文研ブログ

調査あれこれ 2022年03月15日 (火)

#376 プーチンの暴挙・ウクライナ侵攻~停戦のために何ができるか?~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 2月22日、日本の国会では新年度の政府予算案が衆議院を通過して参議院に送られました。これによって新型コロナ対策なども盛り込んだ令和4年度予算が、憲法の規定に基づいて年度内に成立することが確実になりました。

 総理大臣にとって1年で一番大きな仕事が「国を動かす血液循環」とも例えられる本予算の成立です。本会議場で一礼した岸田総理が思わずほっとした表情を見せたのも、就任から間もない新人として当然の姿です。

 しかし、ほっとしたのもつかの間。2日後の24日、プーチン大統領の命令でロシア軍がウクライナに攻撃を始めてしまいました。時計の針を100年前の領土拡張競争時代に巻き戻した感があります。

 ロシア政府は「軍事施設を狙ったものだ」と強弁しましたけれども、ウクライナ国内からメディアやSNSで伝えられる状況を見れば一目瞭然。市民を巻き込む軍事侵攻に他ならないことを世界は瞬時に理解しました。

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 アメリカのバイデン政権は、情報機関の分析に基づいて早い段階からロシアがウクライナに攻め込む事態を予測し、世界に警戒警報を発していました。

 21世紀初頭からのテロとの戦い、そしてイラク戦争の苦い経験を積み重ね「世界の警察官」として振舞うことを辞めたアメリカ合衆国。それでも自分たちの「目と耳」で集めた情報を世界に伝えることで、何とかリーダーの地位を保とうという切実な思いがにじんでいます。

 「国際社会はプーチン大統領の誤った行動を止めることができなかった」。
国際政治の専門家は口をそろえて指摘します。核兵器を保有し、国連の安保理常任理事国のロシアが力による現状変更に踏み切ったことで、世界は歴史に残る困難に直面することになりました。
 
 日本時間の3月3日未明、国連総会でロシア非難決議が採択されました。賛成141か国、反対5か国、棄権35か国という態度表明でした。
kokuren.pngのサムネイル画像 賛成の141か国は、G7など決議案を共同提案した96か国と、それ以外に賛成した45か国です。

 反対の5か国は、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、シリア。いずれも専制主義的国家体制の国です。
 棄権の35か国には、中国、インドが含まれています。

 決議案の共同提案国になった日本は、G7の一員として経済制裁に加わり、自衛隊が保有するヘルメットや防弾チョッキといった護身用の装備品をウクライナに提供しました。

 この決議採択の後、ロシア軍とウクライナ軍の攻防が続く中、3月11日(金)から13日(日)にかけてNHK電話世論調査が行われました。

☆「ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対する日本政府のこれまでの対応を評価しますか」と聞きました。

  「評価する」  58%
  「評価しない」 34%

☆「日本政府はロシアに対し、プーチン大統領ら政府関係者や中央銀行などが日本国内に持つ資産の凍結や、半導体の輸出禁止などの制裁措置を決めています。これらの制裁措置についてどう思いますか」

  「妥当だ」        42%
  「さらに強化すべきだ」 40%
  「強すぎる措置だ」     7%

 これを与党支持者、野党支持者、無党派層の別に見ても、ほぼ同様の肯定的な結果を示しています。

☆「政府はウクライナから避難した人の日本への受け入れを進める方針です。この方針を評価しますか」

    「評価する」    85%
  「評価しない」 10%

 こちらも与党支持者、野党支持者、無党派層のいずれを見ても、ほぼ同様の結果です。「遠い国の話」と片づけないで、苦難に見舞われたウクライナの人たちに対し「離れていても隣人」という想いをはせている人が多いように感じます。

 この2年間、私たちは世界的規模で新型コロナウイルスに向き合ってきました。この共通体験を通じて地球上の課題が広く共有されるようになり、遠く離れた場所の出来事でも「困っているお隣さんを支援しよう」という地球市民の感覚が醸成されてきたと言ったらうがちすぎでしょうか。

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☆「あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか」

  「支持する」     53%(対前月 -1ポイント)
  「支持しない」  25%(対前月 -2ポイント)

 オミクロン株による新型コロナウイルス感染第6波が年明け早々に襲来し、2月には岸田内閣の支持率に陰りが見えましたが、今月は横ばいを維持しました。

 岸田総理の内憂である感染拡大が、今の第6波の後、収束に向かうことを願わずにはいられません。

 ただ、そこに『外憂』ともいうべきプーチンの暴挙・ウクライナ軍事侵攻が眼前に現れました。国際社会の一員として、これをどう乗り越えるか?

 まず、話し合いによる停戦合意に漕ぎつけることが重要ですが、それを促すために日本政府がすべきこととして、私は次の2点を挙げたいと思います。

 一つ目は、ロシアが管理下に置いたとされるチェルノブイリ原発などウクライナ国内の原子力施設に対し、IAEA(国際原子力機関)の監視の目が十分に行き届くように支援することです。東日本大震災による福島第一原発事故の後、IAEAとウクライナ政府から事態改善に必要な様々な知見の提供を受けました。その恩返しでもあります。

 二つ目は、国連総会でロシア非難決議案に賛成せず棄権に回った中国を、これ以上ロシア支援の側に回らせないようにする日本外交の働きかけです。中国がロシアとの経済関係を今以上に強めれば、経済制裁の抜け道を広げることになります。外務大臣を5年近く務めた岸田総理のリーダーシップが試されます。
ukurussia.pngのサムネイル画像 ウクライナのゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領の首脳会談が実現し、事態打開に向かうことができるのかは不透明です。(3月15日現在)
 
 インターネット、SNSの発達で様々な情報を手にすることが可能になった今日だからこそ、地球規模の課題に関心を持ち続けることが重要だと感じます。