世論調査部(視聴者調査) 保髙隆之
1996年3月27日の夕方。入社式を数日後に控えた私は大学の同級生の部屋にいました。
友人は地元の会社に就職して実家に戻ることになっており、ちょっと感傷的な気分だったのを覚えています。
その友人から、パソコン通信(!)で話題になっているアニメの最終回の放送があるので見よう、と誘われて戸惑いました。ツイッターもLINEもない時代、子ども向け以外のアニメは一部のマニアだけが盛り上がるもの。私は全く知らない作品だったからです。しかしながら、その後の30分にわたる放送時間は、学生時代の最後の思い出として、強烈に胸に刻まれました。
そのアニメのタイトルは「新世紀エヴァンゲリオン」です。(最終回がどんな内容だったかご存じでない方は、検索をしてみてください。リアルタイムで、しかも、人生のあの時期に見ることができたのは幸運でした。)

あれから25年目の春。
現在公開中の映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は、(これはネタバレにならないと思いますが)観客が現実の世界で過ごした25年間という時間の経過さえ取り込んだ、孤高のエンターテインメントになっており、また、強く「卒業」を意識させる作品でした。見終わった後、すっかり忘れていた学生時代の自分の姿が思い出され、あれから「変わったこと」と「変わらなかったこと」を改めて考えさせられました。
自分語りが長くなって申し訳ありません。もう少しだけ、お付き合いください。
25年前から「変わったこと」。その1つが「ラジオ」です。
私の学生時代、受験勉強の友といえば、深夜のラジオでした。音楽の流行も、好きな有名人の日常も、情報源はラジオ。家族そろってお茶の間でみるテレビとは違い、自由でとんがった話や、ほかのリスナーやパーソナリティーとの「共犯感覚」は、まだまだ青く、自意識過剰だった当時の私にとって、もっとも身近に感じられるメディアでした。
しかしながら、社会人生活が続く中で、ラジオはいつのまにか遠い存在になってしまいました。それは私だけではないようで、文研の「全国個人視聴率調査」の結果をみると、25年前、1996年のラジオの週間接触者率は43%。直近の2019年調査では30%まで落ち込んでいます(NHKと民放、AMとFMを含む)。代わって、SNSやYouTubeが日々の暮らしの中に入り込むようになってきました。
ところが、2020年。コロナ禍の日本でラジオが再び脚光を集めたのをご存じでしょうか。雑誌で次々に特集が組まれ、ネットラジオ「radiko」ユーザーの急増がニュースになりました。文研が7月に実施したグループインタビュー調査でも、「ジムに行けなくなり、代わりに始めたジョギングのお供に聴き始めてハマった」とか「在宅勤務中、音がないと寂しくてラジオをつけるようになったが、暗いニュースやリモート演出ばかりのテレビと違って、以前の日常が続いている感覚がして落ち着く」など、ラジオを再評価する声が相次ぎました。いったい、ラジオは今、どのように聞かれているのでしょうか。(やっと本題です。)
次のグラフは2020年7月に文研が郵送法で実施した世論調査の結果です。(図1)

上の棒グラフは全国の7歳以上の人が、伝統的な「放送」と「インターネットラジオ」をどう組み合わせてNHKと民放のラジオを聞いているか(週間接触者率)を示しています。
「放送のみ」が3割近くを占め、まだまだネットラジオの比重を大きく上回ることがわかります。
ただ、年層別に分けてみてみると、20代では「ネットラジオのみ」で聞いている人が「放送のみ」で聞いている人と同程度に迫っています。また、図2のとおり、「radiko」は近年、利用経験率が順調に伸びていて、今回の調査では11%に達しました。

少ないと感じられるかもしれませんが、この調査の1%は総務省の人口統計で換算すると100万人超に相当するので、おおまかにいっても1,000万を超えるユニークユーザーが利用したことになります。日本でこれだけのメディアパワーを持つインターネットサービスはそう多くないはずです。
25年という時間は、1人の大学生をくたびれた中年サラリーマン(私のことです。)にし、「エヴァンゲリオン」を完結させただけでなく、「ラジオ」というメディアが新しく生まれ変わるのに必要な時間だったのかもしれません。
