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放送ヒストリー 2020年08月07日 (金)

#263 『おかあさんといっしょ』の60年③ ~"子どもの歌"の"おかあさん" 作曲家・福田和禾子~

メディア研究部(番組研究) 高橋浩一郎


 『おかあさんといっしょ』は、毎月1曲程度、既存曲やオリジナル曲を番組内で紹介しており、これらの一連の曲は1986年から「月の歌」の名称がつけられ親しまれるようになっています。(1961~1966年の間は『うたのえほん』という別番組の企画でしたが、1966年以降『おかあさんといっしょ』に統合されました。詳しくは「NHK放送文化研究所年報2020」掲載、「NHK幼児向けテレビ番組の変遷」参照)
 一時期途絶しているものの、番組班では1961年から「月の歌」(1986年にその名がつくまではこれらの一連の曲には固有の名前がありませんでしたが、この稿では名称がついていなかった時期も含めて「月の歌」とします。)の曲の記録を残しており、400曲以上に上る楽曲リストを見ると、作曲者名から、時代の傾向を伺うことができます。

 1960年代には、中田喜直さん、林光さん、富田勲さん、團伊玖磨さん、服部公一さんなど、クラシック音楽をバックグラウンドに持つ作曲家が並びます。1970年代の記録はありませんので、1980年代に目を移すと、五輪真弓さん、小椋佳さん、村下孝蔵さん、深町純さんなど、フォーク、ニューミュージックやフュージョン系のミュージシャンの名前が見られるようになり、2000年代に入ると、奥居(岸谷)香さん、中西圭三さん、平沢進さんなど、ロック、ポップス系のアーティストの名前が連なるようになります。性別で見ると、男性が圧倒的に多く、昔ほどその傾向が強いようです。

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福田和禾子さん

 その中で最も多くの曲(25曲)を「月の歌」に提供したのが、福田和禾子さんです。福田さんは1941年、流行歌手の松平晃さんの一人娘として生まれました。父の影響で幼少期から音楽を始め、高校から作曲を専攻し、東京芸術大学作曲科へと進学。そして卒業後すぐ、藤山一郎さんのピアノ伴奏などを務めながら、童謡作曲家として活動を始めました。

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「ぼうずのうた」譜面

 福田さんが手がけた「月の歌」の中で最も古い曲として、1969年1月の「ぼうずのうた」が記録に残っています。同番組で発表した代表的な曲として、「そうだったらいいのにな」「北風小僧の寒太郎」(のちに『みんなのうた』でも放送)「銀ちゃんのラブレター」などがあります。他にも『みんなのうた』で、「赤鬼と青鬼のタンゴ」や「ありがとう・さようなら」などを、NHKの教育番組『おーい!はに丸』や『たんけんぼくのまち』などの主題歌も数多く担当しています。また作曲だけでなく、1972年には『おかあさんといっしょ』にスタジオピアニストとして出演しているほか、出演者の歌唱指導も担当するなど、『おかあさんといっしょ』やNHK教育番組に多大な貢献をしました。


 2008年10月、福田さんは『おかあさんといっしょ』ファミリーコンサートの録音作業の休憩中に倒れ、66歳で急逝されました。生涯一貫して子どもの歌を作り続け、1000曲を超える作品を残した福田さん。まだ女性の作曲家が少なかった時代に、自らその道を切り拓いたパイオニアでした。
 福田さんには息子さんが一人います。長男・匠さんは現在眼科医をされていて、2017年に医師会の機関紙に「私の母・福田和禾子」という文章を書いています。そこには、小さいころ録音スタジオに付いて行き、仕事をする母親の姿を見て「子供ながらに、かっこいい人」と思ったこと、また福田さんが仕事に関して大変厳しい考え方を持っていて、「『仕事は、人生を掛けて、死ぬ気で取り組まないとならないし、死ぬまで勤め上げないとならない。』と何度も叱咤激励された」ことが書かれています。
 福田さんが作曲した曲の中に「あのねママ」という歌があります。文章では音をお聞かせできないので、歌詞(作詞:田中大輔・井出隆夫)の一部を以下に引用します。

ママのたいせつな たからもの
それはね あなたのことば

あのねママ ボクどうして
うまれてきたのか しってる?
ボクね ママにあいたくて
うまれてきたんだよ

ほしぞらの どこかで
あたらしいいのちが
きらりん きらりん
うまれる そのときを
そっと まってたの
それが あなた

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「あのねママ」(1998年12月)

「あのねママ」は、あらゆる子どもが母親から生まれるという必然の不思議さと、その出会いの幸せを、母子が互いに話しかけるという形で描いた作品です。1児の母親である福田さんもさまざまな思いを込めて、この曲のメロディを紡いだにちがいありません。


NHK放送博物館では、7月4日~9月27日にかけ企画展『~パパもママもみていた!~おかあさんといっしょ』を開催しています。