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調査あれこれ 2023年03月06日 (月)

#458 WBC直前企画① 視聴率でみる日本プロ野球平成史

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 3月9日(木)、野球の世界大会「ワールドベースボールクラシック」で日本が初戦を迎えます。過去2度優勝の日本は、今回、MLBで活躍中の大谷選手やダルビッシュ選手、去年史上最年少で打撃三冠王に輝いたヤクルトの村上選手も参加し、非常に楽しみですね!

 選手たちへのエールの意味も込めまして、今回は、文研の過去の視聴率調査の結果から、「プロ野球」に注目して、①「国内のプロ野球平成史」、②「国際試合の平成史」の2回シリーズでお届けします。
 まずは、毎年6月第1週に実施している「全国個人視聴率調査」の関東地方のデータから、その週の夜間(18時以降)に地上波テレビで生中継された中で、各年最も視聴率の高かった試合をピックアップしてグラフにしてみます。

【プロ野球平成史】6月第1週に最もよく見られたプロ野球中継(関東)

 ご覧のように、大づかみに言うと、"右肩下がり"。平成16年までは10%を超えていましたが、その後は5%前後となる年が多くなりました。
 最も高かったのは平成2年の「巨人対中日」の16.9%です。
 この年は、前年の日本シリーズで近鉄を相手に3連敗からの4連勝で日本一に輝いた巨人が、開幕ダッシュに成功。5月8日以降は一度も首位の座を明け渡さずに独走し、優勝。つまり6月調査週にはすでに「巨人がぶっちぎりの好調」だったのです。
 ちなみに、この年の巨人の開幕戦オーダーは、1番ショート川相、2番セカンド篠塚、3番センタークロマティー、4番レフト原、5番サード岡崎、6番ライトブラウン、7番ファースト駒田、8番キャッチャー中尾、9番ピッチャー斎藤。当時野球少年だった筆者には、涙がでるほどに懐かしい顔ぶれです...。
 次いで、「阪神対巨人」が16.8%だった平成11年は、中日が開幕11連勝でスタートダッシュ。出遅れた巨人が、ルーキーの上原投手の活躍もあり、夏場に猛追するシーズンでした。すなわち6月は「巨人がここから巻き返すぞ」という時点でした(結果的には、首位中日に1.5ゲーム差まで迫りましたが、あと一歩届かず2位)。
 平成12年は、前年に熾烈な優勝争いを繰り広げた「巨人対中日」の15.6%。そこまで3年連続で優勝を逃していた巨人はシーズンオフに大補強を行い、ダイエーから工藤、広島から江藤を、それぞれFAで獲得。松井、江藤、清原、仁志、清水などの大物選手がずらりと並んだ打線は、西暦2000年にちなんで"ミレニアム打線"とも呼ばれました。6月はこの大補強が功を奏して、「巨人が混戦から頭ひとつ抜け出した」時期でした。
 このように、トップ3はいずれも「巨人が好調な6月」の巨人戦です。
 初めて視聴率が10%を割り込んだ平成17年。巨人は開幕4連敗でつまずき、主力選手の故障も相次いで、4月21日から6月2日までは最下位に低迷し続けました。つまり、前述の3年とは対照的に「巨人が絶不調の6月」だったわけです。
 そもそも地上波では巨人戦の中継が圧倒的に多かったですし、巨人が本拠地を置く関東のデータでは、"平成のプロ野球史"と言っても、どうしても"平成の巨人戦史"をみているようなものなので、「巨人が強ければ高くなるし、弱ければ低くなる」という平成前半の傾向は、ある意味で、当然なのかもしれません。
 しかし、平成17年以降の巨人は、14年間のうち11年はAクラス(3位以上)で、6度も優勝したにもかかわらず、視聴率がふたたび10%を超えることはありませんでした。もちろん、平成の前半に比べて、地上波での中継自体が減ったり、BSやCS、ネット動画サービスなど、視聴手段が多様化したりした影響もあるかもしれませんが、ここまでのデータでは、平成17年をひとつの大きな転換点として、"プロ野球テレビ観戦離れ"が進んだようにみえます。

