文研ブログ

2023年3月14日

調査あれこれ 2023年03月14日 (火)

#461 岸田内閣支持率 若干回復の先は ~どうしのぐ統一地方選・統一補選~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 新年度予算案の成立に向け国会で答弁に立っている岸田総理大臣が、この日は東京ドームのマウンドにも立ちました。WBC・ワールドベースボールクラシックの1次リーグ、ライバル対決として注目された日本対韓国の一戦での始球式です。

始球式 出典:首相官邸ホームページ 出典:首相官邸ホームページ (https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/10wbc.html)

 侍ジャパンの栗山監督がキャッチャーを務め、高校球児だったという岸田総理の投球をワンバウンドで捕球。野党側の厳しい追及や質問を受ける予算委員会では見せることがない岸田総理の笑みがこぼれました。

 この3月10日(金)から翌々日12日(日)にかけて、東日本大震災から12年目の3・11をはさんでNHK月例電話世論調査が行われました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  41%(対前月+5ポイント)
 支持しない  40%(対前月-1ポイント)

統計上の誤差もありますから支持と不支持が横並びと見た方が良いのかもしれません。それでも数字の上で支持が不支持を上回ったのは去年の8月以来7か月ぶりです。

「岸田内閣を支持する」と答えた人の割合を与党支持者、野党支持者、無党派の別に比べてみるとこうなります。

 与党支持者  69%(対前月+9ポイント)
 野党支持者  19%(対前月+2ポイント)
 無党派  24%(対前月+6ポイント)

 去年の8月以降の支持率低迷の期間は特に与党支持者(自民党支持者+公明党支持者)の支持率が陰っていたのですが、この1か月は上向きました。予算委員会の審議がストップするような大きな政治的トラブルが浮上せず、岸田総理が物価上昇を超える賃上げを呼び掛けたことに一部の企業が呼応し、一定の評価につながっている面もあるようです。

 さらには3月に入って韓国のユン・ソンニョル政権が、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、解決に向けた判断を示してきたことも追い風になっているようです。この韓国政府の判断は、裁判で賠償を命じられた日本企業に代わって、韓国政府の傘下にある財団が支払いを行うとするものです。

岸田首相/韓国 ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領

 ユン・ソンニョル大統領はアメリカのバイデン政権の強い働きかけを受け、日本との関係を改善するために、問題の解決を急いだと伝えられています。地域の安全保障環境を不安定化させている北朝鮮に向き合うには、日米韓の連携強化が最重要ということは岸田総理が繰り返し主張してきたことでもあります。「待っていました」といったところでしょう。

 しかしながら、こうした好材料の半面で肝心要の国民との対話が深まっているとは言えません。最も特徴的なのが昨年末に打ち出した5年間の防衛費の大幅増額問題です。

☆あなたは、防衛費の増額についての政府の説明が、十分だと思いますか。不十分だと思いますか。

 十分だ 16% < 不十分だ 66%

3分の2が不十分だと感じているという数字は、岸田総理をはじめとする政府関係者の言葉が国民に届いていないことを端的に示しています。

 国会審議を通じて「巡航ミサイル・トマホークを400発購入する予定」といった断片的な情報は出てきました。しかし、防衛費の水準を5年でGDP(国内総生産)比2%に引き上げるという判断が、どういう積算に基づいたものなのかは依然として不透明です。

巡航ミサイルトマホーク(資料) 巡航ミサイル トマホーク(資料)

 論戦の焦点になっている「反撃能力」つまり敵基地を攻撃できる能力を抑止力として保有することについても不明確です。政府の答弁は「これまでと同様の専守防衛の範囲内だ」と繰り返すだけで、一向に説得力が増しません。新たな攻撃的装備を保有するならば、新たな歯止めの仕組みも備えないことには「専守防衛」は空念仏になってしまいます。

 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、安全保障に対する国民の関心が高まったとはいえ、勢いで物事を進める姿は好ましいものではありません。平和憲法を掲げる日本にふさわしい国防政策、自衛隊の運用をより多くの国民に納得してもらうことが重要です。そうでなければ信頼は増しません。

☆岸田総理大臣は、将来的な子ども予算の倍増を掲げる一方、「数字ありきではない」として、まず政策を整理し、大枠を示すとしています。あなたは、政府の少子化対策に期待していますか。期待していませんか。

 期待している 39% < 期待していない 56%

このように岸田総理が力を込めて語る少子化対策についても、国民の受け止めは今一つです。特に気になるのは、まさに子育て世代にあたる18歳~39歳の回答が否定的なことです。(⇒期待している39%、期待していない66%)

 この背景には、岸田総理が通常国会冒頭の施政方針演説で総論は高く掲げたものの、中身の各論については「6月の骨太方針までに大枠を提示します」という所でストップしたままになっているという問題があります。

 4月には統一地方選挙、そして合わせて5つの衆参両院補欠選挙が控えています。地域にもよりますが、多くの人が現在の政治を見つめながら投票の機会を待つ中で、「具体的なことは後で」という姿勢には厳しい目が向けられて当然です。ここをどうしのぐかは大きな課題です。

 3月は岸田内閣の支持率が若干上向いたとはいえ、今後も一進一退が続く可能性はあります。5月のG7広島サミットを舞台に「外交・安全保障の岸田」をアピールしたいのだろうと思いますが、そのためには内を固める必要があります。

 国民の信頼を得られてこその外交・安全保障です。防衛費に関する一層の説明、少子化対策の具体的な柱建ての提示といった課題への向き合い方が、政権の今後を左右するように思います。