コロナ禍に揺れた2020年の日本のメディア環境の動向について、「放送研究と調査」3月号の「人々は放送局のコンテンツ,サービスにどのように接しているのか」では他にも詳しく報告しています。ぜひ、ご一読ください。
メディア研究部(番組研究) 宇治橋祐之
このブログを書いている1月21日現在、11都府県で2回目の緊急事態宣言が出ています。今回は小中学校や高校などへの一斉休校の要請はありませんでしたが、学級や学年単位での休業や、感染リスクの高い部活動などの制限は行われています。大人の生活だけではなく、子どもたちの生活も大きく変わらざるを得なくなりました。学びたいのに学べない状況も生まれています。
NHKでは現在「#学びたいのに いま、学びを守ろう」というキャンペーンを進めており、学びを守るために何が必要か、みなさんの声をもとに取材・放送した内容を特設サイトで紹介しています。
子どもたちはいったいどんな状況にあり、どんなことを感じているのでしょうか。文研では、昨年4月の臨時休校・休園時と6~7月の再開後に緊急調査を行いました。
限られた期間の調査だったこともあり、ウェブを使った全国調査をまず行い、さらにMROCという専用の掲示板を利用した調査を組み合わせました。ウェブの調査では、全国の幼稚園・保育園児から小学生、中学生、高校生までの子どもを持つ保護者と高校生に回答をお願いし、MROCでは小学生、中学生の保護者と中学生、高校生に協力を頂きました。
調査では大きく「メディア行動の変化」と「生活の変化」についてと、パソコンやタブレット、スマートフォンなどの機器で利用されるさまざまな「デジタル学習教材」について調べました。
「メディア行動の変化」については、「休校・休園前の通常時」「4月の休校・休園時」と比べて「6~7月の再開時」にどう変わったかを尋ねました。その結果「テレビ」については、「6~7月の再開時」に「休校・休園前の通常時」と比べて利用時間が「増えた」子どもは「減った」子どもより多い傾向でした。また「4月の休校・休園時」との比較では「増えた」と「減った」が、ほぼ同じ程度でした。それに対して「スマートフォン」は、「休校・休園前の通常時」、「4月の休校・休園時」と比べると、いずれも「6~7月の再開時」に利用時間が「増えた」子どもが多いという結果でした。休校・休園期間を経て子どもたちの生活に「スマートフォン」がますます定着した様子がみられます。さらに分析を進めると、好きな時に自由に見られる「オンデマンド」という要素の重要性が高まっているようでした。
この背景には「生活の変化」がありそうなこともみえてきました。「ストレス」に関する質問への回答からは、「ストレスが多重にかかる状況」が継続している様子がみられ、ストレスを感じている子どもほど、メディア接触時間が長いという傾向もありました。そしてオンライン掲示板のMROCの投稿内容の分析から「有意義へのニーズ」というキーワードがみえてきました。ただし求める有意義の意味は休校・休園時と再開後では少し異なります。休校・休園時は、家族で過ごす時間が長くなる中、テレビに対して「家族で楽しむことで、家族間のコミュニケーションをよくする効果」を感じている人が多いようでしたが、再開後は「貴重な少ない時間の中で、いかに有効・効率的にストレス解消をするか」にはスマートフォンで動画やゲームをするほうがよいと考える人が増えたようでした。
「デジタル学習教材」についてみると、休校・休園期間を経て利用は広がったけれど、それは学校などからの指示によるためで、必ずしも興味をもつ子どもや保護者が増えたわけではないこともみえてきました。その一方で実際にデジタル学習教材を利用した結果、これまでみえなかった多様なニーズがわかってきました。その大きな方向性は、メディア接触の変化でみられた「オンデマンド化」と「有意義へのニーズ」と重なることが多く、自分のペースで学べることや、「楽しさ」だけでなく「わかりやすさ」を求める傾向がみられました。
この先の状況はまだわかりませんが、臨時休校・休園というこれまでにない時間を経て、子どもたちにどんな変化があったのか、詳細な結果と、保護者や子どもたちのリアルな声は「放送研究と調査」2020年11月号と12月号で紹介しています。これから先の子どもたちに何が必要かを考える際に、読んでいただけるとありがたいです。
メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇
