#391 対ロシア経済制裁に必要な覚悟 ~ウクライナ・早期停戦に向けて~
放送文化研究所 研究主幹 島田敏男
「第2次世界大戦後、最も恐ろしい戦争犯罪だ!」日本時間の4月5日深夜、国連安全保障理事会の緊急会合の場でウクライナのゼレンスキー大統領がオンライン演説。大統領は直前にブチャという街の惨状を視察していて、世界に向けて憤りをあらわにしました。
2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻を開始してから1か月半余り。首都キーウに迫っていたロシア軍は、ウクライナ側の抵抗に阻まれて一旦後退し、東部に転じつつあると伝えられています。
ロシア軍が引いた後、激戦があったキーウ周辺の街に、ウクライナ政府や国際機関の関係者、それにNGOの人たちやジャーナリストが入るにつれて慄然とする現実が次々に明らかになりました。
グテーレス国連事務総長は「無差別攻撃は国際人道法の下で禁止されている」と強調し、国際刑事裁判所で民間人に対する戦争犯罪を裁くための調査を呼びかけました。
この市民の犠牲者に関する情報は各地で跡を絶たず、連日のように世界に向けて発信されています。これに対しロシア側はプーチン大統領を筆頭に「ウクライナ側のねつ造だ」と口を揃えるばかりです。
4月のNHK電話世論調査は、世界の耳目が市民の犠牲に関する情報に接し続ける中、8日(金)から10日(日)にかけて行われました。
☆「ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対する日本政府のこれまでの対応を評価しますか」と聞きました。
「評価する」 71%(対前月+13ポイント)
「評価しない」 21%(対前月-13ポイント)
日本は攻撃兵器の提供などの軍事支援は行わない一方で、避難民支援のために資金提供を行ったり、希望する避難民の日本への受け入れを進めたりしています。
また欧米各国と足並みを揃えて金融制裁や経済制裁を実施し、プーチン大統領やその家族、政権関係者らに対する資産凍結も打ち出し、明確にNOの意思表示を示しています。
軍事侵攻から2週間余りの時点で行った3月調査と比べると、日本政府のウクライナ支持の態度を評価する割合が増しています。現地から伝えられる市民の犠牲に関する情報が増すほどに、ロシアに対する国民の視線が厳しさを増しているようです。
☆「日本政府のロシアに対する制裁措置についてどう思いますか。次の3つから1つ選んでください」
「適切だ」 35%
「さらに強めるべきだ」 47%
「厳しすぎる」 7%
これを詳しく見ると、「さらに強めるべきだ」は野党支持者では6割に達していて、与党支持者の5割弱、無党派層の4割強と比べて高い割合を占めています。
☆「今回の軍事侵攻を受け、政府はロシアへのエネルギー依存度を引き下げていく方針です。一方で、引き下げによるエネルギー価格の上昇の可能性も指摘されています。エネルギーの価格が上がっても、ロシアへのエネルギー依存度を引き下げることを、支持しますか、支持しませんか」
「支持する」 68%
「支持しない」 17%
日本はロシアからの石炭輸入や新規投資を禁止する経済制裁に踏み切っていますが、日ロ共同事業になっているサハリンでの天然ガスプロジェクトは今のところ継続しています。
今回の事態で世界的にエネルギー資源や穀物資源の価格高騰が続いていますし、停戦に至らずに戦闘状態が継続するならば制裁は長期化することになります。またロシアの出方次第では一層の制裁強化も必要になります。
そもそも経済制裁はどういう意味合いと可能性を持つものなのでしょう。「けしからん行為に対する懲罰」という意味合いにとどまらず、「戦争継続を抑止するための武器」でもあります。
安全保障の世界では、抑止というのは基本的には「相手に大きなコストがかかることを実感させ、コストパフォーマンスが悪い選択を断念させる働き」と理解されています。
つまり先々を展望することができる合理的な判断力に訴えかけ、心変わりを促すメッセージであるわけです。第3次世界大戦を望まない欧米諸国や日本が取りうるギリギリの手段です。
しかし経済のグローバル化が進んだ21世紀の現代では、制裁を行う側も返り血を浴びることを覚悟しなければなりません。資源大国ロシアにエネルギー源を依存してきたドイツが難しい選択を迫られているのもそのためです。
天然資源を海外からの輸入に頼る日本でも、回りまわって様々な製品の価格が上昇した場合に消費者がそれにどこまで耐えることができるか。まさに覚悟が問われます。
☆「あなたは岸田内閣を支持しますか。支持しませんか」
「支持する」 53%(対前月 ± 0ポイント)
「支持しない」 23%(対前月-2ポイント)
岸田総理が外務大臣を務めていた安倍政権の当時、日本政府は経済連携を梃子にして北方領土の返還と平和条約交渉を進めるためにロシアに接近を図っていました。
しかしロシアがウクライナ侵攻という「力による現状変更」を継続する状況では、これとは全く異なる態度で臨まざるを得ません。すでにロシア政府は経済制裁に対する日本への報復として、話し合い拒否を伝えてきています。
今月の岸田内閣の支持率を見れば、国民から一定の支持を得ていると評価できると思います。ただ、経済制裁を継続する中で日々の暮らしに影響が及ぶ段階に至った時に足元が揺らぐことはないのか。
世界情勢への対応が国内の政治情勢を左右する難しい局面に立っていることは確かです。