文研ブログ

2024年2月15日

2024年02月15日 (木)

パーティー券裏金問題 改革論議は進むのか? ~対応遅れの岸田自民党~【研究員の視点】#526

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 通常国会が召集されて2週間余りの2月10日(土)から12日(月・祝)にかけてNHKの月例電話世論調査が行われました。自民党内の安倍派、二階派、岸田派の議員や関係者が政治資金規正法違反の罪で起訴されてから初めての調査でした。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する 25%(対前月-1ポイント)
 支持しない 58%(対前月2ポイント)

昨年後半から下降傾向が続いていた内閣支持率は、年明けに下げ止まった形でしたが、今月も上昇には転じることがなく低水準での横ばいが続いています。逆に不支持率は2か月前の12月と並び、岸田内閣が発足してから最も高くなっています。 

 このNHK世論調査の結果が出た13日に、自民党は党所属の国会議員らを対象にしたアンケート調査の結果を公表しました。過去5年間にパーティー券収入を政治資金収支報告書に記載しなかったり、不正確な記載だったりした現職議員が82人に上るという内容でした。 

0214_1.jpg自民党の調査票

 しかし、不記載のカネを何に使ったかや、本人からの申告に対してどこまで詳しく調査を行ったのかも分かりませんでした。野党側からは「単に調査をやっただけで、問題のあった議員が後になって明らかになるのではないか」といった指摘が相次ぎました。

  今の通常国会では、元日に能登半島地震という大規模な震災が発生し、与野党双方ともに予算審議と裏金問題を切り離していくのが得策だという認識で一致しています。政治とカネの問題を厳しく追及するとしている野党各党も、災害復旧経費などを含む予算の成立を遅らせては国民の理解は得られないと判断しました。このため政治とカネの問題に関しては、岸田自民党が、自ら積極的に対応するかが焦点になっています。

☆あなたは自民党の派閥の政治資金パーティーの問題に対する岸田総理大臣の対応を評価しますか。評価しませんか。

 評価する 23%
 評価しない 69%

岸田総理は自らが率いていた岸田派の解散を打ち出し、安倍派や二階派などの解散を促すのは早かったのですが、パーティー券裏金問題の事実関係を究明する調査が遅れたことなどに、国民が厳しい視線を向けていることが分かります。 

0214_2.jpg

 政治とカネを巡る問題の再発防止に向けて与野党で新しいルールを議論するためには、裏金とされるカネを何に使ったのか、どうして報告書に記載しないという扱いが生まれたのかといった点を明らかにする必要があります。

 野党側は予算審議とは切り離し、衆参両院に設置されている政治倫理審査会で、問題が明らかになった議員や旧安倍派などの派閥幹部に詳しい説明を求める方針です。そして、ここで説明ができないならば、予算委員会での参考人招致や証人喚問などを求めていく構えです。

 その上で野党側や与党の公明党はルールの見直しの中身について、政治資金収支報告書に問題があった場合には、従来のように政治団体の会計責任者だけでなく、議員本人の責任も問うべきなのは当然だと主張しています。

☆あなたは政治資金規正法に違反する会計処理があった場合、会計責任者だけでなく、議員も責任を負う「連座制」を導入すべきだと思いますか。導入する必要はないと思いますか。

 導入すべきだ 82%
 導入する必要はない   9%

これを与党支持者、野党支持者、無党派の別に見ても、与党支持者と無党派では8割強、野党支持者では9割強が導入すべきだと答えています。自民党支持者が大部分を占める与党支持者でも、政治とカネを巡る事件の再発を防ぐためには甘い顔はできないという考えが広がっています。

0214_3.jpg首相官邸

 こういう状況の中で、岸田総理と周辺はどういう展望を描いているのかが気になるところです。内閣支持率は低迷していますが、自民党内では「岸田降ろし」の目立った動きはなく、自民党全体が様子見の状態になっています。