現在、コロナ禍を契機として昨年春から激増した再放送(総集編なども含むアーカイブ番組の再利用)についての調査研究を行っています。
(※昨年の11月25日、12月25日のブログもご参照ください)
今回は、この研究をしようと思った動機のひとつについて書きたいと思います。ただ、とてもローカルでプライベートな話なのでお目汚しにならないといいのですが・・・。
「きょうの、BSの、江川と銚子商業。見たか?」
昨年(2020年)、6月14日の午後。
実家を訪ねた私に、82歳になる父親が興奮気味に話しかけてきました。
その日の午前中にNHK・BS1で放送されたこの番組のことです。
『あの試合をもう一度!スポーツ名勝負 1973夏 銚子商×作新学院 “怪物江川 最後の一球”』
のちに読売ジャイアンツのエースとして活躍した江川卓選手。1973年、作新学院(栃木県)の投手だった頃は、豪速球で三振の山を築き、高校野球界で「怪物」の異名を轟かせていました。
その江川投手の、夏の甲子園最後の試合が、2回戦での銚子商業(千葉県)との一戦。
0対0で迎えた延長12回裏、満塁のピンチでフォアボールを与え、押し出しサヨナラで作新学院は敗退したのです。

番組は、当時の試合の中継映像(しかもモノクロ!)を、初回から試合終了まで、ほぼ全編放送していました。
千葉県銚子市に近い街に住む父親は、この試合をリアルタイムで見ていました(47年前、父・35歳の夏)。
父親にとって、「黒潮打線」で鳴らす銚子商業は地元の誇りであり、怪物・江川を攻略したこの一戦は、数え切れないほど見た高校野球の中でも最も印象深い思い出のひとつでした。
その前年(1972年)、銚子市の球場で銚子商業と作新学院の試合が行われ、父親は観戦に行ったそうです。黒潮打線は江川の豪速球にまるで歯が立たず、次々と三振を重ね、満員の観客席で呆気にとられたとか。その日の銚子の海風の酷さも手伝って、途中で帰りたくなったと言います。
その悔しさもあって、翌年の甲子園で、ついに宿敵・江川に勝利した試合をテレビで見ていた時の緊張と興奮の記憶が、47年ぶりに蘇ったようでした。
さらに、銚子商業を率いた名将・斎藤一之監督が地元の人々にどれほど尊敬されていたか、漁師町・銚子のあの頃の活気、仲間たちとの思い出・・・。父親は実に機嫌よく、饒舌に語りました。
挙句の果てに、「いいもの見せてもらった。ありがとう」と私に礼まで言う始末。この番組の放送に私は何ら関わっていないのですが、そこはまぁ、これも一つの親孝行ということにして、曖昧に照れ笑い、といたしました。

でも私はつい、「結果がわかっている試合を、最初からずっと見せられるのでは途中で飽きてしまうだろう。延々と0対0のままだし」と水を差してしまいました。
コンパクトに編集したダイジェスト版のほうが見やすいのではないか、と思ったのです。
しかし、これを父親はきっぱり否定しました。
「いや違う。あの時、俺が見ていた『そのまま』がいい。その時の気分に浸れるからいいんだ。あれやこれや、じわじわ蘇ってくるのがいいんだよ。短くされちゃこうはいかない。気分が乗らないよ」
そう言われた私は、再度この番組を全編見直してみました。すると、いろいろと発見があって面白いことに気づきました。
平日で天気が悪く、2回戦であるにも関わらず、球場は56,000人の超満員。外野席、センターのバックスクリーンにも観客があふれて、当時の江川人気が実感できます。
この日、江川の調子は万全ではなく、たびたびピンチに陥ります。ただ、ここぞという時にはギアチェンジして剛速球を投げ、ピンチをしのいでいました。銚子商業の粘り強い攻撃と、雨。江川は明らかに消耗し、敗戦に至ったことがわかります。
再編集によるダイジェスト版では伝わらない時間の流れや細部は、リアルタイムで見ていた父親には臨場感とともに記憶を生き生きと蘇らせ、私には新鮮な発見をもたらしました。
結果がわかっているスポーツ中継であっても、あえて編集しない良さに気づきました。
昔の番組を放送で再利用する場合、「本編そのまま」「再編集・ダイジェスト」など、どのような作り方が望まれるのか。この時の父親とのやりとりも、再放送の調査研究に取り組む動機になった、という次第です。お粗末様でした。
再放送に関する調査研究の内容は、「文研フォーラム2021」で、また、まもなく発行の『放送研究と調査』2月号でもお伝えする予定です。どうぞお楽しみに!
