山県の場合は首都圏エリアとは逆に、空き周波数があるためにこうした取り組みが可能ですが、全国各地でそれぞれのエリアの実情に応じながら、地域の総合通信局がイニシアチブを取って、平時から自治体等と連携した災害対応の取り組みをより積極的に進めていくことが求められているのではないかと思います。

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 そして、こうしたハードの準備以上に重要だと私が考えているのが、住民にとって必要な情報をわかりやすく伝えるスキルを持った人材の確保・育成です。マイクの前に座って災害対策本部の原稿を読めばいい、というところから一歩進んで、どうしたら混乱している人達が冷静に行動できるような伝え方ができるのか、どうしたら不安な人達が安心できるような話し方ができるのかについて、あらかじめ想定した準備をして欲しいというのが、これまで災害FMを取材してきた私の意見です。
 そのために貢献できるのが地域の情報伝達のプロフェッショナルである地域メディアの存在です。首都圏エリアで災害FMの開設を希望する自治体の中には、ケーブルテレビとあらかじめ運営に関して協議をしたり協定を結んだりしている地域もあり、非常に心強く感じます。また、先に紹介した和歌山県情報化推進協議会は、県下の県域民放やNHK、コミュニティ放送局等が参加している組織で、自治体職員や地域住民に対して、取材や放送の方法等を、訓練を通じて伝える活動をしています。こうした平時からの地道な活動こそ、地域メディアの果たすべき重要な役割の一つではないかと思います。
 更に、こうしたプロフェッショナルメディア、特に災害時にも活躍が期待される県域ラジオ局と自治体の連携が深まれば、災害時に自治体の情報をそのまま放送する枠を設けるといった取り決めも可能かもしれないと思ったりもしています。あらかじめ県域ラジオ局と自治体の間で、衛星電話を繋いで情報を伝えるという時間枠を確保する協定を結んでおけば、その自治体はわざわざ災害FMを立ち上げなくても情報を伝達することが可能でしょうし、住民にはあらかじめ、災害時には県域ラジオを聞いてください、と伝えておくことも可能でしょう。もちろん、県域ラジオ局には独自の編成があるわけですから、あくまで現時点では私見ではありますが、ただ、取材に行ったり独自に情報収集したりすることすらままならない激甚災害においては、自治体のみならず県域ラジオ局にとっても有効なのではないかと思いますし、複数の県域ラジオ局がある地域においては、こうした自治体情報を束ねる災害放送を行うチャンネルがあってもいいのではないかと思います。
 災害が起きてから出来る事は限られています。いかにあらかじめ災害時を想定し準備をしておくか、その準備は、最も厳しい状況を想定しておく必要があると思います。最後に少し踏み込んだ私の意見も述べましたが、今回の「放送用周波数の活用方策に関する取りまとめ」を契機に、既存の枠組みにとらわれない柔軟で積極的な災害情報伝達に関する議論が全国各地で進んでいくことを期待していますし、私もその議論に少しでも関わっていきたいと思っています。

 

1)   https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/pdf/20190201_10.pdf  P42
      逆にテレビについては68%の人たちが利用できなかったと回答
2)    https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc134220.html 図表3-4-2-5
3)    https://www.soumu.go.jp/main_content/000800629.pdf 
4)    放送大学は現在、BSで放送中 https://www.ouj.ac.jp/
5)    地デジ化終了後の空き周波数の一部。95MHz-108MHz
6)    地上AMラジオ事業者のFM転換だけでなく、コミュニティ放送局が開局を希望する場合には免許できる方針も併せて示された
7)    https://www.soumu.go.jp/main_content/000800629.pdf P14
8)   下記の震災についての原稿は・・・
      東日本大震災:https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2012_03/20120303.pdf 
             熊本地震:https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/100/246229.html 
         西日本豪雨:https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2018/08/09/
9)   https://www.soumu.go.jp/main_content/000800629.pdf  P5 
10) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/housou_kadai/02ryutsu08_04000457.html 
   検討会では、東京都文京区・北区・練馬区・足立区が準備の取り組みをプレゼン
11) 4月5日 本検討会事務局である放送技術課を取材
12) https://wida.jp/act/rinsai_musen/ 和歌山県情報化推進協議会では、災害FM立ち上げのためのボランティア人材の確保なども行っている
13) https://www.soumu.go.jp/main_content/000806538.pdf P46

 

調査あれこれ 2022年04月12日 (火)

#391 対ロシア経済制裁に必要な覚悟 ~ウクライナ・早期停戦に向けて~

放送文化研究所 研究主幹  島田敏男

 「第2次世界大戦後、最も恐ろしい戦争犯罪だ!」日本時間の4月5日深夜、国連安全保障理事会の緊急会合の場でウクライナのゼレンスキー大統領がオンライン演説。大統領は直前にブチャという街の惨状を視察していて、世界に向けて憤りをあらわにしました。

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 2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻を開始してから1か月半余り。首都キーウに迫っていたロシア軍は、ウクライナ側の抵抗に阻まれて一旦後退し、東部に転じつつあると伝えられています。

 ロシア軍が引いた後、激戦があったキーウ周辺の街に、ウクライナ政府や国際機関の関係者、それにNGOの人たちやジャーナリストが入るにつれて慄然とする現実が次々に明らかになりました。

 グテーレス国連事務総長は「無差別攻撃は国際人道法の下で禁止されている」と強調し、国際刑事裁判所で民間人に対する戦争犯罪を裁くための調査を呼びかけました。


kokurenanporinairi.jpg この市民の犠牲者に関する情報は各地で跡を絶たず、連日のように世界に向けて発信されています。これに対しロシア側はプーチン大統領を筆頭に「ウクライナ側のねつ造だ」と口を揃えるばかりです。

 4月のNHK電話世論調査は、世界の耳目が市民の犠牲に関する情報に接し続ける中、8日(金)から10日(日)にかけて行われました。

「ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対する日本政府のこれまでの対応を評価しますか」と聞きました。

