文研ブログ

2021年4月14日

メディアの動き 2021年04月14日 (水)

#314 コロナ禍と衆議院の解散論議 ~国民の眼には"ソラサワギ"~

放送文化研究所 島田敏男


「此頃都ニハヤル物 夜討 強盗 謀(ニセ)綸旨
             召人 早馬 虚騒動(ソラサワギ)・・・」

 高校生の時分に日本史の教科書で目にした「二条河原落書」の冒頭です。最近の政治ニュースを見ていて、建武の新政(14世紀)当時の政治・社会・文化を評する傑作とされる、この落書(落首とも)を思わず思い出しました。

 野党第一党の立憲民主党の幹部は、6月16日の国会会期末を念頭に、衆議院に内閣不信任決議案を提出することは当然あると、対決姿勢を強調します。
これに対し自民党の幹部は、提出すれば衆議院の解散・総選挙で国民に信を問うことになると応じます。

 今の衆議院議員の4年間の任期が切れるのは、ことしの10月21日です。
従来の政治環境であれば、6月16日の通常国会会期末に解散、40日以内に総選挙となるのも自然の流れと言えます。

 しかし今は、コロナウイルスの感染拡大を防ぎ、ワクチンの接種をスピードアップさせることが政治にとっても、社会にとっても最優先の課題です。「より選挙に有利な解散のタイミングを探る」という政治家の常道も、この局面では単なる不要不急のあがき、虚騒動に見えてしまいます。

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 4月のNHK月例世論調査を見ると、菅内閣の支持・不支持については、「支持する」44%、「支持しない」38%でした。一時の支持と不支持の逆転を脱し、わずかですが2か月連続で「支持する」>「支持しない」という結果でした。

 一方、「あなたは衆議院選挙をいつ行うべきだと思いますか?」と選択肢を挙げての質問に対しては、次のような結果でした。

「内閣不信任案の提出に合わせて」9%
「7月の都議会議員選挙と同じ日」7%
「9月の自民党総裁選挙の前」19%
「10月の衆議院議員の任期満了に合わせて」52%

 自民党内には「内閣支持率が40%以上あるのだから、早めに解散・総選挙に持ち込むべきだ」という声があり、二階幹事長は「野党が内閣不信任案を出せば、解散・総選挙に打って出る大義になる」と強調します。
 しかしながら、自民党支持者で「内閣不信任案の提出に合わせて選挙を行うべきだ」「7月の都議会議員選挙と同じ日に行うべきだ」と答えた人は、どちらも1割に満たない少数です。

 これに対し、自民党の支持者で「10月の任期満了に合わせて衆議院選挙を行うべきだ」と答えた人は6割近くに上っています。コロナ対策、ワクチン接種、東京オリンピック&パラリンピック開催の姿形を見た上でなければ、菅内閣に対する評価を有権者に求めるのは難しいという受け止めが窺えます。

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 では、解散権を持つ菅総理大臣の立場から見ると、この問題はどうなんでしょう。菅総理の自民党総裁任期は、任期切れを待たずに辞任した安倍氏から引き継いだ、ことし9月末日までの残任期です。総理大臣を続けるには自民党総裁選挙で再選されなければなりません。

 菅氏は再選を果たし、新たに3年間の自民党総裁任期を手中に収め、4年間にわたる長期政権を担いたいという強い希望を捨ててはいないでしょう。しかし、場当たり的なコロナ対策の連続で急速な事態の改善が望めない現状では、願望はあってもリアリティーがありません。

 「早めの衆議院選挙で勝ち、その功績で自民党総裁選挙を事実上の無風にすれば長期政権は実現する」と、菅氏に近い自民党中堅議員は囁きます。

 しかし、今度の衆議院選挙で自民党が勝利するとはどういうことなのか、冷静に考えてみる必要があります。

 前回、2017年の衆議院選挙で自民党は465議席の過半数233を大きく超える284議席を単独で獲得しました。その後、離党や議員辞職があって280を割っていますが、これを増やしたり、維持したりするのは容易なことではありません。

 2017年選挙は「希望の党の結党」という突発的な出来事で民主党が分裂し、これが自民党に大きなプラスとなり、水ぶくれの議席を手にしたからです。

 従って、菅総理・総裁の下で解散・総選挙に打って出る時には、自民党としては「どの程度の議席減までならば、勝利とみなすか」という物差しが必要になります。

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 これとは別に、自民党支持者でも多数を占める「10月の任期満了に合わせての衆議院選挙」とする時には、先に総裁選挙を行うことになるでしょう。自民党の国会議員や党員は、「誰ならば次の衆議院選挙を乗り切れるか」という尺度で物事を判断します。

 その時に菅総理・総裁の向こうを張って名乗りを上げる中堅・若手が出てくる可能性は十分にあります。菅氏にとっては、こちらが怖いのかもしれません。

 閑話休題。政治日程というのは、現実の有為転変で何とでも変わる、変えることができるものです。従って決めてかかるわけにはいきません。

 多くの国民にとって、コロナ禍の事態打開は誰が総理であっても簡単ではないだろうというのが実感です。であれば、常識的には事態の推移をじっくり見極めるために、衆議院選挙は任期満了ぎりぎりが望ましいでしょう。

 政治家の思惑で、そうでない展開になる時には、「なぜ今そうすることが必要なのか。妥当な判断なのか」を厳しく見極める。これが有権者の責務だと考えます。