#368 チーム岸田は持っているか? ~コロナ禍に向き合う「ペースノート」~
放送文化研究所 研究主幹 島田敏男
「ペースノート」という一般にはなじみの薄い言葉をあえて使いました。
カーラリーの世界で、原野の難コースを巧みなハンドルさばきで高速疾走するときに欠かせないのが「ペースノート」と呼ばれる指示書です。
この指示書を作成するのはドライバーではなく、助手席に座るナビゲーター(コ・ドライバーとも呼ぶ)です。レース前の試走の段階で急カーブの曲がり具合、直線部分の距離や路面状況などを確かめ、それを記号で書き記したものが「ペースノート」です。
反射神経とハンドルさばきに秀でたドライバーは、ナビゲーターが読み上げる「ペースノート」のデータを信頼し、視界が悪くても身体の感覚で車を操るそうです。まさに事前準備の積み重ねとデータの共有が成果をもたらす世界です。
この話を教えてくれたのは、大学の自動車部に所属していた当時からカーラリーに参戦しているベテランドライバー&ナビゲーターの二刀流の友人です。聞いた瞬間に「まさにチーム岸田が問われているのはこれだな」と感じました。
「ペースノート」は難しいコース、厳しい気象条件の時ほど効果を発揮します。年明けから感染者数が急拡大し、2年以上続くことになった新型コロナウイルスとの闘い。視界はなかなか晴れず、悪路は連続しています。 これを乗り越えるために、岸田総理が前任者、前々任者のたどった軌跡を見つめ直して「ペースノート」を編み出しているか。そしてそれをチーム岸田が共有して対処しているかが問われている局面です。
そういう状況の下で、2月11日(金)~13日(日)にNHK月例電話世論調査が行われました。
☆「あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか」という質問に対する答えは、やや下り坂の印象です。
「支持する」 54%(対前月-3ポイント)
「支持しない」 27%(対前月+7ポイント)
「支持する」の3ポイント減少は、統計分析上は有意差がないという評価になります。ただ「支持しない」が明らかに増加しています。
この要因としては、コロナ禍に対する政府対応の評価が低下したことが挙げられます。岸田内閣が発足した去年10月以降、わずかずつ上昇を続けてきた評価の数字がストンと落ちました。
☆「あなたは新型コロナウイルスをめぐる政府の対応を評価しますか」という質問に対する答えです。
「評価する」 59%(対前月-6ポイント)
「評価しない」 37%(対前月+6ポイント)
内閣支持、不支持の回答よりも傾向が明確に出ています。
岸田内閣は、オミクロン株感染者が11月30日に国内で最初に確認されたタイミングで外国人の新規入国停止を果断に打ち出しました。そして感染が各地で急拡大を見せた年明け以降は、入院病床の確保と3回目のワクチン接種に軸足を移しました。
ただ、3回目のワクチン接種の加速は全国各地の市区町村ごとに対応が様々で、菅内閣当時に指摘された国と基礎自治体の間の連携のばらつきは、今回も十分に克服されたとは言い難い面があります。
まさに冒頭に紹介した「ペースノート」の中で、ワクチン接種の加速について、第5波までの教訓を生かした課題がどこまで把握されていたのかがポイントです。
後藤厚生労働大臣は、重症化リスクの高い高齢者施設の利用者や職員への3回目の接種について「できるだけ早くということで、2月中に終えると申し上げているわけではない。努力をしている。今、自治体と丁寧に相談している」(2月14日・衆院予算委)と苦しい答弁でした。
岸田総理は第6波の襲来に際して、社会・経済活動に大きな影響を及ぼす緊急事態宣言は避け、まん延防止等重点措置を段階的に発出することで対処してきました。
これはオミクロン株が従来の新型コロナウイルスより感染力は強いものの、重症化率が低い点に着目した判断です。2月5日に全国の新規感染者数が初めて10万人を超えた後、東京などでは感染拡大の勢いが収まったようにも見えますが、重症者の数などは依然として高い水準です。
☆政府は東京など13都県の「まん延防止等重点措置」を延長することを決めました。決定をどう思いますか」という質問への答えです。
「適切だ」49%、「延長せず解除すべきだった」15%、「緊急事態宣言にすべきだった」26%
感染拡大に歯止めがかかり始めたように見えてはいても、社会の安全・安心を確保するために、暫くは「慎重運転」を望んでいる国民が多いことが窺えます。
「まん延防止等重点措置」は36都道府県で継続(2月15日現在)しています。この先、重症者の増加を抑えて減少に転じさせ、うまく事態の悪化を回避できれば、次は措置の解除・出口の判断になります。
出口のタイミングを測る際のデータは、チーム岸田の「ペースノート」にどう記されているのか。国民の多くが、この先の第7波の襲来を極力抑えることができるような判断を期待しているのは確かです。