文研ブログ

2022年8月 9日

調査あれこれ 2022年08月09日 (火)

#412 岸田内閣を襲う真夏の逆風 ~旧統一教会・安倍氏国葬批判~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 安倍総理が凶弾に倒れてから8月8日で1か月。その直前の週末、5日から7日にかけて行われたNHK電話世論調査で、岸田内閣の支持率は前月調査から一気に下落しました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。 

 支持する          46%(対前月-13ポイント) 
 支持しない        28%(対前月+  7ポイント)
 わからない、無回答  26%(対前月+  6ポイント)

 岸田内閣の支持率は、発足直後の去年10月に49%でスタートしました。そして新型コロナの感染拡大の間隙を縫うかのように日程を設定した衆議院選挙、参議院選挙に勝利し、先月は59%という高い水準にありました。

shima.png それが1か月で急落した背景には、コロナの感染拡大が第7波に突入し、全国で感染者数が20万人を超えて過去最多を記録するという状況が、まず前提にあるでしょう。

 ただ、それにとどまらず、安倍総理を銃撃して命を奪った山上徹也容疑者の供述をきっかけに、旧統一教会と政治家との関係が改めて問題視されるようになったことが大きいでしょう。

 1980年代頃から霊感商法と呼ばれた高額の壺などの物品販売、教会への多額の寄付の強要などが社会問題化しました。名称変更した「世界平和統一家庭連合」の現在の幹部は、「2009年以降はコンプライアンス重視に切り替えた」と強調しますが、被害者支援の弁護士グループは「今も被害は深刻だ」と反論します。

shimada2.jpg こうした中で、自民党、とりわけ安倍派の国会議員を中心に、選挙の際に応援してもらうために集会で挨拶するなどの関係を持った事例が次々に浮上してきました。関係団体の行事に祝電を送る、あるいは献金を受け取るといった接点を持つ与野党議員や自治体首長について連日の報道が続いています。

☆霊感商法による被害や、信者による巨額の寄付などが問題になってきた「世界平和統一家庭連合」旧統一教会と政治との関係について、政党や国会議員は十分に説明していると思いますか。それとも説明が足りないと思いますか。

 十分説明している4%<説明が足りない82%

結果は一目瞭然です。これを与党支持者、野党支持者、無党派の別に見ても、いずれでも8割から9割が「説明が足りない」と不信をあらわにしています。

 こうした逆風を受けて、岸田総理大臣は8月10日に自民党役員人事と内閣改造を行うことにしました。もともとは早くて8月下旬かと見られていましたが、旧統一教会との接点が現職閣僚についても指摘されるようになり、真夏の態勢立て直しに迫られた格好です。

 とはいうものの、どういう人事を行ったとしても今の厳しい状況から抜け出すのは容易ではないでしょう。岸田総理が自ら決断した安倍氏の国葬に対し、旧統一教会問題が影を落として国民の受け止めが変化しているからです。

shimada9.jpg☆政府は9月27日に安倍総理大臣の「国葬」を行うことを決定しました、あなたは、この決定を評価しますか。評価しませんか。

 評価する    36%
 評価しない   50%

国葬の閣議決定前だった7月の調査では
政府は安倍総理大臣の葬儀を、国の儀式の『国葬』として今年秋に行う方針です。あなたは、この方針を評価しますか。しませんか」という質問でした。

    評価する    49%
   評価しない   38%

質問文が異なるので調査分析上の単純比較はできません。しかし、国民の受け止め方が大きく変化していることは否定しようもありません。

 旧統一教会との持ちつ持たれつの関係が指摘されている議員が自民党安倍派に多いこと。選挙前に安倍会長に「世界平和統一家庭連合」関係者への支援要請について相談したという証言があったこと。今後も新たな事実が出てくる可能性があります。

 岸田総理にとっては誤算だったでしょう。安倍総理の突然の訃報に接した際に胸中に浮かんだのは、最大級の追悼の場を設けることによって安倍氏ゆかりの勢力との関係に節目を作りたい。徐々に岸田カラーを打ち出していくために国葬をマイルストーンにしたい。こんな思いだったのは想像に難くありません。

shimada0000.png 今回、岸田総理は早めの態勢立て直しで逆風を乗り切ろうと決断したわけで、人事の刷新にあたり「旧統一教会との関係を点検するように」と与党議員に指示しました。

 新閣僚や自民党の新役員は、記者会見で旧統一教会との関係について繰り返し質問を浴びるでしょう。質問された側は「関係はありません」と胸を張るのかもしれません。しかし、後になって「やはり関係がありました」と釈明するケースも無いとは言えません。

 かつて昭和の終わりに政財界への未公開株配りという利益供与で問題になった「リクルート事件」が竹下内閣を襲いました。この時、内閣改造直後の記者会見で胸を張った2人の閣僚が、リクルート側から献金を受けていたことが間もなく発覚して辞任しました。

 今回もこれまで表に出ていない便宜供与などが後になって出てくると、情況の悪化に拍車をかけることになります。

 長引くロシアのウクライナ侵攻、ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発する中国側の過剰な行動がもたらした台湾海峡の緊張。不安定化する国際情勢の下で誤りのない対応をとるためにも、岸田総理の政権運営には細心
の注意が必要です。