文研ブログ

2022年12月13日

調査あれこれ 2022年12月13日 (火)

#436 懸念材料は自民党内の掌握力 ~岸田総理の越年課題~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 臨時国会会期末の12月10日、岸田政権の当面の最大課題ともいえる寄付強要などを対象にした被害者救済法が参議院本会議で可決・成立しました。旧統一教会の元信者や家庭を破壊された宗教二世の怒りの声を受け、野党の主張を取り入れながら協議を進めた結果です。

 衆議院を通過する段階から「内容が不十分でも、まずは前に進めよう」という流れができ、異例の土曜日の本会議で、自民、公明、立民、維新、国民が賛成して成立。国民の強い反発が表面化した旧統一教会問題に対し、とりあえず被害者救済の道を広げることによって政治が格好を付けた形です。

被害者救済法成立(12月10日)被害者救済法成立(12月10日)

 とはいえ、被害者の救済に奔走してきた弁護士らは「ないよりはましだが、禁止行為などの対象範囲が狭く、直ちに法律の改正強化に向けた検討が必要だ」と厳しい注文をつけています。ようやく入り口に立ったに過ぎないという位置づけは妥当だと思います。

 この被害者救済法が参議院本会議で成立したのと重なる9日(金)から11日(日)にかけてNHK 月例電話世論調査が行われました。

☆旧統一教会の被害者の救済を図るため、悪質な寄付を規制する新たな法律についてうかがいます。あなたは、被害者の救済や被害の防止という点から、この法律をどの程度評価しますか。

 大いに評価する  18%
 ある程度評価する  48%
 あまり評価しない  19%
 全く評価しない  7%

大いに評価するを除くと、対策にあたってきた弁護士らの指摘にあるように7割以上の人が改善の余地があるとしているともいえます。岸田総理大臣が、一層の取り組みを求める数字の重みをしっかり受け止めるかに厳しい視線が向けられます。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  36%(対前月+3ポイント)
 支持しない  44%(対前月-2ポイント)

臨時国会の焦点になっていた被害者救済法をとりあえず成立させたことで、4か月続いていた内閣支持率の低下に一旦歯止めがかかりました。これが岸田総理の反転攻勢の足掛かりになるのか、それとも一瞬の出来事で終わるのかは次の大きな課題にかかっています。それが防衛費の増額問題です。

国会閉幕の記者会見国会閉幕の記者会見

 岸田総理は国会終了を受けて行った10日夜の記者会見で、2023年度から2027年度にかけての5年間の防衛費を総額で43兆円とする政府・与党の方針を改めて表明しました。そしてそのための財源について「安定した財源が不可欠だ。国債の発行は未来の世代に対する責任としてとりえない」と強調しました。

 つまり、一部を増税で賄う方針を貫く決意を示したわけです。4月の統一地方選挙を前に増税方針を打ち出すことに、自民党内では強い反発が噴き出しています。「選挙を控えたタイミングでの表明は得策でない」というお定まりの意見です。

 高市早苗経済安全保障担当大臣は岸田総理と直談判に及び、閣内に身を置きながら「実際の増税は再来年以降のことなのだから、増税の中身の議論は春以降に先送りすべきだ」とかみつきました。御本人は閣僚罷免も覚悟しての発言だとしています。

 防衛費増額の財源問題は自民党税制調査会で検討が始まり、財務省が検討している法人税の上乗せを軸に議論が進む見通しです。しかし、選挙で応援してくれる企業に嫌われたくない自民党議員からは「薄く広くということで所得税も検討に加えるべきだ」といった意見まで出ています。

自民党税制調査会(12月13日)自民党税制調査会(12月13日)

☆政府は、来年度から5年間の防衛力整備の水準について、今の1.5倍にあたるおよそ43兆円を確保する方針です。あなたは、こうした防衛費の増額に賛成ですか。反対ですか。

 賛成  51%
 反対  36%

この質問に対する回答を与党支持者、野党支持者、無党派の別に見てみます。

 与党支持者 ➡賛成66% 反対26%
 野党支持者 ➡賛成46% 反対48%
 無党派 ➡賛成41% 反対42%

ロシアのウクライナ侵攻、台湾海峡を巡る緊張、相次ぐ北朝鮮の弾道ミサイル発射といった安全保障環境の悪化を受けて、野党支持者や無党派層でも防衛費の増額に一定の理解は広がっているように見えます。それでも、与党支持者では3分の2が賛成というのは際立っています。

 防衛費の増額、その財源確保という課題は、岸田総理大臣にとって、与党とりわけ足元の自民党内の掌握力が試される重いものです。

 自民党税制調査会は議論を急ぐ構えで、その結論を2023年度予算案に反映させ、政府は年明けの通常国会に臨みます。そこからが、また大仕事になります。

 なぜならば5年で43兆円という莫大な防衛予算で、何をどう整備するのか。その莫大な予算措置で国民の安全をどこまで守ることができるのかを示すのは容易なことではありません。

防衛省防衛省

 例えば敵に対する反撃能力を持つことが抑止力の強化につながるという理屈で導入が検討されている、射程距離の長いスタンド・オフ・ミサイルや巡航ミサイルが、どの程度有効なのかを示すデータも必要でしょう。

 こうした肝心要の議論が政府・与党の一部、つまり国民の目に届かない「ブラックボックス」の中で練り上げられているのが現状です。

 政府は国家安全保障戦略など、防衛費増額のよりどころになる3つの文書を近くとりまとめて公表します。問題は納税者である国民が「なるほど」と納得できる内容かどうか。とりわけ「買い物リスト」と俗称される防衛力整備計画をまとめた文書に、どれほどの説得力があるかが焦点になります。

 政府の案は年内にまとまるでしょうが、それを国民に納得してもらう作業は越年の課題になります。岸田総理にとって、4月の統一地方選挙、その先の5月19日から21日に予定しているG7広島サミットに至る道のりの中で、最も険しい上り坂に他なりません。