メディア研究部(番組研究) 谷 正名
それは、かなり唐突な印象を受けるニュースでした。今年2月27日,安倍首相(当時)が、新型コロナウイルス感染症対策本部において,全国すべての小学校,中学校,高等学校,特別支援学校に臨時休校・休園を要請したのです。休校・休園という大枠だけが頭ごなしに決まったこのニュースを聞き、あとの諸々の具体的なことへの「対応」は、学校や家庭など、現場や子どもの周囲の人々に「丸投げ」になりそうだな、と直感した記憶があります。
私事ですが、我が家には、高校3年と中学1年(当時)の子どもがおります。また、妻は非常勤とはいえ仕事を持っています。まず頭をよぎったのは、自分たち家族のくらしが、この休校・休園宣言によってどうなるのだろう、というさまざまな「不安」でした。勉強はどうなるのか、部活はどうなるのか、上の子の卒業式やその関連行事はどうなるのか、そして家にいて子どもたちはどう過ごすのか、昼の食事はどうするのか……、不安要素を数え上げれば、きりがありません。そもそも当の親も、この先まともに仕事場に行けるかすら、定かではないのです。
実際、自分の子どもたちの休校が始まると、空間的には家に閉じこもるしかなく、一方で時間だけはありあまるほど自由にある、そして学校からの指示は皆無に等しい、という、かなり「非日常的」な状況が現出しました。その結果、上の子はスマートフォンに、下の子はテレビゲームの「フォートナイト」に、どっぷりとはまっていきました。親が家庭学習などをやってほしいと思っても、宿題が出ていない以上やる気配はありません。さらに(意外と大きかったなと思うのが)保護者同士の井戸端会議的なものもなくなり、他の家庭の情報もあまり入ってこないのです。夫婦ともに在宅勤務が増えると、その状況をずっと目の当たりにすることになります。不安はさらに募っていきます。親子とも機嫌の悪い日が増え、どうにも家庭内がギスギスします。そして、これがいつ終わるか、誰からも全く見通しが示されないのです。
そんなタイミングで、局内で、新型コロナによる休校・休園で親子のメディア行動やデジタル教材の認知・利用動向はどうなっているのか、緊急に調べてみたらどうか、という声が上がりました。自分の実体験から、実態やその背景にある意識など、調べて記録すべきことは山ほどあると思いました。また、「子どもも保護者も相当なストレスを抱えていて、そのことがメディアをめぐる意識や行動に影響を与えているのでは」という仮説が、すんなりと頭に浮かびました。
「放送研究と調査」11月号、12月号の2号にわたって結果・分析を報告した調査は、こうしてスタートしました。不安・ストレスとメディア利用の関係についても、当初の私の想像以上に明確な結果が現れました。アップ・トゥ・デートな報告・論考になっていると思います。ぜひご一読ください。
世論調査部(社会調査) 村田ひろ子
突然ですが、下のグラフ、なんの結果だかわかりますか? 日本は57%で過半数ですが、それでも最下位です。

答えは、「仕事に満足している」男性の割合です。日本の結果だけをみれば、仕事に満足している人は6割近くいて、それなりに多いようにもみえますが、諸外国と比べると、かなり少ないことがわかります。
このように、調査データの国際比較を行うことで、国内の調査だけでは把握できない、日本の国際的な立ち位置を知ることができます。
冒頭で紹介したグラフは、国際比較調査グループISSP(International Social Survey Programme)が2015年に実施した「仕事と生活(職業意識)」調査の結果です。
ISSPは1984年に発足し、約40の国と地域の研究機関が加盟して、毎年、共通のテーマで世論調査を実施しています。
ISSPに加盟している国・地域(2020年11月現在)
