イギリス公共放送BBCは,財源不足に対応しながら,デジタル関連に経営資源を集中させる改革を進める中,クラシック音楽に関する合理化案を発表したが,音楽家や市民からの反発を招き,計画は一部見直しを余儀なくされた。
BBCは3月7日,クラシック音楽の新しい戦略を発表し,幅広く国内の合唱団に投資して合唱界全体の発展をめざし,オーケストラはより多くの音楽家と柔軟に全国で活動するため,100年近い歴史がある傘下の合唱団BBCSingersを廃止し,BBC交響楽団など3つのオーケストラも人員を20%削減するとした。
これに音楽家はじめ著名な指揮者らが反発した。
特に合唱団の廃止には,ヨーロッパ各国の放送合唱団が反対声明を出し,多数の民間合唱団が「BBC Singersをつぶすな!」と訴える動画をまとめてYouTubeに投稿したりした。
存続を求めるオンライン署名も15万件を超えた。
BBCは3月24日,複数の団体から代替財源について提案があったとして,BBC Singersの廃止をいったん保留した。
また,オーケストラについても極力,強制的な人員削減は避けるとした。
BBCの改革をめぐっては,3月15日,イングランド地方のローカル放送で働く職員およそ1,000人が,地域向けラジオ番組の合理化策に反対してストを行い,テレビやラジオの番組の一部が休止となる影響が出た。
ジャーナリスト組合は,人々は地元に関連したニュースを求めており,ローカルサービスをBBC の中核として守るべきだと訴えている。
組合は,5月の地方選挙の日などにもにストを行う可能性にも言及している。
立憲民主党の小西洋之議員は3月3日,参議院予算委員会で,放送法が定める「政治的公平」の解釈をめぐり2014年から翌年にかけて作成されたとされる総務省の内部文書を入手し,安倍政権の圧力で法解釈が変更されたことが示されていると指摘した。
これに対し,当時,総務大臣だった高市経済安全保障担当大臣は「まったくのねつ造文書だ」と述べ,「もしねつ造でなければ大臣や議員を辞職するということでいいのか」との問いに「結構だ」と応じた。
総務省は7日,これら78枚を行政文書と認めたうえで公表した。
このうち4枚に,高市大臣が解釈をめぐって安倍総理大臣と電話で協議したなどと記載されていたが,翌日の参議院本会議でも4枚はねつ造されたもので議員辞職はしないとし,その後も発言を撤回していない。
放送法が定める「政治的公平」については,安倍政権が2016年に,放送局の番組全体を見て判断するとしつつ,1つの番組のみでも不偏不党の立場から明らかに逸脱している場合などは政治的公平を確保しているとは認められないとする統一見解をまとめた。
今回の文書について小西議員は「当時の総理大臣補佐官が特定の民放番組が政治的に偏っているとして法解釈の変更を発案し,安倍元総理大臣がそれを認めたことが示されている。放送に国家権力がいつでも介入できるという恐ろしい解釈が不正なプロセスで作られたことを示す文書だ」と指摘している。
放送局の報道姿勢を萎縮させかねない解釈の変更があったとしたら,いかになされたのか。
高市大臣の関与にとどまらず,国会にはその点を明らかにしてほしい。
オーストリア政府は3月23日,公共放送ORF(オーストリア放送協会)の財源制度として,受信機の有無にかかわらず,すべての世帯から「ORF 負担金」を徴収する新制度を導入すると発表した。
政府は,徴収額は現行の月額18.59 ユーロ(約2,600円)から15 ユーロ(約2,100円)程度に値下げされるとしている。また企業の事業所も,これまでどおり徴収対象となる。
現行制度の「番組料」は,テレビやラジオの所有世帯を徴収対象としており,インターネットでORFのサービスを利用しているだけの世帯は対象になっていない。
この状況について,オーストリア憲法裁判所は2022 年7月,不公平な負担が生じており,放送の独立を保障した憲法の規定に反すると判断し,2023 年末までに制度を改正するよう求めていた。
新制度の候補としてあがったのが,ドイツとスイスが採用している,受信機の有無にかかわらず全世帯から負担金を徴収する方式だった。
連立与党の1つオーストリア国民党(ÖVP)は,この方式を採用する条件として,ORFの大規模な経費削減をあげた。
これを受け,ヴァイスマンORF会長は2023 年2月,2026 年末までの4 年間で約3億2,500万ユーロ(約452億円)の経費削減計画を提示した。
ÖVPはこれを認め,「ORF 負担金」の導入が決まった。
削減計画には,ORF 所属のウィーン放送交響楽団や,スポーツ専門チャンネルORF Sport+の廃止が含まれていたが,各方面から反対の声が相次いだため,政府は同日,これらの存続を前提とする方針を発表した。