文研ブログ

調査あれこれ 2022年09月13日 (火)

#421 足元揺らぐ岸田内閣 ~続く旧統一教会問題・安倍氏国葬批判~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 日本時間の8月10日。二刀流の大谷翔平がMLBでベーブルース以来となる2桁勝利・2桁ホームランの快挙を達成しました。この直前に行われたNHK月例電話世論調査で内閣支持率が13ポイントも急落していた岸田総理。胸中にあったのは「あやかりたい」の一言だったでしょう。

 しかしながら1か月後の9月9日から11日にかけて行われた月例調査でも、足元の揺らぎが収まる気配はありません。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  40%(対前月 -6ポイント)
 支持しない  40%(対前月+12ポイント)
 わからない、無回答  20%(対前月 -6ポイント)

岸田内閣の支持率は、発足直後の去年10月に49%でスタートし、衆議院選挙、参議院選挙に勝利して7月には59%という安定水準に達していました。

 それが2か月続きでジリジリと下がり続けている背景には様々な要因がありそうです。

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 まず、8月の支持率急落を受けて前のめり感を漂わせながら行った内閣改造と自民党役員人事の評判がよろしくない点です。

☆あなたは岸田総理大臣が8月10日に行った内閣改造と自民党の役員人事を全体として評価しますか。評価しませんか。

 評価する 34% < 評価しない 56%

岸田総理が態勢立て直しを目指した人事でしたが、萩生田光一政務調査会長や山際大志郎経済再生担当大臣など、旧統一教会との接点の存在を認めざるを得なかった議員が相次ぎました。

 9月に入って公表された自民党の集計では、旧統一教会やその関連団体と何らかの接点があった国会議員は、所属する379人のうち179人と半数近くに上りました。

 改造内閣の閣僚や自民党役員の中に接点の存在を認めざるを得なかった議員が相次いだのも、旧統一教会側が政権与党の自民党、とりわけ“これからの有望株”にすり寄っていたことを物語っています。

 もちろん選挙運動に大勢のスタッフを動員してもらっていた議員らと、頼まれて行事に祝電を打っていただけの議員らでは程度が違うのは確かです。

 ただ総じて言えることは、かつての霊感商法や多額の寄付の強要などで社会問題化してきた組織に対する警戒心の不足です。「選挙に勝つためにはわらをもつかむ」と語る議員もいますが、選挙の主役である有権者がNOを突き付ける存在をつかんではいけません。

 この問題と密接不可分となった安倍元総理の国葬に対しても、国民は厳しい視線を向けています。

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☆政府は9月27日に安倍元総理大臣の「国葬」を行うことを決定しました。あなたは、この決定を評価しますか。評価しませんか。

 評価する 32% < 評価しない 57%

参考に7月、8月調査での国葬に関する質問の答えは以下の通りです。

 7月 ⇒ 評価する 49% > 評価しない 38%
 8月 ⇒ 評価する 36% < 評価しない 50%

 安倍元総理と旧統一教会の関係について、岸田総理は「本人が亡くなっているので確かめようがない」と国会で答弁しています。

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 理屈の上ではそうですが、国民にとっては「すっきりしないグレーのまま」と受け止めざるを得ず、それで国葬か?という疑問符が次第に強調されている感があります。

 そこに英国のエリザベス女王の訃報が重なり、彼我の国葬を比較する素朴な世論が形成されつつあります。9月19日のエリザベス女王の国葬、そして27日の安倍元総理の国葬が近づくにつれ、どういう反応が出てくるのでしょうか。

 安倍氏を国葬という最大級の追悼の場で弔うことを決めた岸田総理にとって、自らの判断が国民に受け入れられるかどうかは今後に向けて大きな節目になります。まだまだ説明が足りないと思います。

 さて、10月に入れば秋の臨時国会が開かれ、来年度予算案の編成という政府の一番の仕事が正念場を迎えます。

 特に今年は2月のロシア軍のウクライナ侵攻に端を発した国際情勢の大変動、それに呼応するかのような中国の台湾に対する威嚇行動が相次ぎました。ロシアとも中国とも海を挟んで間近に接する日本にとって、安全保障政策の再構築が急務なのは確かです。

 岸田総理は国民を守る抑止力を強化するために相当な防衛費の増額を目指すと強調しています。問題はどういう部分に予算の積み増しを図るかです。

 安全保障の専門家の間では、最近「ウサデン」なる言葉が飛び交っています。意味しているのは、ウ=宇宙、サ=サイバー、デン=電磁波です。

 そこに示されているのは、従来型の陸海空自衛隊の装備や人員に予算を積み増す発想だけでは駄目だということです。ロシア、中国、そして北朝鮮の軍事的脅威に備えるためには、宇宙からの監視、サイバー攻撃への備え、電磁波による相手の無力化といった手法こそが有効だという判断を示しています。

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 こうした議論を年末までに具体的に深め、国民に提示していくのは相当の力仕事です。そして国民に示す時には、新たな財源をどう確保するかが明確でなければ納得を得ることはできません。

 最も単純なのは防衛費増額のために国債を発行して財源を得るという手法ですが、「これでは戦前の日本と同じではないか」という反発が出るのは避けられません。

 ロシアのプーチン大統領のように歴史の針を巻き戻すようなことはやってはならないでしょう。岸田総理がこの大仕事を通じて国民に対する説得力を発揮できるかが2022年後半の最大の焦点です。