文研ブログ

2024年6月24日

調査あれこれ 2024年06月24日 (月)

能登半島地震 被災地にどこまで情報は届いていたのか?~文研ネット調査の結果から読み解く~【研究員の視点】#545

メディア研究部(メディア情勢)村上圭子

*はじめに

 2024年5月、文研では能登半島地震で被災した人たちを対象に、被災地の情報伝達などについてインターネット調査を実施しましたⅰ)。本ブログでは、調査の結果について、これまで私が取材で感じてきた認識と共にまとめておきたいと思います。
 なお、調査の概要については、同月23日に実施した「NHK文研フォーラム2024」のシンポジウム、「能登半島地震から5か月~地域メディアによる課題共有と今後について考える~」で報告しています。シンポジウムでは、報告をきっかけに、北國新聞、石川テレビ、NHK金沢放送局の3者と災害報道や災害情報伝達について議論しました。文研のウェブサイトで8月末までアーカイブ配信ⅱ)しています。ご関心がある方はぜひご視聴ください。


*調査のねらい

 能登半島地震後、私は被災者に必要な生活関連情報(ライフライン関連、行政の手続きに関する情報、避難生活に関する情報など)はどう届けられたのか、どんな点が課題だったのかについて調べてきました。能登半島の自治体を取材すると、住民への情報伝達を体系立てて行えるようになるまでに、1週間から10日くらいかかったという声が多く聞かれました。また、新聞、テレビ、ラジオなどの地域メディアも、被災者向けの情報伝達には力を入れていましたが、最大の情報源は自治体が発信する情報にならざるを得ません。そのため、発災後しばらくの間は、必要な情報が被災者に届きにくい状況があったのではないかと考えました。課題を検証して今後に生かすためには、自治体やメディアといった情報の"伝達側"だけではなく、"入手側"の実態も把握する必要があると思い、今回の調査を企画しました。
 調査対象は、地震が発生した1月1日に、石川県で被害が甚大だった7市町(輪島市、珠洲市、七尾市、志賀町、能登町、穴水町、内灘町)ⅲ)に居住または滞在していた、20歳から79歳までの200人です。
 今回の調査で明らかにしたかったのは、被災地におけるメディアに対する意識と、被災者の災害情報(主として生活関連情報)入手の実態の2点です。このうちメディアに対する意識については、シンポジウムの議論と共に改めて論考としてまとめる予定です。本ブログでは、被災者の情報入手の実態について、①情報ニーズ、②入手ルート、③インターネット系由のコンテンツ接触、④情報入手とメディアへの評価といった調査項目別に、それぞれ回答結果をみていきます。


*調査結果① 情報ニーズ

Q.どんな情報が必要だったか?
 発災から約1か月間、被災地ではどのような情報が必要とされていたのでしょうか。過去の災害を参考に25個の項目を挙げ、その中から複数の項目を選択する形で回答してもらいました。回答の上位10位を示したのが図1です。

<図1>240624_graph1.jpg

 1位が「給水情報」、2位が「ライフラインの復旧見通し」、3位が「入浴できる場所」となりました。能登半島地震においては下水道の復旧の遅れが大きな課題となっていたため、そのことが被災者の情報のニーズの高さとして表れたのだと思われます。

Q.どんな情報が入手しにくかったか?
 では、発災から1か月間、入手しにくかった情報はどのようなものだったのでしょうか。こちらも、必要だった情報と同じ25項目を示して、複数の項目を選択してもらいました。
 上位10位の回答が図2です。図1の「必要だった情報」と重なっているものも多いですが、「入手しにくかった情報」のみで上位にあがっていたのが、「自宅の修理・解体に関する情報」、「店舗復旧・開店情報」、そして「がれきやゴミの処理」でした。