「評価する」  71%(対前月+13ポイント)

「評価しない」 21%(対前月-13ポイント)

 日本は攻撃兵器の提供などの軍事支援は行わない一方で、避難民支援のために資金提供を行ったり、希望する避難民の日本への受け入れを進めたりしています。

 また欧米各国と足並みを揃えて金融制裁や経済制裁を実施し、プーチン大統領やその家族、政権関係者らに対する資産凍結も打ち出し、明確にNOの意思表示を示しています。
 軍事侵攻から2週間余りの時点で行った3月調査と比べると、日本政府のウクライナ支持の態度を評価する割合が増しています。現地から伝えられる市民の犠牲に関する情報が増すほどに、ロシアに対する国民の視線が厳しさを増しているようです。

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「日本政府のロシアに対する制裁措置についてどう思いますか。次の3つから1つ選んでください」

「適切だ」       35%
「さらに強めるべきだ」 47%
「厳しすぎる」       7%

 これを詳しく見ると、「さらに強めるべきだ」は野党支持者では6割に達していて、与党支持者の5割弱、無党派層の4割強と比べて高い割合を占めています。

「今回の軍事侵攻を受け、政府はロシアへのエネルギー依存度を引き下げていく方針です。一方で、引き下げによるエネルギー価格の上昇の可能性も指摘されています。エネルギーの価格が上がっても、ロシアへのエネルギー依存度を引き下げることを、支持しますか、支持しませんか」

「支持する」  68%
「支持しない」 17%

 日本はロシアからの石炭輸入や新規投資を禁止する経済制裁に踏み切っていますが、日ロ共同事業になっているサハリンでの天然ガスプロジェクトは今のところ継続しています。

 今回の事態で世界的にエネルギー資源や穀物資源の価格高騰が続いていますし、停戦に至らずに戦闘状態が継続するならば制裁は長期化することになります。またロシアの出方次第では一層の制裁強化も必要になります。

kishida.jpg そもそも経済制裁はどういう意味合いと可能性を持つものなのでしょう。「けしからん行為に対する懲罰」という意味合いにとどまらず、「戦争継続を抑止するための武器」でもあります。

 安全保障の世界では、抑止というのは基本的には「相手に大きなコストがかかることを実感させ、コストパフォーマンスが悪い選択を断念させる働き」と理解されています。
 つまり先々を展望することができる合理的な判断力に訴えかけ、心変わりを促すメッセージであるわけです。第3次世界大戦を望まない欧米諸国や日本が取りうるギリギリの手段です。

 しかし経済のグローバル化が進んだ21世紀の現代では、制裁を行う側も返り血を浴びることを覚悟しなければなりません。資源大国ロシアにエネルギー源を依存してきたドイツが難しい選択を迫られているのもそのためです。

 天然資源を海外からの輸入に頼る日本でも、回りまわって様々な製品の価格が上昇した場合に消費者がそれにどこまで耐えることができるか。まさに覚悟が問われます。

kishida2.jpg「あなたは岸田内閣を支持しますか。支持しませんか」

「支持する」  53%(対前月 ± 0ポイント)
「支持しない」 23%(対前月-2ポイント)

 岸田総理が外務大臣を務めていた安倍政権の当時、日本政府は経済連携を梃子にして北方領土の返還と平和条約交渉を進めるためにロシアに接近を図っていました。

 しかしロシアがウクライナ侵攻という「力による現状変更」を継続する状況では、これとは全く異なる態度で臨まざるを得ません。すでにロシア政府は経済制裁に対する日本への報復として、話し合い拒否を伝えてきています。

 今月の岸田内閣の支持率を見れば、国民から一定の支持を得ていると評価できると思います。ただ、経済制裁を継続する中で日々の暮らしに影響が及ぶ段階に至った時に足元が揺らぐことはないのか。

 世界情勢への対応が国内の政治情勢を左右する難しい局面に立っていることは確かです。

 

調査あれこれ 2022年04月07日 (木)

#390 地域の声を受けとめてドラマを制作~NHK京都「ストレス・リレー」~

メディア研究部 (番組研究) 宮下牧恵

 視聴者の疑問や悩みをもとに取材・制作を進め、ともに解決を探っていく。その過程で地域とのつながりを深める「課題解決型」の番組やニュース企画が、全国の地域放送局で増えています。その実例を、これまで2回のブログでお伝えしてきました。今回は、「課題解決型」のニュース企画に加え、地域の人々の声を反映させたドラマ作りに乗り出した事例をご紹介します。

 NHK京都放送局は、今年2022年に開局から90年の節目を迎えます。昨年夏から、開局90年プロジェクトを立ち上げ、地域のために何ができるのか、若手職員が集まって議論を始めました。そして「京都府民のもっと身近に、役に立てる放送局になりたい」といった思いを込めて、「#使い方イロイロ」というキャッチコピーを作り、それに沿って企画を考えました。

 まずは府民の生の声を集めようと、局内の全ての部署から若手職員13人が参加して「お悩み聞き隊」という名のチームを結成。約3週間かけて、府民100人に街頭インタビューを行いました。

 そして、それらの悩みの声を出発点に取材を進め、課題解決をめざす企画「こえきく!」を、「ニュース630京いちにち」(月~金、18時30分から)の中でスタートしました。

 「ハザードマップの疑問」(2021年10月6日放送)の回では、「水害時に避難するように指定された避難所が、ハザードマップを見ると浸水想定地域になっている」という市民の疑問からリサーチを開始し、なぜそのような状態なのかを行政に取材するとともに、実際の水害の際にどう備えればよいか、専門家のアドバイスも紹介しました。また、「これでOK?店の感染対策」(2021年10月18日放送)では、飲食店の関係者から「コロナ禍で、どんなに感染対策をしても、人々から厳しい声が寄せられる」という悩みが複数寄せられたことから、実際に困っている飲食店に取材し、感染対策の現状や困りごとを撮影。その映像を専門家に見てもらい、具体的な感染対策の方法をともに考えました。

