新型コロナ「2類相当」から「5類」へ 賛否を分けたポイントの1つは「重症化率」の捉え方【研究員の視点】#477
世論調査部(社会調査)小林利行
政府は5月8日、新型コロナウイルスの感染法上の位置づけを、結核と同じように感染者への入院を勧告でき、外出自粛の要請などもできる「2類相当」から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げました。
ワクチン接種の広がりや病原性の低い株の出現などによって重症度が下がる中で、「ウィズコロナ」の流れを進めるためにも扱いを変えるようです。
ただし、この決定には賛否両論あります。
文研が2022年11月に実施した世論調査によると、引き下げに『賛成(どちらかといえばを含む)』は59%、『反対(どちらかといえばを含む)』は40%でした(図①)。
『賛成』が『反対』を上回っているものの、『反対』も決して少ないわけではありませんでした。
図① 法的位置づけを下げることの賛否
『賛成』『反対』を、男女年層別にみたのが図②です。
男女で多少の違いはありますが、全体的にみると、男女ともに『賛成』は18歳~30代の若年層で多く、『反対』は60代以上の高年層でほかの年代より多くなっています。
図② 法的位置づけを下げることの賛否(男女年層別)
この調査では、『賛成』『反対』それぞれに、そう答えた理由も尋ねています。
図③は、『賛成』と答えた人の理由です。
「感染しても重症化しづらくなっているから」が30%、「医療機関の負担が軽くなって必要な時に治療が受けやすくなるから」が29%で同率1位となっています。
図③ 法的位置づけを下げることに『賛成』の理由
一方図④は、『反対』と答えた人の理由で、「規制が緩くなることで感染しやすくなるから」が34%、「重症化率や致死率が季節性インフルエンザより高いとみられるから」が32%で同率1位となりました。
図④ 法的位置づけを下げることに『反対』の理由
さて、『賛成』『反対』双方で多い理由をよくみると、共通している単語があります。
「重症化」です。
『賛成』は「重症化しづらくなっている」、『反対』は「季節性インフルエンザよりは重症化率が高いとみられる」といった具合に、重症化率をどう捉えるかが、賛否を分けるポイントの1つになっていることが読み取れます。
これは、図②の男女年層別のグラフを見返してもうなずけます。
重症化率の低い若年層では『賛成』が多く、高い高年層では『反対』が多いという結果になっています。
もう少し細かいことを付け加えると、デルタ株流行時より今回の調査時期のオミクロン株流行時のほうが、全年層で重症化率が下がっていますが、その下がり方が若年層では大きかった一方、高年層ではそれほど大きくありませんでした。
つまり、全体的な重症化率は下がっていたものの、若年層と高年層の差は以前より開いていたのです。
図②・図③・図④を考え合わせると、その人の状況によって「重症化率も下がったのだからもういいだろう」と思うか、「まだまだ心配だ」と思うかが、賛否が分かれる一因になったと推察できます。
新型コロナは、性別や業種別など社会のさまざまな分野で分断を促したとも言われていますが、これもそのひとつなのかもしれません。
この調査は半年前の結果ではありますが、「5類」への引き下げに不安を抱く人が少なからず存在する事実は、心にとめておくべきでしょう。
このほか、「放送研究と調査 2023年5月号」では、過去の調査結果との比較も含めて、新型コロナに関する世論調査の結果をさまざまな角度から分析しています。
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