<図2>240624_graph2.jpg

 このうち「自宅の修理・解体に関する情報」と「がれきやゴミの処理」については、情報をどう"伝達"するか、という課題というよりも、復旧に向けた"政策"の課題であると思われます。前者については、公費解体の時期が見えない中、いつになったら自宅を修理していいのか分からないという被災者の声をよく耳にしました。また、後者については、能登半島で複数の産業廃棄物焼却場が被害を受けたことに加えて、道路事情が悪くて周辺地域への運搬も遅れていたという事情があると思われます。そのため、本ブログでこれ以上論じることはしませんが、被災地の復旧・復興については、引き続き関心を持って取材していきたいと思います。
 「店舗復旧・開店情報」については、それぞれの自治体がホームページで掲載していましたⅳ)。しかし、調査回答から推察されるのは、その情報が被災者に十分に届いていなかったのではないか、もしくは情報の内容が不十分だったのではないか、ということです。
 自治体の職員に伺うと、民間の店舗の情報をどこまで伝えるべきかについては明確な判断基準がなく、ガソリンスタンド、ドラッグストア、コンビニ、大手スーパーやホームセンターくらいまでは公共的な施設だと思うものの、個人商店になるとどこまで掲載すべきか難しいし確認もとりにくい、と悩みながら対応していたことが分かりました。
 一方で、今回の能登半島地震では、LINEのオープンチャット機能やFacebookのグループ機能を活用した、民間による地域限定の情報共有の場が複数立ち上がりましたⅴ)。そのうちの1つ、Facebookの「珠洲市の災害情報共有ⅵ)」という公開グループ(図3)では、参加者が個人商店も含めた細かい店舗の開店状況を調べてExcelシートにまとめて公開しており、その情報は今も更新され続けています。私も珠洲市に取材に行った際、とても参考になりました。
 こうした民間によるSNSを通じた情報発信は、今後の災害においても自然発生的に出てくると思われます。今回の災害では、民間と自治体との連携はみられませんでしたが、今後、早い段階から役割分担と緩やかな連携を探っていくことができれば、より被災者に役立つ情報が届けられる可能性があると感じました。

<図3>240624_graph3_suzushi.jpgFacebookグループ(公開)「珠洲市の災害情報共有」


*調査結果② 入手ルート

Q.どのサービスで情報を入手したか?

 次に、情報の入手ルートについて見ていきます。被災した人たちは、どのサービスから、さまざまな生活関連情報を入手していたのでしょうか。30項目の中から複数を選択してもらった結果、上位15位までの回答を示したのが図4です。1位が「NHKテレビ(総合)」、2位が「民放テレビ」、そして3位が「家族や友人、近所の人等から聞いた」、4位が「市町村のホームページ」、5位が「新聞」という順位になっています。

<図4>240624_graph4.jpg

 上位15位の全体を見てみると、③を除く入手ルートは、マスメディア、自治体発信、SNS・アプリの3つに分類できることがわかります。また、年層別に回答を分析してみましたが、NHK、民放と新聞は60歳以上の割合が高く、SNSは39歳以下の割合が高いという、日頃のメディア利用と同じ傾向が見られました(図5)。なお、39歳以下については、民放のL字放送を入手ルートとしてあげた人が多かったです。

<図5>240624_graph5.jpg

Q.どの機器で情報を入手したか?
 調査では、どんな機器で情報を入手したのかについても聞きました。こちらも複数の項目を選択してもらったのですが、群を抜いていたのが1位の「スマートフォン」と2位の「テレビ」でした(図6)。前項目で、どのサービスで情報を入手したかという設問の1位と2位がいずれもテレビだったため、なぜテレビではなくスマートフォンが1位なのか、違和感を覚えた方もいると思います。しかし、スマートフォンはメディアや自治体からの情報の入手だけでなく、メッセージやメールなどのやりとり、SNSや検索サイトの活用など、多様な用途に活用されることから、放送局の番組から情報を入手する機器であるテレビを抜いて1位になったということだと思います。