 一方で、課題も見えてきました。街頭インタビューでは、「コロナで仕事がうまくいかない」「学校での活動が思うようにできない」「自粛で家にこもる時間が増えて家族と話していてもいらだつことが増えた」など、コロナ禍で感じるストレスや、そのストレスを誰かと共有することにも疲れているという声が多く聞かれました。こうした個人的なストレスやモヤモヤした気持ちは、リポートでは解決が難しいものでした。
 地域の人たちがコロナ禍で感じているストレスやモヤモヤした気持ちを、「分かち合ったり」「笑いに変えたり」「発散させたり」できる企画はできないか。また、課題解決の取り組みでは、調査報道や、情報番組のスタイルが多い中、それ以外の方法で地域や視聴者を巻き込むことはできないか。そうした議論が局内で行われるようになりました。

 そんなとき、「こえきく!」の担当者の一人、入局5年目(当時)の岩根佳奈子ディレクター(現・クリエイターセンター<第2制作センター>)は、ある小説に出会いました。芥川賞作家で学生時代を京都で過ごした平野啓一郎さんが昨年8月に発表した短編小説「ストレス・リレー」です。
 作品では、アメリカから帰国したサラリーマンが発した棘のある言葉がストレスとして人々に伝播し、東京から京都へと持ち込まれ増殖していく様が描かれています。

 岩根ディレクターは、「ストレス・リレー」を読み、「こえきく!」でインタビューをしている中で耳にしてきた人々の声と、小説の中でストレスがリレーされていく様子が重なったそうです。そこで、この小説を元に、ドラマを作ることはできないかと、小山諒カメラマン(当時・入局2年目)や木村竣一カメラマン(同・入局3年目)とともに企画を提案しました。

 こうしてドラマ「京都スペシャル ストレス・リレー」(2021年11月26日午後7時30分~7時57分、総合テレビで京都府向けに放送)が制作されました。出演は俳優の川島海荷さん、近藤芳正さんのほか、京都ゆかりの俳優や、実際に「こえきく!」のインタビューで出会った市民のみなさんにも参加してもらいました。オーディションの際には、実生活の中でどのようなストレスを感じているかについてインタビューも行い、そうした映像もドラマの中で使用されました。

miyashita1.jpgのサムネイル画像 ドラマの中では、登場人物が、イライラを人にぶつけることで、ストレスをリレーさせていきます。例えば、アメリカから帰国したサラリーマンによってストレスをぶつけられるコミュニケーションが苦手な蕎麦屋のアルバイトの店員。そのアルバイトの店員からストレスをぶつけられる母親。その母親からさらに誰かへと、ストレスがリレーされ、増殖していきます。ごくふつうの人々がストレスの連鎖を作り出す怖さと、その連鎖を止める「こころの換気」について考えるドラマです。

miyashita2.pngのサムネイル画像 最初にストレスをリレーされた、コミュニケーションが苦手な蕎麦屋のアルバイト店員役を演じた女性は、実際に、演じた役柄と似たようなストレスを抱えてきた体験があったそうです。そうした体験から、どうやってストレスをリレーさせないようにするのか、撮影の合間に母親役を演じた出演者と話し合っていました。また、ほかの出演者の間でも、自分の職場でのストレス体験や、それぞれのストレス解消法、対処法などを語り合う姿が見られました。

miyashita3.pngのサムネイル画像 また、京都放送局では、ドラマの放送日に合わせて「アフタートークイベント」を企画しました。原作者の平野啓一郎さん、ドラマの出演者、声を寄せてくれた市民のみなさんが参加しました。

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 イベントでは、自分がストレスの連鎖を止めた方法や、ストレス解消法についてどのようなことを行っているかなど、番組の作り手と市民が一緒になって、日常のストレスをどうやってリレーさせないようするか、語り合いました。参加者からは「ストレスは人から人へ渡ることもあるが、逆に温かい言葉をかけられるとホッとする。そのホッとした瞬間がストレスを軽減できるのではないか。」といった声が上がりました。平野さんからは、「優しさのリレーみたいなことが社会では本当には起きていると思う。」「人と人との繋がりがストレスを軽減するようになってほしい。」といったコメントがありました。

iwane.png 担当した岩根ディレクターによると、「初めてのドラマ制作は大変だったが、東京のドラマ部のベテラン職員の指導や、地域の皆さんの協力で成し遂げられた。テレビはマスに向けて番組制作を行っていて、ふだんはなかなか視聴者の反応をみることができないが、アフタートークイベントでは顔が見えなかった視聴者の方と対面できて、小さくても手ごたえを感じた」そうです。また、「今回作り上げた市民との繋がりをこの先どうやって繋げ続ければよいのかということが課題だと感じている。」とのことでした。
 また、ドラマに参加した市民からは、「制作サイドの人と接したことで、以前よりNHKを身近に感じることができた」 「他の市民の方と知り合うのが面白い」という声が聞かれたとのことです。

 京都放送局の伊藤雄介副部長は、「今後は、視聴者の方々にNHKをより身近に感じてもらうため、企画段階から一緒に制作することや、番組を放送するだけではなく、ゴールを対面でのイベントに置いて、地域の課題について考えた経験をみんなで分かち合うことができればよいと考えている。そうした場をいかに楽しくワクワクできる企画で生み出せるかが重要だと感じており、今回は、ドラマというスタイルだったが、歌番組やお笑いのようなジャンルでも挑戦できたらと思っている。」と言います。

 次回も、地域放送局の新たな取り組みについてお伝えします。

調査あれこれ 2022年04月06日 (水)

#389 流れを一旦せきとめる~論考「新型コロナ報道は東京オリパラにどのように影響されたか?」について~ 

メディア研究部(番組研究) 高橋浩一郎

 私たちの社会が新型コロナウイルスと向き合うことになって2年以上がたちます。3月21日にはまん延防止等重点措置がすべての地域で解除されましたが、26日時点でも1日当たりの感染者数は4万人を超え、毎日100人を超える方が亡くなっています。