 ではその"平成17年"、プロ野球にいったい何があったのでしょうか。
 まさにその年、セ・パ交流戦が始まっています。これまで(関東の巨人戦視聴者の目線で言えば)オールスター戦や日本シリーズくらいでしか見ることのできなかった、パ・リーグのチームや選手を目にする機会が一気に増えました。また、球団再編によって、宮城に新球団・楽天が誕生したのもこの年です。
 さらに、時は少し前後しますが、平成4年にはロッテが千葉に、平成5年に当時のダイエー(現ソフトバンク)が福岡に、平成16年には日本ハムが北海道に、それぞれ本拠地を移転。さらに、広島では平成21年に新球場がオープンしました。平成17年に生まれた楽天も含め、これらの球団が地元で多くのファンを獲得し、好成績も相まって、各地で応援熱が高まったことは皆様ご存じの通りです。
 すなわち、セ・パ交流戦開始や球団再編のあった"平成17年"を境に、パ・リーグや地方の球団の試合を見る機会が格段に増え、それによって、プロ野球の視聴や応援も、それまでの「野球といえば巨人」という状況から、大きく多様化を遂げたと言えるのではないでしょうか。
 そうした変化、とくに地方の盛り上がりが感じられるデータを、同じく6月の「全国個人視聴率調査」からご紹介します。まずは総合テレビ木曜日19:30~20:43の地方別視聴率です。平成29年と30年、総合テレビでは、木曜は19:30まで『ニュース7』を放送した後、各地域局のニュース前の20:43まで、北海道と中国地方では、他の地域とは別編成で、地元球団である広島と日本ハムの試合を中継しました。この時間帯の視聴率について、平成最後の5年間と、参考まで平成元年と15年のデータも合わせて表にしました。

総合テレビ 木曜19:30~20:43の地方別視聴率

 北海道では、平成30年は13%、平成29年は11%で、いずれも全体より高く、それまでの3年間よりも上昇しました。中国地方は、もともとこの時間帯の視聴率が比較的高めなので目立った上昇とまでは言えませんが、平成29年の11%は北海道同様に全体よりも高くなりました。

 総合テレビでは同様に、平成28年~30年の金曜も、20:00から、各地域局のニュース前の20:42まで、独自にプロ野球中継を放送していた地域がありますので、その時間帯の地方別視聴率もお示しします。

総合テレビ 金曜20:00~20:42の地方別視聴率

 この枠では、平成30年には北海道と中国地方で「広島対日本ハム」、平成29年には北海道で「日本ハム対巨人」、東北と中国地方で「楽天対広島」、九州地方で「ソフトバンク対阪神」、平成28年にも東北で「楽天対広島」が放送されました。
 平成29年の北海道と中国地方の11%は、とくに目を引きますね。日本ハムと広島はともに前年にリーグ優勝。まさに黄金期にあった広島では若い女性ファンも増え、"カープ女子"という流行語も生まれましたし、日本ハムはこの年が大谷選手の日本でのラストシーズンということにもなり、もともと巨人ファンも多いという土地柄もあって、多くの人が視聴したのではないでしょうか。
 なかなか10%に届かなくなった関東とは対照的に、ここ数年、地方によっては、地元球団の試合中継で視聴率が10%超となるというこの現象は、プロ野球の愛され方が多様化した平成を物語っているようにも思えます。
 そして今度のWBCには、そうした地方の球団からも多くの選手が日本代表に選ばれています。ソフトバンクの甲斐・近藤・周東選手には九州から、日本ハムの伊藤選手や、MLBからの凱旋となる大谷・ダルビッシュ選手には北海道から、広島の栗林選手には中国地方から、楽天の松井選手には東北から......、ひときわ大きな声援が送られるのではないかと、このデータをみていると感じます。
 次回は野球日本代表(侍ジャパン)の平成史を振り返ろうと思います。


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