文研ブログ

2023年12月18日

文研フォーラム 2023年12月18日 (月)

見逃し配信は12月24日まで! 文研フォーラム2023秋~アーカイブから考える公共メディアの使命と仕組み~#518

メディア研究部(メディア情勢)大髙 崇

今年10月4、5日に開催した文研フォーラム2023秋では、多くの皆様にご参加&ご視聴いただき、誠にありがとうございました。
現在、3つのプログラムの模様を見逃し配信していますが、12月24日には公開終了の予定です。当日に参加できなかった、もう一度見てみたい、あるいは「何それ、知らない」という方も、残り1週間ですので、ぜひご覧ください!

私は、5日(2日目)のプログラムC 「アーカイブは放送界を救うか ~フランス・INAから未来を語る~」と題したシンポジウムに登壇し、発表と司会を務めました。

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動画はこちらからご覧になれます。
※動画公開は2023年12月24日で終了します

INAとは、世界最大規模の放送アーカイブ機関として知られる、フランスの国立視聴覚研究所のこと。フランスで放送するすべてのテレビ・ラジオ番組を毎日収集・保存(なんと今までの累計2,580万時間!)、そして、公開・活用などを担っています。
私は今年6月にINAを訪れ、現在の取り組みを視察し、各部門の責任者へのインタビューを行いました。シンポジウムでは、その成果を発表しています。
INAは、国立図書館をはじめとした国内各地の図書館等で、研究目的であることを条件に、原則すべての放送アーカイブを自由に閲覧できるようにしています。さらに、アーカイブを活用して、新たな放送番組やSNSのショート動画など、独自コンテンツの制作も行っています。制作部門の編集長、バイエさんの言葉がとても印象的でした。
「アーカイブの重要な注意点は、ノスタルジーに陥らないこと。『昔はよかった』で終わらせてはいけない」
アーカイブは、現在の出来事の背景を伝え、未来を切り開く多くの可能性があるという信念を、力強く語ってくれました。

INAのような広範で多様なアーカイブ展開を、日本で実現できるのか。図書館や博物館などで過去の番組をもっと見たい、教育や研究の資料として利用したいなどの声は、日本でも多く寄せられていますが、そうした声に十分応えられていないのが現状です。その主な理由として、著作権法、放送法などの制度設計での日仏の違いがあげられます。なぜ日本ではこの課題の解決が難しいのでしょうか。
シンポジウムの討論は、日本での放送アーカイブ活用・公開促進に向けた、熱いセッションとなりました。アーカイブの利活用、法制度に詳しい3人のゲスト登壇者の印象深いお言葉から、ほんの"さわり"だけ紹介します。

橋本阿友子さん(弁護士)「日本の著作権法の最終目標は『文化の発展に寄与する』こと。著作物の利用が進むような仕組みを作らないと著作物を創るモチベーションが下がり、文化が廃れることになる」
井上禎男さん(琉球大学教授)「学術利用だからといって全部オープンにしてよいのか。おそらくそうはいかない。INAのような機関がない日本の場合は、放送事業者として公開するものをチェックすることも使命になると思う」
伊藤守さん(早稲田大学教授)「新たな仕組みの議論のための、新たなフィールドを作らないと、INAのような目覚ましい進展は難しい。そのための口火を切ることを、NHKに期待したい」

放送アーカイブの利活用促進は、放送業界だけで解決できるものではなさそうです。文化をどう発展させるか、社会全体として、もっと大きな枠組みでの議論の必要性が浮かび上がりました。
その議論には、皆さんもぜひ参加いただきたく、だからこそ、まずは!(笑) ・・・
プログラムの模様、どうぞご覧ください!!

文研フォーラム2023秋では、このほか以下の2つのプログラムが開催されました。
プログラムA メディアの中の多様性を問う ~ジェンダー課題を中心に~
プログラムB デジタル時代のニュース 課題と処方箋 ~ロイター・デジタルニュースリポート2023から~
いずれも、いまメディアが問われている課題と向き合った、真剣な議論が展開されています。
こちらも同じく12月24日に配信終了予定です。
師走のお忙しい中とは思いますが・・・お見逃しなく!!