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 他方で1月15日にはトンガで大規模噴火が起こり日本にも津波警報が出され、2月24日にはロシア軍がウクライナに侵攻、国内では3月16日に福島県沖を震源地とする最大震度6強の地震が発生するなど、思ってもみないような事態が次々と起こり、テレビが日々報道するトピックもめまぐるしく移り変わっています。新型コロナに関しては上記の通り事態が収束したとは決して言えないものの、より大きな関心を引く出来事が立て続けに起こり、また2年以上に渡って付き合わされ、その対策も複雑化していることも相まって、社会全体の問題としてとらえにくくなりつつある印象さえ受けます。
 さまざまな情報をネット経由で手に入れられるようになったとは言え、テレビにはいまだに大きな影響力があると考えられます。しかし、画面に映像と音声が流れ出した瞬間に消え去っていくテレビ発の情報は、多くの場合忘れられてしまいます。そのため新聞などの文字媒体と比較すると、ある時点でどのような報道がなされていたのか後から検証することが困難です。大きな事件や災害が頻発し、ある意味で“非常時”が“日常化”しつつある今だからこそ、麻痺してしまいがちな感覚を正常化するためにも、一旦流れをせきとめて、ある時点でテレビがどのような報道をしていたのかを記録・検証することが必要ではないかと思います。

 「放送研究と調査」3月号には、およそ1年前にテレビが“新型コロナの感染拡大”と“東京オリパラの開催”をどのように報道したのかを検証する論稿を掲載しています。さらに4月号には“新型コロナ”と“東京オリパラ”をめぐるツイッターの動向について短いレポートを掲載しました。
 研究テーマの軸となったのは「限られた放送時間とリソースという物理的な制約のある中で、テレビは何を優先して伝えたのか」ということです。分析の結果から見えてきたのは「テレビがどれだけ自律的かつ主体的にその判断をできたのか」という疑念、さらに「その判断に疑義が呈されるとき視聴者からの信頼が揺らいでいる可能性がある」という懸念でした。
 これまで経験したことがなく、さらに次々に変異を重ねる新型コロナにどう対応するのかの判断は、状況や時期によっても変わることがあり、また国によって一様ではありません。何が正しいのかがその時点では明確ではなく、事後になって初めて分かることもあります。複雑化・多様化を極める社会において、多くの人に情報を伝えるメディアには「何を、どのように、どの程度伝えるべきか」より難しい判断が求められますが、そういう時だからこそ大きな役割が期待されているとも言えます。テレビ報道が機能不全を起こさないようにするためにもその動向を注視し、どうしたらよいのか考え続ける必要があります。

 自分に向けられた信頼が揺らぐとき、私たちはどのような態度と行動をとるでしょうか。自分に不都合なことから目を背けたり、本質から話を逸らしたり、どこかの誰かが妙案を生み出してくれるのを期待するでしょうか。それとも自分がしたことを認めたうえで、そこから教訓を導き出しこれからに生かそうとするでしょうか。メディアがどのような姿勢を示すことができるのか、その存在の真価が試されているように思えます。



調査あれこれ 2022年03月17日 (木)

#377 2つの大会が終わった今、改めて考える

メディア研究部(メディア動向) 上杉慎一


3月13日、北京パラリンピックが閉幕しました。大会直前にはロシアがウクライナに軍事侵攻を開始し、冬のパラスポーツの祭典にも大きな影を落としました。

一方、半年前の東京オリンピック・パラリンピックが直面したのは、新型コロナウイルスの影響でした。コロナ禍で開催されたオリンピックをメディアはどう伝えたのか、私たちはニュースの内容を分析し論考にまとめました。その際、注目した1つが、NHKがオリンピック中継で活用したサブチャンネルです。今回は論考の概要を改めて紹介するとともにとNHKのサブチャンネル放送について振り返ります。

コロナ禍の五輪 ニュースは

夏の東京オリンピック・パラリンピック大会は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、史上初めて開催が1年延期され、オリンピック開催の直前には東京に4回目の緊急事態宣言が出されました。連日、コロナ報道が続く一方で、大会を開催すべきか否かを巡り人々の意見は大きく分かれました。そうした中で聞かれたのは、「いざオリンピックが始まればテレビはオリンピック報道一色になるに違いない」といった“メディアの手のひら返し”を指摘する声でした。

実際はどうだったのでしょうか。東京オリンピックの報道をみると、新型コロナの第5波を受けて、テレビでは大会の途中からトップニュースがオリンピック関係からコロナに関するニュースに置き換わり、コロナの報道量も増加しました。その反面、大会期間中の報道量としてはオリンピック関係のニュースが最も多くなりました。詳しい分析内容は「コロナ禍の五輪 ニュースはどう伝えたか」(上杉慎一・東山一郎/放送研究と調査2月号)をご覧ください。

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オリンピック報道とコロナ報道の両方をどう伝えていくのか、メディアは対応に迫られました。その対策の1つとしてNHKが数多く活用したのが、サブチャンネルを使ったマルチ編成です。マルチ編成は1つのチャンネルでメインとサブの2番組を同時に放送するもので、これによって総合テレビで通常通り「ニュース7」を編成するとともにオリンピック中継も同じ時間帯に伝えることができました。その点でサブチャンネルは効果的だったと思います。
一方、「ニュースウオッチ9」はオリンピック中継のため、通常60分間の放送時間が2週間余にわたって15分~30分間に短縮され、一部で物議をかもしました。果たして当時の対応は適切なものだったのかどうか、今後も様々な検証が必要だと考えます。

逆転の金メダル 見逃し相次ぐ

東京オリンピックの際は、一定の効果を発揮したNHKのサブチャンネルですが、冬の北京オリンピックの中継では、逆にネックとなり、周知や運用の難しさが大きな課題として残りました。スノーボード男子ハーフパイプ決勝の中継で、金メダルを獲得した平野歩夢選手の滑走を見逃したという視聴者が相次いだためです。