<図6>240624_graph6.jpg

 ただ、この設問は、被災者が置かれていた状況によって回答が大きく異なっていました。能登半島地震では、道路の亀裂や液状化で自宅や集落から動くことができず、孤立状態に陥った人たちも少なくありませんでしたⅶ)。本調査でも、対象者200人の4分の1にあたる50人は、発災から3日以上、物資や情報が届かない状態に置かれていました。
 調査では、この50人を「孤立者」と定義して、分析を進めました。図7は、情報を入手した機器についての回答を、全体と比較したものです。「孤立者」は全体と比べて、ラジオを利用して情報を入手したという割合が高かったことがわかりました。

<図7>240624_graph7.jpg

 災害時におけるラジオの有用性は、これまでの災害でも繰り返し指摘されてきました。今回の能登半島地震でも、スマートフォンがなくてはならない存在となる一方で、孤立状態におかれ、テレビが視聴できる環境になかったり、停電でスマートフォンの充電ができなかったりする中で、持ち運びしやすく、電池で動くラジオはやはり頼りにされていたのです。この回答結果を見て、ラジオ事業者は、孤立状態にある被災者の存在を、より意識して放送を出していく必要があると感じました。

Q.インターネットは利用できたか?
 スマートフォンの利用と密接に関わるのが、インターネットが利用できる状態だったかどうかです。能登半島地震の被災地ではどうだったのでしょうか。インターネットがどのくらい不通だったか、図7と同様、全体と「孤立者」の回答を併記したのが図8です。
 まず全体の回答からみていきます。3日以上ネットが不通だったと回答したのは22%でした。この結果を見て最初に私が感じたのは、被災地では想像していたよりインターネットが利用できる状態にあった、もしくは早期に回復していた、ということでした。
 調査後、特に被害が甚大だった珠洲市と輪島市に話を聞いてみましたが、両市役所がある地域周辺では、被災後も継続してインターネットが利用できる状態にあったということです。ただし、輪島市については、インターネットは利用できたものの、市による被災者への情報発信が遅れました。これは、地方公共団体専用の情報ネットワーク「LGWANⅷ)」の市庁舎内の設備が損傷したことが原因でしたⅸ)
 先に紹介したFacebook上の「珠洲市の災害情報共有」グループにも話を聞いてみました。発起人で珠洲市民の坂井理笑さんは、避難所からインターネットを利用して情報を発信したり要望を伝えたりして、それを被災地の外にいる人たちがサポートしながら、グループ運営が行われていったとのことでしたⅹ)

<図8>240624_graph8.jpg

 調査結果に戻ります。3日以上孤立状態にあった人たちのインターネット環境はどうだったのでしょうか。利用できない状態が3日以上だったと回答したのは40%、3週間以上使えない状態が続いたと回答したのが14%となっていました。


*調査結果③ インターネット経由のコンテンツ接触

Q.インターネットで接したコンテンツは?

 前項目でも触れたとおり、被災地では、孤立状態の地域を中心に、ブロードバンドインフラの復旧工事が大幅に遅れました。ただ、市街地などでは比較的早くからインターネット経由で情報を入手できる状況にあったようです。また、通信事業者から各自治体に対しては、人工衛星を通じてブロードバンド接続ができるインターネットサービスxi)の機器が無償提供され、避難所などで活用されました。
 では、被災した人たちはインターネット経由でどのようなコンテンツに接していたのでしょうか。図9がその回答結果です(複数選択)。1位が「メッセンジャーやメールでの家族・知人とのやりとり」、2位が「市町村など行政が発信する情報」、以下、「SNSの情報」「検索プラットフォームでの検索」となりました。一方、マスメディアが発信する記事や情報、放送局による同時・見逃し配信に接したと回答した人は15%程度でした。
 ②の入手ルートでも触れたように、インターネット経由で提供される情報の多くはスマートフォンで視聴されています。ちなみに、東日本大震災が起きた2011年にはスマートフォンの普及率はわずか10%程度でしたが、2023年には90%以上xii)の人たちが所持する状況となっています。こうした中、マスメディアは災害時に役割を果たし続けていくためにも、放送や新聞といった既存サービスの場にとどまらず、日頃からスマートフォンを通じて最適な情報を届ける体制をいかに整えていくかが重要だということを、この調査結果から改めて感じさせられました。 

<図9>240624_graph9.jpg


*調査結果④ 情報入手とメディアへの評価

Q.情報は十分入手できたか?

