文研ブログ

調査あれこれ 2022年03月17日 (木)

#377 2つの大会が終わった今、改めて考える

メディア研究部(メディア動向) 上杉慎一


3月13日、北京パラリンピックが閉幕しました。大会直前にはロシアがウクライナに軍事侵攻を開始し、冬のパラスポーツの祭典にも大きな影を落としました。

一方、半年前の東京オリンピック・パラリンピックが直面したのは、新型コロナウイルスの影響でした。コロナ禍で開催されたオリンピックをメディアはどう伝えたのか、私たちはニュースの内容を分析し論考にまとめました。その際、注目した1つが、NHKがオリンピック中継で活用したサブチャンネルです。今回は論考の概要を改めて紹介するとともにとNHKのサブチャンネル放送について振り返ります。

コロナ禍の五輪 ニュースは

夏の東京オリンピック・パラリンピック大会は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、史上初めて開催が1年延期され、オリンピック開催の直前には東京に4回目の緊急事態宣言が出されました。連日、コロナ報道が続く一方で、大会を開催すべきか否かを巡り人々の意見は大きく分かれました。そうした中で聞かれたのは、「いざオリンピックが始まればテレビはオリンピック報道一色になるに違いない」といった“メディアの手のひら返し”を指摘する声でした。

実際はどうだったのでしょうか。東京オリンピックの報道をみると、新型コロナの第5波を受けて、テレビでは大会の途中からトップニュースがオリンピック関係からコロナに関するニュースに置き換わり、コロナの報道量も増加しました。その反面、大会期間中の報道量としてはオリンピック関係のニュースが最も多くなりました。詳しい分析内容は「コロナ禍の五輪 ニュースはどう伝えたか」(上杉慎一・東山一郎/放送研究と調査2月号)をご覧ください。

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オリンピック報道とコロナ報道の両方をどう伝えていくのか、メディアは対応に迫られました。その対策の1つとしてNHKが数多く活用したのが、サブチャンネルを使ったマルチ編成です。マルチ編成は1つのチャンネルでメインとサブの2番組を同時に放送するもので、これによって総合テレビで通常通り「ニュース7」を編成するとともにオリンピック中継も同じ時間帯に伝えることができました。その点でサブチャンネルは効果的だったと思います。
一方、「ニュースウオッチ9」はオリンピック中継のため、通常60分間の放送時間が2週間余にわたって15分~30分間に短縮され、一部で物議をかもしました。果たして当時の対応は適切なものだったのかどうか、今後も様々な検証が必要だと考えます。

逆転の金メダル 見逃し相次ぐ

東京オリンピックの際は、一定の効果を発揮したNHKのサブチャンネルですが、冬の北京オリンピックの中継では、逆にネックとなり、周知や運用の難しさが大きな課題として残りました。スノーボード男子ハーフパイプ決勝の中継で、金メダルを獲得した平野歩夢選手の滑走を見逃したという視聴者が相次いだためです。

2月11日。スノーボード男子ハーフパイプの中継は総合テレビで放送され、平野歩夢選手は2回目の滑走を終え2位につけていました。逆転を狙った3回目の滑走の直前だった午前11時53分にマルチ編成が始まり、スノーボード中継はサブチャンネルでの放送となりました。総合テレビのメインチャンネルでは、サブチャンネルへの切り替え方法を紹介する1分間の案内番組が放送され、続いて54分から通常通り気象情報が始まりました。その結果、リモコンを使ったサブチャンネル切り替えの操作に手間取った人たちが金メダルの瞬間を見逃すことになってしまいました。

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サブチャンネルへの切り替え方法の理解が十分進んでいないことはかねてからも指摘されていましたが、今回はそれが一層際立ったケースになりました。SNS では「最悪のタイミングだった」という嘆きも聞かれました。より丁寧な説明とともに番組編成での工夫も必要ではないかと思います。
これ以降、総合テレビではサブチャンネルの活用に慎重姿勢が見えるようになりました。日本がイギリスと戦った、2月20日のカーリング女子決勝の中継ではサブチャンネルを使わず、気象情報を休止するとともに、正午のニュースを午後1時30分までずらすという対応になりました。

浮かび上がった課題を今後どうする

2つのオリンピックを通じて、サブチャンネル1つをとっても効果と課題がそれぞれ見えてきました。今回のオリンピック・パラリンピックで浮かび上がったメディアの課題はこれにとどまりません。例えばNHKにとっては、BS1スペシャル「河瀨直美が見つめた東京五輪」を巡る問題もあります。この問題では、NHKの調査チームが報告書をまとめ公表していますが、BPO=放送倫理・番組向上機構が「放送に至った経緯について詳しく検証する必要がある」として審議入りを決めました。その推移を注視する必要があります。

この1年の間に続けて開催された東京と北京、2つのオリンピック・パラリンピック大会が終わりました。2つの大会を通して浮かび上がった課題にメディアはどう向き合っていくのか、メディア研究という視点で今後も見つめていきたいと考えています。