2月11日。スノーボード男子ハーフパイプの中継は総合テレビで放送され、平野歩夢選手は2回目の滑走を終え2位につけていました。逆転を狙った3回目の滑走の直前だった午前11時53分にマルチ編成が始まり、スノーボード中継はサブチャンネルでの放送となりました。総合テレビのメインチャンネルでは、サブチャンネルへの切り替え方法を紹介する1分間の案内番組が放送され、続いて54分から通常通り気象情報が始まりました。その結果、リモコンを使ったサブチャンネル切り替えの操作に手間取った人たちが金メダルの瞬間を見逃すことになってしまいました。

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サブチャンネルへの切り替え方法の理解が十分進んでいないことはかねてからも指摘されていましたが、今回はそれが一層際立ったケースになりました。SNS では「最悪のタイミングだった」という嘆きも聞かれました。より丁寧な説明とともに番組編成での工夫も必要ではないかと思います。
これ以降、総合テレビではサブチャンネルの活用に慎重姿勢が見えるようになりました。日本がイギリスと戦った、2月20日のカーリング女子決勝の中継ではサブチャンネルを使わず、気象情報を休止するとともに、正午のニュースを午後1時30分までずらすという対応になりました。

浮かび上がった課題を今後どうする

2つのオリンピックを通じて、サブチャンネル1つをとっても効果と課題がそれぞれ見えてきました。今回のオリンピック・パラリンピックで浮かび上がったメディアの課題はこれにとどまりません。例えばNHKにとっては、BS1スペシャル「河瀨直美が見つめた東京五輪」を巡る問題もあります。この問題では、NHKの調査チームが報告書をまとめ公表していますが、BPO=放送倫理・番組向上機構が「放送に至った経緯について詳しく検証する必要がある」として審議入りを決めました。その推移を注視する必要があります。

この1年の間に続けて開催された東京と北京、2つのオリンピック・パラリンピック大会が終わりました。2つの大会を通して浮かび上がった課題にメディアはどう向き合っていくのか、メディア研究という視点で今後も見つめていきたいと考えています。

 

調査あれこれ 2022年03月15日 (火)

#376 プーチンの暴挙・ウクライナ侵攻~停戦のために何ができるか?~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 2月22日、日本の国会では新年度の政府予算案が衆議院を通過して参議院に送られました。これによって新型コロナ対策なども盛り込んだ令和4年度予算が、憲法の規定に基づいて年度内に成立することが確実になりました。

 総理大臣にとって1年で一番大きな仕事が「国を動かす血液循環」とも例えられる本予算の成立です。本会議場で一礼した岸田総理が思わずほっとした表情を見せたのも、就任から間もない新人として当然の姿です。

 しかし、ほっとしたのもつかの間。2日後の24日、プーチン大統領の命令でロシア軍がウクライナに攻撃を始めてしまいました。時計の針を100年前の領土拡張競争時代に巻き戻した感があります。

 ロシア政府は「軍事施設を狙ったものだ」と強弁しましたけれども、ウクライナ国内からメディアやSNSで伝えられる状況を見れば一目瞭然。市民を巻き込む軍事侵攻に他ならないことを世界は瞬時に理解しました。

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 アメリカのバイデン政権は、情報機関の分析に基づいて早い段階からロシアがウクライナに攻め込む事態を予測し、世界に警戒警報を発していました。

 21世紀初頭からのテロとの戦い、そしてイラク戦争の苦い経験を積み重ね「世界の警察官」として振舞うことを辞めたアメリカ合衆国。それでも自分たちの「目と耳」で集めた情報を世界に伝えることで、何とかリーダーの地位を保とうという切実な思いがにじんでいます。

 「国際社会はプーチン大統領の誤った行動を止めることができなかった」。
国際政治の専門家は口をそろえて指摘します。核兵器を保有し、国連の安保理常任理事国のロシアが力による現状変更に踏み切ったことで、世界は歴史に残る困難に直面することになりました。
 
 日本時間の3月3日未明、国連総会でロシア非難決議が採択されました。賛成141か国、反対5か国、棄権35か国という態度表明でした。
kokuren.pngのサムネイル画像 賛成の141か国は、G7など決議案を共同提案した96か国と、それ以外に賛成した45か国です。

 反対の5か国は、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、シリア。いずれも専制主義的国家体制の国です。
 棄権の35か国には、中国、インドが含まれています。

 決議案の共同提案国になった日本は、G7の一員として経済制裁に加わり、自衛隊が保有するヘルメットや防弾チョッキといった護身用の装備品をウクライナに提供しました。

 この決議採択の後、ロシア軍とウクライナ軍の攻防が続く中、3月11日(金)から13日(日)にかけてNHK電話世論調査が行われました。

☆「ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対する日本政府のこれまでの対応を評価しますか」と聞きました。

  「評価する」  58%
  「評価しない」 34%

☆「日本政府はロシアに対し、プーチン大統領ら政府関係者や中央銀行などが日本国内に持つ資産の凍結や、半導体の輸出禁止などの制裁措置を決めています。これらの制裁措置についてどう思いますか」

  「妥当だ」        42%
  「さらに強化すべきだ」 40%
  「強すぎる措置だ」     7%

 これを与党支持者、野党支持者、無党派層の別に見ても、ほぼ同様の肯定的な結果を示しています。

☆「政府はウクライナから避難した人の日本への受け入れを進める方針です。この方針を評価しますか」

    「評価する」    85%
  「評価しない」 10%

 こちらも与党支持者、野党支持者、無党派層のいずれを見ても、ほぼ同様の結果です。「遠い国の話」と片づけないで、苦難に見舞われたウクライナの人たちに対し「離れていても隣人」という想いをはせている人が多いように感じます。

 この2年間、私たちは世界的規模で新型コロナウイルスに向き合ってきました。この共通体験を通じて地球上の課題が広く共有されるようになり、遠く離れた場所の出来事でも「困っているお隣さんを支援しよう」という地球市民の感覚が醸成されてきたと言ったらうがちすぎでしょうか。

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☆「あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか」

  「支持する」     53%(対前月 -1ポイント)
  「支持しない」  25%(対前月 -2ポイント)

 オミクロン株による新型コロナウイルス感染第6波が年明け早々に襲来し、2月には岸田内閣の支持率に陰りが見えましたが、今月は横ばいを維持しました。

 岸田総理の内憂である感染拡大が、今の第6波の後、収束に向かうことを願わずにはいられません。

 ただ、そこに『外憂』ともいうべきプーチンの暴挙・ウクライナ軍事侵攻が眼前に現れました。国際社会の一員として、これをどう乗り越えるか?