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あわせて読みたい
大髙 崇「放送アーカイブ『公共利用』への道」 (放送研究と調査2023年10月号)
宮田 章/大髙 崇/岩根好孝「アーカイブ研究の現在・2023」 (放送研究と調査 2023年4月号)
大髙 崇/谷 正名/高橋浩一郎「放送アーカイブ×地域」 (放送研究と調査 2022年12月号)
大髙 崇「『絶版』状態の放送アーカイブ 教育目的での著作権法改正の私案」 (放送研究と調査 2022年6月号)

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NHK放送文化研究所メディア研究部 主任研究員 大髙 崇 
番組制作、著作権契約実務を担当したのち、2016年から現職。
主な研究テーマは、放送アーカイブ活用と、それに関する国内外の法制度。 

メディアの動き 2023年12月18日 (月)

【メディアの動き】独新聞協会,公共放送のテキストニュースが事業圧迫とEUに文書提出

 ドイツの主な新聞社やデジタルニュース配信社が加盟するドイツ連邦新聞発行者協会(BDZV)は11月8日,EUの競争問題を所管する欧州委員会に,ドイツの公共放送がウェブサイトやアプリで提供するテキストニュースが,新聞社の事業を不当に圧迫していると訴える文書を提出した。

 EUは,加盟国の公共放送のサービスが新聞社や商業放送を不当に圧迫することを防ぐための指針を策定している。公共放送の任務の明確な定義,公共放送のサービスがその任務に沿ったものかをチェックする独立した監督機関の存在,などである。これに違反するとみなされれば,加盟国は是正を求められる。BDZVは,ドイツの放送法で公共放送のテキストニュースについての定義が明確でなく,監督も機能していないため,EU法違反だと訴えている。

 ドイツでは2018年の放送法改正で,新聞社の事業を圧迫しないように,公共放送のインターネットサービスは,①テキストが主体になってはならない,②ただし番組の内容の理解を深めるためのテキストは例外とする,と定められた。BDZVは,特にARD(ドイツ公共放送連盟)の加盟局がこの例外規定を拡大解釈し,関連するトピックを扱ったニュース番組の動画や音声を添えることで,テキストニュースを事実上無制限に提供しており,公共放送の内部監督機関もこうした状況について一度も検証していない,と批判している。

 BDZVは,今回の文書は欧州委員会への正式な苦情申し立ての前段階であるとし,今後正式な手続きを進めるとしている。

メディアの動き 2023年12月18日 (月)

【メディアの動き】韓国KBS,新社長にパク・ミン氏

 韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は11月12日,公共放送KBSの新しい社長に日刊紙,文化日報の論説委員を務めたパク・ミン(朴敏)氏を任命した。記者出身で,社会部長や政治部長,編集局長を歴任し,ユン大統領に近いとされる。

 KBSの理事会は9月,ムン・ジェイン(文在寅)前大統領によって任命されたキム・ウィチョル(金儀喆)前社長を解任し,パク氏を含む3人に候補を絞っていたが,その後,同氏以外の2人が辞退していた。キム前社長の選任時に,KBS理事会が絞った候補のうちキム氏以外が辞退しており,同じ展開をたどった。

 11月7日に開かれた国会での人事聴聞会では,パク氏が新聞社に勤務していた当時,日系企業から諮問の名目で受け取った金銭について,野党側が,公務員やメディア関係者が一定額以上の金品を受け取るのを禁じる法律に違反しているのではと追及。その結果,野党の反対で人事聴聞報告書は採択されなかった。ただし報告書がないままでも任命できることになっており,ユン大統領によってパク氏が任命された。