 ある政権幹部は、今年9月の自民党総裁選で真正面から挑んでくる対抗軸が一つに定まってこなければ、岸田総理は続投を断念する判断には至らないだろうと見ています。

 岸田総理と周辺は、令和6年度予算の年度内成立を前提にした比較的楽観的な見立てを消し去っていません。先に触れたように、野党側も予算を人質に取る戦術は取りにくいという事情があります。それと並行する春先の労使交渉での大幅賃上げ、6月の定額減税(国民1人当たり4万円)の実施と続けば国民の視線も和らいでくる・・・かなりの期待が込められていますが、岸田総理の心の安定につながる見立てではあります。

 ただ仮にそういう展望が描けたとしても、東京地検が現職議員3人の立件で捜査を終結させたことに不満を持つ国民は多く、一般市民が構成する検察審査会が立件されなかった議員について起訴すべきという起訴相当の議決を行う可能性は十分にあります。そしてその先には、過去にも例がある強制起訴に進むことも否定できません。国民の視線が厳しくなるのは避けられないでしょう。 

0214_4.jpg

 こう見てきますと、当面の政治状況は視界不良が続きそうです。政治とカネを巡る問題を乗り越えるには新しいルールが必要で、それを自民党だけで作ろうとしても国民は納得しません。与党の公明党や野党側の意見を取り入れた抜本的な議論が必要です。

  リクルート事件などに端を発した平成の政治改革の足らざる部分が今回の事件を生んだ面があります。令和の政治改革で、その足らざる部分を全面的にカバーすることができるのか。国民が求めているのは、情報化時代にふさわしい、可視化を前提とした政治とカネのルール作りに他なりません。

 w_simadasan.jpg

島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。

メディアの動き 2024年02月15日 (木)

【メディアの動き】イスラエル最高裁,外国メディアのガザ地区での取材を認めず

 イスラエルの最高裁判所は1月9日,現地の外国人記者協会(FPA)が国際メディアによるガザ地区での取材を認めるよう求める申し立てを退ける判断を示した。イスラエル軍の管理下にないジャーナリストによる報道は,イスラエル兵を危険にさらすおそれがあるという理由で,立ち入りの制限は正当だとした。

 2023年10月7日にイスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘が始まって以降,イスラエル政府は,ガザ地区での取材を厳しく制限しており,事実上,現地からの報道は,地元のパレスチナ人ジャーナリストなどに頼らざるを得ない状況が続いている。

 また,戦闘開始以降,ガザ地区では1月末までに,イスラエル軍の空爆などでメディア関係者78人の死亡が確認されており,こうした状況では,報道が,イスラエル軍や政府が発表する情報に,さらに偏ってしまうという懸念が広がっている。

 約130の国際メディアが加盟するFPAは,加盟社がガザ地区で独自取材をできるようイスラエル政府に申し入れていたが,却下されたため,最高裁に申し立てを行っていた。

 最高裁の判断を受けて,FPAは同日,「失望した」との声明を発表した。また,国際ジャーナリスト連盟(IFJ)は,「公権力の介入なく情報を受け取り,伝える権利を含む表現の自由を人びとから奪うものだ」と非難し,「国際メディアがガザ地区での戦闘を記録することは世界にとっても重要だ」として,イスラエル政府に対し,ガザ地区での自由な取材を許可するよう改めて求める姿勢を示した。

メディアの動き 2024年02月15日 (木)

【メディアの動き】アメリカ大統領選,報道が直面する難題

 11月のアメリカ大統領選挙に向け,与野党の候補者選びが1月に始まった。虚偽を主張し,刑事事件の被告となり,民主主義に反する発言も重ねるトランプ前大統領をどう伝えるか,同氏が野党・共和党の最有力候補となる中,メディアは難しい対応を迫られている。

 共和党の候補者選びの初戦となった1月15日のアイオワ州党員集会後,トランプ氏の勝利演説をMSNBCは生で伝えず,CNNも中継を途中で打ち切った。両チャンネルは同月23日のニューハンプシャー州予備選後の同氏の勝利演説は一部を中継したうえで,同氏が前の大統領選でも勝ったなどと虚偽の主張をしたことを指摘した。同氏の優勢が強まるにつれ,地上テレビを含め演説などの生中継は増えることが予想され,メディアは効果的なファクトチェックを行えるかどうかを試されることになる。Washington Postなどの調査(2023年12月)では,バイデン大統領の選出には不正があったとした人が2年前の調査時より増えており,事実への信頼をどう得るかも課題になっている。