 まず、話し合いによる停戦合意に漕ぎつけることが重要ですが、それを促すために日本政府がすべきこととして、私は次の2点を挙げたいと思います。

 一つ目は、ロシアが管理下に置いたとされるチェルノブイリ原発などウクライナ国内の原子力施設に対し、IAEA(国際原子力機関)の監視の目が十分に行き届くように支援することです。東日本大震災による福島第一原発事故の後、IAEAとウクライナ政府から事態改善に必要な様々な知見の提供を受けました。その恩返しでもあります。

 二つ目は、国連総会でロシア非難決議案に賛成せず棄権に回った中国を、これ以上ロシア支援の側に回らせないようにする日本外交の働きかけです。中国がロシアとの経済関係を今以上に強めれば、経済制裁の抜け道を広げることになります。外務大臣を5年近く務めた岸田総理のリーダーシップが試されます。
ukurussia.pngのサムネイル画像 ウクライナのゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領の首脳会談が実現し、事態打開に向かうことができるのかは不透明です。(3月15日現在)
 
 インターネット、SNSの発達で様々な情報を手にすることが可能になった今日だからこそ、地球規模の課題に関心を持ち続けることが重要だと感じます。







 





調査あれこれ 2022年02月03日 (木)

#362 【新型コロナ】35%が流言・デマでワクチン接種をためらう ―20~40代へのウェブ調査から―

メディア研究部(メディア動向) 福長秀彦


 新型コロナウイルスは感染力が強いオミクロン株が出現し、国内では新年早々から感染者が激増しています。既に3回目のワクチン接種も始まりました。新型コロナのワクチンと言えば、昨年は接種をめぐる「流言」(根拠のないうわさ)や「デマ」(ウソの情報)がインターネット上などで多数飛び交いました。そのほとんどが接種への不安を煽る内容でした。

 NHK放送文化研究所では去年9月、全国の20~49歳の男女を対象に(スクリーニング1万185人、本調査4千人)ウェブ調査を行い、流言・デマのまん延度や接種の意思決定に及ぼした影響を調べました。以下に調査結果の要点をご紹介します(なお、住民基本台帳からの無作為抽出によって回答者の“代表性を”担保する「世論調査」とは異なることにご留意ください)。

⑴“見聞きしたことがある”が71%
 何らかの流言・デマを見聞きしたことがあるか、1万185人に尋ねました。質問の際には、ネット上などで広く出回っているワクチン情報のうち、厚生労働省や免疫学・感染症の専門家グループ、報道機関、ファクトチェック団体などが「事実無根」であるとして否定している30の情報例を示しました。
 その結果、「見聞きしたことがある」が71%に達し、流言・デマが中年・若年層にまん延していることが分かりました。
 さらに、「見聞きしたことがある」と答えた人に、それはどのようなものだったか、上記の30例の中から複数回答で選んでもらいました。回答の多い順に10位までを示したのが図1です。

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⑵「信じたことがある」+「半信半疑だったことがある」で47%
 何らかの流言・デマを見聞きしたことがある4千人に、それらを信じたことがあるかどうか尋ねました。その結果、「信じたことがある」が5%、「半信半疑だったことがある」が42%で、両者を合わせると半数近くになりました。
 流言・デマのうち、信じたり、半信半疑になったりした人が最も多かったのは「治験が終わっていないので安全性が確認されていない」でした。
 信じたり、半信半疑になったりした理由では、「『事実ではない』と打ち消す情報が見当たらなかったから」と「接種への不安を裏付けるような情報だったから」が圧倒的多数でした。

⑶流言・デマを「伝えた」は20%
 何らかの流言やデマを家族や他人に「伝えた」人は20%で、伝えた動機では「話題として伝えた」が最も多く、2番目が「不安な気持ちを共有したかったから」でした。

⑷流言・デマでワクチン接種を躊躇(ちゅうちょ)が35%
 図2は、何らかの流言・デマを見聞きして、接種を躊躇したことがあるかどうかを尋ねた結果です。接種するのを「やめようと思ったことがある」が7%、「しばらく様子を見ようと思ったことがある」が28%で、合わせると全体の35%が流言・デマによって接種を躊躇していました。

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 接種を躊躇し、先延ばしにすれば、その分、自分だけではなく周囲の人びとをも感染の危険にさらすおそれがあります。ワクチンの副反応などへの不安から接種をためらう人が多いのは、無理からぬことなのかも知れませんが、事実無根の情報によって、接種の意思決定が歪められてしまうのは問題だと思います。

 図2の「接種をやめようと思ったことがある」「しばらく様子を見ようと思ったことがある」と答えた人の80%は、結局は接種をすることにしました。接種をする気になった理由は「情報がデマかどうかよりも、新型コロナに感染するのが不安になったから」が38%で断然多く、2番目が「みんなが接種しているから」で14%、「情報がデマだったから」は3番目で10%でした。流言・デマに接して接種をためらった人の多くは、情報の真偽よりも、感染への不安や同調圧力から接種をしていました。

 調査結果は『放送研究と調査』1月号「新型コロナワクチンと流言・デマの拡散~接種への影響を探る~」に詳しく書きましたので、興味のある方はご一読下さい。


調査あれこれ 2022年01月27日 (木)

