文研ブログ

2023年3月23日

メディアの動き 2023年03月23日 (木)

#466 テレビのジェンダーバランス~国際女性デーのメディア発信から日常の放送・報道を見直すことを考える~

メディア研究部 青木紀美子・小笠原晶子・熊谷百合子・渡辺誓司

 3月8日は国連が定める「国際女性デー」。2023年もこの日をはさみ、さまざまなメディアで女性の政治参加、働きやすさ、からだのこと、差別の問題など、女性やジェンダーの課題を考える多くの特集や連載が組まれました。

#自分のからだだから

 ハッシュタグ「#自分のカラダだから」(1)では、女性の健康な生き方につながる情報を発信するため、NHKと在京民放6局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ、TOKYO MX)が連携しました。このうちNHKは、Eテレ 「u&i」の『なんでずる休みするの? ~生理』」や特集ドラマ『生理のおじさんとその娘』をはじめ、ドラマや情報番組、報道番組などで幅広く関連するテーマを取り上げています。フジテレビでは男性も加わり、アナウンサー8人が性別に関わる「決めつけ」について考える記事も特集ページ「"私"を生きる~live My life~」(2)に掲載しました。朝日新聞の「ジェンダーを考えるThink Gender」(3)や東京新聞の「ジェンダー 平等 ともに」(4)は、社会が生む性差や性差別について問いかけています。
 こうした特集は、日常的には取り上げることが少ない、あるいは光があたりにくいテーマや課題などについて、シリーズにしたり、ハッシュタグでひもづけたりすることで、読者や視聴者の注意を引き、関心を広げる可能性があります。女性の視点を伝える発信が多いことは、メディアが社会の多様性を反映するという観点からも、男性を含めより多くの人に「気づき」のきっかけをつくるという観点からも歓迎したいことです。一方で、国際女性デーの前後というタイミングを利用しないと伝えられないことがあるのだろうか、常日頃から女性の課題を取り上げ、女性の視点を反映することはできているのだろうか、という懸念も抱きます。
 私たち文研の多様性調査チームは、テレビの番組に登場する人物のジェンダーバランスを継続的に調べ始めています。2021年度の調査(5)ではNHKと在京民放キー局の女性と男性の割合は、番組全般をみるとおよそ4:6、夜9-11時台の主要ニュース番組ではおよそ3:7で男性の割合が高く、年齢層でみると女性は若い年層が多く、男性は中高年層が多いという結果になりました。ニュースに登場する女性は街頭のひとことインタビューなどでは男性と同数に近い一方、肩書ある立場から発言することは男性に比べて大幅に少ないといった偏りがあることもわかりました。
 この傾向はその後、少し変わったのでしょうか?下の図は集計中の2022年度の調査結果です。テレビ番組全般については6月の1週間、NHK総合とEテレ、在京民放キー局のあわせて7チャンネルの登場人物についてメタデータ(6)に記録がある人について集計したものです。女性の割合は2021年度に比べて1ポイント増えていました。

番組全般の出演者

 夜の主要ニュース番組については6月と11月の月~金曜日に登場した人物を調べたものです。女性の割合は番組全般とは逆に1ポイント減っていました。ニュース番組は10日分、番組全般は1週間分の数字なので、増減はどちらも誤差の範囲で、大きな傾向は変わっていなかったというべきかもしれません。より詳しい集計内容については、追ってこちらのブログや文研が出版する『放送研究と調査』でご報告します。

夜のニュース番組 登場人物

 ちなみに日本の総人口をみると、女性は半数以上を占めています。労働力人口でみても、女性は全体の 45%近くを占めています。(7)多くの女性は仕事と子育ての両方の負担を担い、社会を支えています。しかし、非正規雇用の割合が高いということもあって、コロナ禍では解雇や育児負担などでより大きな影響を受けたことがわかっています。ところが、テレビに映し出される世界には女性が少なく、女性の視点が十分には反映されていない可能性を上記のデータは示唆しています。『放送研究と調査』2023年2月号の「"コロナ特別休暇"制度の報道は子育て世帯に届いたのか?(8)のために行ったアンケート調査では、仕事と育児を両立する女性、男性のいずれもがテレビニュースは「多様な意見を届けていない」、「子育てや生活情報が少ない」と感じていることが明らかになっています。
 世界経済フォーラムのグローバル・ジェンダー・ギャップ報告(2022)で日本は調査対象146か国中116位。イギリスのエコノミスト誌が行った「女性の働きやすさ」についての調査では、今年も主要29か国のうち28位でした。メディアが女性の姿や声を反映せず、ロールモデルを示さないことなどでジェンダー・ギャップを固定化し、再生産していないか、考える必要があります。

日本の人口

 2月のブログ記事「北欧メディアに学ぶジェンダー格差解消のヒント(9)では、アイスランド国営放送編集長ソーラ・アルノルスドッティルさんの「人々にとって何がニュースなのかを再定義する必要があるのです」という問題提起を伝えています。『放送研究と調査』の連載「メディアは社会の多様性を反映しているのか?(10)では、アメリカのメディアが組織・人材とコンテンツの多様性向上をめざしている背景にメディアとしての存続への危機感があることも紹介しました。
 国際女性デーにあわせて組まれた特集や連載、その中で取り上げたテーマや課題、女性の視点が、日常のテレビ番組、新聞記事、メディアの発信内容や価値判断の基準を見直す手がかりになっていくとよいのではないか、と私たちは考えています。それは男性も含めメディアの取材・制作現場にいる人、編集方針を決める権限を持つ人たちの新たな気づきのきっかけになり、問題意識の共有につながるのではないでしょうか。国際女性デーの前後はこうしたメディアの課題を考える機会でもあります。


(1)#自分のカラダだから ──メディア連携で女性の体・心・生き方について考えるコンテンツを集中発信!(NHK、民放各局)
https://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/original.html?i=37744
(2)"私"を生きる~live My life~(FNNプライムオンライン)
https://www.fnn.jp/subcategory/live_My_life
(3)ジェンダーを考えるThink Gender(朝日新聞)
https://www.asahi.com/special/thinkgender/?iref=kijiue_bnr
(4)ジェンダー 平等 ともに(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/tags_topic/womensday
(5) 連載 メディアは社会の多様性を反映しているか①
調査報告 テレビのジェンダーバランス(『放送研究と調査』2022年5月号)
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20220501_7.html
(6) エムデータ社のメタデータ記録を利用
(7) 令和3年版働く女性の実情(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/21.html
(8) "コロナ特別休暇"制度の報道は子育て世帯に届いたのか?~「共働き子育て世帯のメディア接触調査」の結果から~(『放送研究と調査』2023年2月号)
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20230201_4.html
(9) 北欧メディアに学ぶジェンダー格差解消のヒント
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/100/480010.html
(10) 連載 メディアは社会の多様性を反映しているか③ 将来に向けた危機感を問うアメリカの事例と専門家の提言(『放送研究と調査』2023年1月号)
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/oversea/20230101_4.html