日本の調査は、NHK放送文化研究所が担当していて、1993年以降、毎年欠かさず調査を実施しています。これまでに、「政府の役割」「家庭と男女の役割」「環境」「宗教」など多岐に渡るテーマで調査を行ってきました。そうした調査からは、政治や社会、家庭生活、働き方などに対する日本と世界の人々の意識の違いをみることができます。
ISSPのデータは、各国の研究者に高く評価されています。世界中で様々な調査が行われているなかで、ISSPが評価されるのはなぜでしょう。理由の 1つには、ISSPの加盟国が、科学的な手法に基づいて国民を代表するサンプル(調査相手)を選び、精度の高い調査を実施していることが挙げられます。また、毎年1つのテーマで調査を行い、特定の領域に対する人々の意識を詳細に把握できることや、10年ごとに同じテーマの調査を繰り返し実施することで、10年前、20年前の結果と比較した時系列の変化をとらえることもできます。
そんなISSPも新型コロナウイルスの世界的な流行により、大きな影響を受けています。今年4月下旬にアイスランドで開催される予定だった年に一度の総会は、ISSPの発足以来、初めて中止されました。しかし、各国間のやりとりは、メールやオンライン会議で活発に行われ、来年(2021年)実施する調査には、コロナ関連の質問を盛り込むことになりました。人類が直面している課題について、世界規模での世論調査を実施し、各国の人々が感染症の脅威にどう立ち向かっているのかを把握することの意義は大きいと言えるでしょう。
「放送研究と調査」2020年11月号では、英文を翻訳して3年がかりでつくる調査票作成の裏話など、担当者しか知らないISSP調査の舞台裏を惜しみなく(?)紹介しています。ぜひご一読ください!!
メディア研究部(メディア動向) 入江さやか
東日本を中心に記録的な豪雨をもたらした昨年10月の台風19号(東日本台風)からまもなく1年を迎えます。台風19号では84人(災害関連死除く)が亡くなり、65歳以上の高齢者がその6割以上を占めていました1)。NHK放送文化研究所が被災地で行った調査から、高齢者の「情報ライフライン」としてのテレビの重要性が改めて浮かび上がってきました。

写真1:国土交通省の河川カメラで阿武隈川の氾濫発生を伝えるテレビ画面
多くの文字・画像が盛り込まれている
(2019年10月13日午前2時半ごろ NHK総合テレビ)
■「テレビの映像が唯一の頼れる手段です」
NHK放送文化研究所は、台風19号で被災した長野県長野市、宮城県丸森町・石巻市、福島県本宮市・いわき市で、浸水したとみられる地域の20歳以上の男女計3,000人を対象に、郵送による世論調査を行いました。地元の自治体が発表した「避難勧告」を知った手段を聞いたところ、いずれの自治体でも、年代層が高くなるほど「テレビ」の割合が高くなる傾向がみられました。
さらに今回の調査では「台風19号のような豪雨災害のおそれがある時、テレビやラジオはどのような放送をすべきだと思いますか」という質問に自由に答えてもらいました。その回答には、高齢者からの切実な訴えが数多く記されていました(すべて原文ママ)。高齢者にとってはテレビが情報の「ライフライン」であることに改めて気づかされる内容でした。
「私達夫婦二人生活 80才近くの者です。テレビとラジオが知るすべてです。あまり難しい
表現でなくとにかくわかりやすい言い方等で知らせてください」(宮城県石巻市・70代女性)
「アプリ・ラインなど使えないのでテレビの映像が唯一の頼れる手段です」
(福島県本宮市・70代以上女性)
「高齢者に情報を届けたいのであれば『スマホを利用して』ということは除外すべき。
持っていたとしても使いこなせていないのが現状」(福島県いわき市・70代以上男性)
■テレビ画面にあふれる情報 高齢者に届いているか?
