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2023年12月22日

調査あれこれ 2023年12月22日 (金)

国内メディアによる「ファクトチェック」②(テレビ)【研究員の視点】#519

ファクトチェック研究班 渡辺健策/上杉慎一/斉藤孝信

 日本国内の新聞社と放送局を対象に行ったファクトチェックに関するアンケート(2023年3月実施)の際に、放送番組のなかでファクトチェック結果を明示する形で伝えていると回答したのは、日本テレビとNHKの2社だった。これまでの取り組み状況をそれぞれの担当者に聞いた。

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 日本テレビでは、2022年9月から10月にかけてニュース番組『news zero』で3回にわたりファクトチェック結果を伝えたのをはじめ、同年11月20日(日)には『THEファクトチェック』という60分の特番を放送した。また、翌2023年9月24日(日)にも、前年の番組を演出面等でブラッシュアップした『藤井貴彦のザ・ファクトチェック』(60分)を再び放送した。担当した井上幸昌チーフプロデューサーに聞いた。

ntv_inoue_W_edited.jpg日本テレビ 井上幸昌チーフプロデューサー

きっかけは報道のブランディング
 Q:どのような経緯でファクトチェックに取り組むように?
 2022年、最初にファクトチェックを始めたときに意識していたのは『news zero』のブランディングだった。当時、報道局長が年末のニュース解説でウクライナのゼレンスキー大統領の投降を呼びかける偽動画のことに触れていたことにも象徴されるが、情報の正確性に対する疑問が多くなる中で、報道の価値を見直す動きの一環としてファクトチェックを位置づけていた。
 『news zero』の当時のコンセプトは、ニュースをひと事でなく自分ごととして受けとめ、誰かのために行動したくなる、ということ。その前提として、真偽を見極める力をつけてもらおうという趣旨でファクトチェックを始めた。
 メディア不信が強まる中で、今はどの放送局も調査報道に力を入れているが、その調査報道のなかの一つのカテゴリーがファクトチェックだともいえる。
 その後、さまざまなファクトチェックを特集した番組『THEファクトチェック』を制作したのだが、その際に最も重視していたのは、取材過程を見せること。「カキの殻に口をつけなければ、鮮度の良くないカキでも当たらない(食中毒にならない)」という言説を対象にしたコーナーでは、Vで取材の過程を見せながら、「ミスリード」という結論につなげていく。その取材(=検証)のプロセスを見せることに意味がある。
 この番組は、日曜の14時台としては年間最高視聴率を取ることができた。
 (ファクトチェック団体「ファクトチェック・イニシアティブ」が選んだ「ファクトチェックアワード2023」の優秀賞にも選ばれた)

実施していくうえでの課題
Q:実際にファクトチェックを進めていく上で課題と感じていることは?
 課題の一つは、取材に時間がかかること。真偽の検証をするうえで欠かせない慎重な取材と突っ込んだ議論が続き、政治部や社会部とも相談しながらファクトを確認していく作業は、かなり労力がかかる。
 もう一つは、ネタ選び。これはデスクの力量による。通常のニュースの業務もある中で、専従でファクトチェックをやり続ける難しさがある。どう見せるかも含めて考えると、通常の取材より一つ先の発想が必要で、これは時間とのたたかいでもある。加えて、制作体制も十分とはいえない。だからといって、ファクトチェックをやりやすいものからネタを選んでしまうと偏りが生じるので、そうならないように気をつけている。

 伝え方の課題としては、ファクトチェックの判定結果を伝える際の7段階のラベリング。「難しくて、ついていけない」という反応があった。視聴者としては、ストレートに情報の真偽の中身を見たいのであって、細かい区分を知りたいわけではない。入り口は「うそか本当か」という分かりやすい導入にする必要があるし、判定結果も2023年9月の特番では、より分かりやすい5段階にした。

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2023年9月24日放送 日本テレビ 『藤井貴彦のザ・ファクトチェック』
 ファクトチェックを真正面から扱った意欲的な番組として注目される。2022年11月に放送した前作から検証結果を分かりやすい5段階にあらためたほか、演出面での工夫をさらに加えスタジオのゲストに検証結果を予想させるクイズ的な要素も盛り込むなど、視聴者を常に飽きさせない知的エンターテインメントとして番組を展開。受け手の関心を強く引きつけつつ、なぜ今ファクトチェックが必要なのか、情報リテラシーの啓もう効果も意識した内容だった。
 中国メディアが報じた「福島第一原発の処理水が放出から240日で中国近海に到達する」という内容を専門家の分析をまじえて検証し、トリチウム拡散のシミューション自体は正しいが、実は検出できないほどのごく低濃度である事実を伝えていないミスリードで、不正確と判定した。海外とはいえ、報道機関が他のマスメディアの報道内容を検証するという新たな領域に踏み込んだ点も特筆される。