#361 幼児はインターネット動画をどんな機器で見ているのか ~2021年「幼児視聴率調査」から~

世論調査部(視聴者調査) 行木麻衣


 私には2歳と6歳の息子がいます。2人ともテレビ(リアルタイム)もインターネット動画も大好きで、テレビとインターネット動画視聴は日常生活のひとコマとなっています。我が家では、子どもたちがインターネット動画を視聴するときにスマートフォンやタブレット端末も利用しますが、最近では、テレビ画面でインターネット動画を視聴する機会が増えてきました。
 では、幼児はインターネット動画をどんな機器で視聴しているのでしょうか。東京30km圏内に住む26歳を対象にした2021年「幼児視聴率調査」のデータを見てみましょう。

 こちらのグラフは、休日をのぞくふだんの日にインターネットで動画を1日にどのくらい再生して見ているのかを尋ねたものです。「ほとんど、まったく見ない」という幼児も26%いますが、30分以上のインターネット動画利用者が51%と幼児の半数は日ごろから1日に30分以上インターネット動画を見ています。また、年齢別にみても、すべての年齢で30分以上のインターネット動画利用者が5割以上でした。

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 続いて、インターネット動画を視聴する機器についてみたのが下のグラフです。
テレビが最も多く65%、次いでスマートフォン、タブレット端末がいずれも39%で、スマートフォンやタブレット端末よりもテレビがインターネット動画視聴に使われていました。年齢別で見たところ、どの年齢でも6~7割程度がテレビを使用しています。
NHK放送文化研究所が13歳以上を対象に実施した別の調査では、インターネット動画利用者がインターネット動画を視聴する際には、テレビよりもスマートフォンが多く利用されていることが分かっています。インターネット動画視聴にテレビ画面が最も利用されているのは幼児の特徴なのかもしれません。

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 たしかに、我が家も「子どもに小さい画面でインターネット動画を見せると目が悪くなるかも…」、「子どもが見ているインターネット動画の内容を把握したいからテレビ画面で共有しよう…」といった経験があるため納得の結果となりました。
そして、今日も我が家では、子どもたちがテレビ画面でインターネット動画を見ている時、親である私はスマートフォンでNHKプラスを視聴するのでした…。

このほか、幼児にテレビはどのくらいの時間見られているのか、録画番組・DVD、動画利用の状況…など、2021年の結果は「放送研究と調査」12月号で報告していますので、お読みいただければ幸いです。


調査あれこれ 2022年01月07日 (金)

#357 「報道が社会を変えた、と言われるとき」

メディア研究部(番組研究) 東山浩太


 5年ほど前まで記者をやっていました。同僚や他社のスクープ報道を観察するのが大好きでした。自分が抜かれてばかりでしたから、その反動で、他人の華々しいスクープに憧れていたのだと思います。上司からは「自分の仕事にももっと関心を持ちなさい」などと励ましを受けていました。当時、私はこのような疑問を抱えていました。
 ある社のスクープが時をおかず各社の追随報道を招き、自治体の政策が修正へと動くケースがあった。すごい。その逆で、スクープとして報じられたであろうニュースが、追随されぬまま、いつしか忘れられ…というケースもあった。スクープという点は同じでも、報道が政策当局に影響をおよぼし、政策の変更を通じて社会が変わるには、いくつかポイントがありそうだ。いつか整理してみたい…。
 そうしたいきさつがあり、「放送研究と調査」2021年12月号に「『無給医』をめぐる報道の“力”の検討」という論考を執筆しました。

220107-11.JPG 拙論では、報道が社会に影響をおよぼすと言われるとき、どのように力が与えられて影響力が高まるのか、1つの調査報道のケース(無給医に関する政策の変更)を挙げてそのメカニズムについて検討しました。
 検討にあたっては、先行研究の理論モデルを援用しました。膨大で複雑な報道の実践をどの視点で読み解き、どういった点を明らかにすることができれば、自分の仮説が確からしいと言えるか。表層から深層まで迷わず進むため、先行研究は強力な「ガイド」になってくれました。
 検討の結果、独自のものとは言えませんが、報道が社会に影響をおよぼすメカニズムを説明している可能性のある理論モデルを示しました。具体的な中身については拙論で詳しく紹介していますので、目を通してもらえたらうれしいです。

 拙論に着手した動機については触れました。では、拙論で試みた報道が影響力を持つ仕組みを示すことは、誰にとってどのように役立つのでしょうか。手前味噌ですが、私は現場の取材者の皆さんが、報道の実践とその達成を俯瞰し、自らの実践の位置づけや意義づけを行うために貢献できるなら、と思っています。
 報道を振り返る公開資料には、取材者たちが手がけたノンフィクションがあります。それらからは取材の端緒だとか、伝えたい内容を裏付けるための確認の過程など、貴重な情報が得られます。なにより、彼らの思いに触れられます。一方で、1つ1つの壁を動かした報道の力の働きのメカニズムを知るには、情報が足りないこともあると感じるのです。
 大型の調査報道ともなると(リクルート事件や薬害エイズ事件の報道など)、取材者、報道各社、政治家、官僚、経済人、国会、捜査機関など、数多くのアクターが複雑に入りくみます。メカニズムを明らかにするには、各アクターの力のせめぎ合いの結果、報道の方向性は決まっていくとする視点を持つことが出発点になると思われます。
 例えば、報道が政策当局を動かす力を持つには、世論を喚起するのが重要だと言われます。
 大勢の人々に報道を認知させるには、問題を発掘した1社がスクープを放つのみならず、複数の社による追随報道が必要となるケースが殆どです。具体的にいつの時点でどのくらいの社が追随したのか。そこで各社が争点を語る枠組みは同じだったのか、異なっていたのか。いつの時点でどのような語りが優勢になっていったのか。科学的な世論調査を実施していない場合(大部分がそうしたケースですが)、何をもって報道が世論を喚起したと見なすのか。世論が喚起されたとして、各アクターの相互の関わりの中、それを勢いづける局面はあったのか。逆に、勢いをそぐ方向に力が働いた局面はあったのか……。
 こうしたポイントを曖昧にせず「ガイド」をもとに解きほぐしていきます。そして報道の力が働いたメカニズムを示すことが、取材者にとって報道の実践の中から自らの役割を知り、調査報道の影響力を最大にする戦略を編成することに役立ってほしいと思います。それはひいては、受け手にとって有意義な報道を届けることにつながると考えるからです。
 拙論がその任を果たしているかは甚だ心もとないのですが…今後も精進します。


