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2021年6月17日

メディアの動き 2021年06月17日 (木)

#328 菅長期政権を探る"真夏の賭け" ~コロナ・オリパラ・衆院選~

放送文化研究所 島田敏男


 会期150日間の通常国会の最後は、野党4党(立憲、共産、国民、社民)が衆議院に共同で提出した内閣不信任決議案の取り扱いとなりました。自民党の二階幹事長は「決議案を出すなら解散もありうべし」といった発言を繰り返していましたので、「ひょっとしたら」と勘繰る向きもあったかもしれません。

 しかし結局は与党の自公、維新などの反対で粛々と否決。野党4党の党首らは「コロナ禍という有事の下で、国会を閉じることは断じて許されない」と力説しましたが、菅総理大臣が解散を決断することも無く、迫った側が肩透かしを食わされた格好です。

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 野党にとって、国会が開いていなければ存在感を示す場が無いという事情はよくわかります。逆に菅総理にとっては、直前のG7サミットで各国首脳から支持を取りつけた東京オリンピック・パラリンピックを自らの手で実現するために、国会論戦に時間を割きたくないというのが本音でしょう。

 そもそも、去年8月に病気を理由に退陣表明した安倍前総理から託された最大のテーマが、コロナ禍と戦いながら東京大会を開催させること。“出来なかった時は責任を取ってくれ”が安倍氏からの引継ぎに他なりませんでした。

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 菅総理が切り札と位置付けたワクチン接種が4月以降徐々に進み、5月、6月と国民の気持ちを次第にほぐしているのも確かです。

☆それを示すのがNHK電話世論調査で聞いたワクチン接種の進み具合に対する評価の、この1か月の変化です。

5月調査では「順調だ」9%、「遅い」82%で、不満の声が渦巻いていました。
それが6月調査では「順調だ」24%、「遅い」65%で、差が狭まっています。

☆コロナを巡る政府の対応全体についての評価にも、若干の変化が現れてきています。

5月調査では「評価する」33%、「評価しない」63%でほぼダブルスコア。
それが6月調査では「評価する」38%、「評価しない」58%とやや接近。

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☆しかしながら菅内閣の支持率はというと、2か月連続で支持よりも不支持が多く、国民の気持ちが依然として揺れていることを示しています。

5月調査では「支持する」35%、「支持しない」43%で、逆転差8ポイント。
6月調査では「支持する」37%、「支持しない」45%で、8ポイント差に変化はありません。

 年代別比較で詳しく見ると、6月は40代・50代で「支持する」がやや増え、60代と70歳以上で「支持しない」がやや増えています。これをどう見たらよいのか判然としませんが、やはり揺れの現れなのでしょう。

 決して政権の足元が盤石とは言えない状況で、世界中からアスリートを集めるイベントを開こうというのは一種の賭けに他なりません。「普通ならやらない」という政府の専門家分科会の尾身茂会長の指摘は、普通なら採用しない厳しいルールを求める精一杯の苦言と受け止めるべきでしょう。

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☆そこで焦点になるのが、中止しないならば観客をどうするかです。

5月調査では「中止する」49%、「無観客」23%、「観客数を制限」19%。
6月調査では「中止する」31%、「無観客」29%、「観客数を制限」32%となり、国民の考えが3つに割れてきました。

 ワクチンの接種が徐々に進むにつれて、こうした変化が出てきているのも理解できます。ただ、「国民の命を左右するコロナ禍の現実を抱えながら、オリンピック・パラリンピックをなぜ開催するのか」と中止を求める声が消えないのも無理ないことです。

 この問いかけに対する納得できる説明が、菅総理からも、橋本組織委員会会長からも、丸川五輪相からも国民に届いていない結果に他なりません。それは単に抽象的な理念を語る言葉が足りないという問題ではありません。

 感染症の専門家から相次いで示されているように、「開催地に人が集まらないように無観客で行う。各地のパブリックビューイングなども断念する」といった厳しい姿勢を明確に示すことが、せめてもの次善の策でしょう。

 これには商業主義化と肥大化をたどってきたIOC・国際オリンピック委員会の反発が予想されるため、菅総理は「観客数の制限が基本」と言います。しかし、開催地の安全確保を求める努力を最優先にしなければ国民に対する説得力が増すことはあり得ません。

 この点は通常国会の会期末で衆議院の解散・総選挙に踏み切らず、オリンピック・パラリンピック後に先送りした菅総理にとって、極めて重要なポイントになります。成果を挙げて総選挙に臨みたいというのであれば、ここが踏ん張りどころです。

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 7月23日から9月5日までの日本の夏。そもそもアスリートの命を守る猛暑対策が課題とされた大会です。そこにコロナウイルスの感染拡大を抑え込み、国民の命を守ることが大きな課題として立ちはだかっています。

 ワクチン接種を加速する努力を積み重ねたとしても、東京オリンピック・パラリンピックが、どのように展開し、どう評価されるのか。今の段階では予断を許しません。

 コロナ禍の下での大会の開催を成果として掲げ、長期政権の手掛かりを得ようとする菅総理の目論見が具体化していくことになるのか。現時点では、まさに“真夏の賭け”と言う他ありません。