 13日の就任式でパク新社長は,「公共放送としてのアイデンティティーを再確立し,KBSが国民からの支持と財政面での安定を取り戻せるよう,取り組んでいく」との考えを表明した。
一方で,与党に批判的なラジオ番組の司会者を降板させたほか,夜の報道番組『9時ニュース』のキャスターを交代させるなどした。これについてKBSは,視聴者の信頼を回復するためだと説明しているが,労働組合は,放送法で保障された「放送編成の自由と独立の侵害だ」と反発している。

メディアの動き 2023年12月18日 (月)

【メディアの動き】パレスチナ犠牲増加で報道の困難増す

 パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエル軍(IDF)による攻撃の応酬で,10月7日から11月30日までに1万6,000人以上が死亡し,このうちガザ地区のパレスチナ人が1万5,000人を超えた。この間,ジャーナリストの犠牲者も増え続け,CPJ(ジャーナリスト保護委員会)によると隣国レバノンを含め,報道関係者58人が死亡。このうち51人がパレスチナ人で,多くが家族や親族とともにイスラエル軍の空爆で死亡した。報道分野の死者数はCPJが1992年に記録を開始して以降,同期間の戦闘としては最大になった。

 外国籍を持つ人はガザ地区から出ることが11月1日から認められ,メディア関係者も脱出した。残ったジャーナリストたちは衛生環境や通信条件なども悪化する中で家族とともに毎日の避難先,水や食料の確保に追われながら直面する現実を伝え続けているが,状況はさらに厳しさを増している。日本メディアでも,転々と避難しながら情勢を報じてきたNHKガザ事務所のプロデューサーのムハンマド・シェハダがエジプトに退避し,カメラマンのサラーム・アブタホンが残り取材を続けている。

 IDFは11月に入って一部のメディアのガザ地区への同行を認め,BBCやCNNの記者がガザ最大のシファ病院の施設や周辺を取材し,同行の条件とされた映像の検閲を受けたうえで放送した。銃やトンネルは映っていたものの,IDFが病院攻撃の大義とした「ハマス司令部」の存在を示す明確な根拠は確認されていない。

 RSF(国境なき記者団)は同月21日,イスラエルを支援するアメリカに対し「世界はガザで何が起きているかを知る必要がある。客観的な報道がなければプロパガンダがまん延する」と述べ,ガザのジャーナリストを保護し,国際メディアによる取材を可能にするよう促した。

 イスラエルが占領するヨルダン川西岸地区でもパレスチナ人に対するユダヤ人入植者による攻撃やIDFの弾圧は激しさを増しており,11月7日,同地区で農業を営むパレスチナ人を,そのオリーブ畑が見える場所でインタビューしていた全米公共ラジオNPRの取材班がIDFの兵士に銃を向けられ,目の前で取材相手を拘束される事件も起きた。RSFはヨルダン川西岸地区で同月8日までに拘束されたパレスチナ人ジャーナリスト14人の即時解放を求めている。

 欧米では,取材者の中立性や報道の公平性をめぐるメディア内の対立も表面化している。アメリカでは同月,ジャーナリストを含めた市民への暴力の停止をイスラエルに求めるとともに,パレスチナ人への暴力を正当化するような報道を行ってきた欧米メディアの責任を問う公開書簡にジャーナリスト1,000人以上が署名した。一方で,イスラエルを軍事的に支援するアメリカでは,停戦の呼びかけは政治的言動ともみなされるほか,報道の中立性を損なうことは取材活動を妨げ,安全を脅かすとの懸念もある。このため,一部のメディアではこうした公開書簡に署名した記者が関連する取材を外されたり,退職を余儀なくされたりした。

 デジタル空間や一部メディアではAIを使った偽情報やユダヤ人,イスラム教徒への憎悪をあおる発信も増え,アメリカ東部ではパレスチナ系の学生3人が銃撃される事件も起きた。11月末,現地は一時停戦に入っているが,戦闘が長引いて犠牲者が増え,世論の対立が深まるにつれ,報道にはさらに厳しい目が向けられることが予想される。