災害時のテレビ放送について、高齢者からの具体的な要望も多く書かれていました。
「一覧表が流れる帯状のテロップだと他の多くの地名にまぎれて、自分の地区を見落とした」
「画面の文字をもう少し長く残してほしい」
「重要なことは大きな文字で知らせてほしい」
「高齢者は音を聞き取りにくいので、もっとゆっくり・はっきり話してほしい」
「『越水』ではなく『水が堤防越しました』など、普段の使い慣れた言葉で呼びかけてほしい」
今回、改めて台風19号の際の放送を見直してみると、テレビ画面にはL字スーパーやレーダー画像、二次元コードなどのさまざまな文字情報や画像があふれています(写真1)。近年、防災気象情報が高度化・細分化され、放送を出す側も、できる限り地域に密着したきめ細かい情報を届けようと努力しています。それが高齢者にとって見やすい・聞きやすい放送になっているか、今一度立ち止まって考える必要があるのではないでしょうか。
■避難情報の「見逃し」を防ぐ取り組みも
災害時に命を守るために欠かせないのが避難に関する情報です。避難勧告や避難指示(緊急)の「見逃し」を防ぐ取り組みが始まっています。朝日放送テレビ(ABC)が2017年に全国に先駆けて導入した「災害情報エリア限定強制表示」やNHKが2020年6月から全国展開している「エリア限定地域避難情報自動表示」です。これらのシステムでは、避難勧告などが出た時、対象となる地域にだけ、テレビ画面上に文字スーパーが表示され、視聴者がリモコンを操作しなければ一定時間は消えません(写真2)。放送メディアは、インターネットによる情報発信を展開しながらも、テレビをライフラインとしている高齢者の切実な声にも応えていかなければなりません。

写真2:NHKの「エリア限定避難自動表示」画面のイメージ
(画面左側の枠で囲んだ部分が表示される)
詳しくは、今回の調査の結果をご一読ください。
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告①(長野県長野市)
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告②(宮城県丸森町・石巻市)
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告③(福島県本宮市・いわき市)
1) 内閣府「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難に関するサブワーキンググループ」
第1回資料(2020年6月19日)
メディア研究部(番組研究) 渡辺誓司
いまだ終息の気配がみえない新型コロナウイルスの感染拡大は、教育の分野にも大きな変化をもたらしました。例えば、オンライン授業や動画教材を配信するなど、児童・生徒が登校しなくても、家庭でインターネットを利用して学習できるような対応を進めている学校もみられます。
文研では、家庭における学習でどのようなメディアが利用されているのかを探るウェブ調査を、昨日から開始しました。昨年に続き2度目になります。調査の対象は、中学2年生と3年生、高校1年生です。学年の区切りがちょっと中途半端なのは、この調査には、昨年10月、つまりコロナ禍前に実施した同じ調査に協力してもらった当時の中学生たちに、今回も協力をお願いしているからです。調査対象を同一にすることで、コロナ禍前と今との変化を、正確に把握することを目指しています。
オンライン授業の配信などを考えると、今回の調査は、家庭学習で、パソコンやスマートフォン、タブレット端末などのデジタル機器が利用される割合が高くなることが予想されます。しかし、そもそもコロナ禍前の家庭学習ではどのような機器が利用されていたのでしょうか。次の図は、昨年10月の調査の結果から抜粋したものです。

ウェブ調査の対象の中学生(1,168名)のうち、家庭で、「英語、国語、数学、理科、社会、総合的な学習の時間」の6教科のうちいずれかの教科の学習を行っている中学生(1,055名)に、家庭学習で利用している機器を尋ねました。結果は、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、電子辞書の利用が多く、ほかの機器の利用は少ないというもので、学年による差はほとんどみられませんでした。
注目されるのは、図に示したいずれかの機器を家庭学習に利用していた割合は57%で、4割を超える中学生がこれらの機器を利用せずに学習していたことです。この中学生たちの家庭のうち、スマートフォンは73%、パソコンは63%、タブレット端末は46%の家庭で、彼らがそれらを自由に利用できる環境にあったことから、機器を利用できるからといっても、必ずしもそれらが家庭学習に利用されていたわけではないことがわかりました。一方で、教科書や参考書、問題集、塾の教材などの紙媒体を家庭学習の教材として使っていた割合は9割と高く、機器を使えても紙媒体だけで学習している中学生の存在もありました。コロナ禍の前に行った調査の結果が、コロナ禍の真っただ中にある今回の調査ではどのように変化するのか、家庭学習における機器の利用は増えるのかどうか、結果がまとまり次第改めて『放送研究と調査』で報告します。
ここでご紹介したデータを含め、昨年実施した調査の結果の詳細は、『放送研究と調査』8月号に掲載しています。また、この調査では、調査対象の中学生の母親にも同時にウェブ調査を行っており、論考では、母親の家庭学習におけるデジタル機器の利用観や、家庭学習からみた親子関係の分析も取り上げています。コロナ禍前の実態を把握したものとして、ぜひご一読ください。