 最後に、総括的な設問の回答結果を2つご紹介します。
 まず、被災した人たちはどの程度、情報を入手できたと感じていたのでしょうか(図10)。全体では、「十分情報を手に入れる事ができた」「大体の知りたい情報は手に入れる事ができた」が合わせて半数を超えていました。一方で、「孤立者」については、「少し手に入れられない情報があった」「知りたい情報がほとんど/まったく手に入らなかった」が合わせて34%でした。

<図10>240624_graph10.jpg

Q.メディアの情報は役に立ったか?
 被災した人たちにとって、メディアの情報がどの程度、役に立ったのかについても聞きました(図11)。全体では、「十分に役に立った」「まあまあ役に立った」が合わせて65%で、ある程度、役割を果たせたと評価できるのではないかと思います。ただ、「孤立者」については、「あまり役に立たなかった」「ほとんど/まったく役に立たなかった」が合わせて20%でした。

<図11>240624_graph11.jpg


*おわりに
 今回のインターネット調査は、調査会社のウェブモニターを対象としたため人数が限られたこと、また、能登半島の自治体はいずれも高齢化率が高く、インターネットサービスを十分に活用できない人も少なくないことから、本調査だけで被災地の情報伝達の実態を十分に把握することには限界がありました。今後、今回の調査では十分に把握できなかった高齢の被災者たちの実態についても、調査や取材で明らかにしていきたいと思います。
 また、今回の調査では「孤立者」についての分析を試みました。首都直下地震や南海トラフ地震が発生した場合、孤立した状態に置かれる人たちは、今回の能登半島地震の時よりもはるかに多いと思われます。今回の調査で得られた知見を生かしながら、自治体やメディアはどのような準備と心構えが必要なのか、引き続き考えていきたいと思います。


ⅰ) 実施時期 2024年5月2日~7日
実施対象 調査会社に登録しているウェブモニターから募集

ⅱ) https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2024/program.html#programB

ⅲ) 仮設住宅を建設している7市町を選択

ⅳ) 石川県輪島市のウェブサイトでは、6月14日現在の「市内店舗等の営業状況」が掲載されている https://www.city.wajima.ishikawa.jp/article/2024021700020/

ⅴ) こうした新たな動きを報じたものとして・・・
朝日新聞デジタル「LINEのオープンチャット、新しい情報インフラに 能登半島地震で」(2024年2月26日)
https://www.asahi.com/articles/ASS2S4GK5S2SUTIL00C.html

ⅵ) https://www.facebook.com/groups/1534685393298269/?hoisted_section_header_type=recently_seen&multi_permalinks=6860074430759312

ⅶ) 石川県によれば、最大24の地区で3345人が孤立状態に陥っていた

ⅷ) https://www.j-lis.go.jp/lgwan/about/cms_15039.html

ⅸ) 今回の能登半島地震では、輪島市の他、穴水町でもLGWANの設備が損傷した

ⅹ) 坂井さんの他、被災地外でグループの運営に携わった三塚新司さん、才賀美奈さんにヒアリングした

xi) SpaceX社が開発した「スターリンク」

xii) 総務省「令和5年通信利用動向調査」
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000169.html

keikomurakamiprof

村上圭子
報道局、ラジオセンターを経て2010年から現職。放送政策やネット時代の放送のあり方、地域メディアの今後について調査研究を進めている。阪神淡路大震災以降、災害情報伝達について取材を行い、東日本大震災では臨時災害放送局の全局訪問調査を実施した。