文研ブログ

2023年9月15日

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】バングラデシュ,国際的批判を受け,「デジタル・セキュリティー法」改正へ

 バングラデシュ政府は8月7日,政府批判の取り締まりに乱用されているなどと批判を受けていた「デジタル・セキュリティー法(DSA)」について,「サイバー・セキュリティー法」と名称を変更し,刑罰を一部軽減した内容に改正する方針を明らかにした。

 DSAは,インターネット上で「名誉毀損を行った」者などに厳しい刑罰を科す内容で知られ,施行から2023年1月までに7,001件が適用された。ジャーナリストや人権活動家など,政府に批判的な人たちの抑え込みや逮捕などに用いられてきた。これに対し,国内外のジャーナリスト団体や人権団体が同法の停止や廃止を繰り返し訴えている。今回の改正方針の発表は,2024年1月予定の総選挙を前に,強権的な姿勢が批判されてきたハシナ政権が国際的な圧力に押される形で行われた。

 改正の内容は,▷「名誉毀損」に対する禁固刑を廃止し,罰金刑のみとする,▷「政府の機密を侵害した」罪に対する禁錮刑の上限を14年から7年に短縮する,などで,9月に議会で可決される見通し。ただし,こうした刑罰の軽減は一部にとどまり,ハッキングを行った者に対し最長14年の禁錮刑を科すなど,新たな内容の追加が予定されている。

 ジャーナリスト保護委員会(CPJ)は声明を発表し,今回の改正方針について,「正しい方向への第一歩だ」としながらも,「政府は,サイバー・セキュリティー法の起草にあたり,ジャーナリストと十分に協議し,国際人権法に適合することを保障しなければならない」と警戒感を示した。

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】仏国際放送,西アフリカを中心に放送禁止相次ぐ

 軍事クーデターが続く西アフリカで,旧宗主国フランスの国際放送FMM(France Médias Monde)が禁止される事態が相次いでいる。2022年以後,マリやブルキナファソに続き,2023年8月にはニジェールでも放送が遮断される事態となっている。

 7月下旬,ニジェールではクーデターにより,軍の部隊がバズム大統領を排除し,軍事政権の発足を発表した。その後,8月3日,FMM傘下の国際テレビ(France 24)とラジオ(RFI)の放送が,ニジェールで遮断される事態となった。仏日刊紙Le Mondeは,新たな軍当局の指令によるものとしている。FMMは同日,法的枠組みからも外れた決定で,地域の市民の,自由で独立した情報へのアクセスを奪う行為だと,強く抗議する声明を出した。FMMによると,ニジェールでは2022年,RFIは毎週人口の18%にあたる190万人が聴取し,France 24は人口の4分の1が視聴している。

 これまでも西アフリカでは,軍事クーデターが発生したマリで,2022年3月,暫定政権がFrance 24とRFIのマリ軍に関する報道は虚偽だとして,両局の国内での放送を禁じた。同様にブルキナファソでも,軍事クーデター後の2022年12月にRFI,2023年3月にFrance 24の放送が相次いで禁止された。さらに8月26日,大統領選挙が行われたアフリカ中部のガボンでも,当局により,France 24とRFIが,選挙関連報道で客観性とバランスを欠いたとされ,一時的に放送が遮断される事態となっている。その後,30日には軍の将校らが権力掌握を宣言し,混乱が広がっている。

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】生成AI利用・報道基準,米APが公表

 ChatGPTなど生成AIの利用が広がる中,アメリカの大手通信社APは8月16日,生成AIの取材・編集利用についての基準を公表。翌17日,全米の地方紙など多くの英語メディアが参照する報道の手引「AP Stylebook」にも,AIに関わる報道のガイダンスや関連用語を追加した。

 このうちAP Stylebookでは,AIツールについて報じる際に,▷人間であるかのような表現や代名詞は避け,▷開発された目的や機能を説明する,▷その利用によって誰に利益があり,誰が不利益を被る可能性があるかを伝える,▷具体的な根拠を伴わない将来の可能性に関する開発者や企業の発言は慎重に扱い,現実にある課題の取材を優先する,などと勧告している。

 APとしての生成AI利用の基準では,事実を積み重ねて評価・整理し,記事・コンテンツを編集するという記者の中心的な役割に代わりはなく,AIが代替することはないとしたうえで,▷写真や動画,音声の加工・修正に使わない,▷機密情報などを入力しない,▷生成AI作成の情報は未検証の情報と同様に扱う,▷外部からの情報に生成AI作成のものが紛れ込むことを警戒する,などの注意を促している。

 アメリカではこのほか,ラジオ・テレビ・デジタルニュース連盟(RTDNA)が5月,報道機関がAIを利用する際には透明性や情報の正確さを担保する基本方針を明示するよう勧告した。非営利組織Partnership on AIはAI研究者,APや地方紙大手Gannettと協力し,幅広い意見交換の機会も設けながら,AIの利用やツール開発委託のガイドライン案,AIツールのデータベースなどを作成している。

メディアの動き 2023年09月15日 (金)

【メディアの動き】韓国KBS 理事会,社長の解任案提出

 韓国の公共放送KBSの理事会は8月30日,定例理事会においてキム・ウィチョル(金儀喆)社長の解任案を緊急案件として提出し,非公開での議論の結果,9月の臨時理事会で採決することを決めた。キム社長はムン・ジェイン(文在寅)政権下の2021年12月に社長に就任し,任期は3年。理事会は解任の理由として,経営の悪化や偏向報道などを挙げている。

 KBSの理事会は理事長と理事の合計11人。メンバーは韓国放送通信委員会(KCC)の推薦を受けて大統領によって任命され,これまでも時の政権の影響を色濃く反映してきた。ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の就任後,政権寄りの理事への入れ替えが進み,8月時点では与党系6人,野党系5人で,キム社長の解任案は賛成多数で採択されるものとみられる。

 ユン政権は,これに先立つ同月25日に放送通信委員会の新しい委員長に,イ・ドングァン(李東官)氏を任命した。イ委員長は,保守系大手紙,東亜日報の記者出身で,イ・ミョンバク(李明博)政権では大統領府報道官などを務めた。イ委員長は28日に行われた就任式の挨拶で,公共放送の運営と内容が労働組合の意思によって左右されていると指摘するとともに,経営陣を含め,公共放送の構造改革に強い意欲を示していた。

 解任案についてキム社長は声明を出して,「KBSは政権が変わるたびに外圧に悩まされてきた。そのたびにKBSの構成員たちは国民とともに公共放送の独立を守るために闘ってきた。与党理事らの今回の社長解任案提出は,こうした努力に真っ向から背くことだ」として批判した。