マスメディアがファクトチェックすることの意味
Q:報道機関としてのマスメディアがファクトチェックを行うことの意義をどう捉える?
 いわゆる裏を取る作業は、普通のニュースとたがわず難しい。直近の番組で扱った「路上販売の桃は窃盗品」というSNSの投稿についても、YouTuberが「窃盗品」と決めつけるような発信をしていたケースもあったが、取材したら、実はそうじゃない(規格外の桃を正規に仕入れていた)というところに行き着いた。それを伝えることで、「そうか、絶対盗んでいると思っていた」という見方が変わると、他の情報に対する見方も変わってくるのではないか。報道機関としてやるべきことは、情報があふれる社会だからこそ、情報リテラシーの高いプロとして情報発信すること、本物の情報を見つける目を養ってもらうきっかけを提供することだと考える。ある意味、いろんなバイアスを取り除こうという社会的な流れの一つとしても考えられるかもしれない。

今後の課題
Q:今後の課題としては、どのようなことが挙げられるか?
 視聴者のニーズが僕らの出発点であるので、ファクトチェックを行うことにニーズがあるのか、というのが絶えずつきまとう。何があったのか、今何が起きているのを伝えるのが報道機関のあるべき姿だから、そこになるべく多くのリソースを割いて通常のニュースをきちんと伝えることで、視聴者に価値のある情報を伝えていく。そのなかで、真偽不明の情報があふれている社会の現状に何か一矢報いるみたいなファクトチェックの作業も報道の役割の一つとして必要かなと思う。でもそれは、あくまでも報道機関の一番の使命であるニュースを伝える責任を果たしたうえでのこと。
 僕らが真実を追い求める報道機関としての仕事をして、そこからこぼれたところをファクトチェック団体が検証していくという、ある意味、いいすみ分けができているかなと思う。
 将来的には、ファクトチェックを恒常的に行うなど次の段階に踏み出すことを考えたいが、その際にはファクトチェック団体との連携も考えなければと思っている。全部自分たちでファクトチェックをしていくとなるとやり切れないので、しっかりとしたファクトチェック団体と連携できたらと思っている。もちろん放送するものは、自分たちできちんと裏を取らないといけないが、ファクトチェック団体との連携は、ファクトチェック文化の定着にも結びつく可能性がある。

 一方、NHKでも、SNSなどで広がる偽情報への対策とマスメディアへの信頼回復を意識してフェイク対策に力を入れている。ネットワーク報道部の籔内潤也デスクに聞いた。

nhk_yabuuchi_W_edited.jpgNHKネットワーク報道部 籔内潤也デスク

震災・原発事故と新型コロナから学んだ教訓
Q: どのような思いや意識でファクトチェックに取り組んでいるのか?
 東日本大震災と原発事故のときには、SNSで身近で有益な情報が共有された一方、避難や放射線の影響などに関してさまざまな偽情報、根拠のない情報が広がった。当時も取材・制作現場では確認された情報を出すようにしていたが、それだけでは十分に偽情報に対処できず、広がる偽情報に翻弄される人々の姿を見てきた。
 また、ここ数年のコロナ禍においても新型コロナウイルスの病原性や対策、特にワクチンについて、明らかに誤った情報がSNSで広まり、コロナを見くびったり、ワクチンを忌避したりして重篤化したケースも多く見聞きしてきた。
 こうした経験から、報道機関が当初確認した情報を出すだけでなく、SNSなどで出回っている情報にも向き合う必要があり、フェイク対策を行うことで、生命財産への被害や社会の断絶を防ぎたいと考えている。
 また、SNSで多種多様な情報が出されるなかで、テレビや新聞などのマスメディア以外でも有用な情報が増えている。その一方で、マスメディアへの批判も目につくようになっていて、マスメディアへの信頼が揺らいでいる。SNSで拡散される情報の洪水の中で、民主主義の基本である事実や正しい情報に基づいて判断することがゆがめられていることも感じている。 
 そうした中にあって私たちとしても、情報の正確さ・深さを示しながら、フェイク対策を行うことで、「NHKを見ればどう判断するべきかが分かる」といった頼りにされる存在となり、メディアの信頼回復を進めたいと考えている。

