文研ブログ

2021年8月11日

メディアの動き 2021年08月11日 (水)

#338 菅内閣を脅かすコロナとの戦い ~五輪も政権浮揚につながらず~

放送文化研究所 島田敏男


 まさに「それはそれ、これはこれ」ということなのでしょう。

 57年ぶりの東京オリンピックは1年遅れで無観客という前例のない形になったものの、アスリートたちの頑張りには多くの人が拍手を送りました。しかし、その大会期間中に東京エリアの新型コロナ感染者は爆発的に増え、ワクチン接種の効果が見えなくなるかのような勢いになりました。

 「無観客でのオリンピック開催は一定の評価ができる」「されどコロナの感染拡大を抑えることができなかったのは政治の責任だ」

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 こうした国民の意識を如実に表したのが、8月8日の閉会式を挟んで行われた各種世論調査の結果でした。10日の読売新聞朝刊は「内閣支持率最低35%」の主見出しに、「五輪開催よかった64%」と脇見出しを添えました。

 そして10日夜のNHKニュースは、7日から9日にかけて行った月例世論調査の結果を伝えました。

☆菅内閣を「支持する」29%で発足以来最低。これに対し菅内閣を「支持しない」52%で発足以来最高でした。支持を不支持が上回るのは4か月連続で、その逆転幅は先月の13ポイントから23ポイントに一気に拡大しました。

 従来は家庭の固定電話だけを対象にしていた電話世論調査に、4年前に携帯電話も加えるように変更して以来、「支持する」が30%を割ったのも、「支持しない」が50%を超えたのも初めてです。極めて厳しい結果です。

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☆東京オリンピックが開催されたことについてどう思いますか?という質問に対する答えです。「よかった」62%、「よくなかった」34%で、肯定的な受け止めが多数を占めました。

 では、オリンピックを開催して「よかった」と答えた人は、菅内閣に対してどういう姿勢を示しているのでしょう?いわゆるクロス分析で見ます。

 「よかった」と答えた人のうち、菅内閣を「支持する」39%、「支持しない」40%と割れていて、五輪開催に対する肯定的評価は内閣支持に直結してはいません。

 逆に開催して「よくなかった」と答えた人では、「支持する」11%、「支持しない」75%となっていて、五輪開催に対する否定的評価は内閣を支持しない姿勢につながっています。

 国民の意識がこうなっている理由が、大会期間中にコロナ感染者が増え続け、「安全・安心な大会」とは程遠いものになったからに他なりません。

 組織委員会の幹部は「選手や関係者の感染は限定的だった」と強調します。しかし、多くの感染症専門家が指摘するように、オリンピック開催によって国民の間に生じた『ゆるみ』が感染拡大につながった現実は否定できません。

 こうして見ると、前任者から託された東京オリンピック開催は、菅総理大臣の足元を固めることにはならず、むしろ政権の先行きに一層の不透明感をもたらしました。さらに長引くコロナとの戦いは足元を脅かしています。

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☆今回の世論調査結果を見て、今後を考える上での注目点と感じたのが、自民党支持者の中で浮上してきた「菅離れ」の気配です。

 まず、「自民党を支持している」と答えた人の割合が、7月の34・9%から今月は33・4%へと減少しました。

 そして、今月「自民党を支持している」と答えた人で、菅内閣を「支持する」は52%でした。先月の調査では「自民党を支持している」と答えた人で、菅内閣を「支持する」は61%でしたので、この1か月で9ポイントの減少です。

 この自民党支持者の「菅離れ」がさらに加速するようならば、自民党内に「菅降ろし」の動きが噴き出してくることが想定されます。

 菅総理とその周辺は、オリンピック・パラリンピックをやり遂げ、コロナワクチンの接種を強力に進めて、10月から11月には感染を収束の方向に向かわせたい。そうすれば衆議院選挙を乗り越えて、長期政権の道筋も見えてくるという楽観論をまだ捨ててはいません。

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 しかし、オリンピックを終えた時点で自民党支持者の中に新たな気配が浮上している現実は、まず自民党内政局に影響を及ぼすことが考えられます。

 自民党の総裁選管理委員会は、9月末までの菅総裁の任期(任期途中で辞めた安倍前総裁の残任期)が切れる前に行う総裁選日程を、8月26日の委員会で決めるとしています。まず、ここがどうなるかです。
 そして今の衆議院議員の任期満了は10月21日です。公職選挙法の規定では、この日まで国会を開会していて、この日に衆議院を解散すれば、最も遅い投票日として11月28日(日)を設定することが可能です。

 今度の衆議院選挙を自民党は菅総理・総裁の下で戦うのか。それとも短期間の間に看板の掛け替えをするのか。

 一方で野党の連携はどこまで深まるのか。とりわけ競合を避ける上で焦点となっている立憲民主党と共産党の候補者調整は、どこまで進むのか。

 8月24日開会式、9月5日閉会式の13日間の東京パラリンピックが終わった後、コロナ感染の状況が改めて政治の動きを左右しそうです。