調査あれこれ 2021年12月09日 (木)

#353 テレビを見ない人々にも「届けきる」~SNSを活用した報道の新たな取り組み~

メディア研究部(番組研究) 宮下牧恵


 こちらの動画をまず、ご覧ください。


 若年層のテレビ離れが進む中 1)、NHKの報道局映像センターでは、2019年7月から、ふだんテレビを見ない人たちに、情報をデジタルで届けきる「モバイル・ジャーナリズム(MOJO)」と呼ばれる取り組みを始めています。「命や暮らしを守る情報」や「生活に役立つ情報」などを自分のこととしてより身近にとらえてもらえるよう、放送で伝えた内容をTwitterやFacebook、LINE、Instagram、YouTubeなどの外部プラットフォームに最適化した動画に編集して投稿するという取り組みです。
 上の動画は、2021年5月17日にBS1で放送された「#アスリートは黙らない」(『スポーツ×ヒューマン』)を再編集したものです。心の傷と向き合いながら、社会を変えようと行動する4人のアスリートを取材した番組で、中でも、学生時代の「体罰」の記憶に苦しめられ、慣習を変えようと活動している元バレーボール日本代表選手の益子直美さんについて編集したこの2分の動画は、もっと短い動画が多いSNS上では長めのものでしたが、それでもTwitter上のNHKニュースなどの複数の公式アカウントから投稿した結果、多くのユーザーからの反応がありました。
 動画を作成したのは、入局11年目で、MOJOチームのプロジェクトリーダーを務める寺田慎平カメラマンです。番組の撮影担当となり、テレビを視聴していない20代、30代にも、出演したアスリート達のメッセージを届けたいとSNSからの動画投稿を提案しました。
 放送局のコンテンツへの接触動向を確認すると、20代、30代は男女ともに、SNS上の公式アカウントからの接触が目立ち、特に、Twitterから接触している傾向が見られます 2)
 寺田カメラマンも、動画を投稿するにあたり、Twitterで視聴されやすい動画の作りを意識して作成を行ったそうです。具体的には、Twitter上では動画の音声を聴く人が少ないため、読み物のようにテロップで理解できるようにすることや、投稿文の冒頭で関心を持ってもらえるようにユーザーが読んだときにどのような気持ちになるかをイメージしながらディスカッションし、文章を考えるなど、工夫を行ったということです。
 こうした取り組みについて、「放送研究と調査」2021年8月号に掲載した放送研究リポート「テレビでは届かないメッセージをSNSで ~「スポーツ×ヒューマン」の事例から~」で詳しく書いています。ぜひ、お読みいただければと思います。
 私が取材した6月時点では、地域の放送局や報道現場のカメラマン、編集マンなど500名以上がオンライン上で議論や意見交換をしながら600本以上の動画を制作していました。今では参加者も約700名に増え、作成した動画も750本を数えるまでになったそうです。
 例えば、スマホを見ながら点字ブロックの上を歩いたり、立ち止まったりする行為、いわゆる「点ブロスマホ」の歩行者と衝突し、全盲の男性が救急搬送された体験を当事者の目線から訴えた動画には、視聴した多くの人々が、こうした社会の課題に対して自分自身が感じている問題意識をコメントしました。

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 また、多様性を認め合い、お互いを尊重しあえる社会の実現を目指す動きを伝える放送とあわせて、「生理の貧困」や、生理用品を保健室に貰いに行くことが出来ないなどの中学生の悩みについて特集したNHKのWEB記事に関連して、山口放送局の入局2年目の女性カメラマンが、公立中学校の校長が始めた取り組みを動画にしてTwitterに発信。さらに「NHK広報局note」で、職場での自分自身の生理に関する悩みや体験を記事にして掲載しました。こうした動画や記事などに、男性や、10代・20代の女性に、より接触してもらうためにはさらにどういうことができるのか、プロジェクトでは議論が進められています。

 8月25日に総務省が発表した「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」 3)によると、すべての年代で<平日の「インターネット利用」の平均利用時間が「テレビ(リアルタイム)視聴」の平均利用時間を初めて超過>しました。また、<「世の中のできごとや動きについて信頼できる情報を得る」については、年代別に見ると、20 代を除く各年代で「テレビ」を最も利用しており、20 代では「インターネット」を最も利用しているという結果になっている。>ことも報告されています。
 放送局が発信する情報やコンテンツに、特に若い世代にどのようにして接してもらい、信頼を得られるのかが、NHKのみならず民放各社にとっても課題となっています。

 放送の現場でも、これからは放送だけでなく、自社サイトやネット配信、さらにSNSなどの外部プラットフォームをどのように組み合わせて発信を行い、信頼される情報基盤を維持していくことができるのかが鍵になりそうです。こうした取り組みについて、今後も注目していきたいと思います。


1) 若年層のテレビ離れの様相については以下の論文に詳しく記載されている
世論調査部 渡辺洋子/ 伊藤 文 / 築比地真理 / 平田明裕 「新しい生活の兆しとテレビ視聴の今 ~「国民生活時間調査・2020」の結果から~」『放送研究と調査』(2021年8月号)P19-P21 
2) 世論調査部 保髙隆之 「人々は放送局のコンテンツ,サービスにどのように接しているのか~「2020 年7月全国放送サービス接触動向調査」の結果から~」」『放送研究と調査』(2021年3月号)P4-P7
3) 「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」 (令和3年8月 総務省情報通信政策研究所)p3、P78
https://www.soumu.go.jp/main_content/000765258.pdf