 トランプ氏は,当選すれば大統領権限を拡大し,政府機関の独立性を廃するなどとしているほか,不正な選挙を正すためには憲法を含め,あらゆる法律を廃止できると公言し,「独裁者になるのは就任した初日だけだ」とも述べた。これらの発言を冗談や話題づくりをねらった挑発だとする見方がある一方で,民主主義への脅威であることを明確に伝えるべきだと警鐘を鳴らす専門家もいる。メディアはこうした問題を正面から受け止めて分析し,客観的と受け止められるように報道できるかどうかという点でも,その力量が問われている。

メディアの動き 2024年02月15日 (木)

【メディアの動き】ドイツ 州政府の諮問委員会,公共放送の包括的改革を提言

 ドイツの放送政策を所管する16州政府が2023年3月に設置した「公共放送の将来のあり方に関する諮問委員会」は,1月18日,報告書を提出した。諮問委員会は,「ドイツの公共放送は負のスパイラルに陥っており,創造性が停滞している」との認識を示し,「よりデジタルに,より効率的に,よりよい任務達成のために」として,公共放送の組織,ガバナンス,任務,財源に関する包括的な改革提言を行った。

 第1の提言は,ARD(ドイツ公共放送連盟)の組織改革である。ARDは,各州の公共放送が相互協力のために1950年に結成した法人格のない連合体であるが,近年は,サービスや業務に重複が多く,意思決定にも時間がかかるなどの非効率性が指摘されていた。この点について諮問委員会は,ARDの統括組織を法人として新たに設立することを提言した。統括組織は,加盟局の業務分担や財源分配をトップダウンで決定するとともに,ARDの全国向けサービスを担当し,各加盟局は州域向けサービスに特化する。これにより,迅速な意思決定や,組織とサービスの効率化とスリム化につながることが期待される。一部の政治家からは,ARD加盟局の合併や,公共テレビZDFと公共ラジオのドイチュラントラジオの統合を求める声もあるが,諮問委員会は,地域と報道の多元性を重視し,合併は誤った戦略だとした。

 第2の提言はガバナンス改革である。諮問委員会は,ARD統括組織,ZDF,ドイチュラントラジオのそれぞれに,従来の監督機関に代えて,より権限分担を明確にした「メディア評議会」と「管理評議会」を設置することを提言した。「メディア評議会」は社会の各界・各層の代表者から多元的に構成され,任務の達成状況について監督する。より大きな意味を持つのが「管理評議会」で,メディア評議会が選任した少数の専門家から構成され,経営戦略の最高責任を負い,予算案を決定し,執行部の業務を監督する。執行部については,これまでは会長1人が広範な権限を持っていたが,会長を含めた複数の執行役からなる合議体に転換し,より現代的な意思決定にすることが提言された。

 第3に,公共放送の任務については,公益と民主主義に資するという点を,法律でさらに明確に規定すべきとした。

 第4に,財源制度については,現行の全世帯徴収型の「放送負担金」制度を維持すべきとしながら,その額を改定する手続きについて,新たな方式を提案した。現在は,独立委員会のKEF(公共放送財源審査委員会)が公共放送の必要額を事前に審査し,4年ごとに額を改定している。これに代え,公共放送全体の予算を物価指数に連動させて自動的に決めたうえで,各公共放送機関の任務達成への意欲を高めるため,定期的に任務達成度を評価し,不十分とされた場合には配分額を減らす方法が提案された。

 第5に,諮問委員会は,番組配信の技術プラットフォームの開発を効率よく行うために,ARD,ZDF,ドイチュラントラジオによる共同子会社の設立を提言した。

 諮問委員会の提言には法的拘束力はない。16州政府は1月25・26日の会合で諮問委員会の提言について協議し,「大部分は州政府の方針と重なる」としたが,一部の州からはARD統括組織や新財源方式に反対の声も出た。州政府側は今後も協議を続け,秋までに法改正を実現したいとしている。