台風7号が,8月15日午前5時前に和歌山県潮岬付近に上陸し北上。近畿や東海,中国地方などに大雨をもたらした。特に台風の発達した雨雲がかかり続けた鳥取県では,線状降水帯が発生。気象庁は15日午後4時40分,鳥取県に大雨の特別警報を発表し,最大級の警戒を呼びかけた。
さらにこの台風は,新型コロナが5類に移行してから初めて迎えたお盆の交通機関に大きな影響を与えた。このうちJR東海は,12日に東海道新幹線の計画運休の可能性に言及。13日には「15日は終日,名古屋駅と新大阪駅の間で運転をとりやめる」と計画運休の実施を発表した。そして,台風通過後の16日は「始発から通常どおり運転する予定」だった。しかし,台風が日本海に抜けたあとも湿った空気が流入し続けた影響で,16日は東海などで雨雲が発達。沿線の大雨の影響で午前8時半ごろから静岡県内で運転を見合わせた。その後,見合わせ区間は広がり,一時は,直通する山陽新幹線を含めた東京駅と博多駅の間にまで拡大。16日の東海道新幹線は,185本以上が運休,240本以上で遅れが発生し,約30万5,000人に影響が出た。ダイヤの乱れは17日の夕方ごろまで続いた。
専門家によると,今回の台風は進行速度が比較的ゆっくりだった。また,日本海に抜けたあとも湿った空気が台風に向かって流入し雨雲が発達したことなどが特徴といえる。台風通過後も大雨が降り続くという事態はこれまでもあったが,それを的確に予測し交通機関の運行などにどう生かすか,大きな課題を残した。
福島第一原子力発電所にたまる処理水について,東京電力は8月24日,基準を下回る濃度に薄めたうえで,海への放出を開始した。処理水は,原発事故の直後から発生している汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含むもので,その量は134万トンと,1,000基余りのタンクで保管できる容量の98パーセントに達し,12年前の事故発生時からの懸案となっていた。放出に先立って東京電力がトリチウムの濃度を確認したところ,国の基準や自主的に設けた基準を大きく下回っていた。
放出の開始を受けて,福島県内の漁業者などからは風評被害を懸念する声が聞かれた。さらに中国政府が猛反発。放出開始直後に「断固たる反対と強烈な非難を表明する」などとする外務省報道官の談話を発表したあと,税関当局が日本を原産地とする水産物の輸入を24日から全面的に停止すると発表。「福島の核汚染水」という強いことばを使い,「中国の消費者の健康を守り,輸入食品の安全を確保する」と表明した。中国のSNSでは「福島で放射線量が瞬時に上がった」などの根拠のない投稿も拡散した。これに対し,西村環境大臣は記者会見で「事実に反する内容を含む発信には政府として適切に反論を行う(略)科学的根拠に基づいた情報を開示することで,国内外の理解や安心の醸成につながると考えている」などと述べた。
処理水の放出期間は30年程度に及ぶ見込みで,長期的な安全性の確保と国内外の理解を得ることが課題となっている。メディアにも,この問題に関する正確な情報を長期にわたって伝え続けることが求められている。
8月31日,総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」で,「公共放送ワーキンググループ(WG)」の取りまとめ案が示された。案では,現在は任意業務として行っているNHKのネット活用業務を必須業務とすべきとの方向性が示された。
また,ネットのみで同時・見逃し配信を視聴する人にも相応の負担を求めることが適当だとした。ただ,パソコンやスマートフォンを保持しただけで対象とするのではなく,ID取得等,視聴意思が明確な行為を前提としている。
必須業務の範囲は「放送番組と同一のもの」を基本とし,放送番組以外については,1)災害情報等の国民の生命・安全に関わる情報,2)放送番組の密接関連情報・補完情報,に限定。提供の対象は費用負担者を前提としつつ,1)については例外的に非負担者への提供も必要な場合があることに配慮すべきとした。NHKがこれまで無償で提供してきた番組周知のための情報や取材を深掘りしたテキスト配信等の「理解増進情報」は廃止の方向性が示された。
また,放送番組以外の具体的な範囲や提供条件については,NHKが原案を策定し,評価・検証を第三者機関が実施して,総務相がNHK予算に意見を付し,国会審議で判断されるとした。
案では,日本のコンテンツ産業が海外事業者との競争に直面する中,NHKには放送全体のプラットフォームの役割が期待されているとしている。今後NHKはどのような姿で,個人の自律的な判断や民主主義社会の発展,日本のコンテンツ産業に貢献していくのか。改めてその役割が問い直されている。
8月9日,優れた調査報道を顕彰する「調査報道大賞」が決定した。90の応募作から2つの大賞を含む7つの作品が選ばれた。
大賞の1つは『週刊文春』の「ジャニーズ事務所・ジャニー喜多川 少年たちへの性加害の一連の報道」だった。この報道は1999年の初報から24年を経ている。調査報道大賞の特徴は,時間がかかっても成果が顕著になった報道を対象としていることで,その典型だといえる。
授賞理由には「他メディアの沈黙も映し出すこととなり,ジャーナリズムの在り方を考えることにもなった」との記述もあり,大手メディアがこの問題について,最近まで触れてこなかったことに疑問を投じた形となった。
もう1つの大賞は神戸新聞の「神戸連続児童殺傷事件の全記録廃棄スクープと一連の報道」だった。「遺族との関係を長く結んでいた地方メディアならではの役割を示していることにも注目したい」と評価された。
映像部門ではNHKの『ETV特集』「ルポ死亡退院~精神医療・闇の実態~」が優秀賞を受けた。精神科病院で患者が不当な扱いをされている実情を描いたもので,映像や音声という内部状況を直接示すものが報道されたことが「格段の意義がある」と評価された。
また,「データジャーナリズム賞」に,朝日新聞の「みえない交差点」が選ばれた。警察が公開している60万件余りの人身事故に関するデータを分析した結果,「警察も把握していなかった事故多発交差点」を全国各地で発見し,改善へつなげたことが評価された。