手応えの一方で難しさも
Q: 実際にやってみて、手応えを感じた点、難しさを感じた点は?
 例えば「福島第一原発から放出される処理水に含まれるトリチウムは生物の体内で濃縮される」という、SNSで広がっている言説について検証したときは多くの反応があり、そのほとんどが『分からないことに分かりやすく答えてくれた』という反応だった。「どこまで分かっているのか、どこからは分かっていないのか」について正確な情報を出すことで、誤った情報を打ち消すことに役立ったと感じている。

20230909news_web.png2023年9月9日付け NHK『NEW SWEB』より

 また、真偽不明の情報は、不安があるとき、分からないことがあるときに広がるが、フェイク対策を行うことはそのような不安の解消にも役立つという手応えを感じた。
 フェイク情報が数多くあるなかで、検証する対象を選ぶことは難しく、試行錯誤しながら進めている。一般の人の関心を測りながら進めることが難しいと感じている。
 またNHKが偽情報だと伝えることで、かえって拡散してしまうのではという指摘を受けることもある。そうならないよう、すでに広がっている、または広がりつつある偽情報をチェックの対象にするように心がけているが、その判断は難しいのが現状だ。

 もう一つの課題は、フェイク情報の検証にあたる記者に求められる発想の転換だ。記者たちはこれまで自ら取材し事実と確認した情報をもとに記事を書いてきたが、フェイク対策ではすでに公開されている誤った情報をただすという仕事になり、対象の選び方や取材方法、記事の書き方まで、これまでと発想を変える必要がある。しかし、その必要性がまだ多くの記者には理解されておらず、理解の増進が課題だと感じている。

今後目指すべき姿とは
Q: 今後の方針・戦略は?
 NHKでは、イギリスのBBCなどとともに偽情報対策や信頼されるニュースに向けた取り組みを行うTNI(Trusted News Initiative)というメディアなどの連絡組織に加わっている。このネットワークを生かして海外での先進事例を学ぶとともに、NHKの取り組みも発信するなど、連携を強化していきたいと考えている。これまでにも「トルコ・シリア大地震で『津波が発生』『原発が爆発』などの偽情報が拡散」「リビア洪水で偽情報が拡散 SNSには日本の熱海の映像」といったニュースについて、ネットワークを生かして世界に向けてアラートを発信した。

20230207news_web.png2023年2月7日付け NHK『NEWS WEB』より

 どのような場合にNHKのニュースや番組でフェイク情報について取り上げるのか、偽情報・誤情報対策のガイドラインを作成し、基準を示すことを予定している。
 フェイク対策にNHKがニュースで本格的に取り組み始めてから日が浅いこともあり、記事の本数はまだ限られている。意識を浸透させて、本数を増やすとともに、ニュースだけでなく番組とも連携して対策を進めたいと考えている。
 一方で、ファクトチェック団体などが行っているような事実検証結果のラベル付けについては、私たちが「誤り」などとラベル付けして明確に示すことに「上から目線ではないか」と捉えられる懸念があり、信頼性を高めるために行うフェイク対策の目的に合致しない可能性があると考えている。自分たちで独自に検証した内容を放送のコンテンツとして発信することには、私たちの取材や制作についての透明性・信頼性が高まるメリットがあるという実感もある。

ファクトチェックにおけるマスメディアの役割
Q: マスメディアがファクトチェックを行うことの意義と課題は?
 デジタル時代で誰でも情報が発信できるようになっている中で、検証されていない情報があふれている。受け取る側は判断の基準を持たないこともあるので、マスメディアがファクトチェックを含むフェイク対策を行うことで、「信頼に足るメディア」、もしくは「情報の参照点」として生かしてもらえるようになるべきだと考えている。
 一方で、マスメディア側が間違った情報を出してしまった場合にはすみやかに訂正し、自己の報道内容を検証することも重要で、こうした取り組みを通じて、情報空間の健全性を担保することに役立っていきたい。

 これまでの歴史で培ってきた一定の信頼性と拡散力があるマスメディアがファクトチェックを行うことには、偽情報の拡散防止に一定の効果があると思う。
 一方でマスコミの出す情報を信じない、いわゆる「アンチマスコミ」ともいえる層に、どのように情報を届けるかは難しい課題だ。ただ、そうした層から影響を受ける、いわば「中間層」の人たちに正しい情報を届けるには、マスメディアによる発信は効果があると考えている。
 その一方で、フェイク対策やファクトチェックを記者が専従で行う体制にはなっておらず、通常の取材出稿業務を抱えているなかで、並行してフェイク対策にどれだけの労力をかけられるのかが課題となっている。


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